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『イラスト図解 世界史を変えた金属』より 第3回 ~138 億年前〉元素誕生から地球誕生―恒星が金属を作り出す(後)~

金属の成り立ちや特徴、人類史における関りまで解説した好評既刊『イラスト図解 世界史を変えた金属』から一部を公開いたします。
第3回は第1章・第1節「〈138 億年前〉元素誕生から地球誕生―恒星が金属を作り出す」の後半を紹介します。前半は第2回をお読みください。

1-1 〈138 億年前〉元素誕生から地球誕生―恒星が金属を作り出す 後編

地殻の誕生

高温で溶けていた原初の地球は、やがて冷えて固まり始めます。密度の高い鉄の合金は中心核になり、岩石質の部分はマントル*となり、表面近傍は地殻となりました。
超新星爆発で生成した鉄より重い金、銀、ニッケル、タングステンなどの金属は、鉄に溶け込み、マントルを通り抜けて中心核に取り込まれます。鉄に取り込まれにくいカリウムやカルシウム、アルミニウムなどの金属は、マントルに残されました。

鉄の大半は、地球の中心核に沈んでいきましたが、一部は地殻やマントルに残りました。地殻に取り残された鉄の量は大きく、酸素、ケイ素、アルミニウムに次ぐ4番目の存在量です。
なお、金、銀、白金などの貴金属ききんぞくは、地殻が形成された後、これらの貴金属を含む小惑星や隕石が地球に衝突して、地殻の表面に残存したものと考えられています。このため、鉄などと異なり、地表の限定された場所で見つかります。

*マントル
地球の質量の3分の2を占める岩石質の物質。岩石質なので動かないわけで
はなく、高温高圧状態のマントルは、ゆっくりと流動している。これをマントル対流と呼ぶ。マントル対流が地震や火山噴火などの地殻変動を起こす。

海の誕生

古代地球の大気が冷えてくると、二酸化炭素を含む大雨が降り注ぎ、地表に巨大な炭酸の海が生まれました。炭酸の海は地表を溶かし、カルシウムやナトリウム、鉄などさまざまな元素を海に溶け込ませながら拡大していきました。
海に溶け込んだカルシウムは、炭酸と反応して炭酸カルシウム(石灰)になり、海底に沈殿しました。このため海は次第に中和され、海水は現代と同じような真水となり、生物が生まれる環境が整いました。

生物の誕生

やがて真水の海に生命が誕生します。まず海中に、二酸化炭素を取り込んで酸素を吐き出すシアノバクテリア*が大発生しました。次に陸地に、二酸化炭素を取り込んで成長する植物が発生します。植物は、マグネシウムをうまく利用した葉緑素*を含んでおり、太陽光をエネルギーとして光合成を行います。こうして地球の大気は、二酸化炭素から酸素に置き換わっていきました。
次に、動き回る動物が発生します。動物は酸素を取り込んで、二酸化炭素を吐き出します。動物はその発生時代に利用できる金属を用いて、巧妙に運動する仕組みを作り上げました。軟体類の血液は、銅を利用した青い血*ですが、私たち哺乳類は、鉄を利用した赤い血*です
ちなみに私たちの血液組成は、太古の海と鉄の含有量が同じです。現代の海は、鉄不足です。これは、葉緑素が作り出した酸素が、海水中の鉄イオンを酸化鉄、つまり鉄鉱石に変えて沈殿させたためです。太古の海は、鉄分が豊富な元気な海だったんですね。

*シアノバクテリア
嫌気性バクテリア。二酸化炭素を取り込んで光合成を行い、酸素を発生させる細菌。藍藻らんそうとも呼ぶ。湿地帯や水槽などで発生し、緑色でねばねばしている。植物に酷似しているが、藻類とも陸上型植物とも異なる。植物の葉緑素の祖先
*葉緑素
クロロフィル。化学構造の中央にマグネシウムを持ち、光エネルギーを吸収して酸素を発生させる。植物とシアノバクテリアの細胞の中に存在する。葉緑素が地球に生まれたことで、二酸化炭素の大気は現在のような空気組成に変化した。
*青い血
ヘモシアニン。化学構造の中央に銅を持ち、大気中の酸素を取り込んで、体内に運ぶ。いかやたこ、貝などの血液は銅を含み、青く見える。太古の生命誕生で、代謝系に銅が使えた時代から存在する。
*赤い血
ヘモグロビン。化学構造の中央に鉄を持ち、大気中の酸素を取り込んで体内に運ぶ。人間を含め、多くの動物の代謝系で見られる。血液中の赤血球に含まれる鉄イオンのために赤く見える。血液成分は現在の海よりも鉄濃度が高い。これはこれは太古の海の成分と考えられている。

書籍目次

第1章 金属はどこで生まれ、人類と出会うのか?―宇宙・地球・生命・文明と金属
 1-1 〈138億年前〉元素誕生から地球誕生―恒星が金属を作り出す
 1-2 〈BC38-19億年〉鉄鉱石と銅鉱石の起源―生命と地球環境が鉱石を作る
 1-3 人類が最初に精錬した金属は銅?―銅器と青銅器
 1-4 金属の歴史に登場する鉄の種類―数万年も前から利用されてきた鉄
 Column 玉鋼

第2章 金属の記憶―金属の神話と錬金術
 2-1 金属と伝承―鉄の神話
 2-2 錬金術―黄金への永遠の願望
 Column ロマンティックな遭遇

第3章 金属の文明―金属変遷と東西の文明
 3-1 〈BC5000-BC1000〉青銅器と鉄器―青銅器文明から鉄器文明へ
 Column ブロンズ病
 3-2 〈BC1000-BC1〉ローマと中国―西端のローマ文明と東端の中国文明が始まる
 Column わが家の銅鐸

第4章 金属の思想―金属は文明と錬金術を生み出す
 4-1 〈AD1-500〉文明の興隆―ローマは興隆し、中国は鉄鋼先進国へ
 4-2 〈500-1000〉錬金術出現―ビザンチン文化と錬金術の萌芽期
 Column 神話と金属

第5章 金属の拡張―距離の拡張と技術の拡張
 5-1 〈1000-1400〉冶金の進化―十字軍の東方文化発見と鉱山冶金術の進化
 5-2 〈1400-1600〉冶金技術―大航海時代と鉱山冶金技術書籍
 Column ダンテ「神曲」の金属

第6章 金属の衝動―産業革命へ準備
 6-1 〈1600-1700〉鉄生産前夜―鉄生産は英国に移動し、ミクロ観察が発明される
 Column 一つ目小僧
 Column 三蔵法師の宿題
 6-2 〈1700-1760〉発見と革命―第一次元素発見ラッシュと高炉法の進化
 6-3 〈1760-1800〉蒸気と電気―蒸気機関と製鉄業が産業革命を生み、電気利用が始まる
 Column シューベルトは騒音に苦情を言ったか?

第7章 金属の胎動―産業革命への歩み
 7-1 〈1800-1820〉元素と刃物―電気利用で第二次元素発見ラッシュ、鉄は刃物と大砲へ
 7-2 〈1820-1840〉模様と金属―ダマスカス模様へのあこがれと新金属アルミニウム登場
 7-3 〈1840-1860〉黄金と彗星―黄金がゴールドラッシュを呼び、彗星のごとく転炉法が誕生する
 7-4 〈1860-1880〉理解と製鋼―周期表が理解を深め、製鋼法の死闘の中で鉄血演説が生まれる

第8章 金属の躍進―巨大建造物と新金属の大躍進
 8-1 〈1880-1890〉実用と製品―エッフェル塔とアルミニウム精錬
 8-2 〈1890-1895〉軍艦と鋼材―戦艦甲板の鋼材競争
 8-3 〈1895-1900〉放射線と新機能―放射線科学と新機能金属素材の開発
 Column 女神さまの内なる悩み

第9章 金属と機能―金属に新たな機能の可能性
 9-1 〈1900-1905〉電磁鋼と酸素―電磁鋼板の発明と酸素分離がもたらす高効率精錬
 Column 錫ペスト
 9-2 〈1905-1910〉表面の技術―表面硬さの知見と表面不動態化
 9-3 〈1910-1915〉機能材料―ジュラルミンとステンレス鋼
 Column エボシのたたら場探訪記

第10章 金属の成長―性質の成長と建造物の成長
 10-1 〈1915-1920〉硬さと戦争―衝撃と硬さの定義と戦争が生んだ巨大砲の衝撃
 10-2 〈1920-1925〉地球の理解―地球科学の登場と窒素の効用
 10-3 〈1925-1930〉進化と巨大化―合金の進化と鉄鋼設備の巨大化
 10-4 〈1930-1935〉理論と摩天楼―科学理論の進歩とステンレス鋼をまとう摩天楼

第11章 金属の運命―戦争に翻弄される金属
 11-1 〈1935-1940〉戦火の足音―金属理論の深化と第二次世界大戦
 11-2 〈1940-1945〉核と新素材―原子核の実験と鋳造技術
 11-3 〈1945-1950〉理解の進歩―金属科学知識の理解と鋳鉄技術の進歩


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