おっさんが髪を伸ばし始めた理由
私の会社では、在宅勤務と言う制度はだいぶ前からあったのだが、利用する人はいなかった。仕事さえできれば、反対する理由などないと思うが、いい顔をする上司は少ないだろうから、積極的に手を上げる人はいないし、誰も手を上げないとなるとますます誰も手を上げない。
ところがコロナ禍で状況は一変した。
第1波が始まる少し前から試験的に在宅勤務が推奨され始め、最初の緊急事態宣言とともに本格的な在宅勤務が始まった。
その後は、感染の拡大状況に応じて、会社側のアナウンスも変わるが、在宅勤務をすることを不用意に止める動きはなくなった。
幸いなことに私の仕事はほぼ100%自宅でできるので、ほぼ会社に行っていない。感染の波が収まるとたまに顔を出すが、基本的には本当に必要なときしか会社に行かない。
仕事がほぼ100%会社でできる以上、本当に必要なこととは、仕事とは言えないようなことだ。例えば健康診断とか。
感染が拡大している時期は散髪にもいかない。
理容店や美容院はどう考えても感染リスクが高そうな気がするし、他人と会うこともないので、さほど気にもならない。
第1波の時は、髭も伸ばしてみたが、もともと伸びない体質らしく、全然伸びなかった。ある程度の長さになると抜けたりする。
感染の波が治まったタイミングを見計らって理容店に行く。
先日のニュースで、小学生の男の子が3年間髪の毛を伸ばしたと言う話題があった。
目的はヘアー・ドネーション。母親がやっているのを見て興味を持ったと言う。
口で言うほど簡単ではない筈だ。親の理解は得やすいとしても、教師や友人からから様々なストレスを与えられた筈だ。
それでもやり切った彼をカッコいいと思ったし、羨ましくもあった。
私も、おっさんじゃなかったらやりたかった。白髪も目立ち始めた髪なんか需要があるわけない。
そんなふうにウジウジ考えていたけれど、やはり気になったので、試しに調べてみた。
ググって出てきたそのHPの門戸は物凄く広かった。男性でも白髪でも問題ないとある。
自分が若い頃なら、頭の固い会社のおっさんたちにどんな理不尽なことを言われるか分からないと言う不安もあっただろう。
だが、おっさんになると、周囲のおっさんもあまり理不尽なことは言われなくなる。
もともと会社で髪型について煩いと感じたことはあまりない。
ましてやコロナ禍で顔を合わせることもない。
しかも聞かれたら「ヘアー・ドネーション」と言う社会的意義のある目的を説明できるのだ。
もしもそれで他にもやってみようと思う人が1人でも増えれば、とても嬉しい。
第6波の中で、小さな決意をした。途中でへこたれる可能性はある。
そもそも髪をあまり長く伸ばしたことがないので、予想できないところでつまづく気もする。
できるところまでやってみよう。
将来髪がなくなってから後悔しないように。
妻には当面黙っておこう。
散髪に行かないのはコロナのせいにしておこう。
僕の髪が肩まで伸びて、彼女と同じになったら、告白しよう。