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連載「今、会いたい投資家」シリーズ vol.4 GLIN Impact Capital(下)自らの成果報酬をインパクトに紐づけるというストイック過ぎる仕組み

「より良い資本主義の構築」をミッションに2021年3月、日米のグロースステージ社会課題解決スタートアップを対象にしたインパクトファンドを立ち上げたGLIN インパクトキャピタル。代表の中村将人さんにファンドの投資対象、投資後のサポートについて聞きました。

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GLIN Impact Capital 代表 中村将人さん
SIIF インパクト・オフィサー 加藤有也


ハイインパクト・ハイリターンでうなるほど大きく社会を変えたい

加藤 ファンドとして投資の対象領域はどう考えていますか?

中村 一言でいうと、ハイインパクト、ハイリターンで、うなるほど大きく社会をいい方向に変えていく企業をサポートしたいという想いがあります。投資ステージとしては、レイトステージです。上場準備に入った会社さんとは相性がいい傾向がありますから、そのあたりに寄っています。

投資先の分野としては、グローバル視点から捉えて、一つは日本が遅れている社会課題――女性の社会進出や多様性社会、メンタル問題、環境問題などですね。もう一つは世界に先駆けて日本が直面する社会課題――少子高齢化や食料問題、農業問題、ユニークな先進技術の環境問題といったテーマです。われわれのプロフィールにはグローバルなネットワークを持つ人が多いので、それを提供することでサポートができたらいいなと思っています。日本で解決が遅れている課題は海外に先行事例がありますので、情報や人材を提供したいですし、日本が先駆けて直面している課題については、起業家がその事業を世界に広げることに関われたらと思っています。

加藤 日本の課題解決に目を向けているけど、背景にはグローバルな視点があるわけですね。投資のイグジットについてはどう考えていますか?

中村 ポストIPOで一定期間伴走し、上場してからもサポートすることを念頭に置いています。その期間はケースバイケースですが。どちらかというとクロスオーバーですね。

IPO後のソーシャル起業家が直面する課題とは?

加藤 クロスオーバーにしたのはどんな背景があったのですか?

中村 ビジネススクール時代は、インパクト投資といえばシード期のスタートアップを育てていくというイメージを持っていましたが、日本で実際にヒアリングをしてみると、起業家からはIPO前後のサポートに需要があると感じました。

その背景として、社会的ミッションを持って取り組んでいた起業家でも、上場後に株主が総とっかえになると、数字に追われる中でミッションが保てなくなる。短期的に数字を出すことが求められる世界になるわけです。一方で事業拡大のために上場は重要なマイルストーンです。だから上場してもミッションを保つためにはどうしたらいいか悩む起業家が多かった。そこに対して、IRで会社のミッションを株主に訴える重要性や、社会性に共感する株主、投資家を呼び込むような重要性を感じ、ファンドとしてそういうサポートができると考えました。もう1つの起業家からのニーズは、精神的にもソーシャルミッションを理解する投資家に一定程度入ってほしいというニーズがあった。このあたりにレイトステージのインパクトファンドならではの問題解決のポイントがあると感じて、こういうターゲティングにしました。

加藤 社会起業家ならではのレイトステージの課題があるのですね。クロスオーバーしてIPO後も数年間、株を持ち続けることにどんな価値を見いだしていますか?

中村 ESGとインパクトという2つの異なる流れがある中で、上場株ではESGが巨大化しています。だからIPO後に、ESG投資家、インパクト投資家の両方から認識され、投資対象になるようにサポートしていく。上場前後でIRでの情報発信や、内部での中期経営計画や事業戦略の更新を手伝うことが重要だと思っています。

加藤 インパクト投資家の重要な要素としてレスポンシブルイグジットがあります。IPOしても投資先がインパクトを生む企業であり続けるためには、上場後も関わりが必要だという仮説を立てたわけですね。それに対して投資先からはどんな反応がありますか?

中村 これに賛同してくれる人がわれわれの投資を受けてくれています。投資するときはマイノリティシェアですが、私たちの関わり方について入り口で合意できていることが大きい。だから上場に関してどうミッションを発信し、想いのある投資家を引き付けていくかを重要視していて、われわれとしてもサポートしやすいし、期待もしてもらえています。海外にはインパクトの上場ファンドもあるので、そういったところにもつないでいけたらいいと思っています。

成果報酬をインパクトに連動させることでミッションを貫く

加藤 ご自身の成果報酬についてもインパクトに連動させる仕組みにされているそうですね。目標に達していなければNPOに寄付すると聞きました。こういう設計はファンドの目指す姿に一致していますし、覚悟も感じました。これはどういう経緯で決めたのですか?

中村 ファンドのインセンティブ構造としてインパクトと自分たちの報酬が紐づいていることは、ミッションを保つために重要だと思ったことが始まりです。

結局、インパクトファンドといいながらも成果報酬がエグジット益に紐づいていると、気付いたらファイナンシャルリターンだけ追っていたということもあり得ますよね。私1人だけの会社なら自分でコントロールできますが、ファンドが大きくなったとき、永続的にインパクトと経済利益を本気で追っていくために、そういう仕組みが必要ではないかと思っています。われわれにとっても、1号ファンドは小さくいろいろ試すというコンセプトがありますから、キャリーの仕組みも試してみたいと考えました。

海外でもブラジルのボックスキャピタルなどで同じような取り組みをしていて、そこからもインスピレーションを得ています。まだ業界でもマジョリティではありませんが、重要だと思います。ESGの文脈でもESG連動報酬を実施している企業が増えている中で、そこに遅れをとりたくないという想いもあります。

加藤 LP投資家の反応はどうですか?

中村 金融分野の方からは、ストイック過ぎないかとは言われますね(笑)。

加藤 報酬に紐づくとなると、インパクト測定は重要になりますね。そこはどう取り組んでいますか?

中村 おっしゃる通り、公平、かつ客観的、かつ定量的なインパクト測定が重要ですよね。ただ、インパクトに紐づくのはGPだけで、LPは違いますから、受け取ったキャリーの中で寄付という形で手放す、ある意味「家の中の話」になります。LPも巻き込むと難易度が高いので、まず1号ファンドではGPだけで試していくというチャレンジですね。そういう実験の意味も込めています。インパクトマネジメント測定は投資判断にも重要になっているので、真剣に取り組んでいます。

投資判断はインパクトも含めた独自の分析で短期に決定

加藤 実際にはどういうプロセスで投資判断していますか?

中村 投資判断の検討期間は約1カ月、長くて2カ月です。なぜ短いかというと、われわれはフォロー投資家なので、投資する段階ではリード投資家が決まっていて、必要な資料などは揃っていますし、組織も少人数ですから決断は早いですね。

デューデリジェントではインパクト面、ファイナンシャル面、両方を見ていきます。ファイナンシャル面は一般的なレイトステージVCと同じだと思っています。われわれは基本的にはIPO後のイグジットなので、上場したときの想定をして検討しています。インパクトについても、同じ事業計画を基にインパクトの拡大値を想定し、年間のレイトを設定して、一定以上であれば投資するという考え方です。案件によっても異なりますが、なるべく定量的に捉えるようにしています。実際にイグジットするとき、それぞれが数字として出るので、ポートフォリオの結果をファンドとして成功かどうかジャッジしていきます。

加藤 独自に分析されていくわけですね。GLINさんに投資してもらいたいと思ったらどうやってコンタクトすればいいですか?

中村 ホームページに問い合わせフォームがありますから、そこから連絡いただければと思います。またはFacebookでもSIIF経由でも大丈夫です。

加藤 本日は、新たな挑戦についてお聞かせいただきありがとうございました。


<GLIN Impact Capital ファンド概要>
① ファンド概要
・ファンド名称:GLIN Impact Capital投資事業有限責任組合
・ファンド運用者: GLIN Impact Capital有限責任事業組合
・設立日:2021年3月
・ファンド規模: 10億円を目指しファンドレイズ中

② 投資方針・対象
・投資哲学・理念: 「新たな資本主義の構築」をミッションに、社会課題解決を志向する成長企業に出資を行い、その企業が上場後もソーシャルミッションを追求していける体制の構築を支援します。これを通じ、投資先企業と共に、財務リターンと社会インパクトリターンを両立できる事業の先行事例を作っていきます。
・投資対象・テーマ・セクター: 先進国の社会課題(女性の社会進出、多様性社会、メンタルヘルス、環境問題、少子高齢化、農業・食料問題、等)の解決を目指すスタートアップ
・投資対象ステージ: レイトステージ、プレIPO、グロースステージ未上場企業
・投資金額: 非公開
投資・支援手法:
・投資手法: 株式出資(クロスオーバー期のグロースエクイティ)
・投資回収手法: 投資先のIPO後一定期間支援後やM&Aに伴うエグジット
・非財務支援:投資先企業事業の社会的インパクト・ESG・SDGs面の事業戦略への組込み、上場前後での情報開示や社外コミュニケーションを支援し、投資先のミッションに共感する顧客・人材・上場株投資家の惹きつけをサポートします。それを通じて投資先企業が上場後もソーシャルミッションを維持してより大きく成長していける体制を構築することを目指します。

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