地勢は坤なり 易経象伝より
易経をより身近に感じて頂けるように、易経の言葉を掲載しております。易経には、味わい深く、魅力的な語句がたくさんありますが、本卦から十翼の広い範囲で、特にこれは!という一節を選んで取り上げます。
〔地勢は坤なり〕この言葉は、繋辞伝かと思いましたが、実は、☷☷坤為地の象伝にありまして、易経本卦で習っているのです。
この連載を書くことで、悪戦苦闘ながらも、私自身もせっかく教えていただいた易経を読みかえす機会になり、再発見できて、とても勉強になります。偉そうに解説していますが、かくいう私は達人ではありません。むしろ人一倍要領が悪く、覚えが悪いと思っています。このコーナーが「ぼくの易学ノート」だけになっていないかと心配です。御茶ノ水の易学研究会などで、お会いした時に、ご感想・ご意見・ご助言など頂ければ幸いです。
さて、訓読文は、次の通りです。
加藤大岳先生の生徒さんからの年賀状には、句を詠まれたものが多くあり、その紹介のなかで、中島健太郎氏からのある年の年賀状には〔むらさきの 土の香立ちぬ 年はじめ〕とあり、尾には「地勢坤」の白文印が捺されていました。風流ですね。
坤為地の彖伝では、柔順に輪をかけるように牝馬の例話が出てきました。ところが、象伝では、君子のために包容力を持つことの話になっています。
地上のあらゆる生きとし生けるものすべては、大地の栄養分、気を吸って、成長します。そして、母の愛を吸収して、子は育ちます。大地が、好き嫌いせずに皆を乗せていてくれるように、とても分厚い包容力をもっているのが☷☷坤為地です。
☰乾と☷坤は対になっていて、対称的ですが、あの大きな太陽の光を全面で受け入れてくれる〔坤の道〕は、儒教では「仁」と表したり、仏教では、「慈しみ」とも言っている程です。
坤の道は、易経の醍醐味のひとつといってもいいですね。
この坤為地の教えにならって、君子は、あらゆる事を受け入れ包容して行きなさい。と教えています。大きな心、度量とでもいいましょうか、これを持っていないとできないことですね。
もしも、働いているご主人だったら、仕事のことで本当にへこんだり、社内の人間関係で悶々としても、帰る家があり、お嫁さんや彼女だったり、絶対的な味方が存在してくれている。それだけで、なんて、有り難いことでしょうか。仕事が大変なときこそ、身にしみてわかってきます。
智恵と人格を持った人を儒教では君子と説明していますが、私には、仏教的な菩薩のイメージが浮かびました。
大地の包容力で、生長する
ある90歳の古老の男性が、書いた手紙を拝見しました。それは、銀婚式を迎える娘夫婦に宛てた手紙でした。とても面白かったので、思わず身を乗り出して、写させてください!と頼みました。そこには、女性の歩む道には四十七通りあり、例えば、良い子に育って欲しいと願い「娘」と読みます。という書き出しで、「女」の字が含まれる漢字について一言ずつ書いてあるものでした。その中から、いくつかご紹介させていただきます。
始・・ものを始めるには、女性の力添えで始める。
安・・家の中に女性が居ると安心。
要・・ここ一番の重要なときには、奥様に相談。
好・・あなたの子が欲しいほど好き。
宴・・家の中に日のように明るい女性
嬉・・喜びは女性と共に。
努・・女性の力を借りてしあわせを
姿・・次の日はもっと綺麗になりたくて
他にも、腰、桜、婦、如、妙、委、嫌、姫、妄、接・・などなど「女」の字にまつわる漢字がありましたが、割愛させていただきます。わざわざ紙幅を割いてまで、ここで紹介したくなったのは、☷坤の女性は様々な形になって、助けて、支えてくれるのだという例えを出したかったからです。
「地勢は坤」の勢という字は、『角川新字源 改訂新版』によると、会意形声。力と、埶(セイ)(草を植える)から成り、草木を生長させる力、ひいて、ものを支配する力の意を表す。とありました。
☷☷坤為地は女性の卦ですが、男女問わずに大地の包容力は大切ですね。
易書では、陰陽のはじめから、陽は尊、正に対して、陰は卑、邪などの単語があるために、ともすると全陰の坤が悪であるかのように、誤解してしまうかもしれませんが、包容力は坤の方があるのですね。
自由主義だの、多様性だのが大きくなった今も、易経は、人間の本質をついていると思います。
何はともあれ、この易経の言葉が、大地にまかれた一粒の種のように、自分の中でゆっくりと芽をだし、限りなく豊かな実を結ばせてくれそうです。
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