詩集『数珠』
詩集『数珠』
山中一田
2025・4・18
丼舎
「因」
男と女はりっしんべんに生きる
「ニュートンの丸太乗り」
曲線の接線は何本でも引ける
「化合物」
何でもないことだ
と思う
僕たちの
罪
ボルトと
ナットで
無を
組み立てる
不満の
神が
並べる
嘘
あることないことの
中間に
何かが
生まれるはず
だから
らせんの
糸に
踊る
世界
笑えばいいのだ
「無知礼賛」
反世界はすべてを無にしてしまうのだ
反世界がないなら無もない
無は無なのである
人は母から生まれる
宇宙の種があるはずだ
神はモーセに言われた
「わたしはある。わたしはあるという者だ」
僕が死んでも無ではない
「天国があると想像してごらん」
三次元の世界に生きる人で無しである
「が」
たいやき
たべたい
やきたべ
たいやき
「反ロック的」
僕たちの生活は
お前の歌じゃない
楽天知命
仕事が終わったら
静かに死ぬのだ
「生ガキ」
養殖の
生ガキ
つるんと
しょうゆ顔
うわさの
丸飲み
ふにゃりと
青臭い
フライに
してみりゃ
千切り
キャベツ
天然の
化けの皮
ころんと
成仏
「げっぷ」
Yeahだ
恥ずかしい
言葉を
吐く
豚は
ケンタッキーの
骨を
しゃぶって
馬鹿と
転がる
共食いの
街
肉は
毒だ
頭を
振りながら
獣は
売る
ミュージック
お前の
金が
世界を
救う
Yeahだ
「三種の神器」
ソロモンの石
叶結び
フェルマーの剣
「ら行」
らりるれろ
寝禅
+と-
しかばねのポーズ
答えは無
ステレオの
LとR
ヘッドフォン的証明
左と右
違いが分かる
男と女
黄色い声で
日本語
ブラックとホワイト
頭の中心
マンダラ図
凸と凹
合体
〇と✕
真言を唱える
らりるれろ
「別の者」
三途の川
皆で渡れば恐くない
月の砂漠を
ラクダの行列
井戸の底
一人で空を見上げる
針の穴に
クモの糸
「専ら」
詩人たる者
専ら
行に
打ち込むべし
「蛙」
中古のコミューン
東西南北
知足の隠れ家
四位一体
重力場
食卓のマリア
体と血
蛇の目に涙
処女受胎
主はキリスト
万物理論
聖霊と子と
父と母の
十字架
僕は王様
世界の箱
神にハレルヤ
「球充填」
接触数
12個の
組み立て
正24辺体と
正25辺体
体積は
等しいが
表面積が
異なる
ケプラーの
予想に
反して
正25辺体が
最密
「特許」
神の
計らい
選ばれし者に
許しの
秘跡
汝は
聖なる石
十字架の
救い
キリスト
世の
光
我を
照らしたまえ
「サヴァンの福音」
始めに素数あり
加減乗除
すべては満ちた
「知足道」
鳥と寝禅
魚と散歩
王の点心
人に作法
空海と十文字
「ら抜き」
冬の木
トランプが
一枚
箱の中
ジョーカーは
双子
言の葉
「中心」
惑星の
太陽系
すべてを
丸く
収める
万有引力
エルサレム
聖なる都
神は
十二支の
息子を
集める
「帰り道」
西向きの
魚屋で
心臓を買う
死んだ父と
羊水の匂い
動き出す
気持ちだけ
急いで
日が沈む
母に移植と
袋の鼠
「玉串」
仏壇に向かい
香を焚き
四連の
みたらし団子
鈴を打て
三本
百円
手を合わせ
賞味期限を
守りなさい
「七夕」
世界が平らになりますように ら族
「今一つ」
飲み込めない
大豆の小粒
モーツァルトの死に方
健康ブームという
気になる病
用は長持ち
乗り回しの
限定車で
凡人の買い物
オムニバスは安い
ひきわりながら
円周率
糸を引く
ロバの耳に
植物性
鼻から牛乳
「へっちゃら」
ほら
またね
ぐーたら
お腹の
ニート
笑う
おならの
プーさん
らっぱ
吹き
「逆様」
教科書は
信じるな
世の中を
引っ繰り返して
グレンと
予言のように
決まっていること
常識は
逆様に
落ちて行く
「器」
シャボン玉
今日を
忘れて
ユーレカ
僕の
器と
湯上がりに
飲む
ビールの
重さ
浮かぬ顔
明日も
風に
ぶらぶらと
アルキメデス
「うんこ教」
この世はふんころがしの定めだ
「墓」
平らに
埋め立て
地球は
青い
海になる
「プネウマ」
炭酸
カロリーゼロ
百円
夕焼け
ギンギラギン
一日
自動販売機
のど仏
アーメン
「合同」
正四面体十個と正四角錐五個
正五角柱一個と正五角錐二個
「緑」
金魚は
水草を食べてしまう
白いえさは
水を汚さないが
僕は
尿酸値が高いので
肉と魚をやめた
炭水化物と
野菜が
中心だ
白い雪は
空気を汚さないが
人間は
森林を食べてしまう
「合いの手」
草野球の
ホームヘルパーになりたい
隠し玉の
あることないこと
どうでもいいのだ
ほうきで掃いて
曲がったら直すのが仕事
審判はいないのだから
ルールは簡単
楽しむだけだ
「大切」
まだ終わらない
ぐつぐつと
思う矢先の
毒舌が
母を殺していた
いつまでも
あると思うな
親と金
すでに僕は後悔し
始めているのだ
分かったつもりで
消化できないものは
無理をするな
吐き出せば
それでいいのだ
初めちょろちょろ
中ぱっぱ
終わり良ければ
すべてよし
炊けたかご飯
まずもって
母は仏様を拝むのだ
「献身」
真夜中に
眠っていた
腹の虫が
起き出して
トムヤムラーメンの
ポーク味
僕は今
玉子を割って
落ちた
もやもやを
煮ている
「正多角形」
らせんの比率において成り立つ
「金本位」
買い集めたら
本が
邪魔になるのだ
はたまたと
めくって
見たところで
またはたと
売り払ったら
金が
無駄になるのだ
「人動説」
変てこりんな
科学の
論文を
書いている
この僕も
常識ぱずれの
笑い物らしく
「すべての天体は円運動である」と
最大多数に
地べたで
イエスの
真面目な
話が
本当に
救いようのない
馬鹿なのだ
「求」
サロンとアカデミズムへの反
「錬金術」
僕たちは
山の中で
釣り合わない
魚屋だ
海は
自由だ
彼らが泳いで行く場所だ
介護福祉士の
勉強をしながら
母と暮らすのだ
世界のことには
関係を持たず
売れる物さえ
何もないし
この国に捨てられた要の石は
たぶん誰かの
金になるのだ
僕たちは
山の中で
取り合わない
鳥屋だ
空は
自由だ
彼らが飛んで行く場所だ
「PASS」
大きな冬の底で彼は静かに外を見上げる
空が白く落ち着くと窓は遠い夢を映した
S氏の教室では詩の風景についての対立があった
海辺のからっぽの乳母車だ
描写派と空想派
一番前の女の子はあくびをした
(彼らはオリに閉じ込められているのだ)
間の抜けた修行に彼は0点の溜息をつく
両ひじで重い頭を支えて胸の奥に沈めた
変化の中で首を横に振る
彼は現実を認めていないのかも知れない
僕たちの昨日
そして彼は僕を知らない
最後のベルが鳴ると
たちまち動物園は野生の王国になる
S氏は探検隊のテントに帰るのだ
「恐竜たちは、放課後、何をして過ごすのか?
なかよしクラブは街へ出かける
一人ぼっちが彼らの共通語らしい」
僕は思う
たぶんあれは心中だったのじゃないかと
「かくれんぼ」
どこ吹く風とウォシュレットに座って
「寝ずの番」
僕と
生きて
あなたの
ために
いびき
それでいい
眠る人
まだ
死んでは
いけない
「病だれ」
大雨の
池袋から
マンホールを
水道橋で
死体だ
数々の
無理も
承知で
なかなか
口には
出てこない
「お母さん」
昼間の
サイレンと
ドタバタに
実は
記憶もない
意識障害だ
「死ぬかと思った」
残雪の
固まりを
スコップで
側溝に
今年も
春が
流れる
山中だ
「線分」
フィボナッチの黄金数は正5角形の黄金比ではない
「直角」
言ったら
殺す
いったい
何を
そんな
ドラマも
あったが
墓まで
持っていく
物
金でもない
沈黙の
価値を
聞くのも
無駄か?
答えもない
僕は
斜めに
溜息を
一つ
意味もない
「通り雨」
くもりガラスにはれぼったい顔
彼女は家から出られない
(きのこの食べすぎ)
大通りはおうど色
どぶ犬が通る
博物館行きのバスが止まった
丸い頭のおばあさんは四角い箱の中
水玉模様の空に水たまりブランコ
ソバカスの子どもがどろんこ遊び
噴水ベンチは死んだ足
動物園から水族館へ
彼はブーメランを持っている
魚の目の少女は人魚姫
(魚の食べすぎ)
大通りはおうど色
どぶ犬が通る
博物館行きのバスが止まった
「π理論」
街では
笑い物が
車検切れだ
「E=2mπ´」と
スティッカーを
貼った
僕の
軽四ミラも
廃車になれば
お払い箱で
ノアは
「S≒T⁵」の
地に
足をつけたが
十分の一と
その場を
丸く
収めるのも
馬鹿には
出来ないのだ
「第五公準」
今年の
冬は
庭の
雪囲いを
止めた
「すべての曲線は円運動である」
西から
昇って
東へ
沈む
いつからか
人間中心に
なっていて
ガリレオの
おかげで
誰も
幸せになれないし
微熱の
景色を
心配して
いたが
お天道様が
見ているぞ
東から
昇って
西へ
沈む
やっぱり
自然の
力だ
「直線運動すなわち等速である」
舌を出して
アインシュタインが
ねじ曲げる
この空間に
光は
清く
正しく
美しく
真っ直ぐにだ
「逆フェルマーの定理」
Xⁿ+Yⁿ=Zⁿが
XYZ≠0なる有理数解
X、Y、Zを持つのは
n<3のときである
「XYZ」
僕たちの
「S」
相対的だ
神の
「T」
絶対的だ
「辞世の句」
天国があると想像してごらん
「玉子の日」
部屋を片付ける前に
ちょこっと
散歩でも行って来る
「窓枠の母子像」
八月の東北
母が
死ぬ前に
僕は
詩を書くのを
止める
十二月の七夕
木の上に
最後の
赤い葉を
一枚
ぶら下げて
あのルオーのようにだ
四月の山中
家の外に
青い春の
空と
がい骨が
見える
「あの家のこと」
昔々
あるところに
お爺さんと
お婆さんと
お父さんと
お母さんと
息子と
娘が
住んでいました
そして
いつの間にか
息子と
娘は
お爺さんと
お婆さんに
なりました
「アウグスチヌスの定理」
無限級数の和に答えはない
「果」
僕は自らに心の子だ
「正25辺体置物」
中心軸の右にマグネット球1個
周囲にマグネット球5個の輪
中心軸の中間にマグネット球1個
周囲にマグネット球5個の輪
中心軸の左にマグネット球1個
「万能地図」
四色問題を解く点と線
n国ともう1つの国
円のn分割は入れ替えの3色以下
3色以下ともう1つの色
四色問題を解く円と外
「アルキメデスの水」
「りんごは落ちるが水に浮く」
H₂O=1t/m³
質量Mの物体は真空の重力Gによって自由落下する
質量Mの物体は真空の引力Gによって引き寄せ合う
F=MG=M・1
曲線はすべて円運動である
F=MA=M・2π´=M・2π/R
直線は等加速度運動である。
F=MA=M・2π/2π=M・1=MG
M(±0+1)=M・1=MG
「水の蒸発するエネルギーに等しい」
「c³」
なぜにc³ではないのかと考えた
真空は質量のない光の速さと加速度の逆で同じ絶対値である
mを球体とすると4π/3を含む
mc³
c³倍になる
微分すると球体mの表面積がc²の加速度で収縮と膨張をする
中心と外部の真空
質量mの加速度c²のエネルギーである
∴
E=mc²
やっぱりc²であるのだと考えた
cf.
mcを微分するとm・1=mである
詩集『数珠』
山中一田
2025・4・18
丼舎