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#05 吉祥寺 家族が欲しいよ 《武蔵野市立吉祥寺美術館》

 少女の人型モチーフのロゴが大きくあしらわれたmintdesigns(ミントデザインズ)のバッグを持ち、足元は蛍光イエローの靴下を履く。黒いシンプルなロングカットソーワンピースを着て、小物が主役のコーディネートで家を出る。

休日の今日は、カジュアルに平日には身につけられない派手な色をまとい気分を上げて武蔵野方面の中央線に乗りこむ。

車窓から眺める外の街並みが角ばった都会の景色から丸み帯びた優しい街並みに変化していく。
吉祥寺に到着して電車を降りる。

休日昼間の吉祥寺は、TV CMに出てきそうな家族ややがて理想的な家族を築き上げていくであろう安定した関係性のカップルが多いように見える。
一瞬の煌めいた瞬間を切り取ると、理想的な幸せ家族像に見えるものの、10分程観察を続けると、子供達は「もう帰ろう。」「あと何分?」と親に訴えぐずり始める。
現実の姿はこっちがリアルなのかもしれない。大人の理想に黙って付き合ってくれる子供なんてなかなかいないものだ。

数々の家族サンプルを観察しているうちに、お父さん似の子供、お母さん似の子供、お父さんとお母さんの要素混合の子供などバラエティー豊かなDNAの神秘に思いを馳せるようになった。
DNAの調合具合は、誰にもコントロールすることができず自然の摂理にお任せしてのみぞ授かる命。なんと尊いことかとしみじみと考える。

いつか私も、私と将来の好きな人に似た子供と一緒に吉祥寺でお散歩がしたい。
そう思いながら吉祥寺の雑踏の中一人あてもなく人混みに紛れ足早に歩く。

「こんなところに美術館なんてあったんだ。この商業施設には何度も買い物に来たことがあるけど、知らなかった。」

いつも立ち寄る商業施設の入口で上を見上げた。

商業施設の入り口にさりげなく美術館の看板が出ているものの、意識しなければ見逃してしまうだろう。

商業施設の一階には洋服のセレクトショップのお店が並び、華やかにトレンドのファッショが陳列されている。

「美術館発見の記念に、せっかくだから寄っていこうかな。えーっと。美術館は7階かぁ。」

エスカレーターでワンフロアづつ上がる。

下の階までの賑やかさは消え、落ち着いた照明にレトロな落ち着いた雰囲気。

チケットを購入して中へ進む。

「浜口陽三記念室」 「萩原英雄記念室」の二部屋がある。

「どちらも聞いたことがない名前だなぁ。」

部屋には版画作品や版画の道具などが展示されている。

「版画かぁ。小学生の美術の授業でやったなぁ。」

スマホやカラーコピーが当たり前の時代で手間暇かかる制作工程がエモい。

イソップ物語を題材にしたカラフルな版画が壁一面に綺麗に並べられている。

「イソップ物語かぁ。小学生の時読んだなぁ。」

子供時代の感覚を懐かしく思い出す。
作品と照らし合わせながら作品に添えられたイソップ物語の説明文を読む。
大人になった今もハッとさせられる教訓がたくさんある。

一通りの作品を見終えて、そのまま展示会場を出るのは名残り惜しく、作品の前に置かれた芸術作品のような椅子に腰をかけて、ぼんやりと作品を眺める。
単にこの椅子に座ってみたかったのかもしれない。

「イソップ物語、将来子供ができたら読み聞かせしてあげたい。この物語には人生の教訓がたくさん詰まっているからなぁ。」

気がつけば展示会場には、他に人がいなくなっていて貸切状態になっていた。

版画作品の独占。
一人、美術作品に囲まれる温もりに酔いしれる。

「あぁ。心潤ったぁ。」

行き当たりばったりの美術館巡りもいいものだ。思わぬ出会いに得した気分になった。

外に出ると早々に美味しそうな匂いが、私の鼻に入り込んでくる。
この街は、街全体から鰻やラーメン、肉など美味しそうな匂いが漂っている。

食欲掻き立てられる匂いにおどらせられ、街に繰り出す。

女一人。
吉祥寺。

「ここは、女子力を上げてオシャレなカフェにでも入ろうかな。」

女子力をキーワードに選んだのが”からだにやさしいごはんとおのみもの”がコンセプトの「八十八夜」。

階段を上がりドアを開けると吉祥寺女子が好きそうな落ち着いた雰囲気のおしゃれな空間が広がり、女子達がしゃべる声が響き渡る。

「何名様ですか?」

店員さんに案内されるがまま席に着く。

一人で来ているお客さんは、、、、いない。

「ご注文お決まりでしょうか?」

周りのテーブルを見渡しメニューと照合する。からだに優しいをコンセプトにしているお店だから、ここはからだに優しいものを注文するのが正解だろう。

「サラダプレートをお願いします。」

普段からサラダを主食として生きている意識高い系女子を装いサラダを注文した。

「彼氏と最近どうなの?」
「実は同棲することになってさ。今は、毎週物件探しだよ。本当価値観が合わなくて毎日喧嘩。お互い譲らないから全く決まらないんだよね。同棲前に別れそうだよ。」

隣の席の女子の会話が耳に入ってくる。

独りの私はスマホをいじりながら、その女子トークに耳をすませ寂しさを紛らわせる。
女子会は、参加するより盗聴してる方が面白かったりする。もはや喧嘩ができる相手がいることすら羨ましい。私は喧嘩したくてもする相手すらいないぞっと心の中でぼやく。

ラジオ代わりに隣の女子会トークを聞きながら、からだにやさしいサラダを胃袋に押し込む。私の胃袋は草で膨らむ。

「しまった。写真撮り忘れた。」

一口食べてしまったけれど、フォークをおいてスマートフォンに持ち替える。食べかけのサラダの写真をスマートフォンにおさめる。

#着飾って美味しい美術館巡り


ファッシュタグをつけてSNSに投稿する。
せっかくの映えるサラダが一口かけてしまった。

独り女子の私は、お皿に食べ物がなくなると、おしゃべりする相手もいないので粘ってお店にとどまっているのも、気まずいのでお会計をして早々にお店を後にする。

お店を出るともくもくと目の前を煙が視界を遮る。
ただの煙ではない。やたらスモーキーでジューシーな匂いの煙だ。

煙を追いかけて辿り着いたのは、吉祥寺で有名な「いせや」。

「いー匂い。肉だ。肉。」

煙の奥で焼き鳥を焼くお兄さん達のシルエットが男臭くもセクシーだ。

美味しそうな匂いに誘惑されて、お店に入る。
周りを見渡すと一人のお客さんも多い。
一人であることが悪目立ちせず気楽だ。

「ぼんじり1本、かしら1本、レバ−1本とハイボールお願いします。」

さっき食べたヘルシーなサラダが一瞬で上書きされる。

ふいにカウンターの中で焼き鳥を焼くお兄さんを見ると、イケメンで驚いた。

アイドルのような整った顔に、頭にタオルを巻き、汗だくになりながら手際良く焼き鳥を焼いていく。

なんでこんなイケメンが吉祥寺で焼き鳥を焼いているのだろう。

何度見てもイケメンだ。

焼き鳥をリズムよく指先でひっくり返す手元も煙のスモッグがかかり、おしゃれなアーティストのミュージックビデオのようである。

本当にイケメンだ。
イケメンを見ながら食べる焼き鳥うめぇ。

お兄さんにうっとり見惚れながら、さっき街中で見た幸せそうな家族像を重ね合わせる。

「いやぁ。子供は、どっち似だろう??女の子だったらお父さんに似るのかなぁ。」

焼き鳥を食べながら一人ニヤニヤしてしまう。
家に1人で引きこもっていたら、そこで世界が完結して1人でいることに慣れてしまうものだ。
街に繰り出して色々な人を見るだけで、心の刺激となり、今自分が何を欲しているのかが分かったりするようだ。
感じることは、人生を生きるヒントになりそうだ。

「あ〜家族が欲しい。」

そして、ぐっとハイボールを喉に流し込んだ。

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#06 西新宿 都会に咲く花 《SOMPO美術館》

※本日の美術館※
武蔵市立吉祥寺美術館
http://www.musashino-culture.or.jp/a_museum/
※本日のファッション※                     mintdesigns(ミントデザインズ)
https://mint-designs.com
清涼感のあるハーブミントと「真新しい、希少価値ある」という意味を持つ言葉として「mint」をもちいたブランド。
※本日のグルメ※
八十八夜https://88ya.jp
いせやhttp://www.kichijoji-iseya.jp