私の"やる気スイッチ"は大学生にあった
いつかの夏が終わるころに、ひとりの学生バイト"プヨくん"が「友達にここのアルバイトを紹介したい」とポロリとこぼしました。
たしかにここでのアルバイトは楽なのです。
学校や部活やサークルに生きたその若い身体で深夜に出勤し、ほんの少しの接客と警備とは名ばかりの簡単な事務作業をこなし、2時間の仮眠を挟みながら朝を迎えるだけで1勤務につき10000円ほどの収入を得ることができます。
当時ノリに乗っていた弊社はすぐにプヨくんの友達の"ポヨくん"と"ピヨくん"を簡単な面接をしたのちに即採用としました。
彼らは3人グループという訳ではないがプヨくんと同学年の医大生、卒業就職を目前にほんの少しのお小遣いが欲しくなったようでした。
プヨくんとポヨくんは私より2歳年上、ピヨくんは私と同じ歳でした。
この時に出会ったポヨくんとピヨくんがその後の私の人生の中でうっすらとやる気スイッチとなってくれています。
ポヨくんはguでのバイト経験を生かして接客するも決め台詞がすべてguになってしまうフワフワ系の26歳男性、ピヨくんはファッション好きで外見は陽キャだが天才肌の根暗24歳男性でした。
結局、彼らを雇ったすぐあとに経営が悪化し、彼らの出勤は卒業までの半年ほどの間に一人あたり10日もなかったように思います。それでも彼らは「良い社会経験をした」と得意げに卒業し、無事お医者さんになったのです。
そもそも部活や試験で出勤希望日が飛び飛びで、任せられる仕事を与えられそうになかったため出勤日のほとんどを私が相方となりサポートしていました。
未経験の彼らでも仕組みが解ればできるような作業を与え、飽きたら居眠りするように促し、手遊びをしてネットサーフィンをして世間話をすれば朝がやってきます。
時に放置して黙々とひとりで作業をしたり、社会人の辛さを話したりなどすると"社員さんの横にいるオレ"となにか張り切っているように見えるのが堪らんのでした。
私は夜勤中仮眠を取ることはあまりないので基本的にパソコンの前にずっとおります。そうすると彼らも負けじとずぅーっとパソコンの前に居座り、なにやら黙々と作業をしているように見せかけているのでした。
ポヨくんなんて度々私に向かって「毎日働いていてすごい」だとか「年下なのに社会人として大人の振る舞いをしていて憧れる」だとか、私にとってはもう当たり前となっていたことを驚くほど褒めてくれるのです。
社会人の私にとって当たり前だったことは、学生の彼らにとっては"すごい""やばい"ことだったのです。
そりゃあ、私だって高校生のときはこうして毎日ちゃんと規則に則って働いては休んでお金を回していくなんて考えてもみませんでした。父や母やいままで見てきた大人たちのように"経済をしている"のは学生だった頃の私にとっても"すごい""やばい"ことであります。
24歳既婚にして改めて言われると泣けるような嬉しい話でした。学歴コンプレックスのある私にとって憧れであるキラキラ大学生に、口先だけでも褒められたのです。
彼らとの最後の思い出はそれぞれから送られてきたLINEにありました。ピヨくんのLINEがとてもよかったのでここに書かせてください。
「 (略) 短い間でしたがお世話になりました!
割とゆるーく、しかし早く完璧に、後輩に優しい姿は社会人として学ぶべきところが多くありました。
またお世話になることもあると思いますのでよろしくお願いします^^
ありがとうございました!」
だって今後ピヨくんと関わること一生ないもん!(たぶん)
なのに"またお世話になることもあると思います"なんて後輩みたいなことを言えるんだもの、こいつぁ立派なお医者さまになるなあとしみじみしたのです。
ゆるいが完璧でありなおかつ優しいという、私が日頃から心がけ目指しているところをしっかりとおさえていらっしゃることにも大変驚きました。本当にこの子はまだ芽の出ていない天才であると確信しました。
思えば、いま夫となった人も大学生のころ年下の私が社会人として生活していることを細かく褒めてくれたりしていました。
18歳から働いている私にとって、同じ歳もしくは年上の大学生に褒められた事実は今後も私の気持ちを奮い立たせてくれることと思います。
上司や同僚に褒められるのとは訳の違うこの感覚、26歳を迎えるアラサーになって、これからはもう味わえないのかと悲しい気持ちにもなります。
次の快感とは、大人のやる気スイッチとは。
人生100年時代をどう駆け抜けるのか、課題はなくならないのでしょう。