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【note創作大賞2024 応募作品】「ずっと君の隣で…」第3話 近づき始める二人




 一週間が過ぎ土曜日。今日は学校はお休み。海斗はいつものように目が覚めるとリビングの方に向かった。リビングに向かうとテーブルには一枚のメモ紙とラップで包まれた今日の朝ごはんのおかずがあった。ちなみにメニューは、ウインナーにサラダ、スクランブルエッグだった。


 メモ紙には、

「出張です。 月曜日の夕方くらいには帰ります」

 と書かれていた。


  海斗の両親は、小学校の時に交通事故で亡くなっている。それからは叔母と二人暮らしで叔母さんが出張の時は大体一人だ。


「叔母さん…」


 海斗は、おかずを電子レンジで温めリビングのテーブルで一人朝ごはんを食べた。



 同じ頃、美雨は、朝早く起きて大広間に向かう。
大広間に入ると美雨の執事である浅倉あさくらが朝食を準備して待っていた。
美雨の父親と母親は、海外で仕事しておりなかなか日本には帰ってこない。美雨が住んでいる豪邸には、いつも美雨と浅倉の2人だけだ。


「おはようございます、浅倉」


「おはようございます、美雨お嬢様」


それから朝食を取りながら美雨は、タブレットで今日のスケジュールを確認する。


「浅倉、今日の予定は9時から桜葉と繋がりのある企業との会議、10時からビジネスホテルでA社の方との商品アドバイス、午後は、英会話教室とバイオリンのレッスンでしたよね? 」


「はい、さようでございます」



美雨の父親は、大手グループ「桜葉財閥」の社長。美雨は、その父親の娘で桜葉財閥のご令嬢であり跡継ぎ。
海外で仕事をしている父親と母親の代わりに高校生でありながら財閥と繋がりのある企業や海外の企業の経営者や、資産家との会合などの仕事をしている。普通の高校生のように遊んでいる時間は、ほとんどない。




朝食を取り終え歯を磨き身だしなみを整えスーツに着替えた後、美雨は、浅倉が運転するリムジンに乗りながら今日の会議で使う資料に目を通していく。途中、信号が赤信号になり美雨は、資料から目を離し一息つきふと交差点で二人で並びながら歩くカップルを見た。



(いいなぁ…。あぁいうの…)
それから、とある経営者の家に着き、中に入った美雨はそこに集まった日本の企業の人達や海外の企業の人達に挨拶をして大広間にに向かう。




そこで会議が始まり昨年度の経営状況や反省点、今年度の経営プランなどについてそれぞれ発表しあう。
その中で美雨もレジュメとスライドショーを使いいろいろな意見を述べる。


会議が終わり美雨が、資産家のお家から出ると浅倉が出迎えてくれた。
「お疲れ様でした、お嬢様」
「ありがとうございます、浅倉」と言い美雨は、リムジンに乗ったのを確認した浅倉は、車を出す。



運転しながらバックミラー越しにタブレット端末で次の待ち合わせ先であるビジネスホテルで使う資料に目を通している美雨を見て「少し休まなくてよいのですか? お嬢様」と美雨に聞くが美雨は、



「いえ、大丈夫です。今のうちに目を通しておきたいので」
とタブレット端末に目を通しながら言った。



リムジンに乗ること1時間。次の待ち合わせ先であるビジネスホテルに着く。中に入ると丁度A社の人が手を振って合図をしてきた。相手の人は、外国人。テーブルを挟んで、英語を使い美雨は会話のやり取りをする。


「Thank you for giving me your time today(本日は、このような時間をいただきありがとうございました)」

「I'm the one who should be thanking you(こちらこそありがとうございました)」

始まって2時間が経ち商品アドバイスは終わり、リムジンで英会話のレッスンに向かう。




英会話のレッスンを終えて家に帰った後は、バイオリンの先生に家に来てもらいマンツーマンでバイオリンのレッスンをする。
先生の前で日々の練習の成果を発揮する美雨。

「はい、そこまで。また一段と上達しましたね。美雨さん」

「ありがとうございます、先生」

「音が今までと変わりましたね。なんというか…美雨さんらしい音になっていましたよ。学校でいいことでもありましたか? 」


(あ…)
美雨は、バイオリンの講師の人の言葉にふと海斗の顔が脳裏に浮ぶ。少し間が空いて美雨は、

「はい…そうかもしれません」
と言った。


次の日、美雨は以前に言っていた海斗の言葉が気になっていた。

部活では・・・・ってどういうことなんでしょうか…)
考えながら廊下を歩いていると美雨は、廊下の曲がり角で春人とすれ違った。

「春人さん」

「なぁ、美雨ちゃん、ちょっといい? 」

「はい」
春人に呼び出された美雨は、ある頼みを受けた。


放課後、次の日、美雨は図書館に来ていた。


「んっ…んっ…」

 借りたい経営に関する本が高いところにあって背伸びしても取れない、そんな時…。

「よっ…。はい」

 隣にいた海斗が本を取って美雨に渡してあげた。




「あ、海斗さん…」


「桜葉さんってそういうの読むんだ 」

「はい…。海斗さんは何をしに? 」


「あー俺は、これ借りにきた」

 海斗が借りた本を見せる。海斗が借りたのは、バスケに関連した本。


「海斗さん、そういうの読むんですね」


「うん。桜葉さんって、もしかして将来は経営者になろうとしてるの? 」
美雨に渡した経営に関する本を見て海斗は言う。


「はい。いずれはお父様やお母様と同じように。だから今のうちに勉強していかないとなんです。」


  「すごいな…。なんていうか…その…家業を継ぐ? っていうの? 俺、想像できないや」
ぱっと見、普通の高校生と変わらないのに、自分たちとの境界線のようなものを海斗は感じた。


 二人は、それから図書館を後にして教室に向かう。


「そうだ! 海斗さん。今度の土曜日、空いてますか? 」



「空いてるけど…なんで? 」



「実は、ちょっと行きたい美術展があるのですがこの街に慣れてなくてもし海斗さんで良かったら一緒に行きたいと思ったのですが…」



「いいよ。一緒に行こう」



 海斗は、今週末の土曜日に美雨と一緒に出かけることになった。



 週末の土曜日、海斗と美雨は学校の校門の前で待ち合わせた。



「遅いなぁ…。桜葉さん」

 案の定、海斗は少し早く来すぎてしまった。待ち合わせは、8時半。まだ8時だ。俺は、上は、青いデニムのジャケットに中に白いTシャツ、下はジーンズに今時の若者風に黒のショルダーバッグを肩に背負って待っていた。



 10分くらい経ってからだった。



「海斗さん。早いですね」

 美雨が駆け足でやってきた。美雨は、ピンクの手提げバッグに下はフリフリのついたスカート、上は可愛いおしゃれなブラウスを着て現れた。とても可愛く美雨は目が釘付けになりそうだった。



「桜葉さん。じゃあ、行こうか」

「はい」


 二人は、学校から駅前まで歩いた。美雨の行きたい美術展覧会が行われている体育館は、電車に乗って駅から徒歩10分くらいの所にあるらしい。



 歩いてようやく二人は、体育館の中に入った。だが入り口に受付の人もいないし受付らしき人影もいない。海斗は、違和感を感じた。

「桜葉さん、本当にここであってるの? 何か隠してるでしょ? 」



「いいえ。とにかくついて来てください」



 この時点で美雨が何かを隠していると俺は、確信した。



(ガチャ…)

 そして美雨が体育館の扉を開けた。



 体育館の中から見覚えのある景色が飛び込んできた。ドリブルをしてバスケットボールが床に叩きつけられる音、掛け声、見覚えのある男子達…。間違いなく桜ヶ丘高校のバスケットボール部の部員達だった。



「あ、来た来た。おーい、桜葉さん、海斗! 」

 俺たち二人に気づいた春人が声をかけてき俺たちのもとにやってきた。その他の部員達も練習をやめ俺達のもとにやってきた。



「ごめんなさい、海斗さん。春人さんには黙っていてと言われて…」

 ごめん‼︎ と両手を合わせて頭を下げる美雨。



「久しぶりに来たんだしさ、その、ちょっとやってかない? ほら」

 春人はそう言いボールを海斗に投げそのボールを海斗はキャッチした。



 バスケットコート内に入りゴールから少し離れた場所に立った海斗は、ボールをゴールに向かってシュートした。投げたボールは、ゴールのパネルに当たりネットの中に入った。



「ナイスシュート、海斗。なぁ、これから試合やるんだ。やってかないか? 監督と顧問の山岸先生には話してあるからさ」



「でも、俺、ジャージとか持ってきてないけど…」

 それに辞めた奴が部活に混ざるのは…。



「大丈夫、俺の貸すからさ」



「うん。わかった」

 せっかくの春人の誘いを断るのは悪いと思った海斗は、春人からジャージを借りて更衣室で着替えた。




 それからコートに入り練習試合が始まった。相手のチームと向かい合って挨拶をする。海斗は、今まで市のバスケットボールクラブでの練習試合に混ざったりしていたがその時とは、違った緊張感が走った。 顧問の先生がホイッスルを吹き試合が始まった。




 練習試合が終わり結果は、海斗達のチームの勝ちだ。部活が終わって片付けの最中、春人は他の部員にある提案をした。



「なぁ、この後、空いてる人達でメシ行かない? 」



「いいね! じゃああそこ・・・行くか! 」

バスケ部の仲間が言う。


「桜葉さんもどう? 」

 海斗は、もしよかったらと思い桜葉さんも誘った。すると美雨は、「皆さんとご飯ですか? 喜んで」と言った。







 部活が終わった後、美雨は浅倉に電話で事情を話して海斗達と一緒にご飯を食べに行くことになった。
場所は、海斗達がたまに部活の帰りに寄っていた小洒落た雰囲気の学生食堂だった。全員でカレーを注文して1年生達も数人いて椅子に席に座り料理を待ってる間、海斗は、1年生部員達といろいろおしゃべりしていた。





 海斗は、なんとなく久しぶりに春人に誘われて今日は、ご飯を食べに行くことにした。座って待ってる間、1年生部員達といろいろ話した。


「海斗先輩。俺、去年の夏の大会観てました。先輩の3Pシュートすごかったです! 今度教えてください! 」

「えー。俺じゃなくて春人に教えてもらったら? 俺、もう部員じゃないし」

「春人先輩と海斗先輩って同じ中学でバスケ部だったんですよね? 」

「うん」

「中学の時、海斗コイツすごいバスケ上手くて俺達の代で全国行ったことだってあるんだぜ」
後輩の言葉に海斗の隣で春人が続いて言う。


 隣から春人が喋り出した。少し経ってから頼んでいたカレーライスが全員来て部員達とカレーを食べながらいろんな話をした。



 夜18時頃、海斗は、美雨と一緒に駅までの道をを歩いていた。


「あー。なんか春人達と一緒にメシ食ったの久しぶりだなぁ。今日はありがとう、桜葉さん」



「はい。私も楽しかったです。前にいた姫ヶ丘女子はお嬢様学校で学校帰りに友達と寄り道したりすることがなかったので」


「へぇ、そうだったんだ」

 確かにお嬢様が寄り道するってイメージあまりないからなぁ…。



「俺さ春人達と久しぶりにバスケやってバスケ初めてやった時の気持ち思い出せたよ」

「海斗さん…」



「俺、部活戻ることにする。今の1年生達見てたら腐っていられなくなってきちゃったし」


「春人さんが言ってましたよ。『コーチと監督が待ってる』って」




 駅に着くと目の前に黒いリムジンが止まっており運転席から年老いた40代くらいのタキシードを着た男性が出てきた。



「お嬢様、お迎えにあがりました」



「浅倉、わざわざ迎えに来なくてもよかったのに…」



「そんな訳にはいきません。お嬢様のGPSがこちらにあり夜遅くお嬢様に何かがあってはいけないので。そちらの方は? 」



「クラスメートの海斗さん」



「こ、こんにちは。桜葉さんのクラスメートで七瀬 海斗といいます」
 海斗は、ぺこりと頭を下げて挨拶をする。タキシードを着た人を初めて見た為、びっくりしていた。




「初めまして。わたくし、執事の浅倉と申します。お嬢様がお世話になっております」



「いえ…そんな。俺…帰りますね。じゃあ桜葉さん、おやすみなさい。またね」

「はい、さよなら。海斗さん」








 その日の夜、寝る前、海斗は美雨とのことを浅倉に話していました。浅倉は、美雨の話を相槌を打ちながら聞いていた。

「それで今日の試合の終盤に海斗さんがゴールから離れた場所からシュートを決めて、すごいカッコよかったんです! すごい鳥肌たっちゃって」

「よほど楽しかったのですね、お嬢様。さっきから七瀬様のお話ばかり」

「ごめんなさい」

 美雨は、海斗とのことがあまりにも楽しく気がつくとその話ばかりしていることに気づいた。

「いえ。お嬢様の楽しそうな顔を久しぶりに見たような気がしたので」

「とても楽しかったので。」

「私、もう寝ますね。おやすみなさい。朝倉」


「はい、お嬢様」

 浅倉が部屋を出た後、美雨はベッドの上でごろごろしていました。ふと海斗の顔を思い浮かべていた。

(海斗さん、優しいしかっこよかったなぁ…)

 海斗さんのことを考えれば考えるほど美雨は胸がドキドキして頭から海斗のことが離れなかった。美雨の頰は気づけば赤く染まってしまいこの日から美雨は、海斗に恋をしてしまっていた。




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