企業の知財部と特許事務所

特許事務所に所属して出願書類を作成している時には、企業の知財部の求めるものがいまいちわかりにくいと感じたり、どこを評価されているのか等がよくわからないという気持ちで仕事をしていました。

どちらかというと、自分としては、よくできたと思う出願書類を作成していても、企業の知財部の方からは、考察に時間をかけた部分や表現等よく理解してもらえていないことが多いと感じていました。

一方で、企業の知財部で仕事をしていると事務所の送ってくる出願書類って完全に満足できるものはほとんどなく、どこかに不満を抱えたまま出願を進めることとなります。

どうして、こんなことが起こるのかと思っていて考えてみると、以下のような理由があるのかと思います。
1. 企業側は、すべての情報を特許事務所には伝えていない。
2. 企業側は、出願にかかわる人の知識量やレベル、狙い等が必ずしも統一されていない。
3. 特許事務所は、時間との兼ね合いもあって、最高のものを必ずしも提供しようとはしていない。
4. 特許事務所は、事務所独自のスタイルや考え方のようなものがあり、企業が望まなくともそのスタイル等を押し付ける傾向にある。
5. 企業の知財部のメンバーは、ほとんど出願書類作成を本気でやったことがなく、ポイントや特許事務所の考えが理解できない。
6. 特許事務所の知識や経験範囲が狭い場合も多い。

1.企業側は、すべての情報を特許事務所には伝えていない。
これは、打ち合わせの時間という意味もあるし、出願に必ずしも関係しない部分について、どこまで開示し、伝えるかという意味もある。
打ち合わせの時間は有限で、この事務所なら大体これくらいの説明で分かってくれるだろうという推測で説明を行う。しかし、必ずしも相手の状況が適切に把握できているわけではなく、特に企業側はその分野では技術や内容等をよくわかっているので、割と説明を簡単にしがち。ずっと、同じ人が出願書類を作成するならともかくとして、新人や途中でヘルプに入ったケースなどでは、いまいち説明が足りていなかったりする。
また、企業側の方も、限られた時間で説明していくこともあって、発明者等の判断で重要ではないと感じた部分をほとんど説明しなかったりする。さらに営業秘密等もあり伝えるのに適切ではない内容もある。しかし、特許事務所の人は企業側の人間が思うより技術や内容、業界のことを本当の意味では知らない。その分野の研究や開発をしているわけではなく、この辺りは説明しなくてもあんまり関係ないからくらいの範囲でも説明が必要な場合もあるし、自己判断で発明者が説明しなかった部分に特許事務所から見ると、大事なものが含まれている場合もある(場合によってはのちのOA等の対応や訴訟対応でキーになるものもある)。

2.企業側は、出願にかかわる人の知識量やレベル、狙い等が必ずしも統一されていない。

企業では出願に多くの人がかかわるケースが多く、特許や技術、業界や技術動向等の知識レベルがバラバラである。企業によっては、知財部と開発の距離が近くなく、ほとんど知財部は開発内容のことをわかっていない場合もある。知財部の中でもいろいろと役割が細分化しているところも多く、発明発掘と出願対応等でグループが分かれていると、発掘の方で考えていることが出願グループとは異なる場合も多い。
このような状況で、特許事務所と打ち合わせを行うと、特許事務所へ伝わるのは方向がバラバラになった話になってしまい、特許事務所の方では発明者優先か知財部優先か等、割と困る場合もある。
これに、ほかの部門が絡んでくると、さらにバラバラになることもある。こういった点を加味してすり合わせを行う場合もあるかもしれないけど、ほとんど同じ説明を何度もすることになるので(発明者は、知財の人に説明し、事務所の人に説明し、、、場合によっては開発の上司等に説明し、、、)、無駄が多い。
こういった事情もあって、すり合わせもしっかり行われず、企業の関係者の方向がばらばらな状態で出願を進めることとなる。

3.特許事務所は、時間との兼ね合いもあって、最高のものを必ずしも提供しようとはしていない。

特許出願を行って、いくらという形で対価の支払いがなされることもあって、発明のポイントの部分はしっかり記載するけど、ポイントから外れるにしたがってどの程度記載しておくか等は迷うところかと思う。ポイントから外れた箇所の記載は、OAでの対応に役に立つ場合ばかりではなく、しかも時間がかかる。こういうこともあり、ポイントから外れた場所の記載は薄くなるのが一般的かと思う。
しかし、企業の立場では、侵害訴訟や外国出願では思わぬ攻撃を受けたり、想定外の部分で他社けん制をやる場面もあり、ポイントから外れた部分がもう少し厚く記載していれば対応しやすかったのにと思うこともある。
事務所の方は、時間との兼ね合いもあって、ポイントから外れた場面で起きるかもしれないことを想定していたとしても、発生確率の低いことまで考えて記載していたら効率が悪く、したがって最高のものを作成するというよりも、最低限のものよりももう少しだけ良いくらいのレベルで出願原稿を送ったりする。

企業は、大事な場面になっても、特許事務所からの出願書類を確認して出願指示を出した以上、事務所のせいにはできない部分もある。本当に大事な場面に限ってこういったことになる場合もある。

4.特許事務所は、事務所独自のスタイルや考え方のようなものがあり、企業が望まなくともそのスタイル等を押し付ける傾向にある。

特許事務所のリーダーや所長先生が自分の考えやスタイルをしっかり持っておられ、かなりこだわっている場合もある。特許請求の範囲の記載の仕方等にも色濃くそういったこだわりがみられる場合も多い。

しかし、そのこだわりは企業にとってはどうでもよい場合も多く、むしろ所長先生に出願書類の作成をしていただきたくないと感じている場合まである。出願書類を見ているだけではわからなかったりするが、特許事務所の方では、「この文章では翻訳できない」等と指導が入り、修正に時間がかかるということもある。翻訳者から見ると全く問題なく翻訳できる場合も多くどうでもよいこだわりによって出願が遅れている場合も多い。

こだわりは大事と思うが、優先すべきは何かということを考えた方が良いかと思うことは多い。

5. 企業の知財部のメンバーは、ほとんど出願書類作成を本気でやったことがなく、ポイントや特許事務所の考えが理解できない。

企業の知財部のメンバーは、特許出願書類の作成を本気でやったことがない人が大半を占めている。したがって、ゼロから特許請求の範囲を記載させるてみると、全く素人レベルのものしか作成できなかったりする。
評論家目線のため、特許事務所に対して、ものすごく面倒な要求や無理な指示を行うことも多い。
無理なことを指示されると、特許事務所としては随分と対応に困るので、とりあえず企業側の指示に従うという場合もある。特許事務所側から指示に無理があることを説明しても、そういった場合には理解してもらえない(企業側の理解が低すぎる)ということが背景にある。

6. 特許事務所の知識や経験範囲が狭い場合も多い。

特許事務所では、出願書類の作成をメインの仕事としていることもあり、それ以外の経験が少ない場合も多い。例えば、審判や面接、訴訟をしたことがない事務所員も多く、したことがあるのが所長のみという場合もある。出願書類作成の際には、こういった部分を考えて書類を作成することは期待できず、企業側から見ると物足りない場合もある。

こういった要素が積み重なって、問題があるとまでは言わないが、どこか満足できない出願書類が特許事務所から企業へ送られることになるのかと思う。








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