どうせ誰にも分からない

(りん)
仕事の関係で長期出張になって、数ヶ月の間、しーちゃんと離れ離れになってた。毎日、仕事終わったら、すぐに帰って、即通話繋いでた。出張先の人とも仲良くなって、飲みに誘われても、家に帰ってしーちゃんと話したいからノンアルで済ましたりとかもして。

しーちゃんと離れて暮らすと、こんなに色々と辛いんだって実感した。電話口では強がって、「まぁ寂しくはないよ」「そっちこそちゃんとやれとる？」みたいな感じ装ってたけど、内心すごいキツかった。しーちゃんが浮気する夢見るまで行った時は、大分病んでると思った。“あのメンヘラコミュ障が、浮気なんてするわけないのに。”

出会ってからもう3年経ったけれど、これだけ会えない期間は初めてだったので、自分がいかにしーちゃんに助けてもらってたか痛感した。毎日すごい甘やかしてくれてたんだな、って。何も言わずにこっそり家事済ましてくれたりとか、こっちの気分とか空気を読んで接してくれたりとか、私が絡んでいってもすべて受け入れてくれたりとか。

あと2週間くらいで出張が終わるって時に、彼が引っ越しの準備を手伝いに出張先まで来てくれた。彼の顔を、久しぶりに生で見て、「結婚したい。」って思ってしまった。私達は結婚不適合者同士だし、結婚というものをすごく重く考えているし、責任もあるし、そういうものに縛られたくない子供だから、「結婚したい」なんて軽々しく言ってはいけないと思っている。
そんなに重く考えず「したい」と思ってしてみたらなんとかなってる人、そういう責任を果たしてこそ大人という人、色々な人を知ってるし、そのどの考えも合ってるんだと思うけれど。私達は揃いも揃って、他者とのコミュニケーションに敏感になり過ぎるタイプで、色々考えすぎてしまうところも似てて、そんな二人が出会って「結婚したら上手くいかないと思う」とか「結婚する必要性を感じない」とか散々言い尽くした上で、3年間一緒にいたのに。気づいたら、全て忘れて、ただただ「結婚したい。」って感情がふわっと浮き上がって来て、数秒後に冷静になって、その気持ちが消えてった。

今日までその時のことを黙っていたのに、
会話の流れで、「結婚したい、って一瞬思ったんよね。」って言ってしまった。変に解釈されると私が圧をかけてるみたいだし、誤解を与えてしまうから、言わなきゃ良かった、とすぐに後悔した。

予想通りというか、それを言われたしーちゃんは、完全に言葉に詰まってしまった。多分、色々な思いが考えが思い込みが彼の中を駆け巡っていたんだと思う。私も逆の立場だったらそうなってたと思う。だからこそ、軽々しく言っていいものじゃなかったと思う。

「ここで、『じゃあ結婚しようか。』って言える人間やったら…りんちゃんのこと幸せにできるんやろうけど…。」

声詰まらせながら彼が言ったその言葉に、私はすごくホッとした。彼のことだから、一瞬で色々な選択肢が浮かんだと思う。茶化したりもできたし、聞き流すこともできたし、それこそ「結婚しようか。」とも返せたし、やんわりと断ることもできたと思う。でも、彼は私の言を受け入れた上で、かっこつけずに彼の本当の気持ちを伝えてくれたと思う。彼はいつだって私に対して真摯だ。むしろこういう時も真摯過ぎるから彼のメンタルが心配になる。

彼は振り絞るように何か声を出した。
「情けない」とか「ごめん」と言ったように聞こえたけど、多分気のせいだ。だって、情けなくなんてないし、謝る必要もないから。
私が無責任に言ってしまった重い言葉を、彼はしっかり反芻して、真剣に受け止めた上で冷静に返してくれた。
私はそれをすごくかっこいいと思ったし、優しいと思ったし、そういう気を使い過ぎるところが心配で可愛くて好きだと思ったし、やっぱりこの人とは結婚しないでもいいから、ずっと一緒にいたいと思った。…すごく最低なことを言ってるのかもしれない。

多分、どこかの誰かが言ってたみたいに、
仮に結婚したとしても、なんとかなるんだと思う。
実際、私たちが結婚するのに障害はないし、3年一緒にいて問題なかった。周りの“そこまで私達のことを知らない人達“からは、「もう結婚すればいいのに」「いつ結婚するの」ってよく言われるようになった。

けど、私は幼くて臆病で、そして彼もそれは同じで、お互いがお互いにそれを理解してるから、無理強いもしない。二人でお互いのことを正当化して生きていくんだ、これからも。誰に何と言われたっていい。私は彼が好きだけど結婚はしなくていいし、もししたくなったら前言撤回して結婚するんだろう。知らんけど。私と彼にしか分からないそういう関係のままでいたい。

「結婚したくないから大丈夫だよ。」って言ったら、「それはそれでショック」って言って笑ってくれた君が大好き。