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スペインオタクが思う、スタジアムでの人種差別について
本当に良くないことでばかり話題になるね、スペインという国は。しかも今回のは言葉を投げかけられたのが日本のスター選手なので、国としての印象がすこぶる良くない。あんなの見せられたら「スペイン行くのは止めよう」と思う方も少なくないのではないでしょうか。
今週日本中で話題になったのが、ラ・リーガ1部で活躍する久保建英選手が受けた、サポーターからの差別発言です。スペイン全体での人種差別については、私の個人的な経験を元に一度お話させていただきました。
まあ、あるよねという話でしたが、ものの見事にこの記事に書いたそのままの言葉が久保選手にも投げかけられていました。
あと今回はばっちり音声にも残されていた、バスク人への差別発言。バレンシアサポーターの差別的なヤジは久保選手だけでなく、バスク出身の選手たちにも向けられました。
もうね、バカの一つ覚えのようにそのまんまの言葉が飛び交っていた。実際こんなこと言う人達はバカで間違いないのですが、いつまでこれを続けるのか?
今回のことを受けてスペインオタク的に色々思うところがあったので、重い話題ですがよろしければお付き合いください。
スペインは人種差別問題の根深い国か?
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まず、今回の映像を見せられても私が最初に言いたいのは、「スペインという国自体は人種差別が強い国ではない」ということです。いるにはいる、もちろん。いるけれど、大半はそうではない。
ほとんどの人たちは優しく教養もあるし、普段からこんなメンタリティで生きている人が多いわけではありません。アジア人全体を下に見ているというわけでもない。
私はどこの国に行ってもアジア人であることに劣等感を抱くタイプではないし、日本人に生まれたことを誇りに思っているので、ちょっとやそっとで差別と感じたりはしません。ですが、「悪意」にはきちんと気が付きます。どれだけ鈍感でも、人から向けられる悪意は分かりますから。
そしてスペイン国内をウロチョロしていて、明確な悪意を孕んだ差別発言を受けたことがない。
実際にあちらに住んでみて、何度も訪れてみて、差別意識から来る嫌な目にあったという経験もないし、アジア人であるというだけで明らかな憎悪を向けられたこともない。(1回だけあるけれど、相手はスペイン人じゃなかった)
そもそもスペイン国内に住む移民の割合は2020年の時点で14%とかなり高く、アジア人も多い。
ちょっと外に出ればアジアの人は必ずいるし、「アジア人であるだけで憎い」「アジア人は自分たちより下」なんていう考えは無理があります。そういう人間もいるんでしょうが、それは本当に変な人です。世界中どこに行ってもいるでしょう。
「サッカースタジアム」という場所
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ではどうして今回のようなことが起こるのか?差別意識が根底にあるからではないのか?うーん、これについては言葉にするのが難しいのですが・・・。スタジアムでのヤジ≠悪意ある差別意識というか・・・。
大前提として、スペイン人って口がかなり悪い。日常会話でも日本よりも汚い言葉が飛び交っているし、思っていること、頭に浮かんだことを口に出します。頭に血がのぼった状態であればあるほど、汚い言葉を使う。
そしてスタジアムという場所は、長年口汚いヤジが許されて来ました。今は時代の流れに沿って、選手を侮辱するヤジやチャントは止めようという方向に進んでいますが、ほんの数年前までヤジは飛ばし放題、選手への侮辱もし放題。ピリピリした雰囲気が漂うスタジアムも少なくなかった。
世の流れに沿えないスタジアム内
バレンシアサポーターの心境を考えてみると、長い間勝利を収めていない、チーム状況は決して良くない、なんなら最下位だし、レアル・ソシエダもスタメンを落としてきた。
そんな中自分たちのチームが今1点リードしている、勝てるかも、最下位から浮上できるかもしれない。あぁ!!通常スタメンのヤバい奴らがウォームアップしている!!出てくるのか!?出てくるなよ!!出てくるなって!!
・・・これがあの言ってはいけないヤジに繋がったんだと思っています。つまり、ドロドロした悪意のある人種差別的な意識というよりは「相手チーム選手への悪口」のつもりというか・・・。まあ、それで人種を出すところが頭の悪い証拠だと思いますが。スペイン人全体ではなくて言った奴ね、言った奴。
結局は「スタジアムでのヤジは長年許されてきた」という積み重ねと、自チームに対するフラストレーション、相手チーム選手への「ヤバい」という気持ち(一目置いているという証拠でもある)が混ざりあった結果、あのような世にも醜い発言が口から出てしまい、映像にも残され、海を超えて世界中に広まってしまった。
「古く悪いこと」は淘汰されるべき
多分今、言った本人はビクビクしていると思いますよ。「スタジアム内でのことじゃん」と、日常生活とは別という思いが強いかもしれない。
頭に血がのぼって今の時代に言ってはいけないことを言ってしまった。普段からそうか?というとおそらくそうじゃない。「相手チーム選手に対するヤジ」のひとつというつもりなんだと思います。
今の時代、こんなのは逮捕されたりスタジアムから追放されて当たり前なんです。時代の流れに沿えないという感じですね。
大体バレンシアサポーターは前から他チームの選手に対する侮辱でも問題になっているのに、この2人か何人か知らんけど、まだ言っている。何度も問題を起こしているのに「人種に関するヤジは人種差別と捉えられる可能性がある」ということを、頭に血がのぼった状態で意識できない人間が、スタジアム内にはいるんですね。
ここまで来るとあの辺りのサポーター席は閉じたほうがいいんじゃないかね?と個人的には思います。言っても直らないなら、大切な試合を見に行けない状態にしてやるべき。そうすれば事の重大さに気付くでしょう。
いつまで続くのか?
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今回のことで、SNSで「スペインは人種差別的」という意見も多く見られましたが、それは主語が大きすぎる。現地のメディアでも「ありえない」「許されないこと」として取り上げられていましたし、少なくとも私の経験では、スペインで「アジア人に対する差別意識」を強く感じることはない。
前も書きましたが、道を歩いていて、からかい半分で「チーノ」と呼んでくるのは中学生くらいの子供がほとんどです。これも20年前よりはかなり改善されている気がする。20年前は1日に1回くらい言われていたけれど、訪れる度に頻度が減り、思い返してみると昨年行った時はゼロでしたから。
まずはここを叩き潰してからかな・・・言ってはいけない言葉としてここを潰せば、スタジアム内でアジア人選手に対する「チーノ」というヤジは減るかも。あと20年かかりそう。興奮状態のスタジアムは一番最後だろうね。
サッカースタジアムのピリついた雰囲気、サポーター同士の諍いはかなり改善されているので、この人種に関するヤジについても少しずつ改善されると信じています。
多分「クソ野郎」というヤジはなくならないでしょうが、ルーツに関することは止めるべきだし早急に対処するべきというのがスペインオタク、そしてスペインサッカー好きとして思うことです。