見出し画像

産官学連携 インパクトコンソーシアム 地域・実践分科会 開催報告【1】地域社会における「インパクト」を考える

インパクト投資の気運醸成、裾野の拡大を目指し、2023年11月に発足した「インパクトコンソーシアム」。金融庁と経済産業省が共同事務局を務め、金融機関や投資家、企業、自治体、学識者といったさまざまな関係者が集う協働と対話の場です。開設以降も常時、インパクトに関心を持つ法人・組織・個人の参加を募っています。

インパクトコンソーシアムは、多様なステークホルダーの方々が集う総会・運営委員会・分科会等の会議体・機能で構成されており、そのうちの一つである「オーガナイジングデスク」は、SIIFが事務局を務めるGSG Impact JAPANが担当しております。オーガナイジングデスクは、各会議体への専門的知見やネットワークの提供を始め、インパクトコンソーシアムの発展に寄与する活動を行っていく予定です。
今回は、その一つの活動として、インパクトコンソーシアム内で実施されている「地域・実践分科会」の取組状況を発信させていただきます。今後継続して行われる同分科会の情報発信を通じて、分科会ひいてはインパクトコンソーシアムへの興味喚起・参画のきっかけとなることができましたら幸いです。

第1弾となる今回は、先日行われた第1回地域・実践分科会の様子をご紹介いたします。

まず、インパクトコンソーシアムには現在、「データ・指標」「市場調査・形成」「地域・実践」「官民連携促進」の4つの分科会が置かれ、活動を開始しています。このうち「地域・実践分科会」では、SIIF常務理事の工藤七子が副座長の一人としてファシリテーターを務めることになりました。

 「地域・実践分科会」は座長と副座長を2人ずつ立て、多様な立場で地域課題に取り組む14人のディスカッションメンバーを中心に議論を進めます。第1回のテーマは「地域課題とインパクトの概念」。7月27日にオンラインで開催され、100人以上のご参加をいただきました。


深尾座長「地域にとって本質的なインパクトとは何か」

 冒頭、分科会の共同座長の一人である龍谷大学の深尾昌峰教授から、今回のテーマについてのプレゼンテーションが行われました。深尾教授は、龍谷大学政策学部で教鞭を執りながら、地域の金融機関と連携して「ソーシャル企業認証制度 S認証」にも取り組んでおられます。ここでは「地域にとってインパクトとは何か」という問題提起のもとに話題をご提供くださいました。以下にその概要をご紹介します。

分科会におけるプレゼンの様子

 日本の人口は今、急激な下り坂に向かっています。年代別に見ると、生産年齢人口(15〜64歳)は、2005年を100として20年には83.5、35年には71.4にまで減少する予測です。一方で、後期高齢者(75歳〜)は35年に05年の2倍近く(100に対し192.0)にまで増えていく。なかでも地方都市、例えば宇治市では、20年時点ですでに2倍を超えています(207.5)。「地域が地域であり続ける」ことが非常に困難な時代に突入しています。

 私たちが真に向き合うべきは「地域にとって本当にリアルな課題は何か」ということです。例えばある島では、コロナ禍で観光客数や観光消費額が激減しましたが、島内の給与総額はほとんど変わりませんでした。裏を返せば、インバウンドは地域振興につながっていなかったわけです。地域の人々の暮らしや経済循環のために何が必要か、本質的な課題を探らなければなりません。

 また、地域における企業の立ち位置も大きく変わりつつあります。これまでは「ソーシャルインパクトはNPOやゼブラ企業が追求するもの」と思われがちでしたが、既存の地場産業や老舗企業にも大きな可能性があります。私たちが取り組んでいる「S認証」にも、中小企業から予想を超える大きな反響をいただいています。企業も今、自ら社会的価値創造に向けたトランスフォーメーションを起こしたがっている。こうした動きを応援するインパクトファイナンスもあり得るのではないでしょうか。

 地域の暮らしを支えるソリューション、自然資本の新たな価値付け、エネルギーや金融の地産地消などなど。この分科会では、金融という枠組みにとらわれすぎず、地域とインパクトのさまざまな可能性を、みなさんと一緒に考えていきたいと考えています。

地域課題に取り組むスタートアップ3社がプレゼン

 第1回では、実際に地域課題に取り組んでいるスタートアップ3社をお招きし、各々のミッションや事業内容、資金調達の状況、課題などを語っていただきました。3人のプレゼンからエッセンスをご紹介します。

amu株式会社 代表 加藤広大氏 

 amu株式会社は、宮城県気仙沼市で海洋プラスチックごみの問題に取り組んでいます。これまでさまざまな事情から海洋投棄されてきた廃漁具を回収し、純度の高いナイロンに再生。素材として販売するだけでなく、商品開発や販売支援を行い、漁師のストーリーと共に伝えています。環境課題解決という社会性と、再生プラスチックの市場性の両方を備え、しかも漁師の所得を増やし、地域経済に還元しています。

株式会社komham 代表取締役 西山すの氏 

 株式会社komhamは、札幌市に本社を置くスタートアップです。生ごみを高速分解する自社開発の微生物群「コムハム」と、コムハムを使用し、太陽光で自立駆動する「スマートコンポスト」を販売しています。スマートコンポストでは、温室効果ガス排出ゼロを実現。さらに、プラスチックを分解する細菌の特許も取得しています(特許第7539103号)。代表の西山さんは「地方発スタートアップは行政からの支援が厚い半面、地元での資金調達や人材確保に課題がある」と語りました。

株式会社電脳交通 取締役COO 北島昇氏

 徳島市の電脳交通は、小規模な事業者が多いタクシー業界の課題解決から出発し、今では地域交通全体の課題に向き合うようになりました。タクシーのクラウド配車システムを提供する傍ら、地域の公共交通網のほころびを埋め、利便性を維持するための事業に取り組んでいます。企業の成長過程でさまざまなステークホルダーと出会うことにより、社会性と経済性の両立、社会的インパクトの創出を強く意識するようになったそうです。

ディスカッション「企業が事業をインパクトに結び付けるには?」

 座長とゲストスピーカー3人の充実したプレゼンを受け、残りの時間はディスカッションメンバーで議論を行いました。

副座長・工藤七子(以下、工藤) この分科会の目的の1つは、地域でインパクトの裾野を広げていくことにあります。電脳交通さんのプレゼンのように、企業が自分でも気付かないうちに社会課題に向き合っている例は、実はたくさんあるのではないでしょうか。地域企業が自らの事業のインパクトに気付くには、どんなことが必要だとお考えになりますか?
 
株式会社Zebras and Company 田淵良敬氏 例えば、電脳交通さんが活用なさっているロジックモデルを使って、自らの事業が誰にどんなインパクトを与えるかを整理してみるのもいいでしょう。もう1つ、セオリーオブチェンジ(Theory of Change)といって、自らの事業以外も含めた広い視野で、社会をどう変えていくかを考えるアプローチも有効だと思います。事業の受益者へのインパクトと社会へのインパクト、2つの軸で考えるとクリアになると思います。
 
日本民間公益活動連携機構(JANPIA) 小崎亜依子氏 残念ながら地方では、「インパクト」という言葉の認知度はあまり高くないと思います。地域にとってインパクトとは何か、例えば雇用をつくることだったり、女性の所得を上げることだったり、具体的な分かりやすい言葉で伝える必要があるのではないでしょうか。そのためには、地域の金融機関の支援が重要になると思います。
 
工藤 地方銀行のみなさんは、地域企業とどのようにコミュニケーションしていらっしゃいますか?
 
株式会社静岡銀行 大杉幸弘氏 地域においてスタートアップの支援は重要課題ですが、金融機関にとって、シード期・アーリー期の企業への融資判断は難しいことも事実です。インパクトの可視化・数値化が必要でしょうし、自治体や他の企業との連携も考えるべきかもしれません。また、地元のレガシー企業に対しても、産業変革を支援していかなければならないでしょう。東京に比較して地域には、まだまだスタートアップを育てる環境ができていないので、その点も今後の課題です。
 
工藤 ゲストスピーカーの皆さんは、地域でインパクト事業に取り組んでいて、どんな課題を感じていますか?
 
amu 加藤広大氏 気仙沼では「スタートアップ」といってもなかなか理解されません。人材でいえば、amuは私を含む創業メンバー全員が移住者です。週に1度は東京に行って、資金調達や情報収集に取り組んでいるのが実態です。
 
電脳交通 北島昇氏 「人」と「お金」と「情報」のリソースのうち、「お金」と「情報」は流動性がありますから、東京の人脈にアクセスできればなんとかなります。ただ、リモートワークが普及しても、「人」にはあまり流動性がありません。業種や職種にもよるでしょうが、人材確保には苦労しています。
 
komham 西山すの氏 みなさんと同じく、人材が一番難しいです。できるだけ地元で採用したいのですが、スタートアップに対する理解が進んでおらず、不安を持たれる方が多い印象があります。かといって、東京から人材を連れてくればいいという問題でもないので、私たちの世代でスタートアップ文化を浸透させていきたいと思っています。
 
株式会社うむさんラボ 比屋根 隆氏 お三方は、地域の金融機関や支援機関と上手に連携なさっているのだろうと想像します。沖縄も、ようやく産官学連携のスタートアップ支援エコシステムが構築され始めたところです。リソースの問題についても、全国の支援団体が相互につながることで、企業家が悩まなくてすむような仕組みづくりが必要ではないでしょうか。
 
ベータ・ベンチャーキャピタル株式会社 渡辺麗斗氏 地域から起業家気質の人が流出していくことに課題意識を持っています。起業に限らず、企業内で新規事業を興す人も含め、地域でチャレンジする人をサポートすることが、まず大事です。チャレンジの回数を増やすことでハードルを下げ、参入を増やしていく、その繰り返ししかないと思っています。
 
座長・宜保友理子氏(株式会社慶應イノベーション・イニシアティブ プリンシパル) このコンソーシアムの目的は、インパクトの着実な推進に向けて裾野を広げること。その意味でも、みなさんの取り組みやディスカッションメンバーの意見を共有する絶好の機会になりました。なかでも、電脳交通さんのインパクトに対する考え方の変遷は、大変参考になるものでした。
 
座長:深尾昌峰氏 今回はスタートアップに着目しましたが、今後はもう少し幅広に見ていきたいと考えています。地域におけるインパクトとは何か、インパクトをいかに身近なものにしていくか、インパクト事業を育てるために必要なエコシステムやサポートとは何か。これからもみなさんと一緒に、モヤモヤしながら考えていきたいですね。
 
副座長・金谷真吾氏(株式会社日本政策投資銀行経営企画部サステナビリティ経営室長) 私たちの世代に比べ、今はベンチャーに飛び込むチャレンジャーも、チャレンジャーを支える人も増えています。こうした動きを加速していくことが何より大切です。深尾座長のプレゼンにあったように、社会課題は待ったなしです。みんなで、早く、力強く、インパクトに向かうムーブメントをつくっていきましょう。

===

<本記事のマガジン>


いいなと思ったら応援しよう!