馴れ初め その2「付き合うまで」

やっと彼女さんのことを「好き」と思えるようになった。
お互いに何とは言わないまでも気持ちの確認が出来た。
僕の気持ちにGOサインが出たのを確認した彼女さん。
タガが外れたように急にグイグイ来るようになった。

ゆく年くる彼女

年末。
お互いに実家に帰省した。
そのおかげもあって、二人ともタメ口に移りやすかった。
文字ベースなら、いくらでもタメ口に直せるから。
彼女さんがタメ口で話しかけてくれるのが嬉しくて、
早く声が聴きたくて仕方なかった。

年始。
彼女さんに初詣に誘われた。
とにかく会いたくて仕方なかったけど、
会って喋り出したら上手くタメ口で喋れなくて、
彼女さんにからかわれまくった。
でも、そのやり取りが楽しくて仕方なかった。

初詣の帰り、彼女さんが手を握って来た。
今では「恥ずかしいから」と言って、
あまり外で手を握るなんてしてくれない。
そういう意味では、あの時の彼女さんはすごく勇気を出してくれたんだと思う。
帰り道で、彼女さんに、
「今度、彼氏ちゃんの家に泊まりたいなー。」
「徹夜でゲームとかしたい。」
「修学旅行みたいな。」
笑いながら「やましい思いは無いからね!」って付け加えながら。
そういう、彼女さんとの友達以上恋人未満の距離感が、すごく心地良かった

すぐにそのお泊まりは実現した。
本当にただただ喋ったり、ゲームしたり、映画を見たりしただけだった。
彼女さんもすごく楽しんでくれたみたいで、それから週末は彼女さんが頻繁に遊びに来たり、泊まりに来るようになった。

友達以上恋人未満

友達以上恋人未満って言葉、
本当に言い得て妙だと思う。
彼女さんから、手を繋いだり、くっついて来たりはあったけど、ただそれだけ。
もし僕がそこで彼女さんに手を出してたら、どうなったのかと今でも思う。
もっと早く付き合えたかもしれないし、
別れてしまったかもしれない。
とにかく僕が、うんともすんとも言わなかったせいで、
8ヶ月間、その距離感が変わらなかった。

これにはなれない

彼女さんと、ある映画を見ていた時のこと。
男女が家庭を持って、子供を育てて、子供が巣立って、男の人がみんなに見送られながら亡くなるという流れの映画。
突然涙が出てきて止まらなかった。

「俺はもうこれにはなれないんだな、って思ったら悲しくて」

「どういう意味?」

「誰かと結婚して、誰かを幸せにして、誰かに感謝されながら死にたかったけど、俺には無理だから。」

自分でも驚くくらい悲しくて悲しくて、人生に絶望しそうになった。
今までそんな風に感傷的になることなんて無かった。
でも、彼女さんの愛に触れて、
けど、その愛に応える自信がなくて、
彼女さんと付き合ったりしても、彼女さんを傷つけてしまいそうで。
とにかく涙が止まらなかった。

彼女さんもその時のことをよく覚えている。
僕のそういう気持ちを、察してくれた彼女さんは、
絶対に告白しない、と決めたらしい。
彼女さんが恥ずかしくて告白できなかったのもあったらしいけれど、
このことを機に、
「私が『これにはなれない』なんてことはない、って思わせて見せる」
「この人のためにこの人と幸せになってみせる」
と固く決め込んだとのこと。
泣き続ける僕の背中を彼女さんは何も言わずにさすってくれた。

墓場まで持っていけなかった

ある時、人生で大きな選択に迫られて、それを彼女さんに相談した。
この相談をする時に、自分の学生時代の話をする必要があった。

僕は学生時代にある種のトラウマがある。
別にいじめにあったり不登校だったりとかではない。
その時代の僕を知っている人は、そんなトラウマがあるなんて思わないだろう。
それくらい健全な学生生活だった。表向きは。
僕は、表向きで健全な自分を演じていただけで、
心の底ではとても無理をしていた。自分を上手く表現することができなかった。
心の奥底で抱えていた本当の自分のことは今でも誰にも話せない。誰にも話さず墓場まで持っていくつもり、だった。

この時も彼女さんに「表向きの」学生時代の話をしていたら、
何故だかすごく気持ち悪くなった。
何で僕はこの人に嘘をついてるんだろう、と。
すごく申し訳無くなった。

いつの間にか僕は、墓場まで持っていくはずの話を、
人生で誰にも話したことない、友人にも、両親にも話したことのない話を、
誰にも話したことないから、言語化すらしてなかった話を、
彼女さんにしていた。

トラウマを話し終えて、人生で初めてこのことを話したことを彼女さんに伝えたら、
彼女さんはすごく嬉しそうな悲しそうな表情で「ありがとう」と言ってくれた。
僕が彼女さんとの結婚を意識し出したのはこの時。
今まで誰にも話せなかったトラウマを受け止めてくれた彼女さんは、私見を述べつつ、僕を励ましながらも、怒ったりもしてくれて、
とにかく自分の中でずっと燻ってた気持ちを解放してくれた。
このことを話してから、彼女さんに対して、
何も隠さずに自分の気持ちを伝えられるようになった。
彼女さんと遊ぶ時は、彼女さんから誘ってくるのが大半だったけど、
この時以降、自分から積極的に誘えるようになったし、
「かわいい」とか、そういうことも素直に伝えられるようになった。

いまさら?

その後、色々なことが重なって、
出会って一周年、彼女さんの推しの誕生日に告白することを決めた。
行きつけのいつもの洋食屋。
彼女さんに「タメ口にしましょう」って言われた大事な場所。
いつものようにご飯を食べた帰り際。
彼女さんに「結婚を前提にお付き合いしてください。」と告白した。

「え?いまさら?」

彼女さんにそう返された。
「もう付き合ってるもんだと思ってたわ。」
彼女さんにそう言われて、ほっとしながらも、何だかちょっとだけ寂しかった。
彼女さんと気持ちがすれ違っていたようで。
真面目に告白してしまって恥ずかしかった。
でも、とりあえず自分の気持ちは伝えられたし、関係が進んだ気がした。

家に帰って来て、いつものように彼女さんとdiscordのチャットでゲームについて会話していた。
彼女さんが急に
「今日の告白だけど」
と切り出して来た。
なんだろう、もしかして「やっぱり嫌」とか言われるのかとビクビクしていた。
discordの「〇〇さんが入力中」が怖くて怖くて仕方なかった。

「今日の告白だけど
このままダラダラと続いていくんかな〜って思ってたから」
ちゃんと一周年のタイミングで告白してくれたのは
嬉しかった
です」

彼女さんの素直な思いに、何て返そうか迷っていたら、
しびれを切らした彼女さんが
「ボイチャする?」
と誘ってきた。
返事を待たずに彼女さんがボイスチャンネルに入って
僕もすぐにボイスチャンネルに入った。
彼女さんが開口一番
「やっば、めっちゃ恥ずかしい!」
って言い出して
「何のこと?」と聞き返す間もなく、
「あーーーー、でも、ちゃんと言わないとダメよね。
・・・私も大好きなので、こちらこそよろしくお願いします。」
告白への時間差返事。
面と向かっては恥ずかしくて言えず、意地を張ってしまった彼女さんから、初めて聞けた「大好き」の言葉。
この時のやり取りは嬉し過ぎてはっきり覚えてるし、今でも時々夢に出る。

馴れ初めを書いてみて

馴れ初めをこういう風に文章化してみて、
もちろん彼女さんにも読んでもらった。
彼女さんからは「美化し過ぎでしょ」とか「いいところだけ書きやがって」と言われた。
「じゃあ直す?」って聞いたら、
「まぁこれでいいんじゃない?」と満更でも無さそう。
少なくとも僕は、こうやって文章化してみたことで、
改めて彼女さんのことを大切にしたいと思った。
まぁ、これを書いている時点ではまだ、
彼女さんに対する気持ちが弱まったりしたことは無いけど、
もしこの先、彼女さんと喧嘩するようなことがあっても、
これを読み返せば、気持ちを取り戻せると思う。
彼女さん、いつも本当にありがとう。これからもよろしくお願いします。

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