映画考察:『ウィリーズワンダーランド』は忠実にし過ぎたゲーム実写化映画なのか?
僕はとにかく考察というものが苦手で、小難しい映画を観るとすぐに評論家先生や信頼のおける人のレビューを見にいくような人間なのだが、この映画を観て、ふと思ったことがあるので書き綴ってみることにする。
この映画の内容の説明自体は実に単純な文言で済む。
廃墟同然のテーマパークでニコラス・ケイジが襲い来る着ぐるみロボット達をぶち殺していく話だ。
本当にそれだけ。人形には殺人鬼の悪魔が取り憑いていたとか、地域住民がグルだとか、ヒロインがかつてそこで生き残った少女だとか、そういう背景はあるが、メインはニコラス・ケイジが暴力殺法でアニマトロニクスな着ぐるみロボットたちをぶち殺していく話。
尺もたったの88分と短く、サクッと見れる娯楽映画なのだが、この映画を観た誰もがこう思うに違いない。
ニコラス・ケイジのキャラ、何なの?
まず、作中でニコラス・ケイジは一言も喋らない。徹底して無口なのだ。飲み物を飲んでゲァア、とか、着ぐるみロボットをぶち殺している時に、フンッフンッ!くらいは発するが、明確なセリフはただの一言も無い。だから、名乗らないので名前も明かされない。
物語の冒頭で、田舎道をカマロでぶっ飛ばしていたニコラス・ケイジはタイヤがパンクし、偶然通りがかったトラックのおっさんに助けられ、車工場へと連れていかれる。すると、修理には1000ドルかかるが、現金払いしか受け付けてないと言われ、ATMは故障中。そして、
「なあ、近所に知り合いが管理してるテーマパークがあるんだが、一晩かけてそこを清掃してくれないか?そうしたらチャラにしてやるよ」と、持ち掛けられる。
この一連の流れは地域住民たちによる罠なのだが、そんな怪しい状況の中、ニコラス・ケイジはグラサンを輝かせたり、ゆっくり頷いたり、眉をひそめたりするだけで、一言も発さない。
そんな調子で一晩の清掃員を了承し、あれよあれよという間に廃墟同然のテーマパークで惨劇が始まる……のだが、ここでまたも?となる。
殺人着ぐるみロボットが勝手に動き出しても、襲い掛かってきても、ニコラス・ケイジはやはり喋らないのだ。
不可解なことが起こっているというのに、まるでそれが当たり前のことだと言わんばかりに、ニコラス・ケイジはリアクションひとつせず、淡々と着ぐるみロボットをぶち殺していく。
そして、腕時計のタイマーが鳴る度に、バックヤードに戻っては血まみれになった服を着替え、持参したエナジードリンクを飲み、置いてあったピンボールゲームに興じるのだ。そしてまたタイマーが鳴り、清掃に戻り、着ぐるみロボットに襲われ、タイマーが鳴り、また戻り、着替えて、飲んで、遊んで……。
そうこうしている内に、ヒロイン率いるいかにも死にそうなティーンエイジャー軍団がテーマパークにやってきて、
「ここは危険な場所なのよ!早く出なきゃ!」
と助言してくるのだが、やはりニコラス・ケイジは一言も喋らない。それどころか、身の危険が迫っているというのに、外へ逃げようとせず、居残って黙々と清掃を続けるのだ。それどころか、やっぱり死んだティーンエイジャー達の死体や着ぐるみロボットの死骸すら片付け始める。
ここまで来ると最早、無口キャラで済まされる話ではない。どっちかというと、頭のおかしい人だ。まるで強迫観念に囚われたかのように、清掃を続けるのである。しかし、潔癖症の気は無さそうだし、薬を飲んだりする描写は一切ない。ヤク中というわけでもなさそうなのだ。
この時、僕はふと、こう思った。
これって、凄く忠実にフリーのホラーゲームを実写化している映画なのではないか?
もちろんこの映画に原作は無いのだが、そう考えるとすべてに辻褄が合うのだ。
なぜ喋らないのか?
それはゲームの主人公だから
なぜ言われるがままに清掃員を引き受けるのか?
それがゲームのシナリオだから。
なぜ怪しいと疑問に思わないのか?
主人公に選択肢は無いから。
なぜ頑なに清掃を続けるのか?
それがゲームクリアの条件だから。
喋らず、意志を示さず、ただただ与えられた役割を遂行する。この挙動、掃いて捨てるほどあるPCフリーゲームの主人公そのものじゃないか。有名なやつでいうと青鬼や、スレンダーマンなんかの。
ようするに、ニコラス・ケイジはプレイヤーが操作しているアバターであり、この映画は「ウィリーズワンダーランドからの脱出」みたいな名前のホラーゲームなのである。
そう考えると、なぜ腕時計のタイマー通りに行動しているのかが分かる。あれは、いわば定められた探索時間の限界なのだ。
劇中で、ヒロインと一緒に着ぐるみロボットに襲われそうになるのだが、ニコラス・ケイジは腕時計のタイマーが鳴るや否や、バックヤードに戻ってしまうのである。当然、取り残されたヒロインは着ぐるみロボットに襲われてピンチに陥るのだが、休憩ルーティーンを終えて戻ってきたニコラス・ケイジによって救われるのだ。
つまり、バックヤードはセーブポイントであり、そこで飲むエナジードリンクは回復薬であり、いちいち新しい服に着替えるのは体力が全快した証なのだ。プレイしているピンボールは、ステージ移行の度に行われるミニゲーム的なものなのだろう。
それだけでなく、劇中にはそれっぽい要素がたっぷり出てくる。箒や吸引すっぽんなどを使い捨ての武器のように装備して戦ったり、鍵が掛かっていないのに開かなくなるドアがあったり(その部屋で戦闘がある)、トイレの個室など、あり得ない所から突然敵が現れたり……。
清掃で消す落書きが意味ありげだったり、勝手に音楽が流れて着ぐるみが動いたり、その後にトイレに行ったら鏡に血文字が浮かんでいたりするのも、フリーのホラーゲームでよくありそうな展開だ。ダクトテープで怪我を治したり、武器を作ったりするのだが、あれはアイテムを拾ったことによってできるのだろう。
つまりこの映画、サクッと見れる娯楽ホラー映画のなりをしているが、その実、忠実にし過ぎたゲーム実写化映画だったのである。
無論、これは僕の考察であり、監督の真意は分からないのだが、この映画にどことなくルックが似ている有名なフリーのホラーゲームがある。
その名も、「Five Nights at Freddy's」。警備室に居座り、迫り来る着ぐるみロボット達を、だるまさんが転んだの要領で寄せ付けないようにしていくゲームなのだが、セットといい、着ぐるみロボットの造形といい、そっくりなのである。
「Five Nights at Freddy's」通称FNaFで襲い来る着ぐるみ達。中身はロボットだが、捕まると食べられてしまう。口の中は稼働しているワイヤーやギアでいっぱいなので、ようするにミンチにされるのだ。怖い!
この映画に出てくる着ぐるみロボット達。どことなく似ている……。ちなみにこいつらは歌ったりするのだが、FNaFの着ぐるみ達もバンドを組んでいる設定がある。
というか、これは「Five Nights at Freddy's」にインスパイアされて作られた映画なのではないか。
実際に、この「Five Nights at Freddy's」はFNaFシリーズと称して続編がサーガのように大量に作られ、類似した作品が掃いて捨てるほど産み出されたほど人気がある。しかも、一時期は映画化の噂もあったというのだ。(この企画はまだブラムハウスで生きているらしいが……)
もしや、監督は本当はこれをやりたかったのでは……?
とまあ、考察らしきものをしてみたが、結局のところ映画は映画だし、それもホラー映画なので、お約束の展開も一通りある。ニコラス・ケイジ以外は普通に映画の登場人物の立ち回りをしているので、そうではないのかもしれない。
しかし、頭を使わずに肩の力を抜いて見れる楽しい娯楽映画なことに変わりはないので、オススメです。
最初から、これはゲームの映画だと思って穿って観ると、また新たな発見があるのかもしれない。