ワープロ協奏曲
ワープロ協奏曲
『どうかお許し下さい』
山中 哲
1、詩集「僕たちの食卓で」
2、詩集「アルミニウムの壺」
3、詩集「ドンキホーテのハムエッグ」
凸
1994~1997
新しい本で顔を洗う
詩集「僕たちの食卓で」
「場所」
すべては重力なのだ
コイン仕掛けの果実の森で
信じられないくらい真っ赤な嘘が
苦しそうに理由を探していた
日溜まりのベンチでビールを飲みながら
地上の退屈に沈殿してみると
僕には場所がない
甘酸っぱいデザートのように
やがては夜の胃袋の底で
悲しく消化されてしまうだけなのだろうか?
この街が嫌いだ
賑やかなマーケットで
心配性のイヴのために落花生を買った
テレビのニュースでは
ちょっと孤独なドーナツらしいけれど
彼女の目は青い空だから
ときどき悪戯っぽく笑うのが悩みの種だ
自転車が無口に風を食べている
ポッカリと浮かんだ不思議な気持ちは
都会の影の中で
もっと優しくなれるはずなのだ
「目薬」
景色はとてもリアルに黄昏てしまった
僕と彼女のありふれた化学反応が始まる
玉子の特売日だから
オムレツをトマトケチャップなのだ
牛のオッパイがクラシックで良く育つらしいけれど
タマネギはすごく泣ける
パンと豆腐も買った
夕食のビニール袋をぶら下げて
本屋の角を曲がると
雨が目薬のようにポツリと落ちてきた
コーヒーが飲みたくて
ちょっとだけ急ぎながら
俗物にはスパイスが必要だと彼女は笑う
なぜか好きになれない魚のことを考えているうちに
街は薄暗い水族館だった
冷蔵庫にハムが残っていたはずだし
仕上げは焼きプリンにするつもりだ
心の温度と趣味の問題なのだろうか?
アパートの粘着質がコッソリと
ガラクタな気持ちを閉じ込めている
料理が苦手の僕も
今夜は大きなゴキブリになるのだ
「中心」
青臭いキャベツのような洗濯物は
相変わらず不器用にガタゴトと回転している
故障した目覚まし時計のおかげで
脳のフタもちょっと開いたままのアクビだ
コーヒーメーカーの底になんとなく
現実的な液体が落ち着いてしまったので
脱水されたフィルターをゴミ箱に捨てて
休日にカップ一杯を注ぎ込むのだ
ステレオのボリュームを上げると
音楽の持っている引力は
奇妙なリズムとバランスで
すごく切ないラブソングを歌っていた
こんな天気で大丈夫なのかなと思う
突然にどしゃ降りの雨がやってくることはないのだろうか?
太陽はいつも優しく見守っていてくれるけれど
たぶん息苦しいブザーが鳴り始めるはずだし
夢見る頃をとっくに過ぎていて
もう僕の中心は空っぽなのだ
円形脱毛症の地球にはふさぎの虫が住んでいる
「仮定法」
僕は負け犬なんかとは違うのだ
彼女も本当の事を知らない
人の目を気にしながら
静かな生活のつもりだ
ときどきはジャズのアドリブのように
歯が浮くようなせりふを吐き出している
いつもそれは無意味な質問なのだ
血液検査ではコレステロールが多いらしくて
この小さな自由の中に閉じ込められているのは
たぶん仮定法だったと思う
もっとシンプルに答えてもいいはずだ
金魚のパラダイスについては
後の祭りだけれど
もしかしたら運命の巡り合わせが
退屈なテレビドラマを作っていたのだろうか?
まだ口をパクパク開けて
孤独な呼吸をしている
もうこれ以上嘘を続けるのはやめるのだ
見飽きた風景画がぶら下がる部屋の片隅で
楽しそうな材料を具体的に考え始めた
実は丈夫でバネのある足が欲しいのだ
とにかくまず買物に行かなくてはと決めた
今夜のカレーライスのためと
ついでに安い赤ワインも探して来るのだ
ブラウン管の馬鹿げた空想のおかげで
肝臓病のアリはすごく疲れてしまった
早く着替えてスイッチを消したら
ごく自然な感じで
彼女に電話をするのだ
ドアの向こう側の僕は
散歩の尻尾を振っていた
「ネバーランド」
ホコリっぽく汚れた部屋の床を
掃除機が騒々しく吸い続けている
こんなにポカポカのお昼は
もっとデリケートにと考えたのだけれど
南の島で一人ぼっちだった僕は
どこか間の抜けた炭酸になってしまったのだ
窓を思いっ切り開けて
気分転換を始めると
飲み込めない欲求不満たちや
下らないストレスと
中途半端なゴミくずなんかも
どんどん異次元へ消えていくようなのだ
宇宙ロケットのエネルギーが
無意識のブラックホールを通過して
スピーカーを激しく振動させている
面倒臭い廃棄物がいっぱいの
イライラする文明らしきものは
ごくあっさりと整理されて
窮屈だった四角い世界も
ちょっとだけ丸く感じられるのだ
骨の折れるバイトではないはずなのに
架空の街で忙しく生活しながら
ネバーランドの夢を忘れてしまった彼女には
もっと静かな幸福を準備してあげたい
神経質に求めすぎるのも
あまり趣味ではないから
今日のゲームはこのくらいにしておいて
健康のために
愛と平和のミックスジュースで乾杯だ
「故障」
どうしようもないくらいの故障を
歯医者は麻酔を使って
イチゴの芯のように抜いてしまった
しばらくボーとした感覚のまま
鎮痛剤を飲んだ僕は
血が止まらないのでガーゼを噛んでいる
空もどんよりと陰鬱そうだ
茶飯事はいつも常套句のはずだったのに
口の中が不自然なのは
予定外のトラブルと
混乱したメッセージのせいなのだ
昨日はテレビで地震を見ていた
これは何かの反則だったのじゃないかと思う
いわゆる派手なパジャマの彼女も
取っておきの黄色い声で
ラグビーのルールが解ってはいない
料理の本を読みながら
ダイエットを考えるべきなのだ
やっとの気持ちでたどり着くと
コタツに足を突っ込んで
七味唐がらしたっぷりの
鍋焼きうどんをズルズルと食べていた
二つの人生を作ることが出来るのも
幸せではないのだろうか?
少し太ったみたいだけれど
今でも僕の半分はきっと彼女なのだ
「夢」
田舎の街では郊外に温泉があるから
ドライブしながらのんびりするのも楽しい
晴れて寒い午後に二人で出かけた
ザブンと浸かったお湯の中で
太めのクジラが呼吸するように
下手な鼻歌などを口ずさんでいるのは
ものすごく散文的だと僕は思う
とにかくこんな退屈さが好きなのだろうか?
助手席で彼女がタヌキ寝入りをしていたのも
使い古されて薄っぺらな
リズムのせいだったのかもしれない
鏡の向こう側に霞んでいるのは
睡眠不足ぎみの疲れた顔だった
誰でもみんな夢を見るのにも忙しくて
その意味さえ探すのに苦労しているらしいのだ
シャワーで髪を洗っていると
分厚いとんかつとチョコレートパフェが食べたくなった
どうせ金持ちになんてなれそうにもないし
売れない詩を書いている僕の心は
もうこれ以上の孤独を感じられないほど
いつも遠くイーハトーブに住んでいるのだ
ふと気がつくとなぜかボンヤリと
壊れた体重計に突っ立っていた
ずっとこのまま哲学者でいて欲しいのに
彼女が東京へ行ってしまうのは
本当にちょっとショックだった
不器用な性格と子供っぽいところは僕と同じだけれど
たぶん大丈夫なのだ
ソファーに座ったホカホカの彼女は
静かな目でウーロン茶を飲んでいた
「展開」
また一人ぼっちになってしまったので
僕はいつも言い訳ばかりしている
仕事をサボって青い空を見上げながら
これはきっと展開なのだと考えていた
誰かがブランコに乗って
振り子のように宇宙を感じていないと
公園の木もじっと口を閉じたままだから
風はときどき思い出したように笑う
僕が夢中で組み立てていたのも
重力たちの装置なのだ
特にこれといった問題はないはずだったのに
緑と大切にしていたものを取り囲んで
街はどんどん欲望を肥満させている
やがて文明がこの世界の全部を
食べ尽くしてしまうのではないだろうか?
苦しそうな悲鳴を聞いていた気がして
僕も生きていかなくてはと思った
おかず屋で買ったコロッケをかじって
自由について哲学してみるのも
最近のちょっとした退屈のおかげだった
胃薬が痛みを軽くしてくれるし
きっと良い方向へと
あなたは僕を変えているらしいのだ
「雪」
クリスマスの夜に
しんしんと降り積もっていた雪が
僕の薄汚れた心のように
まだ少しうずくまっているけれど
冬だった気持ちが消えて
ホコリっぽいこの街は
もうすぐ空っぽになるのだ
新しい場所へと
生活も移動を始めている
彼女が結婚するらしいので
不器用な僕は
太平洋を見に出かけるつもりなのだ
コーヒーを飲みながら
真面目な顔で
恋愛が反社会的なものだと哲学者は言う
何だかんだと
チーズケーキをつっついて
窮屈な話も
聞いているうちに
世界は二人のためにだけじゃないことに落ち着いた
きっと僕たちの罪なのだと思う
懐かしい土地を捨てて
詩という静かな仕事を探しているのは
とっても運命だったはずだ
窓ガラスの向こう側の
騒々しいコンクリートで
日差しが明るく揺れている
やっぱり自由は眩しくて
しばらく視線を閉じたまま
僕は彼女と優しさの影を感じていたかったのだ
「主人公」
石けんの匂いがするジーンズや
無花果の葉っぱみたいなミニスカートが
街をざっくばらんに歩いている
スラリと伸びた元気な足だ
アイスクリームを舐めながら
電車の駅で待ち合わせている僕は
どこかで道草をするのも
彼のデザインのはずだと
夢の底のモレグオという怪物について
役立たずの分析を始めていた
たとえば空地に色っぽく
季節はずれのタンポポが咲いていて
「T H E END OF THE WORLD」を
歌っているのじゃないだろうか?
甘ったるい記憶がどろどろと溶けてくる
こんなに便利な時代なのに
ロマンチックを考えていたおかげで
たまらなくビタミンCも欲しくなる僕は
食べ残したポテトサラダを思い出して
「ネコ踏んじゃった」の感じなのだ
昔の話をするたびに誰かが
主人公になってしまうのは嫌だった
たぶん納豆と味噌汁が
生活のエネルギーらしいから
疲れた肌の中年男が僕を見つけて
懐かしい笑顔に変わってしまうまで
ときどき彼によく似た魚たちを
料理していることにも
自信なんてなかったのだ
「空気」
ビルの屋上から街を観察していると
コンクリートの隙間では
せかせかと忙しそうに
奇妙な虫たちが逃げ回っていた
僕はのんびり暮らしたいし
暑い風の染み込んだ体も
午後の日向ぼっこのせいだった
もっとリラックスして
自由落下を楽しめばいいのにと
エレベーターに乗って
ゆっくりと現実の底に沈んでいくのだ
クーラーの効いた喫茶店で
平和な呼吸をしながら
栄養分を浸透させるのは
ガラスの中の植物に似ている
静かな光合成を求めることで
哲学者はきっと
老人になってしまうけれど
計算高い生き方も
すべては水の泡なのだ
やっぱり空気のようなものだからだと思う
窓辺の丸いテーブルに座って
メニューを開いたまま
おすすめのサービスセットを注文した
言葉で考えているだけでは
マリアを証明する感覚も
僕に理解できるはずがなかったのだ
「青空」
図書館で本を借りた帰りに
ふと思い出した彼女の話は
ピクニックの計画だった
ヒマつぶしと宙ぶらりんの哲学などを
背中のリュックに詰め込んだまま
僕は適当な材料を探しているのだ
青空の下の草原なら気分はいいけれど
ワニのようにテレビを見ながら
狭苦しい部屋でごろごろしているのが趣味だった
人生なんて清く正しく美しくもないし
ジャングルには雨が降るのだ
葉緑素入りのガムを噛むのに飽きて
牛乳の紙パックがぶらぶら揺れているのも
たっぷりと買物をしてしまったからだ
夢はどこで売っているのだろう?
振り返った夕焼けの景色に
ざわめく街はごちゃごちゃと
新鮮な肉と野菜がいっぱいだから
今夜のバーベキューも楽しそうなのだ
スイッチをひねってみると
やっと組み立てた重力の装置が
僕たちの食卓でも
ブツクサとうめき声を上げている
明日はきっと大丈夫だと笑って欲しいのだ
(1994~1955年作品)
詩集「アルミニウムの壺」
「ラブソングの食べ方」
ありふれた言葉が
僕の生活だ
コマーシャルのように
味の素も
ちゃんと
ふりかけているけれど
昨日は
ぐにゃぐにゃと
コンビニの弁当だった
哲学が多すぎて
骨のない皮肉たちを
コピーしながら
閉じ込めている
不思議な気持ちは
たぶん
古ぼけた
この街で
腐ってしまうだけらしいのだ
ドッキンドッキンの
自然が欲しくなって
単調なリズムと
退屈なメロディーを
吐き出した
ラブソングの食べ方を
変えることも
カラオケだから
キリタンポの夜には
彼女と
夢中で
むしゃぶりつくのだ
「連鎖」
アルミニウムの壺はマーケットの天敵なのだ
「アルミニウムの壺」
街角は
サボテンの場所だけれど
人込みの中で
乾いた花が
グズグズと
青い海を吸っていた
バニラの匂いの
炭酸は
ちょっと上の空に
白い雲が
ポッカリと浮かんだ
南の島の
気まぐれな
風を呼んでいる
どこか遠くて
たどり着けそうにもないのだ
僕は
茶色い
月の砂漠に
井戸を掘った
彼女と
座っていると
アルミニウムの壺は
ごった煮の
スープのように
ドラマ仕立ての
おいしい話で
いっぱいになるから
やっぱり
ゲップが出てしまうのだ
「PAUSE」
僕はアスファルトの上の一円玉を拾った
「カラスが集まって」
森の中の
リゾート村は
とても
楽しい
ログハウスで
朝食も
ミネラルと
ビタミンがたっぷりだ
牛乳を
ごくごくと
飲み干して
玄米パンに
サラダと
ヨーグルトだった
駐車場に
カラスが集まって
ゴミを
あちこちと
散らかしている
テレビの
天気予報も
晴れだった
便秘は
解消したし
サイクリングの
気分なので
風に
誘われるように
口笛を
吹くのだ
マルコ・ポーロが
シルクロードの
オアシスで
出会った
顔たちは
いろいろだったはずだ
インフルエンザの
ウイルスが
砂漠を超えて
文明を
熱っぽくさせたのだ
体操をしながら
思いっ切り
深呼吸をすると
下らない
欲望が
空気の力で
溶けてしまった
歯が立たない
せんべいに
かじりついている
僕たちについて
ちょっと
ヘボだけれど
詩を
書いているのだ
ハトが
広場で
クックッと
笑っている
今年の
夏は
暑かった
「偶然」
僕たちは自由だった
「ケチャップ」
いつも
ハンバーガーだった頃
僕は
無神経な
風景を
栄養にして
フイルムのように
反応していたけれど
コンクリートに咲く
彼女の
仕草が
たまらなく
天ぷらそばの
唐がらしだったので
はみ出した
ケチャップで
顔も
真っ赤に
キスしてしまった
今夜は
大切な
福神漬なのだ
「ABSTRACT」
完成した彼女はドアのない鏡だった
「チョコレートの箱」
ミュージシャンに
憧れた
ひねくれ者の
小さな男が
タバコをやめた
風のうわさでは
ハーブの
キャンディーと
歌の
レッスンを
続けているらしい
自信があるけれど
彼は
才能の
かけらも
持っていないのだ
石油ストーブに
置いた
丸い
やかんが
空っぽなので
僕は
水で
いっぱいにした
湿っぽい
グチを
捨てるように
ギターを
弾きながら
不器用な
フレーズで
錆びた声が
泣いているだけだった
バレンタインデーに
彼女が
プレゼントした
チョコレートの箱は
本当の
宝物なのだ
四角い
部屋の中で
低脂肪に
気を使って
ダンスを
始めるつもりかもしれない
お茶を
ポットに入れて
僕は
リラックスの
気分を
待っていた
彼女が
夢を
諦めないでと
彼に
言ってしまったからだ
ホルモンの
分泌を
活発にする
三角の
関係が
どんどんと
噴き出して
面倒臭い
話は
後回しに
羊かんを切るのだ
高すぎる
理想を
追いかけたから
彼は
いつも
若くて
傷つきやすかった
緑色の
香りで
夕暮れの
窓が
曇ってきた
もう
僕たちは
忘れてしまったのだ
「THANK YOU FOR THE RAIN」
コンサートの夜に僕たちは泣いたのだ
「僕たちの広告」
忙しさに
負けてしまったので
街はずれの
喫茶店で
彼女と
水の研究を始めた
ボンヤリと
窓の外を
眺めていると
向こう側は
違っていて
まだ
戦争は終わらないのだ
光合成の
場所は
透明な壁に
囲まれていた
葉っぱのような
会話と
ホメオスタシスは
僕の
植物を
成長させるのだ
ヒマつぶしの
メニューについて
何か
文句があるらしいけれど
これが
僕たちの広告だ
「RADIO」
沸騰したニュースの鍋が大変だ
「恋をする元気がなくて」
気持ちの
良い関係を
続けていると
プラチナの指輪が
欲しくなるらしい
反射的に
OKだったけれど
コンニャク畑のような
状態の
僕は
恋をする元気がなくて
ちょっと困っている
屈折した
愛を
確かめていた
寒い土曜日に
戻ってしまいたいのだ
キスの後の
深呼吸をしながら
捨てた夢も
生きることだったと思う
彼女の
希望を
消化してしまうためには
もうこれ以上
愛せないくらいの
底のない胃袋が
必要なのだ
「REALLY?」
彼女は赤ちゃんが欲しいのだ
「ヨナの気持ち」
突然に
腰が
ギクシャクして
レントゲン検査をしたら
僕の骨は
魚のようなものだった
透明な
テーブルに写った
影の形で
リハビリの生活が始まった
痛みは
消えてきたけれど
原因が
なかなかに
直ってくれないのだ
缶詰のサンマも
わりと
好きだし
手術が嫌なので
まだ続けている
カルシウムの
彫刻が
運動不足の
僕の
仕事になった
人間は
歩かないと
退化してしまうらしいのだ
「PERMUTATION」
3・6・1・10・7・8・2・5・9・4
「約束」
遠い
空に
夕陽が
浮かんでいるけれど
海は
洗剤のような
泡を
噛み砕くし
風が
強くて
僕たちの
関係は
消えてしまうのだ
カレーライスを
食べながら
僕は
ミツバチと
殿様バッタの
教訓を
プレゼントした
彼女も
シングルの
価値について
考えているらしくて
不安定だった
賢い
消費者になって
豊かな
地球を
守るつもりなのだ
閉じこもった
僕が
電話していた頃の
大切な
約束を
思い出した
生物学的思考が
必要だし
真実は
一つではない
多様性なのだ
もう
彼女と
会わないことは
嘘と
紙一重だった
壊れた
プログラムが
奇跡の
変異は
過去形のままで
憂鬱な
神話を
作っている
飲み込めない
やきもちが
二人だけの
結果を
どろどろと
蒸発させていたのだ
「n!」
彼女も椅子取りゲームが嫌いだ
「僕たちの凸凹」
彼と
あなたの
理由のために
二人とも
別れることに決めた
打算的な
性格だから
僕たちは
もっと
サイズに合った生き方を
見つけたいのだ
モーツァルトの
素朴さと
穏やかな抒情性が
彼女は
好きなのだけれど
僕は
音痴な詩人を
気取っているだけだった
丘の上に
住んでいた
アルゴン王子が
ボーキサイトを
掘り出しながら
穴の底で
死んでしまったのは
本当らしい
僕たちの凸凹も
哲学ではないのだ
「うぐいす餅」
口の中がくすぐったい
「単純だけれど」
春が来た
ピカピカの
靴を履いて
彼女は
彼と
東京に
行くつもりだ
焼きイモ屋の
車を
追い越した
僕は
ホコリっぽい街の
スタイルで
単純だけれど
走っている
服のセンスも
悪いから
田舎が
好きな
あなたは
会うと
いつも
優しく
笑うのだ
心の
デザインは
卵のように
まだ知らない
自分自身を
表現する
もっと
ボリュームのある
愛が
欲しかったのだ
僕たちは
実験を
始めた
小さな
鍋で
シチューを
かき回して
ロックを
聴いている
複雑な
人間は
苦手だし
叫びと
退屈が
溶け出してしまったのだ
デパートの
屋上まで
昇ってみると
ビルの
回路が
並んでいて
ステレオ装置の
都会を
組み立てている
音楽は
世界を
丸くするのだ
自然を
機械的に
忘れていた
僕は
書くための
ギターを買った
「訂正」
僕はAFTERをBEFOREに変換したいのだ
「PASS」
ルームメートを
探していた
彼女は
日常の
変換と
組合せについて
簡単な
パズルを
作っている
清く
正しく
美しく
人生が
平和だったならと
思うけれど
水道水の中で
殺菌された
金魚は
窒息してしまうのだ
黒ビールを
飲みながら
テレビを
見ていると
アルコールの
言葉と
現実が
ごちゃ混ぜに
なったらしくて
ソファーに
沈殿する
僕は
ナンセンスな
呼吸を
繰り返していた
彼女の
電話は
朝の
太陽のようだった
夜は
静かに
ワープロの
指と
エアコンの
音の
室内楽が
流れ始めている
新しい
アパートは
快適で
プライバシーにも
干渉しない
主義だから
二人の
カギが
必要なのだ
詩は順列だ
彼女の
好きな
白ワインは
ちょっと
不思議な
味がする
僕は
ときどき
笑いたくなるのだ
「X」
2・9・4・10・3・7・6・1・5・8
「発見が弱くて」
山の
てっぺんの
ホテルで
サービスランチを
食べていた
ギラギラと
眩しい
夏休みに
青い空の
お墓参りだった
スキー場と
温泉の
小さな町は
僕の
原点らしいのだ
ガラスの
景色が見える
レストランは
クーラーも効いていて
半ズボンが
涼しかった
黄色のTシャツで
僕は
迷子のように
落ち着かない
発見が弱くて
放浪する
魂は
大人になれないからだ
りんごの
ジュースが
おいしくて
甘酸っぱい
場所を
思い出したのも
理屈ではなかった
都会は
はっきりと
意志を
持っているけれど
僕には
ちょっと変なのだ
バスに
乗って
田舎を
歩いている
薄っぺらな
心の
主人公を
きっと
あなたは
見つけてくれるはずだ
「YOU ARE MY SUNSHINE」
たった一つの懐かしい僕の子守歌なのだ
(1996年作品)
詩集「ドンキホーテのハムエッグ」
Hに捧げる
「前略」
お天気ですか?
「二酸化炭素」
錆びた
森を
吐き出す
暑い
血液の
球体
「梅干し」
位置について
考えながら
形而上学の
亀
ルーズな
コンドームで
歩き出す
ガラスの
箱に
座って
茶化した
ウサギ
酸性の
空を
見つめる
用意はいい
長生きが
一番
「スパイス」
昼休みは
ベンチで
ビールが
飲みたい
新聞紙のように
毎日の
堆積
地層を
ひっくり返して
天然ガスが
出る
ケンタッキーで
おじいさんに
犬の
おしっこ
陳腐だけれど
スパイスの
骨を
しゃぶった
「がんばって下さい」
「夕立」
アルミニウムに
呟く
細胞の
上昇
弾けた
街を
ポツンと
泳ぐ
「蒸発」
亀に
親切な
インチキおじさんが
会社を
辞めて
沸騰している
「さらし首」
体がない
「4枚目」
広場で
日向ぼっち
黄昏の
マリアを
待ちながら
博士も
三人
コンクリートな
午後
クローバーの
街を
探した
「アウグスチヌス」
ノーモアの
森
噴水に
チャイムが
届く
羊たちは
帰るけれど
飲み込みそうな
ガム
天使を
ポケットに
切り抜いて
ハトが
転んだ
教えて欲しい
植物の
方法を
アウグスチヌスは
4枚目な
浮気
ちょっと
POPらしい
「常識」
今夜は
ハヤシライス
リズムの
ない
街で
タマネギを
買った
自転車が
ジタバタ
常識を
入れて
煮る
「ホットドック」
「創造的?」
挟んだ
ソーセージは
マスタードが
たっぷり
DNAな
構造を
インスタントに
売る
プラスチックの
ペットも
嚙みついた
「モグラ」
いなりずしを
一個
口の
中に
押し込む
「音楽」
鉛筆削りで
カツオ節
ウイルスの
俗物が
のどに
引っ掛かって
淫らな
行為
だ調の
僕を
捨てた
味噌汁に
音楽を
具体性の
芯と
アマチュア
無駄な
言葉の
よだれが
流れる
「納豆」
アナログな
満月
たんぱく質が
欲しい
しょうゆに
からし
理屈を
かき混ぜて
遺伝子は
方程式
らせん状の
糸が
始まる
卵を
入れると
シンドローム
オムレツの
祈りと
パセリも
振った
フライパンが
熱くなる
「デザート」
かぐや姫と
月見うどん
ネギな
気分に
イチゴの
舌
「ドンキホーテ」
花が
咲いた
朝の
ハムエッグ
真ん中を
吸う
歪んだ
顔も
美しい
メチャクチャと
食べる
「消火器」
皿の
上で
コスモスが
燃える
「酸素」
Tシャツに
ケチャップ
ドンキホーテに
座って
コーヒーを
もう一杯
アクビを
殺した
「トロンボーン」
煮込んだ
スープと
ポテトサラダ
ヘッセの
本を
置いて
彼女が
消えた
魚は
苦手だけれど
街の
片隅
足の
指に
ブツクサと
暮らしている
冷めた
キッチンで
スカンクな
トロンボーン
外れた
音
逆さの
マヨネーズが
転んだ
「やけど」
丸ハムに
落とした
目玉の
ドラムを
叩く
「トースト」
カビが
生えた
パン
ちょっと
摘んで
トーストに
焼く
黒い
コゲは
落として
コーヒーも
作った
マーガリンを
べっとりと
塗る
売れない
朝の
絵かき
「呼吸」
濁った
お茶
意味も
なく
サボテンの
トゲ
へそを
曲げて
ガラスに
乾いた
葉緑体
空が
眩しい
「塔」
恋をしている
「とうもろこし」
高原で
とうもろこしを
食べた
(芝を編んできれいな箒に作りましょう)
ラグビーの
合宿が
終わった
(ファララララララララ)
「墓地」
芝刈り機の
下に
蛙が
住んでいる
「クリーム」
ゆで卵の
畑で
細菌の
うわさ
なまけものは
きな臭い
痒いところに
手が
届く
「種」
コートを
着て
マーケット
世界は
縮んでいた
苦しい
ワニ
おつりを
くわえる
塔の
上から
イワシの
頭が
落ちた
「地にも平和を」
よろよろと
逃げた
コイン
場所を
見つける
冬眠の
街
青を
信じて
ビニール袋の
嘘が
パンクした
「アダージョ」
ストーカーは
やめて
クラシックを
聴いた
キリシタンの
森
静かな
テンポで
雪が
落ちる
銀色の
息を
吐きながら
踏絵の
サンタクロースが
告白
第三楽章で
くしゃみが
出た
「どうかお許し下さい」
「玉手箱」
インフルエンザも
正月は
開けて
びっくり
おせち料理を
分解した
白い
頭で
おしるこが
楽しい
「発酵」
生きている
「コミュニケーション」
ヨーグルトの
壺に
オリゴ糖と
りんごジャム
退屈も
溶けて
ビフィズス菌の
増殖
大切な
バランスが
コミュニケーション
下らない
栄養を
平凡で
優しく
ありふれる
情熱
青い
空に
抜けていった
「シュガーレス」
ハーブの
のど飴で
コーヒーを
飲む
「熊」
縫いぐるみを
脱ぐ
街は
土の
匂い
春に
ボーと
吠える
楽しかった
穴の
平和
足を
舐めた
「働いて生き、闘って死ぬ!」
甘さは
抑えて
獣が
騒ぐ
焼肉定食を
貪る
ドヴォルザークの
新世界
「誕生日」
安っぽく
腐った
心を
ぶら下げて
首の
ない
パパが
帰る
「没薬」
コペルニクス的
転回
スコラの
石が
動く
パラダイムは
発作
堅物の
痛みに
ルネッサンスな
味
「苦いものを混ぜたぶどう酒」
惑星が
落ち着く
脂肪の
コントロールと
地動説
「溶けそうだ」
枯れた
木も
哲学
ナスの
病気は
難しい
「しいたけ茶」
アレルギーな
街で
グズグズ
詩人の
おもちゃが
歩く
赤ちゃんは
悪口と
オッパイ
粉ミルクの
季節
無造作に
味を
すすった
「春」
壊れた
水抜き栓
ネジを
外して
タイヤの
交換
新しい
ハンドルで
開く
蛇口の
不満も
噴き出した
トマスの
指
ホースに
突っ込むと
走る
カタルシス
車を
洗う
「サラダ」
雨の
エープリルフール
寝ぐせを
直す
「胡麻」
さつまイモの
天ぷら
空が
からっと
上がって
水溜まりに
ふりかけた
粒
泳ぐ
虹に
消える
へそで
茶を
沸かすと
おやつに
誘われて
暖かい
風も
箱の
中
循環した
「海へ散歩に行かない?」
ひよこを
産んだ
恐竜と
リハビリテーションが
始まる
「幽霊」
友達が笑った
「分身」
教会は
坂の
上
映画館と
味噌ラーメン
滅びの
子が
登る
「クリシーの静かなる日々」
二人乗りで
かけ下りた
バランスの
ない
食卓
「詩人になりたい」
息が
切れる
夕焼けの
街
弱音を
吐くと
てっぺんに
逆立ちの
犬
ユダは
首を
吊った
「LP」
四畳半で
スティルスを
聴いた
「鳥」
ブランコに
座って
アーモンドを
かじる
「訂正」
彼は
いつも
甘くて
溶けやすかった
(「チョコレートの箱」)
「AM」
スイッチは
南へ
「RADIOのボリュームをちょっと上げて」
雑音と
走った
「ドーナツ屋」
空っぽの
トイレットペーパー
高気圧だから
ハイウェイな
台風
七夕の
街では
違っている
禿げた
夜
シャンプーが
落ち着かなくて
冷蔵庫に
座ると
ネバーランド
丸く
浮かんだ
おばあさんの
昔話
さらさらと
歩くけれど
「ドーナツの
真ん中を
食べてはいけない」
サンダルの
場所
考えながら
イーハトーブ
水虫が
暮らし始める
「ウイルス」
住めば
都
新しい
田舎
「ズック」
オズの
国で
つぶした
かかと
「カンザス・シティ」を
33・1/3回転
砂漠に
落ちる
「返事」
宙ぶらりんの
十字架
重い?
待っている
「追伸」
ハチミツを
入れて
ミルクセーキ
「元気です」
(1997年作品)
「大人のふりかけ」
中山 信
「好きこそ物の上手なれ」
と
言う
けれど
そんな F
に O
「世の中は甘くない」 R
はず
で O
(「ライブ」 読めない楽譜のもやしが踊る)U
「木になる話」 R
を
チェックした E
と A
にも R
かく T
にも H
養毛剤
「よろしくお願いします」
ワープロ協奏曲『どうかお許し下さい』
1 詩集「僕たちの食卓で」
2 詩集「アルミニウムの壺」
3 詩集「ドンキホーテのハムエッグ」
作者 山中 哲
1998年4月1日発行
私家版(非売品)
凹
Free and Free