映画感想:事故物件 恐い間取り(ネタバレ有り)
レンタルで鑑賞。同監督の「貞子」が酷い有様だったので、かなりハードルを下げて見た本作。
結果から言うと、ホラー以外の部分が面白かったです。
今作は松原タニシさん原作のノンフィクション書籍「事故物件怪談 恐い間取り」の映画化であるが、造りはノンフィクションではなく、完全にオリジナルの映画として脚色されている。
原作は未読なのでどこまで脚色されているのかは分からないが、映画の内容は亀梨和也演じる売れない芸人、山野ヤマメがコンビ解散を機に事故物件住みます芸人として生きていくことになり、怪異と遭遇しながらも、芸人として成長していくという、若者成長譚ホラー(群像劇といってもいい)である。
肝心のホラー部分に関しては特に語ることがない。
実在感ありありな幽霊に、トンチキな造形。ホラー描写のやる気の無さ。端役の怪異ならまだしも、ラスボス的な存在の怪異(死神?)の見た目が、顔を銀色に塗った黒服フード男なのだから、拍子抜けである。なんだか、少ないお小遣いで頑張ってDrドゥームのコスプレをしようとした、みたいな造形なのだ。CGを使って憑依描写をしたり、霧のように現れたりするのだが、これがまた安っぽい。
しかも、クライマックスで唐突にこの悪魔博士と戦うことになるのだが、味方側は味方側で大量の線香を焚いて火花を発生させ、それを吹きかけるという戦法を繰り出す。この火花のエフェクトがMCUのDrストレンジの魔術エフェクトにそっくり。
そう。まさかの悪魔博士VSDrストレンジという夢のカードがこの映画で実現したのである(大嘘)。
とまあ、ホラー部分においてはこんな感じなのだが、今作はそれ以外の部分が中々いいのだ。特に、役者陣のハマりっぷりが面白い。
主人公の売れない芸人を演じる亀梨和也さんは、現状をどうにかしたいと足掻く一人の若者を魅力たっぷりに演じていたし、何より顔がいいので不穏な表情で部屋の一角を見つめるだけでも味がある。
他にも、瀬戸康史さん演じる主人公の元相方、中井も、芸人としての道を諦めるも、まだ未練があり作家業にしがみつく若者として、いい味を出していた。ヤマメと一緒に事故物件を使って成り上がろうとして、どんどん酷い目に遭っていくのだが、決してヤマメを見捨てず、危機に駆けつける友情も持ち合わせていて、良いキャラをしていた。
ヤマメに惹かれ、メイクアシスタントを志すヒロインを演じた奈緒さんも、怖がる演技が良かった。裏方からヤマメを支え、霊感がある故に協力するが、やはり酷い目に遭うという役柄だが、こちらも事故物件にのめり込んでいくヤマメを必死に止めようとするなど、とても良いキャラをしていた。今作は全体的に、見ていて不快になるキャラがいないのが良かったですね。
主にこの三人の若者群像劇を主軸に物語は進むのだが、彼らを取り巻く脇役たちもいいキャラをしているのだ。
木下ほうかさん演じる野心溢れるプロデューサーは見ていてとても楽しかった。ピリッとした怖い大人を演じたらピカイチですね。余談ですが、いつか木下ほうかさんには、イヤミ課長みたいな分かりやすいクズをどつき回す怖い大人然とした役を演じてスカッとしてほしい。
一癖ある不動産屋を演じる江口のりこさんも、不穏さとコミカルさを共存させたいい造形でしたね。敵味方どっちともつかないあの顔面力。謎にオカルトに精通していて、クライマックスに助けてくれるのも良かった。小籠包の件は一番笑いました。まあ、このクライマックスのVS悪魔博士の一連が完全にドタバタコントにしか見えないんですが。恐怖と笑いは紙一重とはよくいったもの。
しかし、最後の最後にこのキャラクターが一番ショッキングな退場をすることで、ラストの不穏さに拍車をかけるのは、この映画のホラー部分の中で一番良かった点ですね。ここまで謎に包まれた魅力のある強キャラがあっさり退場するのはやっぱり怖い。この場面はホラーとして唯一秀でていました。
そして何よりも、いい味を出していたのが、謎の宮司を演じた高田純次さん。出演時間はかなり短く、ヤマメとちょっと会話をするだけのキャラなのだが、これが良い!テキトーおじさんにも見えるし、マジモンの有力者にも見える高田純次さんの佇まい。表情だけでこれが切り替わるのだから、恐ろしい。
俳優高田純次さんというと、主演していた「ホームカミング」で還暦後、家族の為、街おこしの為、奮闘する壮年の男や、ドラマ「ギャルサー」のおっさんくらいしか見たことがなかったのだが、やっぱり普段は陽気にふざけているコメディアンがシリアスな演技をするのは怖くて良いですね。見ていてマイケル・ルーカ―を連想した。ジェームズ・ガンはマイケル・ルーカ―を「激怒しているのかと思ったら、一瞬で笑って許してくる演技をさせたらピカイチの俳優だ」と評したらしいが、高田純次さんもそれに負けず劣らずの演技をしていた。平然と酷い悪行をこなす裏社会のボスみたいな役をどこかで演じてほしいと思いました。
出番は少ないですが、ピリッとした先輩を演じたMEGUMIさんや木下ほうかさんの部下で静の演技だけで味を出していた真魚さんもハマっていて良かったですね。
とまあ、キャラがいい、いい味だ、と言ってきたが、最後に一つだけ、展開に文句がある。
それは、お笑い芸人を主人公にするのなら、クライマックスは笑いで怪異に立ち向かうという構造にしてほしかったということ。
一応、冒頭にコントで使っていた傘が最後に役に立ったりするわけだが、どうせならそれこそ怪異相手に無茶苦茶なコントをやって退散させるとか、そういう芸人たる立ち向かい方をしてほしかったのだ。
恐怖と笑いは紙一重と先述したが、実際に笑いで怪異を退散させるという考え方はあったりする。洒落怖の「裏S区」なんかでも、笑うという行為が怪異に効くと信じているという件があったりする。
怪異たるものはこちらの弱みに付け込み、浸食してくるものなので、笑いや下ネタなど、生命力溢れたパワーで弾き返せるという滅茶苦茶ながら、どこか納得できる理屈である。びっくりするほどユートピアがいい例だろう。(いい例?)
ともかく、冒頭にもっと喚き散らすような酷いコント、それこそハリウッドザコシショウがやっているような芸をしてダダスベりするが、最後の最後に怪異相手にそれを披露して、お笑い芸人として立ち向かい、退散させるというようなことをやってほしかったのだ。
しかし、亀梨和也さんにそんなことをさせるのも酷だろうか。でも、女装してくれるなら、パンイチ下ネタ芸もやってくれそうなものだが・・・。
結果的に、見て損はしませんでした。ホラー云々は抜きにしても、役者陣のハマりっぷりが楽しかったので。何者かになりたいと足掻く若者成長譚として見てもいいと思います。