農業から学んだこと(その2)・・・「教えることは学ぶこと」
農業高校の教員時代に教えていた生徒が、環境大賞として県知事から表彰された作文です。
「教えることは学ぶこと」、そんなふうに思います。
7月15日投稿の「農業から学んだこと(その1)」の続編です。
最初にそちらからお読みください。
この作文は、生徒が読売新聞社の「農業に関する想い」(そんな感じの)コンクールに応募したいというので、いろいろなテーマを与えては書かせて、それをまとめて推敲してという手順で生徒が書き上げたものです。
良くできた作文だなぁと思いながら、生徒と一緒にポストに投函したことを覚えています。「せめて、参加賞で新聞社名が入ったボールペンでもくれないかなぁ」位に思っていたのですが、いつまでたっても連絡が来ません。
仕方がないので読売新聞静岡支局に連絡したところ、一次審査で選考から漏れ、そのあと県代表を決めて全国審査も終了し、表彰も終わっているとのことでした。
全国表彰の作文を読んだところ、昔のNHK「青年の主張」「青春メッセージ」のような、「私は農業で生きていきます!」みたいなものが表彰されており、一次審査で選考から漏れたのも致し方がないかなぁと思ったものでした。
そんな反省をしていた時に「環境大賞」というコンクールの案内が来ました。
そこで、生徒が書いた作文をそのまま応募したところ、最優秀賞に次ぐ優秀賞をいただきました。なんと副賞は30万円です。
表彰式の当日は、自分の都合がつかなかったので、生徒は担任の先生と一緒に県庁に行き静岡県知事から直接賞状と副賞の30万円をいただきました。
静岡県立小笠高校は総合学科で、生徒が関心のある授業を選べます。
この生徒は3年生の時は授業の半分近くが自分が担当する事業を選択していました。
教えていながら、実は生徒から教わっていたんだなぁと思います。
7月15日投稿の(その1)の続編です。
農業から学んだこと
静岡県立小笠高等学校 3年 中林由佳
高校の農業の授業で野菜を作ることで、いままで食に関して当たり前に思っていたことに、いろいろな疑問を感じるようになったのですが、それ以上に、うれしい発見がたくさんありました。
一番痛感していることは「収穫してすぐに調理や加工して食べることほど贅沢なことはないんだ」ということです。
今はグルメブームで『こだわりの料理』が大流行です。世界各地や日本全国からおいしい食材や珍しい食材を見つけてきたり、自然農法や有機農法といった特殊な作り方をしている食材を集めてきたりして、一流の職人が心を込めてつくるのがこだわりの料理とされています。でも、私は本当のこだわりの料理とは、自分が育てたり、自分が畑に出かけて収穫したりした旬の食材を、その場で自分の手で料理することだと思います。
『食は文化』といいます。大阪のたこ焼きや広島のお好み焼きや香川のうどんがおいしいのは、瀬戸内海性気候で雨が少なく、その場所で小麦が作られていたからであって、おいしいうどんを作るためにオーストラリアに小麦を捜し求めるのは本末転倒です。
『旬』と言う言葉の意味も野菜作りを通して知りました。日本には四季があって、その時その時にあった食べ物があります。夏におでんを食べないように、冬にそうめんを食べないように、その季節には季節に合った野菜があるはずです。「インカ帝国で太陽の贈り物といわれていたトマトは太陽が大好きなんだ」という話を聞きながら食べた真夏の真っ赤なトマトの味や、白菜を漬け物にするために洗った真冬の水の冷たさは今でも忘れません。旬の野菜はとてもおいしく新鮮で、そこにドラマがあります。栄養素も旬のものと、そうでないものでは違うはずです。
農業を体験してみて私は人の生き方についても考えさせられています。
農業を学習する上で大切なのは責任を持つことです。畑に種をまいただけでは農作物は育ちません。国語や数学や英語の授業では自分が休んだり、手を抜いたりしても困るのは自分だけですが、農業の場合は自分が休むと植物がうまく育ってくれません。わき芽とりや誘引はめんどくさいし、暑い日の実習や草取りはいやだなと思ったけど、他の人はやってくれないし、大変なことでも自分がやらないといけません。植物はとても正直です。うそをつきません。やるべきことを責任もってやってあげないとうまく育ってくれないのです。
反面、「正しいことはひとつではない」ということも農業の面白いところです。肥料をやる回数や量を少し変えたり、農薬の種類を変えてみたり、まだ農業の初心者である私には自分なりの工夫としてやれることは少しなのですが、植物の生理や作業の目的を考えながら自分なりに工夫できることはとても楽しいことだと思いました。マニュアルはないといけないけど、それに縛られる必要はないということは、人と人との付き合い方にも共通することだと思います。
総合学科の高校に入学して農業に接してみて、私はいろいろな考え方ができるようになったと思います。
私は将来調理師になることを目指していますが、自分で育てたり自分で見つけたりした旬の食材を使って、食材に愛着を感じながら、おいしい料理を作りたいと考えています。そして、自然に感謝でき、人間味があふれた、責任感のある大人になりたいと思います。
「農業から学んだこと(その2) 」
第1版 2024年7月17日発信
オーガニック農園 株式会社 しあわせ野菜畑
代表 大角昌巳