【短編】ヘンゼルはお菓子の家をみつけられない
【連作短編】きみはグラチネ 第4話です。
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白く吐き出される息は、俺の残像だ。
未明から降り出した雨は、部屋を出る頃には霙交じりとなった。
駅前の交差点で、口から漏れる一筋の行方を目で追っていた。
氷交じりの薄片が俺の口許を掠め、生まれたばかりの白息を掻き消していく。
体内を全速力で駆け巡る血、その熱い交差が白息を生む。
俺自身の情動の熱を映したかのようなこの息に、しかし確かさなどない。
それはまるであの晩の一部始終のようではないか。
俺は肩をすくめる。手垢の着いた感傷だ。
灰色の階段を上ると、ホームに並ぶ頭がやけに暗く見えた。それはいつも通りの朝の光景だ。
人間の頭部が暗い、訝しんでもおかしくない現象なのに見過ごす態度を決めている。それはいつからだ?
数珠繋ぎになった頭部の先に、快速列車が滑り込んで来る。列車ににじり寄るように間を詰める流れに、俺は従った。
ども!
綿吹ケンタでーす。
雨って嫌っすよねー、ほーんと憂鬱になっちゃう。
服濡れるし、靴の中濡れるし、おまけに冬だからさぶいし。
しかも今日おれ、外回りが2件もあるの。
ついてないなあ。オンライン化徹底しましょうよ~ウチの会社~。
え?
雨くらいで愚痴をこぼすのは、もう若くない証拠ですって?
ぐぐぐ~。
でも、まあそうかもしれないっスね。
おっと。目の前の座席に座っている人が降りました。俺の真ん前、今空いています。
チラ(右を見)。チラ(左を見)。
本日の両サイドは、どうしたものか動く気配がありません。
いいの?いいの?
座席、いただいちゃいま~す。
座っている両隣の人へかる~く会釈してから、身体をギュっと詰めますわ。
おれの体格、横幅あるからね、狭くしちゃってスンマセンっていう会釈ね。
こういう気づかいって程でもない仕種するの、実は好き。
俺っぽい感じがするから、何かにつけてしょっちゅうしちゃう。
ふ~、朝から座れて素直にラッキー、てゆうか安心する。
椅子に座れただけで疲れが飛んでいくわな、まだ朝だっちゅうのに。これがオッサンってことっスか。はっふ~。
俺のつかまっていた吊革に手を伸ばすのは、小太りのおじさん。ちょい年配。
あら、でも、良い配分で白髪の混ざった髪がダンディで、四角い眼鏡も実用向けの知能が高そうで、固太りっぽいのが若い頃スポーツやってそうで、なかなか素敵じゃございませんか。おれ基本的にスマート体型の男子が好きなんですが、冬場は身体が脂を求めるのでしょうね、太目の男性も好きな季節で、こんなお方でしたら蒸し器で蒸して辛子醤油で食べたくなっちゃいます。貴方様、おじさんではなくれっきとしたオジサマですね、大変失礼しました、とさり気なく目の前の股間へ視線を落とす俺。
毎日こうやって事あるごとに色んな人のちんこチェックしています。これがあるから通勤地獄もかったるい会議も生きていけます。って最低?
おれって性欲塗れで不潔だなあ~、なんて反省、いつの頃からかケンタはちっともしていません。ちんこのにおいのする辺りには素早く目を走らせて、思いきりガン見。で、ん~想像力を搔き立てる膨らみ、なんてしみじみ吟味。これがケンタのデフォルトです。
昔は違ったんすよ、人様のチンコしげしげ見るのは悪いことなんだよな~って変な方向に勘違いしちゃっていましてね、でもまあ実際、もし昔ね、クラスの男子に「お前アイツのちんこばっか見てるだろ!」って気づかれて、本人にも「あー!さっきからなんか突き刺さる感あったけど、ケンタの性欲?」って股間手で隠されて、わー!逃げろー!なんて年頃おバカ男子の悪意のない悪意ブロック食らったら悪夢ですわ。でもやっぱり素直なケンタも手放せなくて、その素直つうのが淀んだリビドー沼の中でやけに粘っこい泡をドロドロ吹いて棲息している蝦蟇ケンタであるもんだから、万引き犯が獲物にむかってスラーリスラーリ指を動かすみたいに、クラスの男子諸君のちんこ界隈へ視線を這わせていましたさ。どっちが悪い子ケンタよ?平気で他人のちんこガン見する今ケンタと、自分の性欲の濃さ故の、故のと言いながら謎の罪悪感に恐れ戦きつつチンコ盗み見する十代ケンタ、しかも十代ケンタってば、俺●●●見てないもん・たまたま目の前に●●●が勝手に来たんだもん、とてめえにすら伏字の嘘をつくウブに汚れたケンタ。
悪い子以前に不気味だわ俺。
あ~、だからなのね~、あんな時代が俺にあったのは………。
すんません、また自分語りなんスけど、前回、おれ初体験は22歳って言ったじゃないですか、あれ男相手の初体験なんスよ。その1年前に女性相手の初体験をしてるんですよ、21歳っつたら俺、身体に悪いモンばっか食べさせ合うあの飯盒炊飯研究会で主将やっていた頃ですわ、唯一マトモな食いもんっつたら縄文人みてえに石臼で引いたドングリの粉しかなく、俺らの作った飯で腹壊したら俺らの引いたその粉回し舐めしていたあの頃ですわ、今のおれもびっくりしています、こんなに男好きなのにどうしたよケンタ?それもまだ、男の人ともしてないのに先に女の人が先なんて。
でも当時は周りの男子がどいつもこいつも次々と済マークを嬉々とおでこに貼りつけていくから、流石に俺も童マーク張り替えんとあかんかなあ、飯盒炊飯研究会の主将がそれでカッコつくか?なーんて非常に月並みな月並みすぎる虚栄心をモミモミして、満ち足りてもねえのに満ち足りたふりしてたった4人の部員(俺が主将の代で8人もやめたの)でドングリの微かな旨味成分噛み締めてる場合じゃないだろ、しかも俺以外の部員が全員、おれの方がまだしも幾分カッコいいんじゃねえかつうくらい燻ぶった地味男子(だから一緒にいて居心地良いんだよねえ)なのに3人とも自己申告に依れば済マーク(ほんとかよ?!)(えーと、それフーゾクだよね?)、おまけに俺が冗談めかしてゲイネタかまそうもんなら、そのドサクサでさりげなく「おれってバイかも」説を、更にノリ良く「でもノンケ寄りダヨ(だから危険じゃないヨ♡)」説を定着させようもんなら、パレスチナの嘆きの壁まで逆走新幹線で速攻ドン引きっつう異世界の生命体連中・たぶん血の色はミドリの連中で、しかしどんだけ血がミドリだろうが向こうはどう転んでも民主的に多数決での人海戦術ブロック、わあ平和的、俺は慌てて寒いギャク否定(な~にその目おれノンケよ、程度しか出て来ねえブザマな軌道修正)、のちコイツ等いない所でジメジメ沼へ沈没、とゆうことでネット検索さあ、「童貞 捨てたい」。直すぎるよ。もう俺ってばきもち悪い奴だなあって、自分でも呆れるくらいそのワードでガショガショ検索つづけましたわ。
そんなこんなで知り合った人は、童貞卒業が専門の女医さんとか言う人で、まあ専門医?なら大丈夫だろって訳でもないんすけど、まあ会うことになって、向こうは俺のこと「滅多にないタイプ」とか言ってよろこんでくれたんですけど(やたらデカイ体格のことっスかね?)、よろこんでくれたのはうれしいなあってゆうのは確かにあったし、俺もこれが上手く行ったら男好きの童貞ってだけじゃないもう一人の俺に会える気がして、貴女を待つ昼下がりの駅前広場、それは真っ青な海を渇望せずにはいられない真夏の日差しが、石畳と詩語の子音の摩擦音をもって潮騒の乱反射を織りなす白昼のただなか、貴女の来訪のさきぶれか純白の日傘と見まごう鳩が飛び立つのは、その藍色を永遠不変たらしめる化学構造式さえ窺い見えそうな空深い透明度の果ての果てなる消失点でした、って何言ってんですか?別の俺なんている訳ねえだろ馬鹿ケンタと今なら言えますが、更にトドメでそんなのいるなら童貞じゃねえのに男とはヤれていないチンポコ好きケンタだろ、と抜けない剣ぶっ刺せもしますが、その当時は「俺=真生ホモ」説ワンチャンひっくり返せる気がしていたのは確かで、その女性と会ってまだ7、8分しか経っていないのに4回も笑ってくれて、俺も女の人をよろこばせられるんだから強ちゲイじゃないな、なんてまだベッドでもねえ細っこい舗道の小洒落たカフェでもその先にあるんだろうな風の坂道の1つ目の折れ曲がりで謎の定理を打ち立てようとすらしていて、自分が可愛いだけのセックスってあるんですね。道の先にあったのはカフェじゃなく、エレガントなお城みてえなのに休憩2時間とかゆう世俗的な嵌め込み式看板がバビッと目ェ開いている全体的にピンクな建物でした、直すぎるよぅ。つうか口から心臓が飛び出るかと思ったわい。あんまりグチャグチャ説明するのも嫌なんで、その日のお城ではあんまし鼻息フースカフースカするようなみっともない真似はしなかった(と思う)とだけ言っておきますわ、ハフ~。
あれからですかね?俺が男のちんこ、正面からガン見するようになったのは。
確かにそうかもしれないっス。あの頃新しくバイト始めたんスけど、当時知り合った人の顔憶えてねえもん、パンツの膨らみしか憶えてねえもん。
年取るって嫌ですね、今の俺ときたらパンツの膨らみ堪能したら、次は顔に戻って顔堪能、その次は身体のラインをしげしげ堪能できる余裕がありありで、どこからが変態でどこまでが辛うじてノーマルかその線引きを誰が言えるか知らんけど、このオジサマのツイード生地を押し上げるそれなりにボリューミィな膨らみは、煙草の匂い成分の他に蕎麦屋のカツオ出汁とトンカツ屋のソースの微香がブレンドされているのは必定と訴えるケンタのシックスセンスを証明したく嗅覚ピクピク疼き中(ぜんぜん変態じゃないし)、イケてるビジネスマンの忙しくも充実した一日を頭の中に去来させるべく着衣の年上男性とのムフフな夜なら靴下まで嗅いじゃう俺だけど(ノーマル!)、おなか空かせたヘンゼルが「わ~お菓子のオウチ~」なんてメルヘンに迷い込んだドイツ中世国境地帯の森のようなるちょいと縦長の盛り上がりは(変態とは違う次元に迷走)虚偽申請でケンタの目を誤魔化そうとシャツ裾と腹巻とステテコがパンツの前で三つ巴のくだを巻いたまやかしで(判定、慧眼)、でもでも俺ってば仕事ジャカスカ出来そうなオジサマが、ひん剥いたら実はちいせえチンポつうの好きっすよ、小柄な坊やが大人に負けまいと健気に社会勉強?もうっカワイイ(変態ではないと思う)、つうか粗チンって何ですか、どんなチンポにだって喰われる価値はありますさ、粗末なチンチンなんて一本もありゃしません(はい拍手)、だってこの俺が言うんスよ男との初体験済ませた後は年間●●●本食いまくってるこのケン……あ~いやその(あうっあうっ)(スンマセン見栄張っちゃいました、●●本が上限です)、いやだから何が言いたいかっつうと、ぐあ~涼来せんぱ~い、もう何週間前っすか?、貴方がグテングテンに酔っぱらったあの晩っスよ、貴方はぶっといチンポを無理やり俺の口の中に押し込みましたけど、あんなに太くなくて良かったんスよぅ、だってあの野太さ1年に1回ぜったい目撃しますもん、節分の日のデパ地下の総菜コーナーで「一口じゃ被り着けんじゃろ」っつう磯の匂いもかぐわしい棒状のアレは、調理師さんの悪ノリだか粋な計らいだか知らんけど、奥様方や独り身ゲイの目の前に一糸まとわぬ姿で送り出された黒光りは恵方巻の王様だもん、だなんてどこの誰だか知らない男性の股間を見つめながら、一番好きな人のチンポコの食感を思い浮かべているケンタです(あー変態認定だわ)、だってあの晩、先輩ひどいっスよ、お部屋真っ暗だったじゃないっすか、ちっとも愛し合った感なかったじゃないっすか、電気点けてチンポ見せ合わなくてよかったんすか俺のチンポ見なくてよかったんすか(未練たらたらかよ)、なに?もう一回しゃぶらせてもらいたいの?(ウン!)、それは難しいんじゃな~い?(俺が言うなよ)、まあ、せめてですね、せめてですよ、このオジサマにしてみりゃ迷惑な事故でしょうが、今電車が急ブレーキでオジサマよろけて目の前のツイード生地の膨らみがもにゅっと俺の顔を抱き締めにきてくれたら、涼来先輩のお宅の枕だと思って、恍惚と顔を埋めます「ケ・ン・タ、お・き・ろ。コーヒー冷めちゃうぞ」なんてまだ眠っていたい俺にそんな声を掛けてくれる先輩、お寝坊ケンタが目覚めたらオハヨのチューだななんて考えてちゃってハンサムな顔がゆるんでいる先輩(おれ寝てるからそれ見れないの、きゃふっ!)を想像して、今日一日分のまやかしの幸せとします。
(あのう、普通の人って、通勤電車の中で一体なにを考えてるんでしょうね?)
………そういや、おれが主将やっていた飯盒炊飯研究会は卒業後、名前を「キャンプ飯サークル」に改めたそうですよ。軟派なこころざしがあからさまに透けて見える名前ですが、おかげで部員も僅か3人から総勢30人にまで増え、女子比率も上がったとかなんとか。後輩から電話でその話聞いた時は、えー!そうなの?!とのけ反りましたよ、あいつらの期待に応えようとした俺の努力(せっせとドングリの粉でビスケット作っていたアレ)は何だったのよ?もうケンタってばお人よしのおマヌケさん、余計な回り道ばっかりしているよ~~、おまけにその後輩が言うの、「ケンタ先輩、あの頃ゲイだってバレバレでしたよね~」
?!
?!
いいえ!! バレバレではありませんでしたけどぉ?!
「先輩ドングリビスケット作ってたでしょ、俺ら3人で言ってたんですよ。なんでビスケットが一々パンダさんやゴマアザラシさんの形してんの女子もやらんわ、とか、そもそもビスケ作って女子力アピールっていつの時代よ?とか、あの人、自分が乙女だってこと全然隠す気ないからなあ~、とか」
いーえ!!全然乙女じゃありませんでしたけどぉ!!
俺、聞きながら悶死してましたわ。
「先輩、おかーさんみたいでしたよね、部室にいられると安心するっていうかぁ。ケンタママさん、俺ら気に入っていたんですよ」
オイオイオイ、バカにしてるだろ?ヘラヘラ笑ながら言われてもよう……。
そもそも初めて知ったわ、そんな仇名つけられてたなんて。
その後も、こやつめは土足で「今彼氏、いるんすか?」なんて踏み込みやがるから、簡単に虚を突かれちゃうピュアなケンタは、バババ・バカヤロ、すすす・好きな人くらい、なんて正直に言わんでええのにポロ出ししちゃうから「あれ?片思い?あ~~~~」ってまたいじられて、その「あ~~~」の語尾、イントネーションが下に落ちるのは何?望み薄ってほのめかし?オマエ今の俺の何知ってるの?そのくせして、最後に「頑張ってくださいね」なんてやけに爽やかに励ましやがるから、有り難味ねえけど「おう、応援しろ」と言っといたわ。
はあ、汗かいた。
俺もお前らのこと気に入ってましたよ。今でもかわいい後輩ですわ、ハイ。
と。
いきなり電車がブレーキを。
オジサマがよろけて俺の顔面へ股間を直撃するじゃないですか。
俺ってば即座にフンスカふんすか深呼吸、さっきイメージトレーニングしたおかげ?あら貴方様、蕎麦屋トンカツ屋の他に朝マックにも出没してますねイングリッシュマフィンの縁はこんがり焼けた小麦の香りかぐわしくソーセージからは蛋白加水分解物が加熱で溶解した脂とともに溶け出てこちらも合成肉特有の些か強引ながらも良い香りおっと緑豊かな雨後のジャングル獣の爪傷だらけの樹皮のようなる深遠な香りはエスプレッソコーヒーかスチームミルクのふんわりとした甘い匂いがまだ雨に濡れている青々とした峰へと逆のぼる雲のように鼻先を包みこみますから貴方様ってば俺とおんなじカフェラテ派ふんふんシナモン発見大航海時代海の冒険野郎が喜望峰より欧州大陸をふりさき見ればこの芳香の幻が西日に広がると聞くテラコッタ色のノスタルジーそこに加わる上白糖×レモンの香りの競演は華麗なる氷上の舞姿のアイシングっつうことはカフェラテの追加フレーバーと思わせフェイントのシナモンロール都会の多忙なるビジネスマンにはおやつの時間も大事ですとあっ貴方様ってばシナモンロールで汚れた指を右腰骨盤上部でお拭きになってもうっお子ちゃまでちゅネさてさて昨日のお昼ご飯を調査しますと股間の盛り上がり全体にオリエンタルで奥深いスパイスの香りがスパイダーマン蜘蛛の糸ピュッみてえに広がれどその網目をかい潜りさりげなくも鮮やかに自己主張するのは発酵した魚介特有のエグみさえ複雑妙味な旨みへと溶かし込むナンプラーとまろやかなココナツミルクの匂いの混合体もう迷うことなくマッサマンカレーパクチーもりもり添えさらにさらに股間全域に無数の星屑のようにきらめくのは紛うことなく貴方様のお小水しかも臭気はわたし好みの強めのニガみ小便器から撥ね返る荒々しき黄金色の全力ダッシュも旺盛な食欲に難なく応える健康な消化器官があってこそアッパレ食欲バンザイ食欲食べるのが楽しみという貴方様のお気持ちよく分かります怠惰なケンタは四六時中キモチイイことばかりしていたいのですでもでもお相手男性の調達だとか加重攻撃を与えた性器の休憩時間を考えますとそれもままならずお肌にキモチイイことを提供できないケンタめはその代わりにと思っているのかいないのか舌にキモチイイことばかりを提供している今日この頃なんて表面だけのケンタでしょうあれ?俺ってば涼来先輩に毎日弁当作ってるけどもしかしてもしかして涼来先輩のお肌じゃねえ別のところをキモチヨクしてえってこと?きゅっふーん………と、電車が動き出すとオジサマのみならず列車内で斜めに倒れていた人達が態勢を直し、オジサマの股間もケンタの顔から離れて行きました、いきなり顔からフカフカのホカホカが離れて行って俺さむいんですけど?そうそうまるでストーブ前のクッションでスヤァとお休み中の子猫ちゃんが「ミーケちゃん、そこ座らせて」なんて飼い主のばあさんに抱っこされちゃってどかされて三毛ちゃんてばニャフニャフ何するにゃんって、切なさと哀れっぽさとまだ夢見心地のトロリいい気分の入り混じった得も言われぬ顔つきで前足ワチャワチャさせて、俺ってば今きっとそんな顔。
あん?
このオジサマ、おれを見下ろしながら変テコな目つきしてるけど?
それ、得体のしれないモノ見る時の目つきですよっ。
朝からちょっぴり恐怖体験入ってますよっ。
ああ、そうね、そうよね、そうっスね~。
フツーの人はアナタみてえな中年男性に股間押しつけられて、トローリ夢気分なんてしねえもんな~。
てへっ。
ケンタってば、広い世界の迷子さん。この車内で一人だけちがう地平線見てたみたい。
しゃあねえから会社行ってきまーす。
「まーす」のイントネーション、下がってるけどな。
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