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ひろゆきとマルクスとの対話



登場人物
• ひろゆき(Hiroyuki)
現代のネット掲示板創始者。論理的思考と軽妙なツッコミが得意。
• カール・マルクス(Karl Marx)
19世紀ドイツ生まれの哲学者・経済学者。『共産党宣言』『資本論』などで知られる。

場面

場所はとあるオンライン番組の収録スタジオ。背景はバーチャルの街並みが映し出され、テーブルを挟んでひろゆきとマルクスが椅子に座っている。いつの間にかマルクスが現代にタイムスリップしてきたという設定。

対話

1. 出会いの挨拶

ひろゆき
「えー、本日は19世紀からタイムスリップしてきたと言われるカール・マルクスさんをお招きしています。マルクスさん、どうもこんにちは。いや、ほんとにマルクス本人なんですか?」

マルクス
「私自身も不思議で仕方ありませんが、確かに“資本論”を著したカール・マルクスだと名乗らせていただきます。現代の社会を少し眺めただけでも目まぐるしく変わっていて、驚きの連続ですね。」

2. 現代経済への雑感

ひろゆき
「さて、マルクスさんといえば、資本主義の矛盾を暴き出し、いずれ社会主義・共産主義へ移行すると主張したわけですよね。でも、現代を見ても、まあ社会主義国って一部は存在しますけど、世界のメインストリームは未だに資本主義。むしろ、IT企業が牽引するグローバル経済が進んじゃってる。
マルクスさんの理論って、今の経済にはあんまり当てはまらないんじゃないかと思うんですよね。どうです?」

マルクス
「私が問題視していたのは、資本家が労働者を搾取し、剰余価値を奪ってしまう資本主義の構造でした。とはいえ、現代でも巨大企業が労働者を酷使し、富の格差が拡大しているという事実を耳にしましたが?」

ひろゆき
「確かに、格差の拡大はあると思いますよ。でも“搾取”とか“革命”とか、そういう古典的な枠組みじゃ説明できない部分が多い。例えば現代の大企業はデータやアルゴリズムで莫大な利益を上げてる。労働者が工場でモノを作るより、AIやプラットフォームビジネスが中心になってるわけで。
しかも、ホワイトカラーやフリーランスで働く人も増えて、工場労働者みたいな明確な『プロレタリアート』って概念が曖昧になってるんですよ。」

3. マルクスの理論の限界?

マルクス
「私の理論は、あくまで19世紀の産業資本主義の分析から出発しています。生産手段を資本家が独占し、労働者はただ労働力を売るしかない立場に置かれる、と考えました。
しかし、あなたが言うようにITやサービス産業が台頭し、“所有”の概念すらクラウド化されている現代では、資本の形態も大きく変わったのでしょう。となると、私の時代の理論をそのまま適用するのは難しいかもしれません。」

ひろゆき
「そうですよね。それに、マルクス経済学って長いこと社会主義国が取り入れようとしたけど、結果的にうまくいかなかったケースも多いわけです。ソ連崩壊とか、いろいろあったし。
もちろん、マルクスが警鐘を鳴らした『格差問題』は今でも深刻ですけど、マルクス経済学そのものを現代に直接当てはめようとすると、まあ失敗するよね、というのが僕の率直な意見です。」

4. マルクスの反論

マルクス
「私の思想がそのまま社会主義国家の政策に転用されてしまい、硬直化した計画経済になった面は否めません。とはいえ、私が本当に訴えたかったのは『人間疎外』や『商品化』の問題です。人間が財やサービスの形で管理され、その働きや価値がただの取引対象に堕ちてしまう。
現代では、データや情報が商品化され、個人のプライバシーすら売り買いの対象になっていると聞きましたが、それこそ“新たな搾取”ではありませんか?」

ひろゆき
「まあ、データ経済とか個人情報の扱いは問題ですよね。でも、それを『労働者 vs 資本家』の構図で説明できるのかっていうと、かなり違う気がするんですよ。
労働時間よりも“知的資本”とか“無形資産”が重要になってるし、ソーシャルメディアで個人が影響力を持って収益を得たりもできる。だから『階級闘争』みたいな古典的図式に収まらないケースが多いんじゃないですかね。」

5. ひろゆきの厳しいツッコミ

ひろゆき
「そもそもマルクスさんが言った『革命』って、かなり血なまぐさいイメージだし、歴史上でも多くの犠牲が出た。現代の人々は“革命”よりも、緩やかに改善しながら豊かになるって方を志向してます。
よく言えば『リベラルな民主主義の枠内での社会改革』ってやつですよ。そういうやり方でも、それなりに生活は良くなってるし、人々も大規模な階級闘争を望まなくなってる。
これも“現代ではマルクス経済学はそのまま適用しにくい”理由だと思います。」

マルクス
「なるほど、あなたの意見はよくわかりました。確かに私の時代の急進的な変革論は、現代とは乖離があるかもしれません。ですが、格差や不平等が解消されないままテクノロジーだけが進歩すると、いずれ大きな社会的混乱が起こり得る。そこは注視しておくべきではないでしょうか?」

ひろゆき
「まあ、そこは同意ですね。僕も格差は放っておいていい問題じゃないと思ってます。ただ、だからといってマルクス経済学をそのまま今に持ってきても無理がある。むしろ現代向けにアップデートされた別の理論や方法論を考えたほうがいいんじゃないですかね。」

6. まとめと別れ

マルクス
「あなたの話を伺う限り、21世紀はまた別の複雑な資本主義社会だということがよくわかりました。私の理論がそのまま当てはまらないにせよ、何らかの形で役立つ要素があるのなら、それは嬉しく思います。」

ひろゆき
「うん、歴史的に大きなインパクトを与えた思想だったのは間違いないですからね。現代の問題を考える上でも“格差”や“労働の搾取”って視点を与えてくれた功績は大きいと思います。
でもまあ、時代に合わせて理論ってアップデートしないと意味がないんで。そこはぜひ未来から学んでもらえると助かります。」

最後にマルクスは微笑を湛えながら、現代のスタジオセットを見回すように目を動かす。遠くのLEDライトが照り返す真新しい機器やモニターを興味深そうに眺めていた。やがて、収録終了を示す合図が出され、番組は幕を下ろす。


エピローグ

夜のパリ。セーヌ川のほとりにあるカフェのテラス席で、ひろゆきは静かにエスプレッソをすすっていた。さきほどまでマルクスとの対話をしていたはずなのに、気がつけばいつものフランスの街並みの中に戻ってきている。周囲は観光客や地元の若者で賑わい、誰もがそれぞれの会話を楽しんでいる。あのスタジオも、あの重々しい雰囲気も、まるで幻だったかのようだ。

「ま、そんなこともあるよね」

ひろゆきは肩をすくめ、ふとポケットに手を入れる。指先に紙のような感触を覚えて取り出してみると、それは古びたドイツ語で印刷されたページの破片だった。擦り切れた活字には「Das Kapital」の文字。まさかと思い、慎重に紙片を広げると、ところどころ汚れや擦れはあるものの、19世紀の印刷と思しきインクの跡がかすかに読み取れた。

「うわ……資本論のページ、どうしてこんなとこに?」

まるで老朽化した図書館からちぎり取られたような一片。どこか鉄の匂いが混じっているような気さえする。それを眺めながら、ひろゆきは先ほどの対話を思い返す。マルクスが主張した「搾取」や「革命」、現代にはそぐわない理論の数々。それでもなお、データ搾取や格差問題に警鐘を鳴らした言葉が、どこか胸に引っかかる。

カフェの店員が「何かおかわりは?」と聞きに来るが、ひろゆきは首を振って断る。夜風が心地よく、彼の頭の中にはあの不思議な光景がぼんやり残っていた。

「結局、あれは夢だったのかな……。」

視線を街灯の下に泳がせると、石畳の路地を歩く人々の姿が現実感に満ちている。パリはやはり今も豊かな消費社会の中心。時空を超えた議論など存在しなかったかのようだ。しかし、手のひらの資本論の破片だけが、確かに異なる時代との接点があったことを物語っている。

紙切れをそっとたたんでポケットにしまう。ひろゆきはカフェの勘定を済ませると、スマートフォンを確認しながら立ち上がった。街角からはどこかのミュージシャンがアコーディオンを弾く音がかすかに聞こえる。パリの夜風に吹かれながら、彼は足早に歩き出し、まるで軽い夢からさめたばかりのように何度か深呼吸をした。

その胸中には、未だに何か割り切れない感覚が残っている。
そして、ポケットの中の一片の紙だけが—かつてのマルクスとの会話を、ひそかに証明するかのように—ささやかに存在感を主張していた。

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