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霜花——漂泊と残紅 1

 目蓋のうえに強い光を感じて立ち止まる。今夜は満月だったっけ。叢雲に暈*を落としてただ浮かぶ皓い*月は、私の、きっと心といわれるところをぎゅっと締めつけて微細に顫わせる*。自然に口許が弛んで、そのまま体が蕩けて*、溶解してしまいそう。精神は、私の身体の形容*のまま青い半透明になって、私からぬらりと離れて、宙*を遊び歩いていく。
 かくんと、首を折って頭を空に挙げた。しかし、それは月じゃなかった。ただの街灯の明かりだった。にわかに私は情けない顔をして、嘘の光のなかに肩を落とした。やにわに惨めな、投げやりな気分が、浮ついた精神の隙間の底からどっと涌いて*、観じた。「もう、どうでもいいや」
 澄んだ黛*が直線に落ちた光に這入って、私の間違いに解けた*躰*を緊縮させた。私はまた、ふらふらと歩いて消えた。

*(ルビ)
暈……かさ
皓い……しろい
顫わせる……ふるわせる
蕩けて……とろけて
形容……かたち
宙……そら
涌いて……わいて
黛……あお
解けた……ほどけた
躰……からだ


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