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【連作詩・Butterfly】きみにキラキラ

Butterfly をキーワードに詩を連作しました。
今回はその2作目です。

1作目はこちら。

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「きみにキラキラ ——— My Butterfly」

きみのひとみにかんぱい、ってどういういみ、あれ?今日カラーコンタクトしてるでしょ、してないよ、してるように見えるけどなあ、してるよね、してません、でも君のめのまんなか、いつもは二つのチョコボール、今夜はスカイツリーのキラキラふう、だからかな?お酒がいっそうおいしいね、かんぱーい、それでついでみたいで悪いけど、この後ぼく運転できないからよろしくね、ちょっとぉぼく代行運転じゃないよ、あさってクリスマス、今夜はイブイブなのにさあ、なんてdateしたのがいつだっけ?ほら生返事きいてるの、えいっ。痛ててってきみがうわの空だからやったのさ、いまじゃノッポのタワーが見えるレストランなんて行きもせず、イブイブイブに国道沿いのサイゼリア、ドリアとワイン、乾杯なんてもちろん似合わないけど、ウェイターさんがストンと置いたとたん一気に平らげるきみ、そうだ思い出した、この前ぼくがトイレに行っている間にドリアとグラタン来たじゃん、ぼく戻る前に一人で食べはじめたね、あ、また思い出した、ぼくの海老食べたのもあの日だよ、グラタンの上三匹載ってるの二匹しかいなかったもん、ね、ね、食べたよね?よくおぼえているなあって何それ他人事みたいなコメント、そんなつまんない本あっちに置いてちゃんと聞くの、なに口とがらせて、ああ、つまんないって言っちゃダメなんだ?だってそれ詩集でしょ、ただの詩集じゃないんだぜって君は言うけど知ってるよ、何回も自慢した、君が自費出版で100冊も作った本、配っても配ってもちーっとも減らないのもちゃんと承知さ、んーどれどれ。(ト、サラサラ髪男子、相方ノ読書中ノ書ヨリ一節ヲ朗読ス)「あたっている 凸 こすれあって 凸凹」
えー、あたっているナニ?やだなあ、なんかエッチ。絶対そうでしょ。

 (ト、元スプリンターノ自称詩人、相方ノ髪ノ匂イヲ嗅ギ言ヲ発ス)

「ね、シャンプーかえたでしょ?」

 かえてないよ、かえてない。ちょっとくすぐったいって、ほらあぶない、だからエッチ、エッチって言ったの、あんぽんたん、変えたのシャンプーじゃないもん、髪形だもん、ほんとだよー短くなってるじゃん、気づかなかったの?ひどいなー、ヘアサロンでしてもらったシャンプー、うん、パイナップル、好きこの匂い、あ、それで思い出した、きたむらサン、いつも僕切ってくれる人、そう西国分寺ニシコクに奥さんと住んでる、髪切ってもらったら短い毛が顔にくっついてさ、顔がチクチクするから指でとってたの、シャンプーのあと。乾かす前だよ、乾かす人はタオル巻いてどっか行ったの、そう、お店混んでた、椅子すわるとさ正面に大きな鏡あるでしょ、ヒマだからあれ見てね、髪がいっぱい顔に刺さっているなあって、それで指でつまんでいたらきたむらサンがやって来て、なんかパーマやってる人?の席に行ってたの、それなのにぼくに気づいてくれてさあ、わざわざこっちの席まできてくれて「髪の毛ついちゃいましたね」って口髭の生えたちょっとエッチな口で言ってくれてたの、なんか「俺のせいで髪の毛ついちゃったんですよね、スミマセン」なんて言われたみたいでさ、エロくない?エロいよ、エロいです、それでティシュでぼくの顔ふいてくれて、その手つきっていうの指づかいっていうのがすっごく優しくって、ティッシュ越しにきたむらサンの指がぼくの顔モニュモニュしているあいだは、からだ中でグアバジュースが流れているみたい、心臓があまーいピンクのジュース、ポンプしてたよ、え、子供?きたむらサン?うん、たしか三人いるって。

 (不遇ナル詩人気取リノ元スプリンター男子、酷ク投ゲ槍サウニ云フ)

「その人ね、家でね自分の子どもの髪の毛取ってあげてるよ、ごはん粒も目脂も取ってあげてるよ、きみにしてやったのは、その流用。きみ、大人扱いされてないの」

 かわいいいってこと?

 「めんどくせえ奴だけど面倒みなくちゃいけねえな、の方」

 ひどっ(ト、サラサラ髪男子、詩人未満男子ノ詩集ヲ取リ上ゲ、彼ノツムリヲ戯レニ打ツ)、あ、これ、この本、ここに置くと丁度いいね、ほら、(ト、寝台脇ノ小机ヘ)、スノードームの下に敷くとぴったり、スタンドの明かりがいい高さであたる、役に立つこともあるんだね君の詩集、いいの今夜はここに置いとくの、これ?スノードーム、サイゼリアの帰りにドンキで買ったやつ、こーゆーの好きだねーって好きだもん、悪い?キラキラしたの、ずっと見ていられる、ほらキラキラ、も一回キラキラ、ちょっとなに、なに、それ置いてって、やだよ、あ、うん、あ、ん、あはは、めちゃめちゃしつこいチュー。
(急ニサラサラ髪男子、イタヅラ詩人ノ手首ヲ掴ミ自由ヲ奪ツテカラ、上ニナルコト暫クアリ)
歯ぐきの裏、俺の舌先でくすぐると、どう?んんーじゃなくて言葉で言えよ。

 糸引いてんじゃん、よだれ。お前の顎にべったり。

 ❅ ❅ ❅

 ぼくは訊く、プレゼントにかかったリボンをほどく指づかいの声で。きもちいい?
きみは応える、低く弾んで遠のいていく風船の声で。きもちいい。
きみがきもちいの、うれしいよ、きみがきもちいいとぼくもきもちよくなれるから、きものしあわせはぼくのしあわせ。だから、きみにきもちいい?と訊かれた時は、きみとおんなじ応えを言うよ、ほらもう一度スノードームをひっくり返す、キラキラがぼくたちの時間を追い掛ける、キラキラの中ぼくがきみにくっついてきみがぼくにくっついてぐるぐるに回っている、きみのゆるやかな寝息のとなりでぼく一人ぼくときみを掻き回せば掻き回すほど、きみがぼく以外のすべてを失ってしまえばいいのに、って思うくらい、ぼくのしあわせのきみから軋んだ音が聴こえる、その扉を開いたらすぐに壁、きみが仕事をくびになって、お金だまし取られて、たまに会う友だちが急にきみを呼ばなくなって、給付金サギでミスって警察におこられて、あんまり仲のよくないきみの家の人たちがみんな消えて、病気になって、災害あって、家から一歩も出たくなくなって、そしたらぼくだけのものになれるのに、ぼくは37歳、それってもう37歳?、今年も非正規雇用だったから来年もそう、いつまでこんな暮らしなのかななんて今じゃ思わない、ずっとこのままだってぼくはきみとぼくに嗤う、それでもきみにはぼくだけって思うとス——————ッと伸びていける青黒い影、きみの一畳ほどの牢屋を青黒い石壁が高々と囲って、うんと高いところに窓が一つだけ、そこから逃げられる翅はなく、だってきみはもう真夏のスプリンターじゃない、詩を一行書くたびに翅から鱗粉が剥がれて落ちる、きみは知らないけどそれが世界に掛ったロック、窓にキラキラ見えるのはぼくが振っているスノードーム、雪まがい、ううん雪、雪、鱗粉じゃない、きみを冷やしてみせよう、今夜は手足の指先だけ。でも。なつかしいねあの日のキラキラ、いつこの窓からきみのところへ降りて行こうかな、きみのしあわせはぼくのしあわせ、きみのふしあわせもぼくのしあわせ。

 

 

 


 

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