『関野吉晴ゼミ カレーライスを一から作る』(前田亜紀、ポプラ社)
クレート・ジャーニーといえばうちの犬(白いほう)だが、グレート・ジャーニーは探検家・関野さんの専売特許だ。
そんな関野さんがムサビ(武蔵野美術大学)で先生をされているそうで、本書はそのムサビの学生と、文字どおりカレーライスの材料となる、肉・米・塩・野菜・香辛料、はてはお皿とスプーンまで自分たちでつくってしまおうという取り組み(を記録した映画をまとめたもの)。
たぶん映画で観たほうが、学生たちが葛藤するようすなどを実感できると思うけれど、入り口となる児童書としては、これぐらいアッサリ書いたほうがよいのだろう。
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「悲しいから鳴いているのかどうか、本当のところはわからないよ。トラックにおしこめられてきついから鳴いているのかもしれない」
私たちは、動物の感情を人間と同じように考えてしまいがちだけれど、関野さんによると、大きくちがう点があるという。そのひとつに、私たち人間は、「死ぬ」ということを理解しているが、動物は、そうではない。
(132ページ)
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すると、沈黙した空気を破るように、冨田さんが話しはじめた。ウコッケイをヒナから熱心に世話してきたひとりだ。
「今、重い空気になっているっておっしゃったんですけど、私は、かわいそうだからとか殺すのがいやだからという重いで重苦しい気持ちになっているわけではないんです。私は鳥を飼いはじめたときからずっと、『おいしいお肉にする』、『おいしいカレーを作る』っていう目標のためにやってきました。それなのに、なんで今さら、かわいそうだとか、卵の話が出てくるのかと、正直おどろいてしまいます。鳥は、カレーの材料として育てたのだから、私は屠るべきだと思います」
冨田さんには、大事に育てた鳥を屠り、食べるところまでをきちんと自分で経験したいという思いがある。カレーを一から作るために、野菜や米、鳥を育ててきたのだ。冨田さんのこの意見に続くように、ほかの学生も「殺さないという判断はちがうんじゃないか?」といった。
(中略)
すると関野さんはこう話した。
「ペットをお殺さないというのも人間の都合だよね。かわいいから殺さない」
その言葉に「かわいいから殺さない、か……」とため息まじりに声が出る。どこかで、殺さないのは正しいこと、殺すのは悪いこと、とわけて考えてしまうけれど、どちらにしても人間の都合ということなのだ。そして、関野さんはみんなにこんな話をした。
「人間だけでなく、生き物はみんなそれぞれの種の都合で動いているわけだよね」
(182〜184ページ)
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