無一文

なるべく、人に優しく生きてきたと思う。

それは自分にとっての利害に関係なく、辛い気持ちを抱えた人間はすべからくして優しくされるべきであると思うし、善意でその人を救えるなら助けるのが当たり前だと思っていたからだ。

けれど、誰かに優しくしたところでそれが自分に返ってくるとは限らない。利害に関係なく、と前述しているのにこんなことを言うのはおかしいかもしれないが、自分に助ける価値がなかったり、優しくしてやろうと思ってくれる他人がいない限りは、誰かが救ってくれるということはない。


だからと言って人に優しくするのをやめようとも思わないが、人にとって他人のことはやはり他人のことなのである。


亀を助けて竜宮城に連れて行ってもらったり、鶴を助けて反物を織ってもらうなんていうのは道徳を刷り込むためのフィクションに過ぎない。ダメな人間は鶴を助けようが亀を助けようが、何も返ってくることなく孤独なまま死に腐っていくのがノンフィクションだ。


幼児のように泣けば誰かが助けてくれるほど、世の中は甘くない。

簡単にSOSが出せる友人がいる人は本当に恵まれている。それこそ価値のある財産だ。

私は無一文で生きてきてしまった。

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