【Carp】松山竜平は天才か?

先日は野間選手の躍進についての記事を投稿しましたが、本当は最初にこっちを出したかった…。
が、なかなかこの記事が言いたいこと、伝えたいこと出せずにここまで引っ張ってしまいました。

ついに5月4日、2年ぶりのホームランを放ち、美しいバットフリップと力強いガッツポーズを見せてくれた、カープ一筋17年目を迎えるベテラン松山竜平
新人時代からドライチを差し置いてドラフト4位の松山が(ほぼネタ枠として)球団のキービジュアルに起用されたり、ヒーローインタビューなどの場では「代打職人」のイメージとは大きく異なる、明るく朗らかなキャラクターを披露したり、某野球ゲームでは全選手中最低の守備力だったり…何かとネタに事欠かない選手として知られているのではないでしょうか?
最近では打撃コーチの役割も担いつつあるようです。

そんな中、松山を記事にしようと思ったのは…
「打者・松山竜平」が好きだから。
不調時はセカンドゴロを量産するし、足も決して速くない。守ったら守備範囲は狭いし、ハンドリングも器用じゃない。
それでも才気と狂気が同居する天才的なバッティングは魅力十分です。
まずは、その才気と狂気が詰まった一打席から紹介していこうと思います。

1.絶対に知ってほしい一打席


私がこの打者に心を奪われたのは17年前。
2007年の大学選手権でのことでした。
1年生エース斎藤佑樹擁する早稲田大学と九州国際大学の一戦。0-2で迎えた9回裏二死一三塁。ここまで好投を見せてきた先発の右サイドハンド・松下建太(元西武)から斎藤にスイッチ。打席にはプロ注目の主砲の松山。
この試合の最後の最後に、大きな山場を迎えました。
鬼の形相で打席に立つ松山からは、気迫を感じ、「この打席でホームランを打って試合を決めるんだろう」「斎藤佑樹を沈めるんだろう」そう確信させるようなオーラをまとっていたように見えました。

2球で追い込まれたあとの、3球目を捉え、打球はレフトフェンスを直撃。
三塁ランナーが生還し1点差。同点を狙った一塁ランナーは本塁憤死で試合終了。
二塁ベース上で松山はヘルメットを叩きつけて悔しがる。
打たれた斎藤はゆっくりと歓喜の輪へ…
この両者のコントラストは何年経っても忘れないし、大学野球史に残るシーンだとも思っています。
※分かりにくいですが、一応動画がありました。

このシーンを見ると、闘志溢れるプレースタイルのガッシリした体格の強打者で、粗っぽい印象を受ける方も多いでしょう。


そんな中、当時の伊藤健治監督は松山について雑誌のインタビューで「川島慶三(元ソフトバンクなど)や下園辰哉(元DeNA)よりもセンスがある」と、九州国際大の先輩にあたる「三拍子揃った巧打者」タイプの両名を比較に出して、そのセンスを評価していたことも印象的です。
もっとも、アマチュア時代は50m6.0秒、遠投120mとも言われ、身体能力に優れたアスリートタイプの強打者だったという一面もあるようです。

2.プロ入り後の姿

1.先人との比較


プロ入り後は6年目の2013年から一軍に定着。2020年まで毎年2割8分、10本塁打程度をコンスタントに記録する好打者としての活躍はよく知るところでしょう。あるときは4番打者として、またあるときは代打の切り札として、「チャンスで印象的な一打を放つ選手」という印象が一般的ではないでしょうか。
ただ、チャンスで印象的な一打を放つという能力は、定量的に捉えるのが非常に難しいところです。
我が国では古くから「得点圏打率」という指標を崇拝する土着の宗教があるとかないとか言われていますが、米国では「運」の一言に片付けられることも珍しくありませんし、そもそも1点を争う試合と、10点差の試合の「ランナー二塁」が同じ価値として扱われてしまうので、やはり定量的に判断する材料としては説得力に欠ける印象を受けます。
なのでひとまず、別の切り口から。彼が残したトータルの数字を、彼と似たタイプで、似た起用法で活躍してきた選手と比較してみようと思います。

比較対象はこちら。
時代の差こそあれど、各時代で左の代打の切り札を担いつつ、チーム状況によっては中軸で勝負強いバッティングを披露した強打者たち。西田真二、浅井樹、嶋重宣との比較をしてみようと思います。

4選手の比較

レギュラーとしての稼働が比較的多かった嶋と松山は西田、浅井と比較して積み上げ系の記録で差がついていますが、率系のスタッツは4人とも非常に似ています。全員素晴らしいバッターではあるのですが、これだと松山の凄さは伝わりませんね。せいぜいK%とBB%が低く、「当て勘の良い打者」というぐらいでしょうか。
実際に、「待っていないボールでもバットに当たってしまう」という常人には理解出来ない弱点を抱えているあたりに「天才」を感じてしまいますが、どうにかして、松山の天才性を数字で示したいと思います。

2.数字では測れない価値

長きにわたってカープの中心打者として活躍し、多くの若手から慕われる選手ながら、主に以下のような理由でセイバーメトリクスの視点では非常に評価の低い選手と扱われることも珍しくありません。
・長打力が秀でておらず、スピードも乏しいためIsoPが低い
・三振と四球が少なく、IsoDが低い
・守備位置は1Bと両翼に限られる
このように、全盛期の2017~18年でも、DELTA社算出のWARは3.2、0.7と活躍の印象度の割には低い評価となっています。

ただ、MLBでもポストシーズンにやたらめったら強く、球団の殿堂入りまで打診されたデービッド・フリースのような例もあり、スタッツの優劣”のみ”が選手の価値を判断する材料になることは世の東西を問わず「ない」と言ってよいでしょう。
松山の場合は、勝負強さという得体の知れないものに加えて、若手の模範となっているところも価値と言えます。

3.結局何がすごいのか?

「Clutch」という勝負強さを示す指標があります。
Clutch=WPA÷pLI-WPA/LI
つまり、他の選手との比較でなく、重要な場面での活躍が、普段の活躍とどのくらい差があるかというものです。
得点圏打率と同様に、通常時よりもサンプルが小さくなることによる成績のブレという認識が強く、運の要素が大きい指標と言われています。
しかし、リーグ全体という大きなサンプルで見ると、毎年-20程度の大きなマイナスとなります。
このClutchという数値がリーグトータルでプラスになったことは過去10年で2016年のセリーグのみで、他の9シーズン、19のリーグではマイナスとなっています。選手一人ひとりではブレがあっても、基本的にマイナスで然るべき値ということが言えそうです。
代打の切り札が登場するのは終盤ですからセットアッパーやクローザー、場合によってはワンポイントの左キラーといった優秀なリリーフ投手が相手であることが多く、また、ランナーのいるケース(特に得点圏)での出番も多いはずなので、より投手としては力が入る場面です。
単に精神的な強さ弱さだけでなく、難敵相手にどれだけ戦えるかという部分も代打のこの指標には表れると考えています。

その指標が代打として30回以上起用された6シーズン中3シーズンでプラス。代打の切り札として、これだけの結果を残す選手は稀です。
例えば、川端慎吾(ヤクルト)が代打で20回以上起用された6シーズン中2シーズン、角中勝也(ロッテ)が同じく代打で20回以上起用された4シーズン中1シーズンのみと、厳しい場面で登場する打者が安定してこの指標をプラスにするのは難しいのではないかと考えています。
※松山が20回代打起用された2017年は387打席に立っており、代打が主と言えないため30回以上としています。
場面の重要度という概念はある程度定量的だとは思うのですが、具体的にこう、と説明する能力が今の私にはないので、

「運の要素を超えて勝負強い選手」とここでは結論付けたいと思います。

じゃあ、勝負強いって何?となるのですが、殊にこの選手の場合、燃える場面で120%の力を発揮できる、というのが最も適切な表現になるような気がしています。

2008年のビジュアル。このどこかに松山が隠れています…

何度も見たいこのシーン。


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