グラウンドホッグ
「人間達はいったかい」
「いったと思うよ」
道路沿いの排水溝から、小さな鼻が突き出た。長いヒゲを揺らしながら周囲を警戒するように辺りを見回して、また引っ込む。
「ほんとうだろうね」
「そのつもりだよ」
今度はもう少し堂々と、しかしやはり慎重に、鼻、ヒゲ、そして顔の順に日の光に照らされる。薄茶色とまばらに灰色が混ざった毛皮がきらきらと輝く。そして短い手足を小刻みに動かしながらヒゲを整えると、俵形の体を揺らしながら排水溝から這い出た。
もう何年も舗装されていないであろう、ひび割れ、たくましく生命がお生い茂るコンクリートが熱でゆらぐ。
「今日はどうにも暑いね」
外に出た一匹目が、うな垂れながらぼやいた。
「日が照ってるからね」
続く二匹目も日差しに気圧されるように目を瞑りながら答えた。
「日が照ってても寒い日だってあるだろう君」
「ないよ」
「そうなのかい」
「そうだと思うよ」
「なら仕方ないね」
くしゃ
「むむ、これはなんだい」
一匹目は自分の足が踏んだ植物の名を尋ねた。
「たんぽぽの葉だよ、食べられるよ」
「美味しいのかい、ぼくはたとえ食せても不味けりゃ口になんてしないよ」
「美味しいと思うよ」
「ほんとうだろうね」
「そのつもりだよ」
二匹目がそう伝えると一匹目は恐る恐る、たんぽぽの葉の香りを嗅いだ。ひくひくと鼻先を動かすと爽やかな緑の香りが鼻腔をつく。二匹目は思わずほころぶと、一口、そしてまた一口とかぶりついた。そしてあっという間に地上に出ていた葉を食べ尽くすと、小気味の良い舌鼓を打った。
「おどろいた、毎日でも食べたいぐらいだよ」
「そっちにもあるよ」
「今日は気分がいい、そっちは君にくれてあげるよ」
一匹目はそう言うと、すぐさま別の葉にとびついた。
暖かい風が通り過ぎて、二匹の毛がなびいた。土と、花と、緑の香りが地面をなでる。