
【note創作大賞2024 応募作品】「ずっと君の隣で…」第9話 この先のこと
初デートから数日が経ち終業式が終わり、付き合い初めて最初の夏休みが来た。だが美雨は、桜葉財閥の関係者や桜葉財閥と繋がりのある企業の人達と会議やミーティングの為に千葉の方に行くことになった。海斗、あすか、春人の三人は、美雨の家の前に来ていた。
「そっか…。夏休みは、一緒にいられないのか…」
「ごめんなさい、海斗さん。夏休みなのに…。でも4日間ですぐ帰ってくるので」
「いいよ。気にすんなよ。桜葉家の大事な務めなんだろ? 俺がとやかく言う権利はないし行ってこいよ」
目の前にいる美雨は、制服とは違うレディースの黒系のスーツを着ており、普段とは別人に見えた。
「はい」
「そろそろ行きましょう、お嬢様」
こうしてちょっと寂しい気持ちもあるが朝早く海斗は、千葉に行く美雨を見送った。
海斗達と離れ少し寂しい気持ちもある美雨。だが、仕事モードにすぐに切り替わり、浅倉に今日のスケジュールを確認した。
「浅倉、今日は午前8時から12時までホテルで下半期の経営戦略会議。それから夜は、財閥関係の方や桜葉と繋がりある企業の方とのパーティで間違いないですね? 」
「はい、お嬢様」
リムジンに乗り、打ち合わせの資料を見ながら2、3時間くらいが経ち目的地のホテルに到着する。フロントにリムジンを止め、車のドアを開けホテルに入る。既に桜葉と繋がりのある企業の方々達は、待っており、席に案内され打ち合わせが始まった。
「・・・というわけで今期は、このような方針で計画を進めていくのはいかがでしょうか? 」
各企業の方々との会議に美雨は、積極的に向かっていった。
同じ頃、海斗はバスケ部の練習に打ち込んでいた。好きなバスケをやっていても美雨のことは、頭からはなれなかった。
(美雨……何やってるのかな…。夏休み返上で仕事って大変だろうな…。今までもずっとこうだったのかな…)
「海斗、前‼︎ 」
春人に言われ、ハッと我に帰った海斗だが反応が遅れ相手チームがボールを持って自分のチームのコートに向かって行くのをあっさりと許してしまった。
「七瀬、どうした? 調子でも悪いのか? 」
「すいません……」
その日は、美雨のことがずっと気になり海斗は、練習に集中出来ず、監督から注意を何回か受けた。
夜、打ち合わせを終えた美雨は、浅倉が運転するリムジンに乗り、パーティが行われる会場に向かう。
「お疲れ様でした。お嬢様」
「はい……」
浅倉は、車のバックミラーから、ふと美雨を見る。美雨は、元気がないような、疲れたような表情をしていた。
「今日、無理に出席なさらなくても良かったのに。せっかくの夏休み、七瀬様達と過ごさなくて良かったのですか? せっかくお付き合いしているのに」
「いいんです。桜葉家の人間として、務めはちゃんと果たしたいんです。それに……海斗さんと付き合っていることを言い訳の道具にしたくないですから」
美雨は、『自分は、将来、桜葉の跡取りにならなければならない』と強く思っていた。
「お嬢様…」
パーティの会場に到着し美雨は、最初にホールでスーツを着た30くらいのいかにも仕事ができる感じの女性と会った。知り合いの美咲さんだ。美咲さんは、美雨のお母様の親戚で小さい頃から知っている。
「こんにちは、美咲さん」
「美雨ちゃん、久しぶりね。なんか綺麗になったんじゃない? いいことあった? 」
「うん……えーと、彼氏が出来ました」
「おめでとう‼︎ でも和宏君、嫉妬するんじゃない? 」
「和宏とは、昔からただの仲良しです」
パーティが始まり、美雨は、桜葉の関係者や桜葉財閥と繋がりある企業の方と会話をしたりした。
「今日は、このようなパーティーにご招待していただきありがとうございます」
「こちらこそ。美雨さん、海外にいるお父様とお母様に『よろしく』とお伝えください」
「はい」
グラスを片手に美雨は、いろいろな人達に挨拶をしていく。上流社会の人たちや桜葉と繋がりのある企業の人達と人脈を作っていくのも桜葉家の人間としての務め、疎かにはできない。しばらくして美雨に一人の男性が声を掛けてきた。自分より年が一つ上の幼馴染の和宏だ。
「美雨、久しぶり」
「和宏、元気そうですね 」
和宏のお父さんは、大手コーポレーションの社長をしており和宏はそこの御曹司で跡取り。和宏の両親と美雨の両親は、仲が良く2人は兄妹同然のように育った。
「美雨、新しい学校は、どう? 」
「ええ。楽しいですよ」
「そっか。なんか、最近、良いことあった? 」
「え? うん。 えと彼氏が出来ました」
「へぇ…。彼氏、どんな奴? 」
「うん…。バスケが上手くて優しくてカッコいい人ですよ」
「一目惚れ? 」
「へへ…はい」
「その恋、楽しみなよ。人生一度きりなんだから」
嬉しそうな美雨を見て微笑む和宏。
(海斗君、今頃、何してるのでしょうか? )
美雨は、海斗の声が聞きたくなった。
美雨が千葉にいる間、海斗は、毎日の夜、美雨と電話で話をした。今日、何があった? 等他愛もないことを話す時間。けど2人にとってとても愛おしい時間だった。
海斗と話している時、美雨は、今日一日の疲れが吹き飛んでいくようだった。
「やば……。もうこんな時間かよ…。ごめん、そろそろ切るな」
「いいですよ。私も、話せてよかったです」
「明日も早いんだろ? 」
「はい」
「おやすみ、美雨」
「おやすみなさい。海斗さん。大好きです」
「俺も美雨のことが大好き」
その言葉に美雨は、胸の鼓動が一人で鳴りっ放しだった。海斗は、全く気付いていない。
数日後、美雨から「そっちに帰ってくる」と電話が来た。
そして美雨が千葉から帰ってくる日、海斗は駅前で美雨の乗ったリムジンが来るのを心待ちにしていた。
(早く美雨に会いたい……)
待つこと30分。駅前に見覚えあるリムジンが来て、ドアが開き同じくらいの女子がリムジンから降りる。海斗の彼女の美雨だ。
「美雨‼︎ 」
「海斗さん‼︎ 」
リムジンを降りた美雨は、海斗をギュッと抱きしめた。お互い強く抱き合い2人は、額を重ね合わせた。
「おかえり」
「うん」
ちょっと会えなかっただけなのに久しぶりに会う気がした。
「私は、お仕事に戻りますので、お嬢様、お気をつけて」
リムジンの運転席にいる浅倉さんは、美雨が海斗に会えたのを確認ししばらくして駅を後にした。
「海斗さん……海斗君の家、今日、遊び行っていいですか? 」
「いいよ! 結果理さんも今日家にいるし、きっと喜ぶよ」
駅を離れいろいろ話しながら海斗の家に二人は、向かう。
「久しぶりに千葉の方、行ってどうだった? 」
「はい……。お仕事みっちりで大変でした」
疲れているのか、元気がなさげな美雨。
「美雨……。元気ないね。疲れた? 」
「え? いいえ、疲れてないですよ」
「そっか」
本当に? って聞きたくなる海斗。千葉の方で何かあったんじゃないか、と聞きたくなるが今は聞かないで置いた。
「ただいまー。結果理さん、美雨連れて来たよ」
海斗と美雨が、玄関のドアを開けると結果理さんが出迎えてくれた。
「海斗、おかえり。美雨ちゃん、いらっしゃーい」
玄関で結果理は、美雨をギュッと抱きしめた。美雨も結果理に会えて嬉しそうな様子だった。
「叔母さん、ちょっと…」
急に抱きしめられて美雨は、びっくりして戸惑っていた。
「あら、ごめんなさい」
結果理は、ハッとなり美雨を離した。
「結果理さん、俺と美雨、部屋に行ってるから。美雨、行こう」
「はい」
海斗は、美雨を部屋に連れて行く。海斗の部屋は、春に偶然入った時と違い、絨毯は夏の物の絨毯に変わっており部屋のベッドも掛け布団じゃなくタオルケットに変わっていた。
「なんか部屋に入るの久しぶりな気がします」
「そうだっけ? 」
海斗は、頭の中で振り返ってみる。確かに、テスト勉強で美雨が家に来た時以来だ。
部屋に入って二人は、早速夏休みの宿題をやり始めた。今日の分を終えた美雨は、部屋ですぐ桜葉の傘下に入っている企業の資料に目を通していた。
「・・・」
美雨は、黙々と資料に目を通していく。どんなことをしているのか海斗は気になった。
「桜葉さん、何を見てるの? 」
「新しい事業に関する資料です。今、少しでも目を通したいので…」
資料を目で追いながら海斗に話す美雨。海斗は、横から少しだけ覗いて見てみた。
「・・・桜葉さん、いつもこんなことやっているのか…」
資料には、難しい単語やグラフがちりばめられており何が何だか海斗にはさっぱりわからなかった。だがきっとすごい苦労して来たんだろうなというのが美雨の様子を見て伝わってきた。
「海斗さんには、難しすぎると思いますよ?」
海斗は、横から覗き込んで見るが何がなんだかさっぱり不明だった。
ガチャ―。
扉が勢いよく開き、「二人とも〜‼︎ お茶入ったわよ〜」と満面の笑みで結果理さんが入ってきた。
「ありがとうございます」
「結果理さん、勝手に入ってくるなよ〜。ノックくらいしてよ‼︎ 」
ノックなしで部屋に入る結果理さんに海斗は、怒る。
「ごめん、ごめんww。はいこれ、おやつ」
「ありがとうございます。結果理さん」
(桜葉さんは将来、経営者になるって言ってたしもし家を継いだら偉い役職みたいなのに就いて俺たちとは一緒にいられなくなっちゃうのかな…。こんな風に俺やあすか達とは違うどっか遠くに行くのかな…)
結果理と美雨の様子を遠目で見ながら海斗は、寂しいようなどこかしんみりした気持ちになりそんなことを思っていた。