母 2
「あっそ」という相槌が大嫌いだった。話の途中で挟まれると傷ついて話す気が失せた。
話を最後まで聞かないで分かったふりをして決めつけるのも大嫌いだった。母フィルターを通すことによって微妙にニュアンスの違う話になり、否定してもうまく伝わらなかった。
大学生の時に実習で母校に行った。最後の打ち上げの時にとても温かい言葉をくれた先生がいて、ありがたくて嬉しくて、泣けて泣けて仕方なかった。母が車で迎えに来てくれたが、泣いている私を見て「何か変なこと言われたの!?そんなの気にしなくていいんだから!!」と励ましてきた。「いや、そうじゃなくて」と言っても全く話を聞かず、母一人で憤慨し続けていた。
家族以外の人には言ってほしくないようなことを、何のためらいもなく言うところも嫌だった。
中学生の時に下着が足りなくなり「下着を買いに行きたい」とお願いして、下着屋に行く途中で友達のお母さんがやっているケーキ屋に立ち寄った。ケーキを選びながら、何も聞かれてないのに母が「この子が下着買わなきゃいけないって言うんで、今から買い物に行くんです」と言ったのが、すごく嫌だった。せめて服を買いに行くと言って欲しかったし、買いに行きたいとは言ったけど買わなきゃいけないとは言ってない、と思った。お店を出てから即座に不満を言ったけど、あっけらかんと笑って「そりゃ失礼」と言われ、自分がどれだけ嫌で恥ずかしかったかが伝わってないと感じた。
社会人になって数年後、母と二人で車に乗っている時に、母が実は三人きょうだいの末っ子だという話題になった(母の二番目のきょうだいが長らく遠方に住んでおり、あまり交流がなかったので私は存在を知らず、母は二人きょうだいだと思っていた)。私が「お母さん、三人きょうだいの末っ子なんだ!だから全然人の話聞いてないんだね!」と、よくわからない理屈で母のことを指摘したら、「お母さん人の話聞いてないか!ははは!」と言って、あっけらかんと笑っていた。