デザインの見方が広がると日常が新しくなる
こんにちは、シフカです。
私たちの身の回りは多くのデザインで溢れています。日常生活の中で、ふと見つけたポスターや広告に「いいな」と感じた経験はありませんか?そんなデザインに出会うと、思わず写真を撮りたくなったり自分の気持ちが高まったりすることがありますよね。その瞬間にデザインを一歩踏み込んで観察してみると新しい発見があり、楽しさが倍増するかもしれません。今回はスタッフがお正月に見つけた電車の中吊り広告を例にして、デザインの意図や工夫を一緒に探ってみたいと思います。普段何気なく目にしているデザインがきっと少し違った視点で楽しめるはずです。
デザインの意図や工夫を考えてみよう
早速ですがこの広告を見たことはありますか?
これは箱根駅伝の中吊り広告です。この広告はSNSでも多くの反響を集め、一目見ただけでカラフルな襷が目を引きますね。
駅伝は襷を繋いでいく競技で、各区間の走者が次の走者になるべく早く襷を渡すために全力を尽くす光景から、襷は駅伝の象徴とも言える存在です。中でも「箱根駅伝」は正月の恒例行事として多くの人に親しまれてきた日本の伝統的な大会です。この広告、実は一枚の布をレーザー加工して作っているそうで、左側から前回大会の上位10校のシード校、続いて予選会通過順の並び順になっています。
ここでなぜ多くの人がこの広告に惹かれるのかその理由を考えてみましょう。まず初めに、リアリティが伝わるアイデアが一番の理由ではないでしょうか。実物の襷に近い素材を用いることで、広告を近くで見たり触れてみたりしたくなる印象的なデザインになっています。例えば、これが1枚の紙だったとしたら、近くで見たり触れてみたりしたいとは思わないでしょう。他にも、車内で襷がひらひらと揺れることで静止した紙の広告とは異なる動きのある演出が生まれ、視覚的に新鮮な印象を与えています。このように、惹かれるデザインにはいろんな工夫が隠されていることに気づくと思います。
さらにそこから、制作者の意図を考えてみると新しい見方が広がるかもしれません。たとえば、どうして一番目立つ場所に位置する広告は襷のアイデアが選ばれたのでしょうか?なぜ選手の写真ではないのでしょうか?それは「駅伝=襷」という、誰もがすぐに理解できる象徴性と、誰もが一度は目にしたことのある「箱根駅伝の襷」というイメージを効果的に活用した制作者の意図があるのだと考えます。
また他にも、「制作者は多くの乗客に“もうすぐ箱根駅伝の時期だ”と感じて欲しかったのではないか」「制作者は大学のチームカラーを活かした広告で、乗客が自分の母校や地元の大学を思い出すきっかけをつくろうとしたのではないか」といった推測もできます。襷という象徴を使うことで、より多くの人に駅伝の魅力を伝えようとしたのかもしれませんね。
このように、普段何気なく見ている広告には、作り手やそこに関わる多くの人がいます。それらの人の意図や思いを想像すると様々な気づきがあるはずです。そうした気づきは、普段何気なく目にしているデザインを別の視点から楽しむきっかけとなり、新たな発見や感動を与えてくれるでしょう。また、これには正解を求める必要がないため、自由に発想を楽しむこともできると思います。
さらにもう一歩踏み込んで観察してみる
さて、先ほどの紹介した内容もこのデザインの魅力ですがさらにもう一歩踏み込んで考えてみましょう。電車内にはさまざまな広告掲示方法があります。例えば、まど上広告、車内ビジョン広告、ドア横広告、ステッカー広告、つり革広告などがあり、それぞれサイズや静止画・映像といった形式が異なります。
今回の箱根駅伝の電車広告では、1編成の車内全体の広告スペースをジャックする「ADトレイン(アドトレイン)」という媒体が使用されました。ADトレインのメリットは、すべての広告面を1社で統一テーマのもとに展開できるため非常に高いインパクトを与える点にあります。今回の事例で言うと、襷の中吊り広告・選手を映像と共に紹介する車内ビジョン広告・箱根駅伝の日程や詳細を宣伝するドア横広告など、さまざまな形式の広告が展開されていました。
もし、この広告掲示方法がADトレインではなかったらどうでしょう。襷だけの広告で十分な情報が伝えられるでしょうか。ADトレインという特殊環境だからこそ、余計なものを削いだ襷ひとつでわかる力強いデザインが可能だったのではないでしょうか。これは大会の日程や選手の紹介映像、などの文字をベースにした細かい情報が車内ビジョン広告やドア横広告にあったから全体として成立したのだと考察します。それぞれの情報が適切な媒体で伝わるからこそ、斬新な襷だけの中吊り広告を可能にするADトレインという媒体とこの広告は相性が良かったのではないでしょうか。
このようにデザインの媒体や掲示位置、形状に注目してみると、メッセージの伝え方の工夫にも気づくことが出来ると思います。さらに踏み込んで観察してみるとまた新しい見方ができるかもしれませんね。
色々な見方でデザインを楽しもう
デザインには必ず制作者の意図が込められており、それは人の気持ちや行動、情報の受け取り方にまで影響を与える力を持っています。身の回りに溢れるデザインも、すべて何かしらの目的や意図のもとに生まれたものです。その意図に気づけるようになると、普段の生活が少し違って見え、世界が広がるように感じられるはずです。デザインを新たな視点で捉えることは日々の中に新しい発見や楽しみをもたらしてくれるでしょう。