7月31日 語る言葉を持たない 小笠原旅行1日目
体痛えなぁと何度も起きながらも、ぱきっと目が開くと7時前だった。そんなに寝不足の感じはない。結構時間経ったな、結局本もそんなに読んでいない。でもまだ、到着まで4時間くらいはある。
ラウンジに朝ごはんを食べに行く。おにぎりセットだなと思いながら並び始めたのに、本日のサンドイッチのベーコン、チーズ、塩、オリーブオイルに心揺さぶられる。並べられたサンドイッチから見える赤は全てベーコンの赤なのか、それとも半分はトマトの赤なのか。生のトマトが苦手な自分にとって、それはとても大事な見極めだった。おそらくベーコンのみだ!と思い、サンドイッチセットにして、セットのドリンクかスープはミネストローネにした。火が通ったトマトは好きだ。
席は右舷、西側に座った。眩しいのは苦手なので。外を眺めながらサンドイッチを食べる。素直な味。
外を鳥が飛んでいる。デッキに出て近くで見てみる。檸檬色のくちばし、真っ白なお腹を見せながら、黒に近いグレーの翼を真っ直ぐにのばして滑空している。空飛ぶペンギンみたいだと思った。
船内に戻って、言葉で表現しようとスマホと向き合う。すると上みたいな文になった。ホントにそうなのか。もう一度ちゃんと見てみる。くちばしは先端が白で、付け根がほのかなクリームレモン色、お腹の白は翼の中ほどまで広がっている。くちばしの白とお腹の白に挟まれてグレーのチョーカーをしているように思う。くちばしと同じ色した足は流線形に沿う様に折りたたまれている。遠くで見るとかわいい目も、近くで見ると何を考えているか分からなくて怖い。
あ!お腹までグレーなヤツもいる!仲間はずれのヤツを見つけるのがなんだか嬉しかった。誰も、船に降りて休むヤツはいなかった。おれならそういうことをしてしまう気がする。
群れで飛ぶ鳥のフォルムを見ていて、ブルーインパルスの曲芸飛行に惹かれるのはこういうことなのかもしれないと思った。それから、フォックスに見えて、大乱闘スマッシュブラザーズを思い出したので、そろそろ潮時かと思い、船内に戻った。隣の人の話が聞こえてきたけど、今飛んでる鳥はCHUMSのモデルらしい。なるほど。
デッキで本を少し読んで、やっぱり鳥が気になって外に出てを繰り返した。
海に何かが漂っているのが見えた。メッセージインアボトルかも、いや多分ゴミだろうけど。船は必ず港に辿り着くと思った。
時折、癖でスマホを手に取ったけど、どこにも繋がらないそれはただの箱でしかなくて、手癖で開く時の自分を満たすことはなかった。
今日使うものをリュックに入れて、使わないものをスーツケースに入れる。あ、やっぱあれ必要だ、もう一回スーツケースを開ける。を4回くらい繰り返した。1回で済めばいいのにと思うけど、1回だけだと、ただたくさん忘れ物をするだけになる。
着岸した。高級な部屋の人から順に呼ばれる。自分の番になった。船から通路、通路から島の段差に車輪が引っかかりながら上陸した。意外と東京と比べると涼しい!と言いたかったけど、そこまでであるはずはなく、むしっと、でも嫌というほどでもなく、陽が明るかった。宿の人を見つけ、荷物を車に載せる。ちょっと調子に乗った感じのがいいと思って買った青みがかったサングラスを付けるのが嬉しかった。
まずは腹ごしらえすることにした。サメバーガーの気分だった。ドリンクはレモネードにした。サクッと食べれる軽さが今日のお昼ご飯にぴったりだと思った。
宿の人に自転車で回ろうと思ってますと言ったら、原付がいいっすよと言われて、原付を借りに。今日はもう予約でいっぱいだった、なんなら普段から乗ってる人しかダメだった。電動自転車を借りた。
まず、街をフラフラしてみた。スーパーに入る。人参は安い、他は高い。ギョサン(滑りにくいビーチサンダル)を買った。これは現地で買おうと思っていた。郷に入っては郷に従え。
今日はナイトツアーに行く予定。19時にピックアップに来てくれる。まだ12時。どうしよう。マップを見て、少し離れた景色が良さそうな所に行くことにした。電動自転車、ぐんぐん進む。坂道もあまり気にならなかった。
片側が工事中で、仮設の信号があった。止まる。後ろから車がやってくる。そういえば、品川ナンバーばっかだ。ここは品川なのか。先に車を通してから進む。うねうねした曲がり道をそれでも電動自転車ですいすいと進む。時折景色が開けて、山や街が見えて、うわーっとか言う。
展望台の近くに着いた。なんだこれは、綺麗過ぎる。
表現する言葉がない。
展望台に行くと、さっき先に通した車に乗った方達。あまりの景色の綺麗さに感動して、気分も軽くなりお喋りする。島で働く娘さんの所に、お母さんが旅行でやってきたとのこと。色んな島を転々と過ごしているらしい。うらやましいな。
今日はウミガメの放流がありますとか、このお店美味しかったですよとか、夜は庭のようなところでみんなでお酒持ち寄って飲んでますとか、お役立ち情報をたくさん頂く。プランを決めてない旅はこれが面白い。しかし、今日はナイトツアーがあるんだよな。展望デッキでやたら鳥を見ている集団がいたけど、バードウォッチングのツアーで、乗ってきたフェリーにそのまま乗って今日折り返すらしいということをお母さんの方から教えてもらう。そんな贅沢な楽しみ方があるのか。いや贅沢なのか?
この道の先を進んで街に戻ろうとすると相当遠いみたいなので、天文台を見て折り返すことにした。
その後も、展望台がある度に、いちいち感動する。この後19時まで外にいて、ナイトツアーもあって体力持つだろうか。
天体望遠鏡を見る。説明書きに壮大な宇宙のことと、それを可能にする小さな単位のことが書いてあって、途方に暮れてしまった。ここに泊まり込みで来る研究者の方はどういう気持ちなんだろうか。
展望台まで向かう道、木がアーチのようになっていて、そこを進むのがとても気持ちよかった。廃墟があったけど何か分からなかった。
ここで折り返す。行きは上りが多かったから、帰りは下りで気持ちいいだろうと思ったが、とてつもないスピードが出て「ぎぇぇ〜」とか声が出てしまった。日常では出てこない言葉。めちゃくちゃブレーキかけながら下ったので、そんなに気持ち良くはなかった。
この通りは夜明道路と言うらしい。良い名だ。
さぁこれからどうしよう。お腹もちょっと痛い。小笠原海洋センター900mの看板。そちらに向かった。お腹痛い、急げ。センターに着くと、水槽ご自由にご覧下さいだった。
いっぱいウミガメがいた。大きなウミガメがプールの端っこをずっと往復している。すいーっと離れていく姿を見て、そりゃこれに乗って竜宮城に行く想像もするわなと思った。
隔離されているウミガメがいた。ギリ乗り越えられそうで乗り越えられない。係りの人に聞くと、隔離されているウミガメはいじめっ子かいじめられっ子なのだそうだ。
水槽の隅に向かって泳ぎ続けている子がいた。その振る舞いがエラーのように見えたが、もっと広い所に行きたい当たり前の振る舞いだよなと思い直した。
一旦街に戻る。このまま動き続けると倒れてしまうと思い、カフェに入って塩プリンとホットコーヒー。プリンは孵化できないウミガメの卵を使っているそうだ。あまり癖は感じず、塩の後ろ側に少しだけ気配を感じた。レゲエが流れていた。
入れる海に行きたいと思い、宮之浜へ向かった。足を海に浸ける。ほんのり冷たい。ギョサンと足の間に砂粒が入ってきてまぁまぁ不快だ。海にちゃんと浸かるのは明日にして、すぐに上がった。ウッドデッキに座り、小原晩さんのエッセイを読んだ。陽が照ってきたので、柱に身を隠す。海が斜め後ろになる。波の音は聞こえていて、贅沢な時間だと思った。今日の日記を書く。
17時過ぎ、そろそろ行こうかと準備をしているとイヌがやってきた。
帰り道、行きとは違う道を選んだ。多分良いと思った。こういう時の直感は当たる。街、山が一望できる道を下りながら街へ戻った。
明日の朝ごはんと飲み物を買う。ネオバターロールと、ミートボールを買って、挟んで食べることにした。挟むならバターは余分かもしれないと後で思った。
先ほど会った方に教えてもらったお店へ。ボードに書いてある時期のメニューか、定番メニューか。めちゃくちゃ悩む。悩んで悩んだ末に、本日のオススメ、チギフライ定食に、島ズッキーニのみぞれやっこをつけることに決める。チギフライ定食でと言うと、チギのあら炊きも付けれますと。そんなこと言われたら…。結局、チギフライ定食あら炊き付きにした。
あら炊きの大きさに驚く。チギフライはしっとりしてふわふわで、ソースでもタルタルでも塩でもレモンでもそれぞれで違った魅力を見せてくる。干しパパイヤの溜まり漬けも良い味出してる。バクバク食べる。ヤバいナイトツアー寝てしまうのではないか。
ナイトツアー。陽気なおじちゃんとの2人旅になった。昼に見た望遠鏡がライトアップされて違った表情。
あぁ、あの廃墟は昔発電所だったのか。中に入って、タービンが置かれていた場所に思いを馳せた。旧日本軍が掘った洞窟。それを知ってから、夜明通りという名前が違った意味を帯びて感じられる。
光るキノコ、グリーンペペは雨が続いた後にしか見られないらしい。昨日雨だったものの厳しいかもしれず、色んなポイントを回る。キノコにはなってない胞子がほんのりとでも確かに光っていた。
オオコウモリを探す。オオコウモリはフルーツを食べるのだが、実をぼろぼろ落とすらしい。何度か空振りの後、実が落ちる音と鳴き声がする木があった。いた。確かに哺乳類だ。赤いライトで照らすとザクロの粒のような目が見える。タコノキの実をチュウチュウと吸っている。2匹がじゃれあうように、奪い合うように食べている。見始めた時には半分近く残っていた実がもう残り少しになっていた。この木の下だけ落ちた実だらけになっている。今日はこの木が食べ頃らしい。
小川にウナギがいた。
空は無数の星だった。語る言葉を持たない。
宿に着く。共用スペースの説明を受ける。シャワーを浴びる。明日も早いから早く寝ねばだけど、今日着た服のベタつきがすごく、明日はまたどうなるか分からないので、洗濯することにした。明日の荷物の準備。洗濯物を干す。寝ればいいのに、なんだか寝られず、日記を書く。さすがにそろそろ0時22分目を瞑ることにする。