見出し画像

連載「今、会いたい投資家」シリーズ  vol.6 一般財団法人 KIBOW  「世代の責任」として社会の仕組みを変える投資を

東日本大震災をきっかけにグロービス経営大学院学長、堀 義人さんの呼びかけで始動したKIBOW。活動の1つとして、2015年からインパクト投資ファンドを組成しました。7年間を振り返り、インパクトファンドの先駆者として描く未来とこれからの課題について聞きました。

画像1


上)一般財団法人 KIBOW KIBOW社会投資ファンド 代表パートナー
山中礼二さん
左下)SIIF 常務理事 工藤七子
右下)SIIF インパクト・オフィサー 加藤有也


本当に社会課題を解決に導いていけているか?

加藤 2021年11月には3号ファンドを立ち上げられましたが、ここまでを振り返っていかがですか?

山中礼二さん(以下、敬称略) 2015年に1号ファンドを立ち上げ、なんとかここまできました。投資先企業と一緒に無我夢中で走っているような段階ですが、VC型のインパクト投資の先駆けとして1つのモデルを作れたか とは思っています。今のところファンドのパフォーマンスは好調で、manaby(マナビー)のような成功事例を出すこともできました。

加藤 今回の3号ファンドはどんなファンドですか?

山中  ファンド総額は10億円で、領域はさまざまな社会課題分野になりますが、これまで投資してこなかった気候変動の分野にも投資したいですね。考え方としては、「何が深刻な社会課題なのか」、僕らが気づいていないかもしれない課題を探るということです。世の中に気づかれてなくても苦しんでいる人がいる。そこを柔軟に学びながら投資していきたいと思います。

加藤 課題を見つけるという学びのプロセスも持たれているんですね。投資の方法にはどんな特徴がありますか?

山中 ハンズオン型の支援をするインパクト投資ファンドですので、社外取締役を必ず指名し、経営に参加して長期間、経営陣と一緒に走ります 。ファンドの期間も通常のVCより長く15年で設定しています。一般のVCとの違いは投資前にインパクトデューデリジェンスを行い、投資後はインパクトマネジメントのサイクルを回し、インパクトPRをすることです。今後は、世論を動かすようなPRとか、ほかの事業者と連携を取りながらコレクティブに社会を動かすお手伝いもしたいと考えています。

大きなシステミック・チェンジを起こしたい

工藤 面白い。そう思われたきっかけは何かあるんですか?

山中 問題意識として、1、2号ファンドともいいインパクトを出していると思うのですが、社会課題を解決にまで導けたかというと、必ずしもそうではない。社会システムの構造が変わるようなシステミック・チェンジまではいけていないと思うのです 。そこまでいくには1社の成功だけでは難しくて、追随する人や制度政策も含めて、仕組み全体が変わっていく必要があると思うんですよね。そういう道筋がひけるインパクト投資家になりたいと考えています。

そう思ったきっかけの1つはVC業界との差別化です。今、VC業界もソーシャルパーパスのスタートアップにどんどん投資をしている。そこに対して、僕らは独自の価値を提供できる存在として、社会的インパクトという軸で進化しなくてはいけないと思った次第です。

工藤 共感します。まさにそうですね。投資した企業が、7年かけて受益者が8倍になった、売り上げが5倍になったというケースが出てきて、それ自体はすごいことですが、それがシステミック・チェンジとか社会課題解決の手応えにつながったかというと、正直私自身もそこまでいってない印象があります。

圧倒的なゲームチェンジャーか、コレクティブインパクトが群れになって、オセロをひっくり返すようにイノベーションが再生産されていくような状況、または制度や慣習、常識がひっくり返るような兆しが出てくると、個社の成長を超えたシステミック・チェンジにつながる――そういうイメージを持っています。

山中 「群れになる」という部分が重要ですよね。

工藤 例えですが、SIIFの仮説として課題領域を絞ってみたらどうかとも考えてみました。そこで解像度が上がればシステミック・チェンジの道筋がみえるかもしれない。でも、そこには矛盾もあり、「何が課題か」という面では投資家の立場で専門家以上に詳しくなるのは難しい。KIBOWとして課題の発見について、どう捉えているかもう少し詳しく教えてください。

山中 課題を特定して、その中で集中してリサーチする、セクターリサーチをやっていきたいと思っています。社会課題としてラベルが付いているものはキーワードで検索できますが、ラベルが付く前の社会課題は検索しようがない。例えば「子どもの貧困」という課題もラベルが付いたから対策が打たれるようになったのだと思います。現場に行き、苦しむ人の話を聞いて、ラベルが付く前の社会課題を見出したいと思っています。

LP投資家がプロ経営者目線で貴重なフィードバック

加藤 ファンドではLP投資家をどのように選定していますか?

山中 「選定した」というより、「ご縁をいただけた」という感じです。最初は代表の堀義人個人が出資し、寺田倉庫CEOの寺田航平さんにご参加いただき、 次にグロービスが参加し 、 、そして3号ファンドからは日本オラクル初代代表でもあるアレン・マイナーさんにご出資をいただけることになりました。投資後には、投資先起業家も出資者の方々から様々な気付きをいただいています。

加藤 皆さんプロの経営者ですね。出資者と起業家が直接、対話する機会もあるんですね。具体的にはどのような話が出ますか?

山中 例えば、マネタイズの規模を拡大するための戦略とインパクトを拡大するための戦略の整合性が取れているのか、両方を満たせるビジネスモデルを確立せよといったフィードバックを経営者目線で与えてもらえます。投資決定のプロセスでは、経営のプロが加わった投資委員会が濃いディスカッションをして決定しています。

加藤 その投資委員会を通す前には、どんな形でデューデリジェンスをしていますか?

山中 収益性の確認や売り上げの成長、マネジメントの確認を定量定性で調査する。これは通常のVCと同じです。インパクトのデューデリジェンスは、そのビジネスの受益者がどれだけ幸せになっている かをインタビューで浮き彫りにする定性調査を行います。

こうした調査が企業や関係者に喜ばれるケースもあります。例えば、サスティナブルな木材を供給する森未来(シンミライ )という会社では、本当にいい木材を買えているのか、サプライヤーにもインタビューを行いました 。もし、木材の供給源が環境破壊をしていれば、ネガティブインパクトになるリスクもありますから。弁護士にもご協力をいただき、サプライチェーンのデューデリジェンスのあり方を 一緒に検討しました。 ソーシャルグッドであることを強みの源泉にするスタートアップには、こうしたデューデリ自体が強みの強化にもつながる ことを学びました。

インパクト測定が営業的な強みにもつながる

加藤 出資後のインパクト測定はどのように行っていますか?

山中 定性と定量の両方を行います。定量測定では経営陣とともにインパクト指標を決め、半年に1回評価します 。この指標は 取締役会で決めてもらいます。定性面では、受益者の人生がどう変わったか、そのインパクトストーリーを聞き続けています。投資先企業の 中でも常にその情報を集約するようにお勧めしています。


例えば、自立支援型介護のパイオニアであるポラリスの場合、寝たきりだった人がポラリスのデイサービスに通い、歩けるようになって人生が変わった事例を、社内で集めてWebで発信しています。このような成功事例の共有が、新規の利用者集客にも効いてきます。


加藤 なるほど。営業的な強みにもなるんですね。ポラリス の場合、定量面ではどういう指標で行っていますか?

山中 要介護度が下がる改善者と、逆に上がる悪化者の人数を毎月確認し、ネットでの改善度を定量的に把握しています。全国平均に比べた改善効果の差は顕著で、ポラリス一社で毎年約4億円超の社会保障費を節減できている計算になります。


成功したITベンチャーが次の世代に投資する

工藤 今後はVC業界も変わっていくと思いますか?

山中 今後は多様化してミッションドリブンな会社を中心に投資するVCや気候変動だけに投資するようなVCも増えてくると思います。期待を込めて。VC業界とインパクト投資業界のクロスオーバーは進んでいくと思います。

工藤 私も多様化してほしいという思いはあります。テーマ型や投資期間の長いファンドはもっと出てきていい。

山中 出資者が多様化するとファンドも変わりますよね。多額のキャピタルゲインを得たITベンチャー起業家が次の世代の支援に回るというサイクルもじわじわと回り始めている。そうなると多様なファンドがつくりやすくなるかもしれません。

加藤 多様なファンドのためにも、新しく投資家になりたい人にはどうアドバイスしますか?

山中 背中を押して応援したいと思います。僕もKIBOW社会投資ファンドを始めるときに工藤さんに背中を押してもらいました。勝利の方程式は単一ではないし、ファンドによって特色はあっていい。自分のフィロソフィーに忠実な投資戦略を持つのがいいと思いますね。起業家も多様な思いを持った人達なので、それに投資する人も多様な人がいたほうがいいと思います。

社会の仕組みをバージョンアップして次の世代につなげたい

加藤 KIBOWとして今後の取り組みで大事にしたいことは何ですか?

山中 1つ目はまだ社会課題と広く認識されていない分野にも広く踏み込んで、投資をきっかけに社会課題としての認知を向上させたいと思います。2つ目は投資先への人的支援の流入を加速させたい。これまで僕らの投資先にグロービス卒業生が10人以上転職して いますが、グロービス生以外でもKIBOWの投資先ならと安心感を持って飛び込んでもらえるようにしたい。3つ目は社会課題を解決にまで導きたい、ということです。まだまだStill Day1ですが。


工藤 ベンチャーフィランソロピーやSIBの調査研究に着手したのが2013年でした。あれから10年。毎日がDay1ですね。

山中 SIIFとともにエコシステムが発展してきた。多様な生き物がその周りに生息し始めた。これがますます発展するといいですね。堀はよく、「世代の責任」といいますが、私たちの世代の責任を果たし業界を バージョンアップして次の世代につなげたいと思います。

加藤 KIBOWさんに投資してもらいたい場合はどうすればいいのですか?

山中 代表メール(kibowjp@globis.co.jp)にコンタクトしていただければ嬉しいです。 投資を得るために必要な実績という面では、苦しんでいる人を幸せにするという成果を出すことが重要だと思います。そこをデューデリジェンスで必ず見ます。

加藤 事業の成果が少し出て来たら門を叩くタイミングということですね。今後のSIIFに期待することを聞かせてください。

山中  エクイティ投資型のインパクト投資は日本でも広がってきましたが、その弱点はある程度の事業規模が見込まれないと投資できない ことだと思います。それがないとイグジットしにくいからです。結果、多くのすばらしい起業家がインパクト投資に乗れていないという現状がある。勝手なことを言いますが、エコシステムビルダーとしてSIIFには、新しい手法のインパクト投資を生み出していただけるものと、 期待しています。


画像1


<ファンド概要>
・ファンド名称:KIBOW社会投資ファンド3号
・ファンド運用者: 一般財団法人KIBOW
・設立日:2021年11 月
・ファンド規模: 10億円

<投資方針・対象>
・投資哲学・理念: 深刻な社会課題分野に希望を創る起業家を支援する
・投資対象・テーマ・セクター: 一部の方が困難を抱えている分野(医療、介護、高齢者、障がい者、育児、低所得など)および地球環境・コミュニティの持続性が危機にさらされている分野
・投資対象ステージ:シードからアーリー
・投資金額: 1,000万円~1億円

<投資・支援手法>
・投資手法: 優先株式
・投資回収手法:IPOまたは持分譲渡
・非財務支援:社外取締役を中心とした経営方針のディスカッション、人・カネ・アライアンスなどのリソース獲得、社会的インパクトの評価・PRおよびマネジメント。

いいなと思ったら応援しよう!