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なんでもないこと
出勤時に、いつも神社の前を通っている。そこは有名な神社の分祀で、敷地面積も大きく、その神社の通りだけ街路樹が植えられている。
街路樹のおかげで、その通りは陽が当たりづらくて、薄暗い。かといってじめっとした雰囲気でもなく、どこか神秘的な雰囲気のある道になっている。
毎朝、その道では街路樹の散った木の葉を箒で掃いているおばあちゃんがいる。そしてその隣には、なぜか2匹の鳩がうろうろしていて、道に落ちているごみらしきものを漁っている。
私はその光景がとても好きで、その様子をみたいがために、わざとこの道を通っている。早く職場に着く別のルートも知ってはいるのだが、このおばあちゃんと、鳩をみると今日もがんばろうと思えるのだ。
その道は人通りや自転車の通行も多いため、落ち葉のせいで滑りやすくなっている。おばあちゃんはどこの誰かも分からない他人が、この道で事故を起こさないため、もしくは、この神社の敬虔な信者なのかもしれないが、毎朝この日課をこなしているおばあちゃんが素直にすごいと思う。
いつもその道をうろうろしている鳩も、朝から腹をすかせているらしく、道に落ちているものをついばんではペッと捨てる様が、なんとなく可愛く見えて、朝からほわほわしていた。
しかし最近、おばあちゃんと、2匹の鳩を見なくなった。
おばあちゃんは、もしかしたらインフルエンザにかかっているのかもしれないが、鳩はどこに行っているのだろう。
調べてみると鳩は冬眠しないらしく、冬になると温かい場所に移動するらしい。恐らくつがいであろう2匹は一緒にぬくぬくの地へ行ってしまったのだろうか。
薄暗くて寒い道だし、人通りの割に餌も落ちていないから、鳩は2匹で話し合った結果、引っ越したのだろうか。
私は後悔している。
私が毎朝歩きながら食べているベーコンチーズマヨパンの破片を鳩に毎日あげていたら、鳩はあの道にずっといたのではないのかと。
おばあちゃんと、鳩にとって私はただの通行人に過ぎない。
どれだけ四季が変わってもずっとそこにいると思っていたから、いなくなってはじめて道の暗さに気持ちが沈んだ。
なんでもないただの風景に、自分がこんなにも救われているとは思わなかった。今度おばあちゃんに会ったらお礼を言おうかな。鳩にはパンくずあげようかな。迷惑になっちゃうかな。