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社会に希望の旗を立てる。「SIIFで働く」ということ。第2回:社会変革のために、民間非営利団体ならではの役割を希求する

SIIFは小さな財団ですが、インパクト投資の実践や社会起業支援、調査研究やエコシステムビルディングに向けた提言と、幅広い事業を手掛けています。それゆえにかえって「何をするところか分からない」というご指摘をいただくことがあるほどです。今回は、専務理事・青柳光昌と常務理事・工藤七子が「SIIFの仕事論」について語り合います。

前回の記事
第1回:フィランソロピーからインパクト投資、そしてインパクト・エコノミーへ


民間の非営利団体という立場だからこそできることがたくさんある

工藤 私たちSIIFって、結局「何屋さん」なんでしょう? メンバーの間でも時々話題になりますよね。私もかつて、何かしら定義が必要かもしれないと考えた時期がありました。
 
青柳 財団の名前の通り「社会変革の推進役」がアイデンティティです。その目的にかなうなら、何をしたっていい。私はずっと「よろず屋」でいいと思っています。
 
非営利の民間団体だからこそ、できることはたくさんあるんですよ。営利企業や業界団体の政策提言は自らへの利益誘導と受け取られかねないけれど、SIIFは純粋に国や社会のためを考えている、と胸を張れるでしょう。なおかつ、行政とも民間企業とも利害関係がないから、双方から本音が聞けるし橋渡しができる。これは希有なことです。

工藤 それはもう、得がたいことですよね。どうすれば社会をよりよくできるのか、そのことを仕事として純粋に追求できる組織なんてそうそうない。そう考えると、ものすごく幸せな場所にいるんだなと思います。
 
青柳 行政は税金で運営されているから、あらゆる課題を広く公平に扱わなければなりませんが、SIIFの背景はフィランソロピーなので、目的に合わせて優先順位を付けることもできます。
 
民間企業で働いている人から見れば、浮世離れしているように思われることもあるでしょう。それは仕方がないことです。それでも、一緒にファンドをつくっているし、投資活動も手掛けている。リアルな資本市場でも、ちゃんと地に足を付けた仕事ができることを示せればいいんです。

革新の理想も保守の価値観も理解しつつ社会変革を目指す

工藤 「SIIFは保守なのか革新なのか」と聞かれることもありますね。「社会変革を目指す」という意味では革新だけれど、現政権ともずっと仕事をさせてもらっていますし。主義主張がないように思われるかもしれないけれど、どちらかはっきりさせる必要はあるのでしょうか?
 
保守と革新の間は埋まらないのが当然でしょうし、とはいえ同じ社会で一緒に生きていかなければいけないことも確かです。AとBを混ぜてCにすることはできなくても、AとBの両方を持っていることは、むしろSIIFの強みかもしれません。
 
青柳 AとBの通訳ができればいいと思うんですよ。保革を混ぜたり統合したりすることはできないけれど、お互いの考えを理解してコミュニケーションをする必要はある。SIIFはその架け橋になって、両方を行き来ながら落としどころを探す役回りでしょう。
 
工藤 私たちは社会変革を目指してはいるけれど、決して今ある社会を敵視しているわけではないんです。特に経済については保守の力を信じていて、だからこそ、その力を生かしてほしい、と働きかけ続けているわけでしょう?
 
私たちが大事にしている価値観には、ジェンダー平等やダイバーシティといった、革新に分類されるものもあるけれど、そのことに抵抗感を抱く人たちの気持ちをないがしろにしようとは思いません。実のところ、私たちがテーマの1つとしている地域社会には保守的な人が少なくないし、保守の考え方が持つ価値も理解できます。意見が異なる人にただ正論を突きつけても相手の心には響かないし、それでは私たちが目指すシステムチェンジにはつながらないと思います。

青柳 理想は大事だけれど、現実を一気に変えることはできませんよね。理想は掲げて、曲げないで、でも現実にどう切り込んでいくか、あるいは取り込んでいくかを考えるのが私たちのやり方だと思っています。とはいえ、あんまりリアリストになりすぎて社会変革のアイデンティティを失ってもいけないし、そのあたりの塩梅はとても難しいんですけれどね。

常に「正解のない問い」に向き合い、ゴールのない旅を続ける

工藤 SIIFの仕事って「終わりなき旅」だと思っているんです。「ここにたどり着いたら目標達成!」という明らかなゴールは存在しない。インパクト投資市場が何百兆円規模に成長しようとも、そのことだけで喜んでいてはいけないわけですよ。
 
青柳 投資はあくまでも手段にすぎませんから。目的は社会変革です。量や規模に重きを置いてはいなくて、質を問い続けなければいけない。
 
工藤 だから、短期的にPDCAサイクルを回すのも難しいんですよね。定量的な目標があって、そこにたどり着くための明確な道筋が立てられるような仕事ではありませんから。
 
青柳 とはいえ、どうも「P(計画)」に時間をかけすぎる傾向はあるかもしれませんね(笑)。場合によっては、とにかく「D(実行)」してみて、失敗と検証を繰り返したほうがいいこともある。そのあたりはもっと柔軟にいきたいですね。
 
工藤 組織の性格として「探索的」だということはあると思うんです。常に「正解のない問い」に向き合い続けているのは確かだから。そのために、どうしてもPに至るまでが長くなりがちだけれど、おっしゃる通り、DとCを重ねて探索することも大切ですね。
 
前回も話したように、SIIFは「現場」と「俯瞰」の両方を手掛ける組織だから、いつも安全な高いところから分析だけしていればいいわけではない。道なき道を率先して進む開拓者でなければならないんです。それは、先駆的でありたいからというよりは、それこそ「非営利という特権」を持っているから。私たちがリスクを取って先導するのは使命といっていいと思っています。

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第3回:社会課題解決への情熱を、経済と掛け合わせて働く

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