【ドラマ感想】仮面ライダーBLACK SUN(ネタバレ有り)
まず、僕は仮面ライダーについては完全に門外漢である。
クウガから始まる平成ライダー世代のくせして、熱心にシリーズを追っていたことはなく、どのタイトルも薄っすらと場面場面で覚えている程度。
ただ、友達に仮面ライダーがずっと好きな奴がいるので、そいつからシリーズの魅力を熱っぽく語られてきたせいか、ある程度の知識は持っていた。といっても、通して見たものは無いので、いわゆるにわかである。最近になって、石ノ森章太郎の漫画をぼちぼちと買って読んでいるくらい。
しかし、今回のシリーズが大人向けに作られると聞いて、ちょっと興味が湧いていた。本来は子供に向けた媒体でもあるが故に、これまで仮面ライダーに食指が伸びなかったとはいえ、人が異形になって戦うというバイオレンスな絵面は大好きなので、もしかして血みどろ異形バトルが見られるのではないかと楽しみにしていたのだ。
それで、一気に全話見てみたのだが……なんか、色んな意味でちぐはぐなことになっていた。
まず、怪人が差別されているという世界観だが、描写が全部、露骨で大味過ぎないか?
怪人を入れない店だとか、そこに愛はあるんかの人のデモ行進だとか、このバス怪人乗せるの?とか……。一応、時代は現代を繁栄させているだけに、露骨過ぎてさっぱりリアリティがない。
もちろん、そういう差別がなかったと言いたいわけではないのだ。過去、実際にそういう差別を受けてきた人たちは歴史上にいた。それが、確実に今作の怪人という人種のメタファーにしたであろう黒人であり、また、外人、在日と言われて差別されてきた人たちだ。
そして悲しいかな、この現代においても、その差別は失われていない。声の大きさや方法など、今も形を変えて根強く存在している。
だが、だからこそ、今作の怪人の差別描写は珍妙に映ってしまうのだ。
この現代における差別は、あんなにも大っぴらには行われていない。SNSのヘイトスピーチなんかを始めとして、人の悪意はもっと暗に発せられるようになっている。
なんたって、陰湿な国民性の日本人なのだ。怪人がバスに乗ってきても、店に入って来ても、その場では黙り込み、SNSで愚痴愚痴言ったり、盗撮して「こいつ怪人のくせに~」とか言ってネットに画像や動画をUPしたりするのが、現代人の差別ではないのだろうか。
そして、その極みでもあるデモ描写だが、なぜああいう人たちがいるのかの背景を描かなかったせいで、いまいちピンとこないものになっている。
怪人たちに酷いことをされたから、ああいう活動をするに至ったとか、大衆を扇動して単に金儲けをしたいだけとか、単に目立ちたいだけとか、そういう背景が無いせいで、記号的なものにしか受け取れないのだ。怪人に対する差別描写を分かり易くするのが目的なのかもしれないが、悪く言えば、なんだか古臭い。大人向け、しかも尺の長いドラマにするならば、内臓ズルグチャ―とかの前に、もっとやれたことがあったろうに。
大人向けの点でいうと、怪人同士の戦闘は一話目の蜘蛛怪人からして、かなり気概を感じたのだが、どうしても気になってしまうことがある。
それは、怪人の造形。
主役である黒と銀のバッタ怪人やゴルゴムの幹部たちはたまに口が開いたり動いたり、変身時にスポーンやヴェノムみたいなエフェクトを入れたりと、かなり気合を入れて描写しているけど、その他の怪人は正直被り物にしか見えなかった。色んな種類の怪人がいたけど、仮装にしか見えないのだ。
そのノイズになっていたのは、主に顔の造形。怪人によっては口が開きっぱなしだったり、閉じっぱなしのがいたけど、どうやって喋ってるの?面割れみたいになっている怪人もいたけど、皮膚だけ変わって声は発せられるっていう解釈なの?
それでいうと、動向のブレはともかく素晴らしいキャラをしていたビルゲニアは、変身時に顔が出ていたけど、あれも珍妙に映ってしまった。
特撮における顔出し幹部というのは重要な要素なのかもしれないけど、なぜビルゲニアだけ顔が出ているのか、疑問に思ってしまった。特に、爺さんの方の堂波に殴り込みをかける時なんて、絵面がコントにしか見えなかったのだ。あれ、顔との境目に生々しい繋ぎ目を入れるとか、いっそのこと首から上を全部出すとか、いつか大杉漣さんがやった地獄大使みたいに戦闘時だけ覆われるとか、そういう処理をされていればまた違ったのかもしれないが。
プラス、なぜベルトなのか、なぜ変身ポーズを取るのかの意味合いとか、葵が変身するカマキリ怪人の手首の処理とか、ブラックサンの手甲の手袋感とか、リンゴの食べ方とか、クジラ怪人のスープ貝殻の持ち方とか、スズメ怪人の少年の変な飛び方とか……。
これ、特撮が好きな人たちからすれば、野暮なことを言うんじゃないと思われるのだろうか?でも、なんでもかんでも〝特撮の味〟と言い切って、映像の質感から逃げるのは、いかがなものだろうか。あちこちに差し込まれるシュールさも、狙っているのか狙っていないのか分からないし。
肝心の話自体は、ちょっと覚悟のススメっぽくてオッと思ったが、前述したように差別描写や社会、裏社会での扱いの大味っぷりが珍妙で上手く嚙み合っていなかったし、何よりも結末が酷過ぎる。
大人向け云々、仮面ライダー云々の前に、ヒーローものだろう?
ヒーローものの結末が、幼い子供を戦闘員に育ててレジスタンスを組織するって、最悪ではないのか。
そりゃ、世界に目を向ければ少年兵の問題とか、そういう現実もあるけれど、あの世界の日本でそれをやるの?これまたリアリティに欠けない?
はい首、とか、もっと丁寧に、とか……幼い子供を人殺しに育てるのが、主人公側の最終的な着地でいいの?
……とまあ、文句を並べてきたけど、大好きな部分もあります。
まず、役者陣の演技が素晴らしい。主人公であるスレて老いた怪人ブラックサンを演じた西島秀俊さんを始めとして、シャドームーンをカリスマ力たっぷりに演じた中村倫也さんや、悪の冷徹な女幹部として最高だった吉田羊さんや、怪人を救おうと中間管理職に徹していた中村梅雀さんなど……。この渋い配役は、今作にしかできなかっただろう。その白眉でもあるのは、ビルゲニア役の三浦貴大さんに悪の親玉をやったルー大柴さん。この二人は、今作を面白くするのにかなり尽力していると思う。特に、ビルゲニアのキャラとしての魅力を存分に上げたのは、役者さんの力だろう。草原での戦いとか、あれだけ珍妙な格好にしか見えなかったのに、思わず胸が熱くなった。
そして、ルー大柴さんの悪の総理大臣。あの嫌なマヨネーズカツカレーの食べ方や、白々しくも仰々しい台詞回し。悪役として本当に輝いていた。
他にも、プリティ吉田さんや音尾琢真さんや濱田岳さん、黒田大輔さんなど、怪人役の方々の演技は細部に至るまで本当に素晴らしかった。むしろ、怪人体よりも人間体の方のアンサンブルをずっと見ていたくなるほど。
ただ、それが魅力的であるがゆえに、葵を裏切ったニックの顛末や、善性を持っていた警察側の黒田さんの顛末とか、葵と俊介の人間性を取り巻く描写が悪目立ちしてしまうのだが……。
また、大まかな筋道である、スレてうらぶれたおっさんの怪人がわけあって人間の少女(後に怪人になるが)を守ることになるというのも、とても好きな要素だった。これは僕の好きな、舐めてた相手が殺人マシンでした映画に通ずるものがあり、一話目から引き込まれてしまった。
それ以外にも、復活時に胸のマークを血で描き、無限に続く戦いの連鎖を止めるという意味を込めるとか、コウモリ怪人が立場をコロコロ変えて木の上で血を飲む役をそのまま担っているとか、過去と現在の物語が繰り返しの合わせ鏡になっているとか、自分の身体を引き千切って武器に変えるとか(その後変身しても治っていないのがリアルで良かった)、安居酒屋で過去話してうだうだやったりとか、クジラぁ、焼きそば食べる?とか、なんだかんだかかるとテンションが上がってしまうテーマソングとか、そういう部分はとても好きでした。
結果的に、差別描写や結末は呑み込めないけれど、大好きな部分もあり、憎めない珍作というか、ある意味でヒーローものとして怪作だとは思う。大人向けの仮面ライダーとして、これだけ豪華なキャストを呼んで来られたのは快挙だと思うし、今後もこういう作品はたくさん作られてほしいです。色んな名優たちが、怪人になるのをもっと見てみたい。しかし、続編であるRXはあるのだろうか?
その際は、もっと規模が小さくてもいいし、なんなら別のシリーズで映画にしてもいいと思います。仮面ライダーという題材を使って、バイオレンスにアジョシとかアウトレイジをやるとか、反って王道にダークマンをやるとか、果敢に挑んでほしい。日本にだって、そういうことをやるポテンシャルはきっとあるはずなので……。