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生饌のマルシェ|第2話 蝕(音声版)
小説AI【ニセ砂糖水】による自動生成ラノベ(開国してくださ~い)
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解説:『生饌のマルシェ』は、葬送のフリーレンのパロディ小説です。神道において神様に供える未調理の食品「生饌」を使った蘇生魔法を使う神の物語。そのプロローグにして魔族のエピソローグ。
▼ 完全版はコチラから
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~・~ 以下テキスト本編 ~・~
「お姉ちゃん・・・」「お父さん・・・、みんな・・・。」
償う機会を与えられたマルシェは、村長の家で暮らすようになっていた。季節は収穫の時期であり、マルシェにとっては2回目の秋。明日はマルシェが育てたカボチャを摘み取る日だった。そんな朝を控えていたはずのマルシェの目には、炎に包まれ燃えあがる村の光景が映っていた。
マルシェは状況を振り返る。「(そうだ、これは魔族の軍勢によるものだ)」と、彼女は思い出す。
魔族が軍で村を襲撃したとき、彼女は、村長とマルシルによって一人だけ逃されたのだった。
マルシル「逃げてマルシェ! あなたは逃げて生きるの! もともとあなたは魔族、ここから離れれば追われて殺されることもない。さぁ早く行って!!」
マルシェ「逃げるの? どうして? 僕は家族じゃないの?」
マルシル「バカねこの子は。 こんな時に一番言ってほしかったことをやっと言ってくれた。 でもそうね、家族だからよ。 家族だから、あなたには生きてほしいの。」
マルシェ「わかりません。 僕は明日の朝の朝食は何を食べばいいのですか? 畑の収穫も間近です。 僕のカボチャ、村長や村のみんなと一緒に食べる約束をしてます。 僕は、ここに残ります。」
マルシル「お願い! 黙って!! これ以上言わないで・・・。 覚悟が揺らぐよ・・・。」
この言葉にはマルシルの焦りが反映されていた。 まだ「この子と共に生きたい」という願望に舵を取れば二人共、襲ってきた魔族に追われ、今夜のうちに殺される。 それがわかるからだった。
マルシル「マルシェいい? 女の子は『僕』じゃなくって『私』っていうの。 目がいいくせに、ぜんぜん真似できてないじゃない。 だから、あなたはやっぱり人間じゃない。 それはつまり、あなたは魔族に殺されない、アイツ等は、あなたと同じ種族だから。 だから、あなただけなら逃げられるの!」
マルシェ「わかりません。 僕はまだ償っていないです。 まだ村のみんなから許されていない。 人間のことは、まだ何もわからない。 牛や豚を食べるのに、犬や猫を大切にしたり、名前をつけた牛や豚だと食べられなくなったり、魔族の僕を自分が怪我してでも助けてくれたり、お姉ちゃんのその腕だって・・・・。」
マルシェ「僕は、見ただけじゃ理解できないことは、まだまだたくさんあります。 それに僕は『お母さん』なんて魔法の言葉を口にしたくないです。 この村に来てからは、もっと素敵な魔法があるから、それを知ってしまったから、もうお母さんって言葉で騙したくないです。」
マルシル「もう困らせないでよ。 いいわ、あなたにお守りをあげる。 このお守りがあれば、私はいつだってあなたのそばにいる。」
マルシルは自分の首からぶら下げていた真紅の首飾りをマルシェに手渡した。
マルシル「これは覇王の卵っていうベヘリット。 つまりお守りよ。 私のお母さんが死んじゃったときに、叔父さんが占い師のお婆さんから買ったものなの。 これを持つ者は自分の血と肉と引き換えに死者と再会できるのよ。」
マルシルはこのように説明したが、これは占い師の説明がそもそも間違ったモノだった。 その状況で叔父からマルシルに伝わっていたために、マルシルはこのベヘリットをお守りと本気で思っていた。
マルシェ「これは・・・、嫌です。 人の顔みたいで気持ち悪い。 僕はいまいる家族と村の人たちと畑の収穫をしたいだけです。 こんなのいらないです。」
マルシル「いい加減にして!!」
マルシェが村に来てから1年半が過ぎていたが、マルシルがこんな声を出したのは初めてだった。 そして、マルシェもこれまでずっと村ではほとんど無表情であったが、この時初めて彼女の顔は人間の驚いたときの表情となっていった。
マルシル「・・・ごめんね、マルシェ、大きな声を出して。 でも言ったでしょ、女の子は『僕』じゃなくて『私』っていうのよ。 あなたの姉の私は『僕』って言わないでしょ? 妹のあなたもそうしなさい。」
マルシェ「・・・」
マルシル「・・・、お母さんが死んで寂しかった私に妹ができて、私は・・・、私はうれしかったんだよ、マルシェ。」
マルシルは、一旦ベヘリットの覇王の卵をマルシェの手から取り戻し、それをマルシェの首にかけた。
マルシル「あなた、傷の再生は早いはずよね? 魔族なのだから・・・。 いい? ちょっと痛いかもしれないけど、あなた聞き分けないからさ、いい加減これで逃げなさいね。」
マルシルは、空間から片手サイズの杖を取り出した。
マルシル「逃げて! そして生きてマルシェ! エクスペリアームス ゾルトラーク バシルーラ!!!」
マルシルは、” 魔族の少女 ” に向かって魔法を放った。 マルシェの身体は、猛牛に突進されたかのように吹き飛んだ。 森の茂み、奥深くまで飛ばされた彼女は、気を失ってしまった。
意識を取り戻すと朦朧(もうろう)とした頭で、自分の置かれた状況を振り返った。 何が起きたかを、おぼろげに、掴めそうだが、あと一歩のところで思い出せない。
マルシェは、首の違和感にふと気づく。 首にかけられた、血に染まったかのようなベヘリット。 それを目にして、彼女は「ハッ」とした表情で森から駆け出した。
森を出ると、およそ160メートル先に、炎に包まれた村が、目に飛び込んだ。
「お姉ちゃん・・・。 お父さん・・・、みんな・・・。」
まだ幼い魔族の彼女には、感情らしい感情はなかったはずだ。 本能的に周囲を観察することで、200年、300年かけて、人間を模倣する、それが魔族だ。
だが、マルシェはこの時、大きな変化を感じていた。 マルシルと出会ったことで、温かな気持ちが彼女の内側から溢れる場所があることをマルシェは知った。
同じ場所からまったく異なる何かが溢れ出ようとしている。 その変化は、人が感情と呼ぶものであり、マルシェの中に人間に似た喜怒哀楽の感情があることを物語っている。
感情は別の何かに変貌しようとしている。 それに呼応するかのように、真紅のベヘリットは震え、血の涙を流し、悲しみの咆哮を上げた。
「うああああああああああああああああああああああああああああ」
マルシェもほぼ同時に、悲鳴のような叫び声をあげ、その場に崩れ落ちた。
「助けてください! 助けてください! お父さんを! お姉ちゃんを! 私の家族を!!!!」
そう叫ぶマルシェの耳に、どこからともなく声が聞こえる。
???「供物を供えよ。 供物はあるか?」「 生がいい。 生肉がいい。」
マルシェは、そんな声を無視して、ただただ嘆いた。
マルシェ「お父さん!! お姉ちゃん!! 私はどうしたらいいの! 魔族として生きるの? また・・・、また一人で生きるの?」
マルシェの悲痛は、マルシェに語り掛ける『囁き』を、より鮮明に感じ取らせた。
???「供物を用意しろ。 あの方たちが力になるぞ。」 「生肉がいい。 新鮮な生の肉と血がいい。」 「『捧げる。』 たった一言そう言えばいい。 お前がそう言うだけで、あの方たちがすぐに現れる。 お前に大きな力を与えてくれるぞ。」
マルシェは、その声がベヘリットを中心に聞こえていることに気づいた。 しかし、声はベヘリットだけではなく、空間や木々、空や地面など、あちらこちらと淀む魔(マナ)のように四方から聞こえている。
だが、それは神秘的な囁きでもあった。
ベヘリットからは、血の涙が止まることなく滴っている。このような首飾りがまともなわけがないのは一目瞭然でわかる。 だが、マルシェは幼い魔族にしてはありえないほど、人間に近い感情が彼女の中で内在していた。
彼女を襲う悲しみ、寂しさ、虚無。 さまざまな感情が彼女の心を負で満たし、その感情は最終的に「怒り」となり彼女を取り込むのであった。
何を捧げるのか彼女はわからなかった。 ただ、怒りだけが純粋にはっきりと彼女には認識できていた。 もうどうなってもいい。 すべてが終わってもいい。 怒りが彼女の背中を後押しする。
マルシェ「捧げる」
その瞬間、土だった地面は一瞬にして、人の顔らしきオブジェのような文様に変わった。 空はなくなり、やはり顔のような文様で埋め尽くされている。
ゴッドハンドの降臨だった。
ボイド「物語は始まった 因果が紡いだ運命の糸に少女は選ばれた」
ユービック「偽りの父と姉と収穫を喜びともに生きたかったか、少女よ?」
コンラッド「全てを失い 終わってしまったぬくもりを 後悔と悲しみに心が嘆く 貴様の願いは我らゴッドハンドがしかと受け取った」
ユービック コンラッド「「666人の血と肉 新鮮な供仏 生饌を よくぞ捧げたマルシェよ 我らゴッドハンドの力を授けよう」」
ボイド「それを可能にするのは女神なり 母なる人差し指の聖典に記されし古の女神が今舞い降りた お前は会話を許された さぁ何を申す?」
マルシェ「「女神・・・。」マルシェ「えっ!!! 女神っ!!?? 聖典の女神ですか! それじゃ回復魔法? いや蘇生魔法? お願いします! とにかく、なんでもいいから私の家族を助けてください。 救ってください!!!」
女神スラン「助けませんよ。」 女神スランは、あっさりとマルシェにそう言い放った。
その表情は無表情に近い。が、慈悲と慈愛に満ちた微笑みを浮かべているように見えた。
マルシェ「『助けない』って・・・、え? どういうことですか? 私は捧げるって言いました!」
女神スラン「あなたが『生饌』として捧げたのは『その家族の血肉』です。 捧げた供物を生き返らせるということは供物を取り下げること。 666人の生の肉と血液を今更、取り下げることはできません。 それがあなたが私たちゴッドハンドに捧げたものなのですから。」
マルシェはめまいがした。 何もわからず、ただ怒りから言われるままに「捧げる」といったが、それが自分が助けてほしいと願った人たちであったのだ。
女神スラン「その代わり、あなたは神となり神の力を手に入れるのです。 『覇王の卵』は、ベヘリットの中でも最上位の特別なもの。 『神となる存在』が手にする真紅の卵。 あなたはその覇王の卵に神になるよう選ばれたのです。 今この場に朽ちた村人たちの血と肉が献上され、すべての条件は揃いました。 精霊が、天使が、私たち神でさえ、あなたの誕生を祝福しています。」
ボイド、ユービック、コンラッド「「「「死神マルシェよ!」」」」
女神スラン「人を食い、殺し、そして、人と共に暮らし・・・収穫の際には畑で鎌を振るそんなあなたに相応しい神それは生と死、再生と終焉、その両方を司る神死神その大鎌は、稲を刈り取る農夫のごとく、最良のタイミングで命を刈る。刈られた麦は次の畑に蒔かれ、蘇生と復活を遂げる。あなたは、供物となった666人の魂と引き換えに、666人の死者を蘇生できる力を手に入れました。 ただし、そこにはルールがあります。 蘇生魔法で生き返りが成功するのは、死後13時間以内の人だけ。もし13時間以上経過した遺体の蘇生に失敗すれば、あなたは13ヶ月、蘇生魔法は使えなくなります。その代わり、僧侶と同じ様に、回復魔法をあなたはいつでも使えます。 これは蘇生を失敗した代償の13ヶ月間の期間でも、回復魔法は使えます。そしてあなたは、なんの制約もなく、鎌を一振すれば、森羅万象に存在するすべての命を刈り取る事ができます。 つまり、あなたが慈悲と慈愛を持って願えば、いつでも、どこでも、どの命も、終わらせることができます。ですが忘れてはいけません。あなたは神となるのです。 しかも、もっとも誇り高き、高潔でいて、温厚な、死神に。 いいですか?あなたが死者の蘇生ができるのは生饌となった666人と同じ、666回だけ。あなたの父と姉と、そして亡くなった村人たちが、蘇生魔法の時にランダムに選ばれ、あなたは彼らと再会できるでしょう、生饌として。」
死神マルシェまたの名を「生饌のマルシェ」
供物となった村人の魂と引き換えに、この世でもっとも慈悲と慈愛に満ちた魔法を使う「生饌のマルシェ」の旅が、いま始まろうとしていた。
生饌のマルシェ|プロローグ(終)
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~・~ 以下テキスト本編 ~・~
「お姉ちゃん・・・」「お父さん・・・、みんな・・・。」
償う機会を与えられたマルシェは、村長の家で暮らすようになっていた。季節は収穫の時期であり、マルシェにとっては2回目の秋。明日はマルシェが育てたカボチャを摘み取る日だった。そんな朝を控えていたはずのマルシェの目には、炎に包まれ燃えあがる村の光景が映っていた。
マルシェは状況を振り返る。「(そうだ、これは魔族の軍勢によるものだ)」と、彼女は思い出す。
魔族が軍で村を襲撃したとき、彼女は、村長とマルシルによって一人だけ逃されたのだった。
マルシル「逃げてマルシェ! あなたは逃げて生きるの! もともとあなたは魔族、ここから離れれば追われて殺されることもない。さぁ早く行って!!」
マルシェ「逃げるの? どうして? 僕は家族じゃないの?」
マルシル「バカねこの子は。 こんな時に一番言ってほしかったことをやっと言ってくれた。 でもそうね、家族だからよ。 家族だから、あなたには生きてほしいの。」
マルシェ「わかりません。 僕は明日の朝の朝食は何を食べばいいのですか? 畑の収穫も間近です。 僕のカボチャ、村長や村のみんなと一緒に食べる約束をしてます。 僕は、ここに残ります。」
マルシル「お願い! 黙って!! これ以上言わないで・・・。 覚悟が揺らぐよ・・・。」
この言葉にはマルシルの焦りが反映されていた。 まだ「この子と共に生きたい」という願望に舵を取れば二人共、襲ってきた魔族に追われ、今夜のうちに殺される。 それがわかるからだった。
マルシル「マルシェいい? 女の子は『僕』じゃなくって『私』っていうの。 目がいいくせに、ぜんぜん真似できてないじゃない。 だから、あなたはやっぱり人間じゃない。 それはつまり、あなたは魔族に殺されない、アイツ等は、あなたと同じ種族だから。 だから、あなただけなら逃げられるの!」
マルシェ「わかりません。 僕はまだ償っていないです。 まだ村のみんなから許されていない。 人間のことは、まだ何もわからない。 牛や豚を食べるのに、犬や猫を大切にしたり、名前をつけた牛や豚だと食べられなくなったり、魔族の僕を自分が怪我してでも助けてくれたり、お姉ちゃんのその腕だって・・・・。」
マルシェ「僕は、見ただけじゃ理解できないことは、まだまだたくさんあります。 それに僕は『お母さん』なんて魔法の言葉を口にしたくないです。 この村に来てからは、もっと素敵な魔法があるから、それを知ってしまったから、もうお母さんって言葉で騙したくないです。」
マルシル「もう困らせないでよ。 いいわ、あなたにお守りをあげる。 このお守りがあれば、私はいつだってあなたのそばにいる。」
マルシルは自分の首からぶら下げていた真紅の首飾りをマルシェに手渡した。
マルシル「これは覇王の卵っていうベヘリット。 つまりお守りよ。 私のお母さんが死んじゃったときに、叔父さんが占い師のお婆さんから買ったものなの。 これを持つ者は自分の血と肉と引き換えに死者と再会できるのよ。」
マルシルはこのように説明したが、これは占い師の説明がそもそも間違ったモノだった。 その状況で叔父からマルシルに伝わっていたために、マルシルはこのベヘリットをお守りと本気で思っていた。
マルシェ「これは・・・、嫌です。 人の顔みたいで気持ち悪い。 僕はいまいる家族と村の人たちと畑の収穫をしたいだけです。 こんなのいらないです。」
マルシル「いい加減にして!!」
マルシェが村に来てから1年半が過ぎていたが、マルシルがこんな声を出したのは初めてだった。 そして、マルシェもこれまでずっと村ではほとんど無表情であったが、この時初めて彼女の顔は人間の驚いたときの表情となっていった。
マルシル「・・・ごめんね、マルシェ、大きな声を出して。 でも言ったでしょ、女の子は『僕』じゃなくて『私』っていうのよ。 あなたの姉の私は『僕』って言わないでしょ? 妹のあなたもそうしなさい。」
マルシェ「・・・」
マルシル「・・・、お母さんが死んで寂しかった私に妹ができて、私は・・・、私はうれしかったんだよ、マルシェ。」
マルシルは、一旦ベヘリットの覇王の卵をマルシェの手から取り戻し、それをマルシェの首にかけた。
マルシル「あなた、傷の再生は早いはずよね? 魔族なのだから・・・。 いい? ちょっと痛いかもしれないけど、あなた聞き分けないからさ、いい加減これで逃げなさいね。」
マルシルは、空間から片手サイズの杖を取り出した。
マルシル「逃げて! そして生きてマルシェ! エクスペリアームス ゾルトラーク バシルーラ!!!」
マルシルは、” 魔族の少女 ” に向かって魔法を放った。 マルシェの身体は、猛牛に突進されたかのように吹き飛んだ。 森の茂み、奥深くまで飛ばされた彼女は、気を失ってしまった。
意識を取り戻すと朦朧(もうろう)とした頭で、自分の置かれた状況を振り返った。 何が起きたかを、おぼろげに、掴めそうだが、あと一歩のところで思い出せない。
マルシェは、首の違和感にふと気づく。 首にかけられた、血に染まったかのようなベヘリット。 それを目にして、彼女は「ハッ」とした表情で森から駆け出した。
森を出ると、およそ160メートル先に、炎に包まれた村が、目に飛び込んだ。
「お姉ちゃん・・・。 お父さん・・・、みんな・・・。」
まだ幼い魔族の彼女には、感情らしい感情はなかったはずだ。 本能的に周囲を観察することで、200年、300年かけて、人間を模倣する、それが魔族だ。
だが、マルシェはこの時、大きな変化を感じていた。 マルシルと出会ったことで、温かな気持ちが彼女の内側から溢れる場所があることをマルシェは知った。
同じ場所からまったく異なる何かが溢れ出ようとしている。 その変化は、人が感情と呼ぶものであり、マルシェの中に人間に似た喜怒哀楽の感情があることを物語っている。
感情は別の何かに変貌しようとしている。 それに呼応するかのように、真紅のベヘリットは震え、血の涙を流し、悲しみの咆哮を上げた。
「うああああああああああああああああああああああああああああ」
マルシェもほぼ同時に、悲鳴のような叫び声をあげ、その場に崩れ落ちた。
「助けてください! 助けてください! お父さんを! お姉ちゃんを! 私の家族を!!!!」
そう叫ぶマルシェの耳に、どこからともなく声が聞こえる。
???「供物を供えよ。 供物はあるか?」「 生がいい。 生肉がいい。」
マルシェは、そんな声を無視して、ただただ嘆いた。
マルシェ「お父さん!! お姉ちゃん!! 私はどうしたらいいの! 魔族として生きるの? また・・・、また一人で生きるの?」
マルシェの悲痛は、マルシェに語り掛ける『囁き』を、より鮮明に感じ取らせた。
???「供物を用意しろ。 あの方たちが力になるぞ。」 「生肉がいい。 新鮮な生の肉と血がいい。」 「『捧げる。』 たった一言そう言えばいい。 お前がそう言うだけで、あの方たちがすぐに現れる。 お前に大きな力を与えてくれるぞ。」
マルシェは、その声がベヘリットを中心に聞こえていることに気づいた。 しかし、声はベヘリットだけではなく、空間や木々、空や地面など、あちらこちらと淀む魔(マナ)のように四方から聞こえている。
だが、それは神秘的な囁きでもあった。
ベヘリットからは、血の涙が止まることなく滴っている。このような首飾りがまともなわけがないのは一目瞭然でわかる。 だが、マルシェは幼い魔族にしてはありえないほど、人間に近い感情が彼女の中で内在していた。
彼女を襲う悲しみ、寂しさ、虚無。 さまざまな感情が彼女の心を負で満たし、その感情は最終的に「怒り」となり彼女を取り込むのであった。
何を捧げるのか彼女はわからなかった。 ただ、怒りだけが純粋にはっきりと彼女には認識できていた。 もうどうなってもいい。 すべてが終わってもいい。 怒りが彼女の背中を後押しする。
マルシェ「捧げる」
その瞬間、土だった地面は一瞬にして、人の顔らしきオブジェのような文様に変わった。 空はなくなり、やはり顔のような文様で埋め尽くされている。
ゴッドハンドの降臨だった。
ボイド「物語は始まった 因果が紡いだ運命の糸に少女は選ばれた」
ユービック「偽りの父と姉と収穫を喜びともに生きたかったか、少女よ?」
コンラッド「全てを失い 終わってしまったぬくもりを 後悔と悲しみに心が嘆く 貴様の願いは我らゴッドハンドがしかと受け取った」
ユービック コンラッド「「666人の血と肉 新鮮な供仏 生饌を よくぞ捧げたマルシェよ 我らゴッドハンドの力を授けよう」」
ボイド「それを可能にするのは女神なり 母なる人差し指の聖典に記されし古の女神が今舞い降りた お前は会話を許された さぁ何を申す?」
マルシェ「「女神・・・。」マルシェ「えっ!!! 女神っ!!?? 聖典の女神ですか! それじゃ回復魔法? いや蘇生魔法? お願いします! とにかく、なんでもいいから私の家族を助けてください。 救ってください!!!」
女神スラン「助けませんよ。」 女神スランは、あっさりとマルシェにそう言い放った。
その表情は無表情に近い。が、慈悲と慈愛に満ちた微笑みを浮かべているように見えた。
マルシェ「『助けない』って・・・、え? どういうことですか? 私は捧げるって言いました!」
女神スラン「あなたが『生饌』として捧げたのは『その家族の血肉』です。 捧げた供物を生き返らせるということは供物を取り下げること。 666人の生の肉と血液を今更、取り下げることはできません。 それがあなたが私たちゴッドハンドに捧げたものなのですから。」
マルシェはめまいがした。 何もわからず、ただ怒りから言われるままに「捧げる」といったが、それが自分が助けてほしいと願った人たちであったのだ。
女神スラン「その代わり、あなたは神となり神の力を手に入れるのです。 『覇王の卵』は、ベヘリットの中でも最上位の特別なもの。 『神となる存在』が手にする真紅の卵。 あなたはその覇王の卵に神になるよう選ばれたのです。 今この場に朽ちた村人たちの血と肉が献上され、すべての条件は揃いました。 精霊が、天使が、私たち神でさえ、あなたの誕生を祝福しています。」
ボイド、ユービック、コンラッド「「「「死神マルシェよ!」」」」
女神スラン「人を食い、殺し、そして、人と共に暮らし・・・収穫の際には畑で鎌を振るそんなあなたに相応しい神それは生と死、再生と終焉、その両方を司る神死神その大鎌は、稲を刈り取る農夫のごとく、最良のタイミングで命を刈る。刈られた麦は次の畑に蒔かれ、蘇生と復活を遂げる。あなたは、供物となった666人の魂と引き換えに、666人の死者を蘇生できる力を手に入れました。 ただし、そこにはルールがあります。 蘇生魔法で生き返りが成功するのは、死後13時間以内の人だけ。もし13時間以上経過した遺体の蘇生に失敗すれば、あなたは13ヶ月、蘇生魔法は使えなくなります。その代わり、僧侶と同じ様に、回復魔法をあなたはいつでも使えます。 これは蘇生を失敗した代償の13ヶ月間の期間でも、回復魔法は使えます。そしてあなたは、なんの制約もなく、鎌を一振すれば、森羅万象に存在するすべての命を刈り取る事ができます。 つまり、あなたが慈悲と慈愛を持って願えば、いつでも、どこでも、どの命も、終わらせることができます。ですが忘れてはいけません。あなたは神となるのです。 しかも、もっとも誇り高き、高潔でいて、温厚な、死神に。 いいですか?あなたが死者の蘇生ができるのは生饌となった666人と同じ、666回だけ。あなたの父と姉と、そして亡くなった村人たちが、蘇生魔法の時にランダムに選ばれ、あなたは彼らと再会できるでしょう、生饌として。」
死神マルシェまたの名を「生饌のマルシェ」
供物となった村人の魂と引き換えに、この世でもっとも慈悲と慈愛に満ちた魔法を使う「生饌のマルシェ」の旅が、いま始まろうとしていた。
生饌のマルシェ|プロローグ(終)