「それ、俺が描いたやつ」

隠れた名ノンフィクション！

絵画の贋作、と聞いて、
大概の方は「本物ソックリな絵」
を想像するだろう。
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しかし本書で語られるこの男、
メーヘレン は違う。
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「真珠の耳飾りの少女」や、
「牛乳を注ぐ女」で有名な、
オランダを代表する画家、
フェルメール の作品を、
20世紀初頭当時オランダと敵対していた、
ナチスドイツに売った罪で逮捕された。
相手はヘルマン・ゲーリング。
実質ナチスのナンバー2、
被害額は日本円で数十億。
おいおい大丈夫か？
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その裁判でメーヘレンは驚愕の告白をする。
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👨🏻‍🎨「あの絵、俺が描いたやつだけど？」
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権威ある専門家は信じない。
ロッテルダム国立美術館にある絵画も、
アムステルダム国立美術館にある絵画も、
ここ数年で描いた物との違いは歴然だ。
200年も前の作品を再現出来るわけが無い。
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👨🏻‍🎨「悪い、その絵も、俺が描いたやつ」
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専門家達は正気を疑った。
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裁判に立たされて気でも狂ったかと。
確かにこの男、
大酒飲みでヘビースモーカー、
しかもヤク中というファンタジックビースト。

じゃあさwメーヘレンさん、
どれでもいいからお好きなの、
コピーして描いてちょうだいよ？
贋作家なら出来るでしょ？
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👨🏻‍🎨「バカにしてんの？
　　マスコミ連れてウチに来い、
　　　　その場でフェルメールの、
　　　　　　新作を描いたらぁ」
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啖呵を切ったメーヘレン。
大監視と衆人環境の面前で、
17世紀の絵の具とカンヴァスを用い、
描いた絵を専用の炉と薬品で加工し、
専門家が認めるフェルメールを完成させた。
(表紙の写真)

(こいつ…本物だった…)
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稀代の極悪売国奴から、
国宝をナチスから守った英雄に。
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👑
しかも詐欺罪や偽証罪は、
女王陛下の恩赦でチャラに。
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しかし、今に伝わる、
「手紙を読む女」などの、
細密で静けさのある「フェルメールらしさ」
とは微妙に違う。
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なぜ専門家が騙されたのか

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フェルメール研究の専門家の、
「ブレディウス」という博士は、
初期はカラヴァッジョの影響を受けた、
宗教画をフェルメールは描いていた、
という持論を密かに持っており、
事もあろうにメーヘレンは、
その噂を聞きつけていたのだ。
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👂(しめしめ、そういう事でっか)
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つまりこのフェルメール研究の第一人者を、
騙くらかしさえすれば、
太鼓判を貰えば、
描かれた絵はフェルメール作となってしまう。
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メーヘレンの技はここで光る。
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👨🏻‍🎨(ソックリに描くより、権威の専門家が、
探し求めてた、欲しかった絵画を描けば…)
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かくして制作された宗教画、
「エマオの食事」でブレディウス大歓喜！
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👨‍🎓ホレ！ホレ見た事か！
これよこれ！やっぱあったじゃん！
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ろくに調べもせず本物認定、
自分の功績にして国立美術館へ寄贈。
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さらにメーヘレンの贋作技術は、
他の様々な研究者への対策にも余念が無い。
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真珠の耳飾りの少女が、
「歳をとった」女が出ていたり、
牛乳を注ぐ女の「若い頃」の人物がいたり、
後ろの絵や弦楽器、パンや調味料の瓶まで、
絶妙にフェルメールの本物とは、
「ズラして」モデルにしているのだ。
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これは極めて高度な技術と言える。
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研究者のみがハマる罠で🪤
埋め尽くされたような絵画。
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🧑🏻‍🏫👨‍⚕️🧑🏻‍💼👨‍🎓🕵️‍♂️
「このモデルは同一人物なんじゃないか？」
「この技法は中期から採用されたもので、
過渡期のこの絵にこの兆候が…！」
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研究者の研究心を満たし、
膨れた腹で何も考えられなくする。
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研究者達は欲しい答えの前に盲目になる。
ネットの情報、SNSの噂、
真実よりも、
「みんなが欲しい答え」が優遇される。
そこをメーヘレンは熟知していた。
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美しい嘘が国の宝を護った、
ハン•ファン•メーヘレンを覚えて欲しい。
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贋作画家のつくりかた

しかし彼は何故、
これだけの技術を持ちながら、
「贋作画家」になったのか。
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彼の幼少期にまで遡る。

建築家を目指すよう厳しく指導された彼は、
学校で17世紀の絵画に触れ、
やはり画家を目指すようになる。

建築科の絵画コンテストで優勝するが、
その作品自体を手放したく無く、
「全く同じコピー」を売ろうとしたが、
それがバレたら価値が１／10にガタ落ち。
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👨🏻‍🎨同じ絵なのに…
誰が描いたとか何の賞を獲ったとか、
そういう事で価値が決まるのはおかしくないか。
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静かな怒りは
徐々にメーヘレンを歪めていく。
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絵画教室の先生になった彼が、
9分程度で描いた動物園の鹿の絵が、
たまたま当時のユリアナ王女の、
お気に入りの鹿で人気が出てしまう。
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👨🏻‍🎨こんなラクガキが王女の好みでバカ売れとは、
つくづく世の中どうかしてる。
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歪みは怒りに、怒りは力になる。
かくして至高の贋作家、
メーヘレンは形成された。
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誰もが眼を奪われていく、
この絵は完璧で究極のレプリカ。
金輪際現れない、
フェルメールの生まれ変わり。


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