Σ詩ぐ魔

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Σ 詩ぐ魔 第11号

ひとーつ市原礼子(大坂) ひとーつ  ふたーつ みぃーつ よぉーつ 息を吐きながら ひとー 吸いながら つ ゆっくりと数を数えながら 呼吸をする 瞑想の入り口の リラクゼーション ひとつ ひとつ 大事なものを手放していく すこしずつ 心が軽くなっていく そうか そうか こんなふうにして すこしずつ 進んでいくのか 闘いをやめた心が 平安に向って 刻まれていく 原っぱのうた佐相憲一(東京) 鎌倉街道1970年代 鍛冶ヶ谷から七曲を命ごとカーブして 港南車庫や日野

    • Σ 詩ぐ魔 特別号

      ハント壹岐悠太郎   豹々。 と、隠くしておく布の盛りあがりに 舌先をかすめて 気づけばなにもかも 石膏でかためられたように はぎとる。 頭球 のうえを通るもの。 弓師にも口笛、が きこえるここで さりげなく流がす目のうしろ 交叉する(豹々。) しらけきったボートで くぼんだ庇さしの傍にとまる あきれて それから絵づくりの子として 塗かさねした日。 とどこおりなくくる犬が光まといの ぶきようなsketch、 左右にひとしく振られる 水溶性の羊歯、 が はじめて目があったと

      • Σ 詩ぐ魔 第10号

        カフカの絶望市原礼子(大阪) 「判決が下った おまえは溺れて死ぬのだ」 突然 父の声が聞こえた 聞こえたような気がした なにかのまちがいだ あの父が 父はやはりそのように思っていた 父の自慢の息子になりたくて 父のようになって 母のような人と結婚して 幸せになろうとして頑張ってきたのに それを目前にして そのようなことを言うなんて 何もかもが崩れていく 何もかもが色を失っていく 何のために生きてきたのか 何のため頑張ってきたのか 橋の上から見える黒い川は 絶え間な

        • Σ 詩ぐ魔 第9号

          時間割市原礼子(大阪) 時間割が分からなくて 遅刻しそうになって 生徒手帳を探して 時間割が書いてあるページを探しても どこにも書いていなくて どうしよう 数学社会生物たぶん おそるおそる教室の戸を開けると 授業は始まっていた 何人かでかたまって床に座り なごやかに談笑 紙の器に色水 ストローやお箸もある よかった間に合った 周りを見回すと 生物の矢野先生 長身の先生のおだやかな笑顔 一時間目の生物にいつも遅刻 先生は叱らないので 自分が嫌になる 部活で疲れて寝てしま

          Σ 詩ぐ魔 第8号

          告白市原礼子(大阪) あなたに謝らなければいけないことがあります 気がつかなかったこと 気にしなかったこと 叱らなかったこと なぜ どうしてと 問い詰めなかったこと あなたに謝らなければいけない   何かの間違いに違いない そんなこと 信じられない 気がつかないふりをした 知らないふりをした あなたは助けを求めていたのに   わたしは逃げていた 対峙する勇気がなかった あなたは闇のなかにいたのに   長い時間をかけて あなたはそこから脱け出た わたしは何もできなかったのに

          Σ 詩ぐ魔 第8号

          Σ 詩ぐ魔 第7号

          透明な生活市原礼子(大阪) 透明な時間が過ぎてゆく そこでの生活は透明で見えない なつかしい声をたよりに想像する よみがえる言霊 言葉の力に繋がれてゆく 窓から見えた公園の光景 走り回る子どもをはなれたところで見守る親 お弁当を広げている親子 ありふれた光景を 少しのあいだ並んで見ていた  …いいですね… その一言に繋がれた ありふれているけれども かけがえのない そのような日々を誠実に生きている人 透明な生活をしている人 恋しがっても 谷間にかわらけを投げるように

          Σ 詩ぐ魔 第7号

          Σ 詩ぐ魔 第6号

          らせん階段を君が市原礼子(大阪) らせん階段を君が下りてくる 見上げているわたし うれしさにはじける子どものように笑う 君は父親のように優しくほほ笑む ひな鳥が親鳥の後を追うように 盲目的について行きたい   君はらせん階段を上って帰ってゆく わたしはここに残らなければいけない 片腕をもがれたアバターだから こころを回復するために訓練が必要 痛いけれど我慢すれば トレーニングが終了すれば 人間に戻れる   バイバイと 手を振ったわたし 君の声がする お互いにがんばりましょう

          Σ 詩ぐ魔 第6号

          Σ 詩ぐ魔 第5号

          いつか行きます市原礼子(大阪) いつかこっそり覗きに行きます 君はそう言ってくれた いつか いつかはいつのことなのか まだ来てくれない いつか いつになるかわからないけど こっそり行きます   君を待っていると ずんずん伸びてくる青い芽 君の優しい声が聞こえてくる いつか行きます   昔話にある お姫様は逃げる男を追いかけて大蛇に変身 大蛇は恋しい男に巻きついてもろともに焼死 そうなってもいい 君に巻きついてみたい   旧い球根から伸びてくる青い芽 干からびて皴皴になってい

          Σ 詩ぐ魔 第5号

          Σ 詩ぐ魔 第4号

          リハビリ病棟にて市原礼子(大阪) リハビリ病棟の 南向きの明るい部屋では 失われた機能の再獲得のために リハビリ士たちが日々奮闘している   さまざまな理由で放置され 一本の木偶の棒となった私の右腕は 長時間の手術を経て しかるべき角度に固定され リ・ハビリスが始まった   折れ曲がった棒のような私の腕の 機能を回復するため リハビリ士の指は 私の固まった筋肉をほぐしてゆく   力を抜いて   防護マスクの奧の 防護ゴーグルの奥の 瞳と目を合わせる   海に漂う海月のように

          Σ 詩ぐ魔 第4号

          Σ 詩ぐ魔 第3号

          《掲載順は氏名五十音順》 再生市原礼子(大阪) 明日が今日に変り始める時刻 多くの人が眠っていると思われる時刻に 老嬢は眠れなくて独り起きていた 来し方行く末を想うと眠れなくなるのだ 誰かと話したくなった 迷った末に若い友人に電話をかけた   若い友人は若いと言っても古希を過ぎていたが 昼は出歩き夜は疲れて眠るという普通の生活者 深夜の電話に驚いて飛び起きたのが間違いの元 深夜の電話には出るべからず   ベッドから下りたとたんにふらついた 倒れまいとしてさらにふらつき 堅

          Σ 詩ぐ魔 第3号

          Σ 詩ぐ魔 第2号

          ********************************** 『Σ 詩ぐ魔』(第2号)目次 一宮川         市原礼子(大阪) 金の卵         大倉 元(奈良) 旅に惹かれて      和比古(兵庫) ものものしい「者」たち 熊井三郎(奈良) 壁の中に立っている   佐相憲一(東京) テレビが来た日     阪井達生(大阪)  玄関          高丸もと子(大阪)    落丁の庭 ――有吉篤夫追想 田中俊廣(長崎)         死者の声  

          Σ 詩ぐ魔 第2号

          遙 5号

          個人詩誌 5号 本詩誌5号では、詩と音楽との関わり合いについて述べた。今回は余韻について述べたいと思う。 最近「駅ピアノ」や「空港ピアノ」のプログラムをテレビで楽しんでいる。必ずしもプロでない人が駅、空港などに設置されているピアノを弾く番組である。歌を伴うこともある。心に沁みるメロディーが伝わり、喜びも悲しみも音符となって心に響く。そこには深みのある人生哀歌が詠われている。過ぎ去りしときを思い出し、さらに明日待つ気持ちを止揚させてくれる。何ともいえないひとときを楽しむこと

          遙 5号

          Σ詩ぐ魔 創刊号

          (掲載順は氏名五十音順) 祖母の大根おろし金相野優子(兵庫) わたしの台所の飾り棚の 一番良い場所に飾ってあるアルミのおろし金は 祖母が使っていたもので台所の柱神だ 小さい時には早く目が覚めて 台所に行くといつも祖母が居たものだった いまも朝早く目覚めてうす暗い台所に入るとき 灯りをつけるまでのほんの短い時間に ふと祖母の姿が見えることがある いつもわたしのお弁当を作ってくれていた 手間をかけた時間もかけた 素朴なおかずがぎっしり詰まった お弁当の味

          Σ詩ぐ魔 創刊号

          「Σ詩ぐ魔」発刊にあたって

          令和三年は昨年来のコロナが世界的規模で猛威をふるい、さらに変異種となっては人々を苦しめ不安な事態が続いた。秋口に入ってわが国は幸いにもやや終息の兆しが見えてきたが、新たなオミクロン株の出現と急速な拡大に不安は去らない。 この年干支は丑、奇しくも発起人三人(グループ牛)は古希を過ぎての年男である。年の瀬にして新たな電子媒体に基づいた詩誌の発行を試みる。誌名は「詩ぐ魔」、∑(シグマ)に文字のイメージをあてがった。シグマとは総和、すべての足し算の合計という意味だが、詩作品を足し算

          「Σ詩ぐ魔」発刊にあたって