#00 プロローグ① 日常生活
同じようなスーツ姿の学生がベルトコンベアに乗せられて、私の眼の前を次々と通り過ぎていく。
「この会社に入ったら、いくら給料がもらえるんだろう。」
「どこでもいいから早く内定が欲しい。」
「この会社に入社したら女にモテそうだな。」
「就職活動という名目の婚活。この会社なら、年収のいい男が沢山働いてそう。早く専業主婦になりたい。」
「他人と違うことってリスクになるんでしょ。みんなやってるからとりあえず。」
「全くイカれた就職システムでくだらない。古い物差しではかられる労働者根性と、同一性回帰願望のテストだって分かっていながらもここにいる自分って一体。」
「エントリーシートを写経のように手書きで何十枚も書かされるこのシステム。くだらない。」
目の前で不気味な作り笑いを浮かべる学生たちの心の中に渦巻く本音の声が迫ってくる。
「私の強みは、学生時代にアメリカに留学して培った、語学力とコミュニケーション能力です。」
「私は、学生時代に居酒屋のバイトリーダーをしていました。」
「御社を志望する動機は、御社の企業理念に感動したからです。」
本音と建前。
目の前でつらつらと発せられる言葉には、学生達の心の本音が透けて見えてくる。
三流俳優の演劇を目の前で見せられているような、気分になる。
落ちのない意味をなさない言葉が、抑揚なく発せられたお経のような音が延々と自分の耳を通過していく。
「みんな同じに見える。この中から一体どうやって選べばいいの…。」
次々と湧き出てくるスーツ姿の学生は、まるで映画マトリックスのエージェントスミスのようだ。
私は、一体何をしているんだろう。
学生の格好をしたエージェントスミスが、椅子から立ち上がり次々と私の方に歩み寄ってくる。
「社会人って本当に楽しい?」
「いくら給料もらって、その苦痛に耐えてるの?」
「夢って何?」
「今の生活に満足してる?」
「何のために働いているの?」
何人もの学生エージェントスミスが私に覆いかぶさり、その重みに私も耐えられなくなり倒れていく。
「っは!!!夢か!!」
時計は、深夜三時。
「夢の中でも仕事しているなんて。夢では、時間外手当はつかないから損した気分。もう少し寝よう。」
今年も採用面接の季節がやってきた。
この時期は、通常業務に加えて採用業務がプラスされるので忙しい。
出社して、席に着くなりデスクに積まれた大量のエントリーシートと通常業務の書類で埋め尽くされている。
帰るまでに、片付くのか…。
「うわ。誰これ?」
鏡を覗きギョッとした。
仕事終わりのこの時間、疲れ切った顔にメルトダウンしたメイクがかろうじてへばりついている。女が一番見醜い時間帯かもしれない。
最近、ちゃんと自分の顔見てなかったけど。五歳は老けて見える。
「ここのところ、残業続きで…「寝る」、「食べる」、「働く」という行動しかしてなかったもんなぁ。」
「疲れたぁ~。」
そして、今日も缶チュウハイを片手に寝落ちをした。
#00 プロローグ② 忘れかけてた何か へ続く
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