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【note創作大賞2024 応募作品】「ずっと君の隣で…」第10話 文化祭

夏休みが終わるとあっという間に時は流れていった。ここまでいろいろなことがあった。

 夏休み明けには修学旅行があり沖縄で美雨と海斗は、お揃いのストラップを買った。

 海斗達は、3年生が引退して部を引き継いだ。そしてもうすぐ文化祭がある。今は、文化祭のクラスの出し物の打ち合わせの最中だ。文化祭実行委員であるあすかが、教壇に立ちしきって行っていた。


「じゃあ、女子はウエートレス男子はウエーター姿で喫茶店をやるってことでみんなOK? 」


 反対の意見を言うクラスメートはいなく、海斗達のクラスは喫茶店をやることになった。



 その日の夜、海斗は部屋で美雨と電話で文化祭のことについて話をしていた。


「私、ウエートレスの格好したことないからちょっと楽しみです」


「姫ヶ丘女子でも文化祭ってあったんだろ? 何やったの? 」


「えと……喫茶店を……」


「へぇ。ウエートレスとか着たの? 」


「いえ。男装喫茶を……」


(美雨の男装姿か……。ちょっと見てみたいかも……)

 海斗は、そう思ってつい「写真とかある? 」と聞いてしまった。


「やめてください! 海斗君。恥ずかしいので」


「ごめん、ごめん美雨。そろそろ遅いし寝るね、おやすみ」


「おやすみなさい。海斗君」



 文化祭まで残り一週間になった。海斗達のクラスは、出し物である喫茶店の準備に取り掛かっていた。美雨は、あすかと入口の飾り付けを一緒にしていた。


「美雨ちゃん、これお願い」


「ありがとう、あすかちゃん。この辺でいい? 」


「うん。いいよ」

 あすかにそう言われた美雨は、廊下の淵に最後のフラワーペーパーの飾りをくっつけた。


「うん。美雨ちゃん、ありがとう」


「あすか、こっち終わったよ」


「うん、ありがとう。海斗」

 明日香の的確な指示でクラスの出し物の準備は、思ったより早く終わった。今日は部活がどこも休みで久し振りに海斗は、美雨と一緒に帰ることにした。



「か、海斗…君」


「どうした? 美雨」


「文化祭、誰かと周る予定ありますか? 」


「うん? 今のところ予定ないけどなんで? 」


「一緒に文化祭、まわりませんか? 」


「いいよ」


「本当ですか⁈ 嬉しいです‼︎ じゃあ、二人でまわりましょう! 」


 こうして、文化祭当日がついにやってきた。喫茶店の仕事のシフトに入っている海斗、美雨、あすかの3人。あすかと美雨は、ウエートレスの服を着て注文を取ったりしている。海斗は、ウエーターの服を着てメニューの品を作ったりやら何やらをしている。


 美雨が男子生徒のお客さんの注文を聞き終わり海斗の所に戻ろうとした時だった。いきなり男子生徒が彼女の細く白い肌の手首をガシッと掴んで「ねぇ、可愛いね。名前教えてくれない? 」と迫ってきた。よく言うナンパだ。



「その……。今、そういうのは……」


「いいじゃんw ちょっとだけさ」


 上手く断ることが出来ず戸惑っている美雨。離れた所から見ていた海斗にクラスメートの男子が隣でボソッと「なぁ、あれいいの? 」と聞いてきた。


 やがて海斗は、苛立ちが募りいても立ってもいられなくなり美雨の方に行き男子生徒の腕をガシッと掴んだ。


「痛い、痛い、痛い……」


「七瀬 海斗 誕生日12月12日 血液型A型、他に何か? 」


「え、あ……いや、特にないです」

 ギロッと男子生徒を睨みつけ威圧する海斗。流石に男子生徒も怯んだようだった。


 それから美雨は、自分の仕事に戻った。しばらく働いてからシフト交代の時間が来て海斗と美雨は、次の人と交代した。二人は、文化祭を回ることにした。


「じゃあ、行こうか」


「はい」

 こうしてお互い待ちに待った時間がやってきた。並んで歩く二人。気がつくとお互いに手を繋いでしまっていた。



「そうだ!隣のクラスさ、お化け屋敷やってるって。行かない? 」


「い…いいですよ」
顔がこわばる美雨。実は美雨は、お化け屋敷が大の苦手だった。入る時、美雨は海斗の服の袖をずっと掴んだままだった。


 文化祭のお化け屋敷なんてびっくり系でホラーではない。なのに美雨は、びびって身を縮めている。


「なぁ、美雨。くっつくなよ、歩きづらい」


「あれ? どっち行けばいいんだろ?」

 後ろで辛そうにくっついてる美雨があまりにも可愛く海斗は、ちょっとふざけてみた。


「え? そんな海斗さん、しっかりしてください」


「ごめん、冗談、冗談w 」


 ずっと美雨は海斗の背中にくっついたままだった。お化け屋敷を出てから美雨は、外のベンチでぐったりとしていた。


「はぁ……。やっと終わりました…」


「美雨、お化け屋敷無理なら無理って言えばいいのに…」


「けど……。海斗さんと一緒に行きたかったですから」


「美雨…」

 頬を紅く染め笑顔で答える美雨は、本当に可愛かった。こんな可愛い子の彼氏になれて自分は幸せだと海斗は、改めて実感した。



(プルルルル…プルルルル…)


「あ、ごめんなさい。海斗さん」


「いいよ。出なよ」


 しばらくして美雨のスマホの着信音が鳴り美雨は、すぐに電話に出た。


「もしもし、和宏? はい……。ごめんなさい。その話はまた今度で…」



(和宏……? 誰? )

 海斗は、電話の向こう側の主と話している美雨を見て和宏とは誰なのか気になった。しばらくして美雨は電話を切り「はぁ」と息をついた。


「美雨、今の電話の人って誰? 」


「和宏ですか? 私の幼馴染です」


「へぇ……。どんな奴? 」


「そうですね。私達より一つ歳上で、大手コーポレーションの御曹司です」


「そっか。なんか俺とは大違いだな……。写真とか…あるの」


「ありますよ」

 海斗が、聞くと美雨はスマホを指で操作し写真を出し海斗に「この人です」と画面を見せた。


(へぇ……)

 写真に写っているのは、スーツをピシッと着たいかにもドラマに出てきそうな頭の良さそうな感じの男の子だった。


「いい感じの人じゃん」

 自分とのギャップの違いを感じそうになった。


「その…あまり連絡取らない方が良いですか?」

 表情を強張らせる海斗に美雨は、言う。


「そんな、気使わなくていいってw 幼馴染なんだろ? 」


「海斗君…。ありがとう」


「海斗! 」

 二人が一休みしていると、離れた所から海斗を呼ぶ二人が聞き慣れた声が聞こえ声の聞こえる方を振り向くとカメラを持っている結果理さんを見つけた。



「「結果理さん‼︎ 」」


「来るなら言ってよ」


「来るってメール、海斗に送ったじゃない。見てないの? 」


「え? 」

 よく考えてみたら、海斗は文化祭が始まってからスマホを見ていなく二人の前で開いてスマホのLINEを見ると結果理さんから『文化祭行くね』とメッセージがあった。


「本当だ」


「もう、海斗ってば」


「ごめん、結果理さん」


 それからお互いに笑い合う3人。その後、結果理さんは二人にある提案をした。


「そうだ、二人とも写真撮らない? せっかくだし」


「どうする? 撮る? 」

「はい」


 それから二人は、廊下の端で結果理さんがカメラを持ってツーショットで写真を撮った。


「OK。二人ともいい感じに撮れたわよ」


「どれどれ」

 二人は、結果理さんのカメラに覗き込んで写真を見る。


「美雨ちゃん、出来たら写真おくるわね」


「ありがとうございます」

 結果理さんにそう言う美雨。


「そう言えば、今日ご両親は? 」


 結果理が美雨に聞いた途端、美雨の表情が一瞬固まり「いえ…両親は、来てなくて」と彼女は言い少し俯いた。


(美雨? )

 両親のことを聞いた途端、何やら表情が僅かにくらい。何かあったのだろうか?


 その後、結果理が「あたし、トイレ行ってくるわ」と言って結果理が戻ってくるまでの間、海斗と美雨は二人で外の空いてるベンチに座って待っていた。



 その後、結果理はすぐに戻って来た。海斗と美雨は、時間が来るまで結果理と一緒に3人で文化祭を回った。だが海斗は、さっきの美雨の話を聞いたからか自分の心の中で僅かなモヤモヤを抱えていた。



 結果理とわかれクラスの喫茶店に戻り仕事をしている時もずっと考え続けていた。


(美雨は、俺といて楽しいのかな……)


「……と。……海斗‼︎」

 ぼうっと考えているとあすかが、隣から話しかけて来た。


「あすか、どうしたの? 」


「どうしたの? じゃなくて突っ立ってないで仕事して‼︎ はい! 向こうの席におしぼり持ってって」

ん‼︎ とおしぼりの乗ったトレーを差し出すあすか、だが明らかに海斗の様子がおかしいことに気づき、海斗の手首を掴み春人に後を任せて海斗を廊下の外に連れ出し二人で階段に座り話しをしていた


「……海斗、ちょっと来て」


「海斗、何かあった? 」


「え……」

 何かあったかと聞かれたらなかったわけじゃない。海斗は、正直にあすかにさっきの美雨のことを話した。



「なるほどねー……。御曹司の幼馴染か…」


「わかんないんだよ。なんで美雨は、俺みたいな庶民を選んだのか。美雨みたいなお嬢様ならもっとふさわしい奴いると思うのに…。財閥のお嬢様だよ? 俺とは、圧倒的に世界観違いすぎるじゃん」


「…わかる必要ある? 」

 あすかは、自信を無くしかけている海斗を見て眉間にしわを寄せる。


「え? いや……それは…」


「シャキッとしろ‼︎ らしくないよ‼︎ 美雨ちゃんが海斗がいいって言ってるんだよ⁉︎ いいに決まってるじゃない‼︎ 」

 海斗が何か言いかけた瞬間、あすかは海斗の背中をバシッ‼︎ と叩く。



「あすか、痛いよ。でも……ありがとう」


「よし‼︎ じゃあ相談にのってあげた分、今日、海斗はみんなの倍働いてね〜」


「わかったよw」

 あすかのおかげで、モヤモヤが吹っ切れた海斗はすぐにクラスの喫茶店に戻りテキパキと働き始めた。



 そして二日間に渡る文化祭は、あっという間に終わった。文化祭の片付けが終わり後夜祭の時間がやってきた。グラウンドではキャンプファイアーがはじまろうとしており海斗と春人も、先に着替え終わってグラウンドの少し離れた場所からキャンプファイアーが始まるのを心待ちにしていた。ちなみに2人とも上はクラスTシャツ、下は制服のズボンだ。



「あっという間に終わっちゃったな。文化祭」


「そうだな」


「おーい‼︎ 海斗、春人‼︎ 」

 海斗と春人、2人ともキャンプファイアーを楽しみにしながら文化祭の出来事を振り返っていた。2人がいろんなことを思い返していると後ろから聞き慣れた女子の声が聞こえてきた。海斗が振り返ってみると来たのはあすかだけだった。


「あれ、美雨ちゃんは? 」


「あー、家から電話だって」


「……そっか」


 あすかも隣に2人の座りキャンプファイアーの始まりを待っていた。その頃、美雨は校舎の中で電話の主と話をしていた。


「そんな……⁉︎ そうですか……。はい……」

 美雨は、ショックな様子で電話を切った。


 電話を終えた美雨は、電話の内容に困惑したまま海斗達の方に向かった。


「遅れてすみません」


「美雨! こっち、こっち!」

 美雨が海斗の隣に座ったところで、ちょうどキャンプファイアーに火がつき始めた。


「「始まった(始まりました)」」

 火がつき燃え上がるキャンプファイアーを眺める4人。全校生徒がキャンプファイアーを見つめる中、海斗と美雨は手を握りあっていた。

 しかしこの時の海斗と美雨は、まだ思ってもいなかった。2人にとって最大の試練が待ち受けていなんて…。



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