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ひろゆきのベルセルク

夜の荒野、黒い月が朧に照らす中。
巨大な剣を背負った男、ガッツが馬を引きながら黙々と歩き、隣には妖精パックがひょこひょこと舞い降りている。そこへ、あまりにも場違いな装いの人物が倒れていた。
グレーのパーカーにクロックス。薄っぺらい荷物を抱えて、何やらぶつぶつと独り言を呟いている。

「えー、ここって中世ファンタジーみたいな所ですか?… コスパ悪そうな世界観ですね… 街は無いし夜道は危険だし…」
彼の声を聞きつけたパックが、興味津々で近づく。「ガッツ、あれ見て! すごい恰好をした人が倒れてるよ!」
ガッツが半ば警戒しつつ男に目を向けると、男はすっと起き上がり「わ、どうも、ぼくひろゆきって言います。なんだろう、この世界は魔物とか出るんですかね? やめてもらっていいですか、そういう危険な展開……コスパ悪いんで」と言う。
ガッツは切れ長の眼で相手を見据え、「あんた、何者だ? この辺りは魔物の群れも出るぞ。ビビってるならどっか隠れてろ」と突き放すように言うが、ひろゆきは「それってあなたの感想ですよね? 実際に魔物出るかデータ取らないと……」と飄々と口を挟む。

「くっ……」と苦い顔をするガッツ。パックはクスッと笑い、「おもしろい人間だね! ま、ほんとに危険だから早く街に逃げたほうがいいんじゃない?」と朗らかに助言。
「助かります。でも街とか遠いですよね。このままじゃ時給換算で体力割に合わないかも…」
そのとき、闇の中から獣のようなうなり声が響く。出た……魔物、もしくは使徒の類だろうか。ガッツが咄嗟に巨大な大剣を振り、茂みから飛びかかるクリーチャーを叩きつける。
「くそっ、またか!」
地を揺らす衝撃音。パックが慌てて上空に逃れ、ひろゆきは「わわわ、うわぁ……やめてもらっていいですか、いきなり襲うの……」とパーカーのフードを押さえるだけで何もできない。

ガッツは敵の腕(爪かもしれない)に切り裂かれそうになりながらも剣を振るい、一瞬にして魔物の頭部を断ち割る。血飛沫が飛び散り、荒野の地面を濡らす。
ひろゆきは怯えたまま固まって、「す、すごいですね……でもそんな巨大な剣ってメンテも大変そうでコスパ悪くないですか?」などと場違いな疑問を口にする。ガッツは息を整えながら「……口を閉じろ。ここじゃ生き残るためにそれが必要なんだ」と一喝。
するとひろゆきは「それって結局あなたの感想ですよね? もっと軽い武器で済む方法あったり……あっ、すいません」と慌てて言葉を濁す。あまりの殺気に抗議する気も失せるのだ。パックが苦笑して「ヒヤヒヤするなぁ」と頭を抱えている。

戦闘が収まり、あたりは再び静寂に包まれる。ガッツは獣の死体を一瞥し、「目的地までまだ歩くぞ。夜が深くなるほど、こういう魔物が出やすい」。
「ええ、でも僕、このままご一緒していいですか? ソロで行動しても危険ですよね? できれば時給換算でリスクを下げたいんですけど……」
ガッツは不満げに「勝手にしろ」と言い放つ。正直、面倒だが放っておけばこいつは確実に魔物の餌になるだろう。パックも「うんうん、そこは黙ってついてきた方が絶対助かるよ」と促す。

そうして、ひろゆきはしぶしぶガッツに同行する形に。巨大な剣を背負う黒い甲冑の男と、パーカー&クロックスの男という奇妙な二人が、暗い山道を行く。
ひろゆきは「この世界って何なんだろう……すごく危険だし時給換算で割に合わないけど、こうなったら仕方ない」と半ば憔悴した表情。
やがて、遠くに小さな街の灯りが見えてくる。パックが「助かった! 一晩泊まれそうだね」と声を弾ませるが、街に近づくにつれ不穏な気配がひしひしと感じられる。ひろゆきは「なんだか嫌な空気ですね……“なんだろう、やめてもらっていいですか”な予感がするんですけど」と薄気味悪さに震える。
ガッツは剣に手をかけ、「街がモンスターや使徒に支配されてるかもしれない。それでも行くしかない。俺はどんなにコスパ悪かろうが、戦わなきゃならないんだよ」と低く呟く。

「あなたが闘う理由は……やっぱり感情論ですか? 時給換算じゃなくて仇討ちとか復讐とか?」ひろゆきが首を傾げると、ガッツは苦そうな顔で「俺には守りたい人がいた。あの闇の中で……だから、それがお前の言う‘コスパ’と違う次元なんだ」とだけ返す。
ひろゆきは少し黙り込み、「そうですか……まぁ、そういうのもあるか」と呟く。<br> この一瞬の静寂を断ち切るように、街の方角から獣じみた唸り声と悲鳴が響いた——次なる戦闘が、すぐそこまで迫っている。
「覚悟しろ。ここから先は地獄かもしれない」
ガッツが剣を握り、夜の闇へと一歩踏み出す。パックはその背にしがみつくように空を舞い、ひろゆきも思わずついていく。
「うわぁ……本当に地獄とかやめてもらっていいですか? コスパ最悪ですよ……でも逃げる場所ないし、仕方ないか……」

こうして奇妙な三人(?)組は、またひとつの悪夢へ足を踏み入れることになる。厄災渦巻く“ベルセルク”の世界に、“時給換算を愛する男”の笑うしかない行脚が始まるのだった。



【後編:狂宴の街であらがうもの】

夜の山道を進んだ末に、ガッツたち一行が到着した小さな街は、どこか不気味に沈黙していた。
月明かりが差し込む路地には、血痕らしき黒い染みが点々と続き、扉の破壊された民家が無数。ひろゆきは背筋を震わせながら、「えー、これって明らかに凶暴な何かが襲った跡ですよね……コスパ最悪じゃないですか、やめてもらっていいですか、そういうホラーな感じ」とぼやくが、ガッツはあえて答えずに剣を握りしめるだけ。

パックが空を飛んで偵察すると、「ガッツ、駄目だ……あっちで奇怪な姿の連中が群れてる。生き残った住民を捕まえて何かの儀式みたいなものを……」
さらに遠くからは断末魔の叫び。ひろゆきは思わず耳を塞ぎ「うわぁ、やめてもらっていいですか、それ……ほんとに時給換算とか考えても生き残れないっすよ」と震えるが、ガッツは低く呟く。「放っておけば、この街の人々は全滅だろう。俺は行く。邪魔するなら斬るだけだ」
ひろゆきは「そりゃそうかもですけど……なんでそんな命懸けなんです? 何かリターンあるんです?」と問うが、ガッツは一瞥するだけ。「黙ってついて来るなら勝手だが、危険を甘く見るなよ」

そうして彼らは街の中心へ。そこに待っていたのは、おぞましい“使徒”の眷属たちだった。人型をしているが顎や四肢が獣じみて伸び、血の臭いを撒き散らしながらにやりと笑う。
「ククク……物好きな人間が余計に来やがった」と、使徒らがガッツを包囲。斬り裂かれた住民の亡骸がそこらに転がり、惨劇の真っただ中だ。
ひろゆきは青ざめつつ後退。「いや、ほんとにヤバい……何でこんな地獄みたいな展開に巻き込まれてるの……?」
パックが「ほら、しゃがんでろ!」と彼を必死に引き下げる。使徒の一匹が舌のような触手をうねらせ、「これはまた上等な獲物だ。あの不自然な服装のやつ、いただこうか……」と狙いをつける。

しかし、その瞬間、ガッツが大剣をぶん回し斬撃を放つ。「お前の相手は……この俺だッ!」
閃光のように鋭い一撃が使徒の腕を切り飛ばし、どす黒い液が飛び散る。怒号を上げた別の使徒が背後から狙うが、ガッツは獣のような勘でそれを読み取り、剣を逆手に振りかざす。“グシャッ”という音と共に、敵が絶命して地に伏す。
続々と繰り出す眷属たちとの血飛沫舞う激戦。パックが空中から「ガッツ、後ろ! 右後ろ!」と叫び、ガッツが瞬時に反応。「ノイズが多いぜ……だが斬るしかねぇ!」と口を結んで切り裂く。
この殺戮めいた光景を目の当たりにしながら、ひろゆきは「マジかよ……こんな効率の悪い戦闘やめてほしい……」と頭を抱えるが、逃げることもできず、パックに引っ張られながら建物の陰に隠れるしかない。

やがて、ガッツが大剣を逆手に振って最後の使徒の胴を叩き落とすと、奇妙なうめき声を残して敵は消えるように崩れ落ちた。周囲には血と肉が散乱し、空気には硝煙と鉄臭さが漂う。
ひろゆきは呆然。「す、すごいですね……でもこれ、ほんとに時給換算に見合ってるんですか? ガッツさん、めっちゃ命懸けなのに何の得が……」
ガッツは荒い息をつきながら答えず、ただ遠くを見るような瞳で「……こうするしか道がないんだ」とだけ言う。パックが彼の肩に乗って、「まったく、ガッツも大変だよね。……君も、よく助かったね」とひろゆきへ声をかける。

その時、重厚な“ブランド”の刻印がガッツの首筋から血を滴らせる。まだ完全に禍は去っていない合図だ。しかし空は僅かに光を帯び始め、夜が明けつつある。
「とりあえず、この街の人を救えた。だがこの先もっと厄介な使徒が……」ガッツが辛そうに眉をひそめる。その様子を見たひろゆきは意外そうに首を振る。「また戦うんですか? こんな地獄みたいなの、ずっと続けるなんて……やめてもらっていいですか、って感じですけど」
ガッツは鋭い瞳で睨む。「わかったように言うな……俺がこの道を選んだのは俺の自由だ。お前は好きにしろ」
パックが苦笑し、「まぁね、ガッツは止まらないからね」とフォローする。ひろゆきは申し訳なさそうに「い、いや、僕はリスク高いし、時給換算も最悪なんで退散します……ホントお疲れさまです」と頭を下げる。

こうして夜が白み始めるころ、ガッツとパックはまた次の戦いへ足を進め、ひろゆきはそっと別方向へと離れる。血に塗れた道を歩く男と、ラフなパーカー姿で震える男の対比が、余りに異様だった。
「僕、戻れるなら現代のフランスに帰りたいんですけど……この世界、ヤバすぎでしょ……」ひろゆきは嫌そうに肩をすくめ、森の方へ足を運んでいく。目の前が揺らぎ、忽然と景色が歪むような感覚——ひょっとして異世界的な力か、あるいは夢だったのか——何が起きているか分からないが、彼はそのまま薄れゆく意識の中へ落ちていったようだ。


【エピローグ:現代のフランス】

パリの街、セーヌ川沿いのカフェ。
秋の冷たい風が川面を揺らし、石畳に落ちた枯れ葉を転がす。ひろゆきはグレーのパーカーのまま、クロックスを脱いでスニーカーに履き替え、テラス席で小さなコーヒーを前にぼんやり座っていた。

「ふう……なんか悪夢見てたのかな。血だらけの世界で、“使徒”とかいう化け物相手に超巨大な剣を振り回す男がいて……」<br> 彼はそう呟き、カップを軽く傾ける。コーヒーはまだぬるい温度だ。
「でもやたらリアルだったんだよな。時給換算的には最悪なのに、命を賭けて戦うとか……。あ、でもそれってあなたの感想、なのか……。あのガッツとかいう人が本当にいたのか、あるいは空想か……」

街行くパリ市民たちは、スマホ片手にあくせく歩くのが大半。ひろゆきはその姿を眺めつつ、「よくよく考えたら、ここだって色々大変だけど、あの戦国ファンタジーと比べりゃコスパいいかもしれない」と苦く笑った。

日は傾き、カフェの照明がゆるく灯っている。セーヌの流れは変わらず、夕日を反射して赤い帯を作っている。ひろゆきはクロックス(いつの間にまた履いていた)をパタリと揺らし、「ま、ほんと、今回の出来事が夢でも現実でも、僕にはもうあんまり関係ないか」と席を立つ。
「死ぬかと思ったし。……まぁ無事に戻れただけでラッキーだったんじゃないですかね」と独りで結論づけ、さも何事もなかったかのようにカフェの会計を済ませていく。カウンターで支払いのカードを受け取る店員が彼をじろりと見るが、特に質問はない。

青い夕闇が降り始めるころ、ひろゆきは川沿いを歩きながら、「結局、異世界というかベルセルク世界はコスパとか言ってる余裕ないほどヤバかった。でも、ガッツって男の強さと意志にはびっくりしたな……」と声に出して追想する。
「あの巨大な剣、やめてもらっていいですか?って感じなのに、あいつは絶対に放そうとしない。うん、まあ彼には彼の事情があるんだろうな、きっと……。うーん、自分には分かんないや」
わずかに目尻を緩めて呟き、やがてクロックスの足音をきゅうきゅうと鳴らして夜のパリの雑踏へと消えていく。
人混みの中で、彼の身なりに違和感を覚える者はいない。ここが現実世界の街で、魔物など出ない安全地帯なのだから。
彼はどこへ行くのか。それは誰にも分からない。けれど一つだけ確かなのは、ひろゆき本人が“ベルセルク”的な世界観に巻き込まれたことを——少しばかり面白かったと思っている節があるということだ。
「ま、なんだかんだで無事に帰れてよかったですよね。めちゃめちゃ怖かったけど……やっぱり現代フランスが一番コスパいいや」
最後にそうぼそりと笑う声だけが、秋のパリの夜風に乗って消えていった。

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