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【note創作大賞2024 応募作品】「ずっと君の隣で…」第4話 近づき始める二人(2)

あれから一ヶ月が、過ぎいろいろなことがあった。海斗はバスケ部に再入部して春人やバスケ部の仲間たちと日々奮闘している。あすかは女子バレー部で活動している。 美雨は、桜葉の仕事で忙しくそれぞれいつも通りの日々を送っている。
 また、バスケ部に再入部してから海斗は、よく女の子に声をかけられるようになった。


 今は数学の授業だった。

(やべぇ…。もう20ページぐらいわからない)
 海斗は、ものすごく焦ってしまっていた。

「どうしたのですか? 海斗さん」
 隣にいる美雨が海斗に声を掛けてきた。

「実は数学の授業でやったところがわからなくて」

「私でよければ放課後教えましょうか? 」

「マジ⁈ やったー! じゃあ桜葉さんお願い‼ 」

 放課後、美雨は、海斗の勉強に付き合ってあげた。教室にいるのは美雨と海斗の二人だけだった。二人で机をくっつけて勉強を始めた。

「えーと、12ページのもうここから全然わからなくて」

「ここは…」

 
 それから勉強し始めて1時間くらいが経った。美雨にとって海斗の教え方は非常にわかりやすかった。海斗も一人でやるよりも勉強がかなり捗りで今日の放課後は、お互いにとって有意義な時間になった。

「海斗さん、終わりましたね」

「ありがとう。勉強になったよ。また教えてくれる?」

「良いですよ。私でよろしければ」

「ありがとう。桜葉さん」
 

 二人は、ふと教室の壁にかかった時計を見る。外はもう夕方。もう5時を回ろうとしている。

「私、そろそろ帰らないと。朝倉が心配してしまいます」

「じゃあ俺も」
 海斗と美雨は、急いで席を立ちあがった。その時、美雨は膝を机にぶつけて「きゃっ」と声をあげる。ぶつけた拍子に美雨は、海斗の鉛筆箱の物をバシャンと床にひっくり返してしまった。

「ごめんなさい‼︎ 海斗さん」

「気にしないで。大丈夫だから」

 ひっくり返した鉛筆箱の中身を急いで拾い集める。その時、海斗と美雨、二人の手が偶然重なってしまった。

「「あっ…」」

 お互い慌ててバッ‼︎ と勢いよく手を離す。

「ごめん‼︎ 桜葉さん」

「いえ‼︎ 私の方こそ…」

 海斗と美雨はバッと勢いよく手を離したその時、教室の扉が開き制服に身を包んだ男子生徒が入り込んできた。二人は、扉の開閉音に振り向く。扉の前にいたのは、春人だった。

「あれ? 二人とも何やってるの? 」

「勉強だよ。春人、何しに来たんだよ」

「忘れ物。 二人きりの時間邪魔されたくらいで怒るなよ」

「はぁ? そんなじゃないし」

「わかった、わかったwww。俺、帰るから。あと桜葉さんじゃあね。あ、あと襲われんなよw」
両手の人差し指でピッ‼ と2人に指を差して言う。

「襲わねーから‼︎www 」

 ムキになって声をあげる俺の隣で美雨は、春人に優しく手を振った。

「春人の奴…。桜葉さん、アイツの言葉、気にしなくていいから」

 海斗は、美雨の方を向くと美雨は嬉しそうなクスクスと楽しそうな笑みを浮かべていた。

「桜葉さんってば…何がおかしいんだよ 」

「だって、海斗さんの大きい声、初めて聞きましたし…。2人ともとても仲が良さそうですし」

「そう? たまに喧嘩したりもするよ? 」
 海斗は、ニコニコと美雨の嬉しそうな顔を見て言った。

「でも『喧嘩するほど仲が良い』ですよ、海斗さん。2人が羨ましいです 」



 この日を機に海斗と美雨はますます仲良くなり、勉強だけではなく休み時間もよく話す仲になった。美雨は海斗にますます惹かれていった。



 期末試験一週間前、今日は美雨と海斗は一緒に勉強することになった。誘ってきたのは美雨からだ。海斗は一人で勉強する予定だったが断るのは悪く感じ一緒に勉強することにした。

「どこで勉強しようか? 」

「図書館でしませんか? 」

「いいよ」

 海斗と美雨は図書館に向かい、中に入る。だが図書館は、テスト勉強をする生徒でいっぱいで二人分の席はなかった。

「人、たくさんいますね…」

「そう…だな」

 お互い困り果てていた。

(流石に桜葉さんの家行くのもちょっと迷惑だろうしなぁ…。どうしよう…。そうだ‼︎)

「俺の家で勉強しようか? 」

「海斗さんの家? 構いませんけど… 」


 こうして二人は、海斗の家で勉強することになった。


「入って、桜葉さん」


「は、はい…おじゃまします…」


 美雨は、玄関で靴を脱ぎ整え海斗の家に上がった。


「上がって」


 美雨は、海斗の家の天上や周りをキョロキョロと見渡した。そんな美雨を見て海斗は、

「どうしたの? 桜葉さん」

 と少し笑いげに言った。


「私、友達の家に来るの初めてで、ちょっと緊張してしまって…」


「そんなに緊張しなくていいよw リビングで勉強しよっか? 」


「はい 」

 リビングで二人は、床に座布団を敷いて座り机で向かい合わせに座り勉強を始めた。


「じゃあ、数学からやろうか」


「はい」


 二人が勉強をし始めて数十分が経った。


「海斗さん、ここの問題がわからなくて…」


「うん? あー、ここはこうすれば大丈夫だよ。」



「なるほど! ありがとうございます。そう言えば海斗さんってここに誰と住んでるんですか? 」

「ん? 叔母さんと二人暮しだよ」

「そうなんですか 」

「・・・って言っても叔母さん、仕事で忙しくて家にいなくて大体いつも俺一人だけど」

「今日、叔母さんは? 」

「会議。6時くらいまで帰ってこない予定だって」

「そうなんですか…」

「気にしてないよ。しょっちゅうあることだし」

 それから二人は、黙々と勉強を続けた。時々、お互いにわからないことを聞いたりして言葉を交わしお互い実りある時間になった。1時間くらいが経ち、海斗は背伸びした。

「あ〜っ、終わった〜。とりあえず休憩。桜葉さん、何か飲む? 」

「じゃあ、紅茶をお願いできますか? 」

「うん、わかった」

 海斗がそう言うとキッチンでやかんに水を入れお湯を沸かし始めた。

「海斗さん、おトイレ、貸していただけませんか? 」
 海斗がお湯を沸かしている隣で美雨が言った。

「いいよ。出て右だよ」
 リビングを出た美雨。出て直ぐに扉が少し開いている部屋が目に移った。

(ここ何でしょうか? )
 恐る恐る気になって入って見るとそこは、海斗の部屋だった。 部屋の中は、布団が綺麗に整えられたベッド、本が教科ごとにまとめられた学習机、それと写真が飾られている棚が置かれていた。


(わぁ、すごい)
 棚の中には、海斗さんのバスケの写真が飾られていた。 小学校の時から中学の時の写真まで、バスケのチームメートと撮られた写真があった。


(あれ…? この写真…)
 バスケの写真の中に海斗と知らない女の子が嬉しそうに笑顔で写っている写真を美雨は見つけた。海斗と写っているのは海斗と同い年くらいの綺麗なさっぱりしたまぶたが綺麗な曲線をした目がぱっちり目のショートヘアの優しそうな感じの女の子だった。


(この子、誰でしょうか? 海斗さんの妹? それにしては雰囲気が違く見えますし…)

 美雨が悩んでいると後ろから海斗が
「何やってるの? 」
 突然声をかけてきた。

「きゃっ⁈ 海斗さん! 」
 美雨が振り向くと目の前には海斗の姿があった。

「トイレにいないし心配した。ここ俺の部屋だよ」

「すみません、海斗さん…その…。あっ、これ中学のバスケ部の写真ですよね」
 写真の女の子のことを聞いてはいけないような気がした美雨は、さっきまでの自分をごまかし一枚の写真に指を指した。海斗がユニフォーム姿でバスケ部の仲間と集合写真を撮っている写真だった。

「うん…そうだよ。俺どこにいると思う? 」

「うーん…これですか? 」
 美雨は、写真の1段目の右から3番目を指差した。

「あたり! 」

 二人が会話していると玄関からピンポーンとチャイムの音がした。気になり玄関に向かっていく海斗に美雨もついていき海斗が玄関のドアを開けた。



「海斗~ただいま」
 するとドアの前にはベージュ色の髪のロングヘアの約30代のOLがビジネスカバンを持って明るい笑顔でそう言った。


( あれもう帰ってきたの?…)
 海斗が気になり玄関に向かうとドアの前に立っていたのは海斗の叔母の結果理ゆかりだった。海斗が話を聞くとどうやら会議が予定より早く終わったらしく帰ってきたみたいなのだ。
結果理は、大学時代に文房具会社を起業。海斗が両親を交通事故で亡くしてからは、海斗を引き取り海斗と二人暮らしをしている。
家に入った結果理は、リビングで座りながら海斗と一緒にお茶の準備をしている美雨とおしゃべりしていた。


「へぇ〜最近、転校してきたんだ」

「はい」

「海斗この子ったら、学校でのことなーんにも話してくれないんだもの」
 結果理は、そう言いキッチンでお茶の準備をしている海斗の方を見た。

「だって結果理さん、何も全然聞いてこないじゃん。それに話す必要ないだろ。小学生じゃあるまいし」
 海斗は、呆れた表情で結果理にそう言う。


「できたよ」
 淹れた紅茶を結果理が座るテーブルに運ぶ。


「ありがとう、海斗」

 それから紅茶を飲んだりしながら3人で30分くらい他愛もない会話をして気がつくと5時をまわろうとしていた。

わたくし、そろそろ帰らないと。浅倉が心配してしまいます」

「あ~…送ってこうか? 」

 5時頃に女の子一人では危ないと思った海斗は、美雨にそう言うが美雨は、「大丈夫です」と言い海斗の家を後にした。






「気が利く感じのいい子じゃない」
 海斗と結果理が玄関で美雨を見送りリビングに戻った後、結果理が嬉しそうに海斗の背中をポンポンと叩き、そう言った。

「うん…すごいいい子だよ」
 何か気難しい、思いつめたような表情でそう言う海斗。

「ねぇ、海斗…」

「さて俺は、風呂掃除した後また勉強するから結果理さんは夕飯の支度お願い」
 結果理が何かを言おうとしたのを遮るかのように海斗はそう言い勉強道具を持って部屋に戻った。



(もう、大丈夫なのかな…あの子)
 結果理は、部屋に戻る海斗の後ろ姿を心配げな表情で見た。


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