恥ずかしいってだけで、嫌じゃないし、むしろ好きですよね?

(りん)
昨晩、急に目が覚めた。
左手を急に握られた感触があったから。
隣で眠ってるヤツは微動だにせず、スヤスヤと眠っている。
ヤツの右手が私の左手を握っている。
しかも、ただ握っているとかじゃなくて、恋人繋ぎ。
私が目を覚ましたのも、“指と指の間に入ってくる違和感”を感じたから。

と、すごい迷惑そうに書いては見たけど、実際嫌な気分はしなかった。驚きはしたけど、別にきつく握る訳じゃないし、本当に手を繋いで歩く時くらいの感じ。だんだん嬉しくなって来ている自分がいた。
再度眠りにつこうとしてると、握りしめる力がほんの少しだけ強くなった。彼に求められてるような気がして、またちょっとだけ嬉しくなる。
そういう変化に翻弄されながらも、寝なきゃという気持ちになり、手を繋いだまま眠りについた。

朝、しーちゃんの方が早く起きるので、もちろん手は離れていた。けど、あの手を握りしめられていた時間の幸せを思い出して、少しだけふわふわした朝だった。
朝の準備をしながら、
「しーちゃん、昨日私の手握って恋人繋ぎしとったよ。」
と教えると、
「ふーん。」とだけ。やっぱり寝てたのかと思いつつ、私もそれで浮かれてるのを悟られたくなかったので、それで話が終わった。


仕事が終わって、晴れていたので、二人で買い物に出た。
二人で出歩く時、手を繋ぐことはそんなに多くないけど、今日は朝の件もあったので、手を繋ぎたい気分。
手を繋ぐ時は、いつも私から。
「手繋ごう」って口に出す時もあれば、無理やり相手の手を握る時もあれば、手の甲同士で触れさせて相手に握らせる時もある。
今日は、無理やりしーちゃんの手を握った。
一方的に握られたしーちゃんが、私の手を解いて、恋人繋ぎに握り直す。
昨夜と全く同じくらいの力。昨夜と全く同じ握り方。「昨日さ。」
しーちゃんが口を開いた。
「初めて手繋いだ時の夢を見たんよ。」
一瞬、何の話か分からなかったけれど、しーちゃんの方を見たら、ちょっとだけ恥ずかしそうにしてるのが分かって、全てを理解した。
「じゃあ、それで本当に握ってきたってこと?」
「多分。」

あれはまだ付き合う前。
「お互い気になってるってことでいいですよね?」「距離感近づけたいので、あだ名で呼び合う感じにしませんか?」って大事な会話をクリスマスにして、友達以上恋人未満の関係になり、次に会った初詣の時。
お互いどういう顔して会えばいいかも分からず、ちょっと照れくさそうにしつつ、久々に会えた喜びで浮かれてたと思う。
まだ「しーちゃん」「りんちゃん」って呼び合う癖も無くて、「〇〇さん」「××さん」みたいに呼んじゃうような関係性。
とにかく、私はしーちゃんが好きだけど、しーちゃんが距離を取ろうとするから、ガンガン攻めなきゃって焦ってた時期だった。
その時の手も急に握った。まさに今日みたいに。


しーちゃんが、私との思い出を語る時に、「急に手を繋がれたあの時」の話を毎回するくらいには、しーちゃんにとって衝撃的な出来事なのは知ってた。今日もその話をされた。
「すっごいドキッとして、でも好きな人に手を繋がれて離しちゃダメだって思って、平然を装って恋人繋ぎにし直して…。」
何度も聞いた思い出話。
私としては、「急に手を握ってしまったし、無理矢理感があって良くなかった」ってずっと後悔していたのを、付き合った後に「あの時すごく幸せだった。」って言われて、救われた気持ちになったことの方を覚えている。

私自身、思い出抜きで手を繋ぐことが好きなので、ずっと手を繋いでいたいのに、しーちゃんはあまり繋いでくれない。このことを思い出すせいで恥ずかしいから、って。
だから、しーちゃんが嫌がらずに手を握り返してくれるこの時間がすごく貴重で、その度にしーちゃんがあの時のことを思い出してくれてると思うと、それだけで幸せな気持ちになる。


買い物帰りに、昨日の夢の詳細を聞いたら、
私としーちゃんが中学生で、付き合う前の関係性。
しーちゃんが転校することになって、最後の下校で、私が急に手を握ったというシチュエーションだったらしい。
もうその設定だけで、甘酸っぱ過ぎて、興奮して騒いでたけれど、話には続きがあって。
分かれ道で、私が手を離そうとしたのを、しーちゃんが離すまいと強く手を握って、離さないようにしたらしい。
そういえば、手を強く握られた瞬間があったのを思い出して、「そことリンクしてたのか…」と一人で納得してしまった。

そんな話を聞いたもんだから、
今日しーちゃんが寝る前に「手繋いで寝よ。」って言ったら、案の定「恥ずかしい。」って断られた。
まぁそうなるよね、と思いつつ、
どうせしーちゃんの方が先に寝るわけで…


ーー彼と離れ離れになる最後の帰り道。夢の私は、
どういう気持ちで手を繋いだんだろう。
どういう気持ちで手を離そうとしたんだろう。
離すまいとされた私はどんな気持ちだったんだろう。

夢の中で、離すまいとしてくれたってことは、今日も繋がっていたいって思ってくれてるってこと。そのありがたみを感じつつ、彼の夢の続きを妄想しながら、私もそんな夢見れたら、と思いながら今日の眠りにつこうと思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?