見出し画像

シナリオ『永生クラブ』

登場人物

菅野匡( 22 ) 大学生
小柳祐司( 22 ) 大学生
若林玲( 21 ) 大学生、勇也の娘
若林勇也( 48 ) 脳科学者
氷川道夫( 55 ) 生物学者
田中薫( 50 ) 分子生物学者
増田富男( 70 ) 永生研究所理事、未来コミュニケーションズ会長
長岡虎蔵( 82 ) 永生クラブ会長、NT電機名誉顧問
大倉政治( 78 ) 永生クラブ副会長、オークラ製薬取締役会長
一ノ瀬春雄( 62 )永生研究所所長
細井( 36 ) システム管理者
辻村( 19 ) 美大生
イラストレーター
男子学生A、B
女子学生A、B
受付嬢
警備員A、B
検査員A、B
女性職員
男性職員A、B
男性研究員A、B
女性研究員A、B
守衛
青年

中年男性A、B
永生クラブ会員A、B
増田の秘書、など

〇公園
 公園の入口に自転車で乗りつける菅野匡(22)。
 自転車に鍵をかけ、額の汗を片手で拭いながら園内を見回した菅野、学生映画のロケ撮影現場に気づく。
 ベンチに座ってハンカチで涙を拭う女子学生A。男子学生A、通りかかって彼女に気づき、近づいてくる。女子学生A、涙に濡れた顔を上げる。
男子学生A「また会いましたね。どうしたんですか?」
女子学生A「母が亡くなったんです。三鷹の名画座で火事があって……」
男子学生A「三鷹の名画座? でも、あれはもうずっと前に……。あ、済みません、こんな時に」
 小柳祐司(22)、三脚に立てたセミプロ用ビデオカメラのファインダーを覗いている。
小柳「はいカット! うーん……。二人とも悪くないんだけど、もっと台詞に繊細なニュアンスを込めて欲しいな。あとワンテイクだけお願いします。あ、そこのマイク、画面に入ってるよ」
 菅野、小柳に近づき肩を叩く。
小柳「お、今頃見学に来たか。終わっちまうぞ」
 録音担当の男子学生Bがマイクを男子学生Aと女子学生Aに向けており、やや離れて記録担当の女子学生Bがノートに何か記入している。皆、暑さでぐったりしている。
小柳「このショット撮り終わったら今日は終わりだから、気合入れていこう。じゃあ用意。スタート!」
 汗だくでカメラのファインダーを覗く小柳。菅野、退屈そうに欠伸を噛み殺す。

〇カフェ・店内
 テーブルを挟んでアイスコーヒーを飲む小柳と菅野。小柳の席の横にはカメラバッグが置いてある。
小柳「匡、お前の卒業制作はどのくらい進んでるんだ? 脚本はできたのか?」
菅野「構想は前からあるし、映像もどんどん頭に浮かんでくるんだ。でもプロットがどうもまとまらなくてね」
小柳「話がまとまらないんなら、文芸学科の誰かと組んで脚本を書いたらどうだ?」
菅野「祐司、お前そんなことできる学生知ってるのか?」
小柳「まあな」
菅野「今度紹介してくれよ。機材を手に入れたら連絡するからさ」
小柳「機材? カメラやマイクなら学校のを借りればいいだろ」
菅野「(カメラバッグの方に顎をしゃくり)俺はこんなんじゃ駄目なんだ」
小柳「へえ、まだ脚本もできてないのに、映像派の作家さんはこだわりが違うねえ」
菅野「からかうなよ。映画観がお前と違うだけだ」
小柳「冗談にマジで怒んなよ。映画祭で受賞して作家として認められたいんだろ。しかし、映像にこだわるのはいいとして、高い機材を買う金はあるのか?」
菅野「ない。だから割のいいバイトを探してるんだ」

〇大学・廊下
 学生向けのアルバイトや奨学金情報等が貼られている掲示板の前に立ち、アルバイト募集の貼り紙に目を走らせている菅野。
 彼の視線が一点で止まる。
 貼り紙の文言。
「治験のアルバイトを募集します
内容・視覚的記憶障害の治療法開発のため、治験薬服用の上、モニター機器で脳波の記録をさせていただきます。
対象・映像学科の男子学生(視力その他の事前検査に合格された方のみ)
期間・八月一日から二週間程度
報酬・三五万円
主催・一般社団法人 永生研究所」
菅野「嘘だろ……」

〇永生研究所・外観
 研究所ビルと正門脇の「一般社団法人 永生研究所」と書かれたプレートが見える。自転車に乗ってきた菅野、門の前で自転車を降りて守衛詰所で何か訊いてから、自転車を押して門を通る。

〇同・一階ロビー
 ロビーはがらんとしており、受付嬢と警備員Aが見えるのみ。
 正面受付に歩いてゆく菅野。
菅野「治験のアルバイト募集の広告を見て来ました」
受付嬢「お名前をどうぞ」
菅野「菅野匡です」
受付嬢「(端末を操作しながら)奥のエレベーターで四階へどうぞ。担当の者がご案内いたします」
 菅野、奥に進み、エレベーターのボタンを押す。すぐドアが開いて菅野はエレベーターの中に消える。

〇同・エレベーター内〜四階廊下
 階数表示のランプが四階を示し、ドアが開く。ドアの向こうに廊下が現れ、男性職員Aが菅野に近づいてくる。
男性職員A「(左を手で示し)事前検査がありますので、この列に並んでください」
 菅野が左手を見ると、彼と同世代の男性十数人が一列に並んでいる。菅野、最後尾の辻村(19)の次に並ぶ。
辻村「(振り返って)あなた、映像関係の方ですか?」
菅野「そうですが……」
辻村「だと思った、僕は美大の学生で、辻村といいます。僕の前の方はイラストレーターだそうです。他にも写真家とか3DCGデザイナーとか、そんな人ばかり集めたみたいです」
 辻村の前の男(イラストレーター)も振り返る。
イラストレーター「視覚的記憶障害の治療薬って、普通の人じゃ治験ができないのかねえ」
辻村「そうみたいですね。応募者が若い男だけっていうのも気になるんだけど」
イラストレーター「高い報酬につられて応募したけど、副作用とかヤバい薬だったりして」
菅野「まさか……。でも、この永生研究所って、何を研究してるのかな?」
辻村「読んで字の如く、長生きの秘訣なんじゃないですか」
菅野「それで視覚的記憶障害の治療を?」
イラストレーター「どんなに長生きしても痴呆症にならないためにだろ」
 菅野、釈然としない表情。
 彼らが小声で話すうちに列は徐々に前に進み、時々ドアが開いて二人ずつドアの向こうに消えてゆく。

〇同・検査室
 検査員二人の指示に従い、菅野が通常の視力測定を受け、辻村が頭の上半分を隠すゴーグル状の機器を被って検査を受けている。
検査員A「(視力表を棒で示し)円のどこに隙間が見えるか言ってください」
菅野「右……下……左……斜め右上……斜め左下……」
検査員B「(辻村に)図形が目の前に現れたら、しばらくそれをじっと見て。図形の変化を感じたら右手のボタンを押し、元の図形に戻ったら左手のボタンを押してください」
 辻村のゴーグルの隙間から微光が漏れた途端、彼の右手がボタンを押し、しばらくして左手がボタンを押す。

〇同・面談室
 窓のない小さな部屋。中央に白い簡易テーブルとそれを挟んでパイプ椅子が二脚向かい合わせに置かれており、その一つに白衣を着た若林勇也(48)が座っている。彼の手元には書類ファイル。
 ドアが開き、菅野が入ってくる。
 若林、立ち上がって菅野に向かいの椅子をすすめる。
若林「どうぞ。私、若林と申します。事前検査ご苦労様でした。検査の結果、私どもは菅野さんが今回の実験に最も有望な被験者であると判断しました」
菅野「実験? 治験じゃないんですか?」
若林「(少し慌てて)ええ、そうでした。もちろん治験、治験です。科学者という人種は、新発見が目の前にちらつき始めると、普段の冷静さを失ってしまうものでして」
菅野「他の人たちは参加しないんですか?」
若林「ええ。私どもには治験の効果を追跡できる機械が一台しかありませんから」
菅野「これから二週間ここで過ごすことになるんですよね?」
若林「そうです。長いと思われるかもしれませんが、治験薬を投与させていただいた後は、体に負担の少ない機械によるデータ収集が中心になります」
菅野「何か読む本でも持ってきた方がよかったかな……」
若林「映像学科の学生さんなら映画でも観て過ごされたらどうです。ソフトが相当あるはずです」
菅野「そんなものまであるんですか?」
若林「現実を視覚的に再構成する能力は、意識の研究にとって非常に重要ですから」
菅野「はあ……」
若林「他にご不明な点は?」
菅野「えーっと。特にありません」
若林「結構です。(ファイルを開いて一枚の書類を取り出し)では、この同意書にサインをお願いします」

〇同・実験室
 窓のない無機質でがらんとした部屋。脳波計、キャスター付きのベッド、注射器のケースや薬品の瓶が置かれた小机、パイプ椅子が数脚と事務用デスクが一つ。
 白衣の女性職員が瓶から注射器に薬品を吸い出す。菅野、パイプ椅子の一つに座ってそれを見ている。
女性職員「お薬は静脈注射で投与します。左右どちらかの腕を肘の上まで見えるように袖をまくってください」
 菅野、左の袖をまくり上げる。
 女性職員、菅野の腕にゴムのバンドを巻いて血管を浮き上がらせ、注射器のプランジャーを押して針の先から薬品が出ることを確認する。そして注射器の太い針を菅野の腕に近づける。
 顔をしかめる菅野。
女性職員「ちょっと痛いかもしれませんよ。……はい、終わりました。数分で眠くなりますから、靴を脱いでベッドに横になってください」
 菅野、靴を脱いでベッドに横になる。
 眠そうに欠伸をして目を閉じる菅野。
 女性職員、菅野の頭部に脳波計の電極を装着する。
 ドアが開き、若林が入ってくる。
若林「(女性職員に)どうですか?」
女性職員「意識はありません」
 若林、ドアの横にあるインターホンのところへゆき、スイッチを押す。
若林「(インターホンに)装置を搬入してください」
 若林、ドアの傍にある電気錠にコードを入力する。
 ドアが開き、作業服の男性職員二人がキャスター付きの台に載せた大人の背丈ほどもある機械を運び入れる。モニターと伸縮自在なアームの先に装着されたカメラ・アイを備えたその機械は、不格好でどこか禍々しい。

〇同
 機械のカメラ・アイの絞りが開く。
 モニターに映った実験室。その映像は最初のうち色も薄く輪郭もぼやけているが、中心部から次第に鮮明になってゆく。ただし周辺部は最後まで暗くぼやけたままである。中央には、点滴の管を腕に付け、頭にケーブルの付いた帽子状の機器を被ってベッドに横たわる菅野。
 目を輝かせてモニターを見る若林。
若林「素晴らしい。わたしの予想通りだ」

〇永生研究所・レクリエーション室
 部屋の中にはスチール製の本棚、マガジンラック、何種類かのボードゲームが載ったテーブル、ソファが幾つか、大型液晶テレビとブルーレイプレーヤーがある。菅野は頭部を被う帽子状の機器を装着したまま、大きな装置を搭載した車椅子に乗って液晶テレビに映る映画を観ている。
 いつの間に部屋に入ったのか、若林が彼に近づいて腰を屈め、話しかける。
若林「菅野さん、調子はどうですか?」
菅野「あ、若林先生」
菅野は手にしているリモコンのスイッチを押し、ブルーレイプレーヤーを一時停止状態にする。
菅野「調子はとてもいいです。三日も眠っていたなんて信じられないくらいです。それに、食事も美味しいですし、好きな映画を4Kテレビで観られるとは思いませんでした」
若林「それはよかった」
菅野「ただ一つだけ、不便なことが……」
若林「何ですか?」
菅野「車椅子での生活です。体がどこも悪くないのに、どうして一日中これに乗ってなきゃならないんですか?」
若林「治験薬の効果を記録するためです。今あなたが頭に被っている計測器、我々はヘッドギアと呼んでいますが、その後ろからケーブルが車椅子の後ろの装置に接続されていますね。治験薬の効果を示す脳活動のデータがその装置に保存されます。重くてデリケートな機械なので、持ち運んでいただくわけにはいかないのです」
菅野「確かに重そうですね」
若林「他に何か不便なことがあれば、いつでも遠慮無く言ってください。なるべくご希望に沿えるようにします」
菅野「ありがとうございます」
 若林、立ち去りかける。
菅野「あ、そうだ。先生」
若林「(振り返り)何か?」
菅野「若林先生、チェスはやられますか?」
若林「ルールは知っていますが……」
 菅野、車椅子を回転させて向き直り、テーブル上の折り畳み式チェス盤を指差す。
菅野「今度お暇な時に対戦をお願いできませんか? あと十日も残ってるのに、こんな生活を続けてたら呆けちゃいそうなんで」
若林「ふむ、考えておきましょう。確約はできませんがね」
若林、部屋から出てゆく。菅野、リモコンを操作して映画鑑賞を再開する。

〇大学・学生食堂
 菅野と小柳、テーブルを挟んで昼食を食べている。
小柳「それで、その若林先生とはチェスの手合わせをしたのか?」
菅野「いいや。忙しくて駄目だった」
小柳「何が忙しくて、だよ。俺たちが糞暑いのに外で撮影してる間中、エアコンの効いた部屋で寝起きして、美味いタダ飯喰らって、しかも映画三昧だったんだろ?」
菅野「馬鹿、忙しかったのは先生の方だ」
小柳「あ、そうか。でも、今時たった二週間で三五万は信じられないよな。薬だって一回打たれただけなんだろ。俺も今度治験のバイトやってみようかな」
菅野「下手に何にでも応募すると、副作用とかが恐いんじゃないか」
小柳「副作用? じゃあお前、帰った後で体調が悪くなったってのか?」
菅野「いや、そんなわけじゃ……。思い過ごしかもしれないけど、あれからずっと変な感じなんだ。まるで自分の一部をあそこに置き忘れてきたみたいな……」
小柳「あ、分かった! その頃の結構な生活が懐かしいってわけだ」
菅野「そんなんじゃない……。あ、そうだ。共同脚本を任せられそうな文芸学科の学生を紹介してくれる約束だったよな」
小柳「忘れちゃいないよ、今度紹介してやる」

〇居酒屋・外観(夜)

〇居酒屋・個室
 氷川道夫(55)、田中薫(50)そして若林の三人が、学者らしく静かに酒を酌み交わしている。彼らの顔は赤く、テーブルの上にはビールのジョッキや食べ終えた肴の皿、飲みかけのカクテルのグラスが並び、店に入ってからかなり時間が経っていることが分かる。
氷川「皆さん、終電はまだ大丈夫でしょう。月に一度のわが研究所仲間の飲み会です。もう少し飲みましょうや。若林さん、ここらで焼酎にしませんか。キープしてあるボトルがあるんです」
若林「いいですね。じゃあオンザロックで」
田中「わたし、焼酎はちょっと……。カクテルをもう一杯くらいならお付き合いしますわ」
 氷川、テーブルの上の呼び出しベルを押す。
 三十がらみの男性従業員が戸を開けて顔を見せる。
氷川「(急に厳めしい顔つきになり)君、氷川の名前でキープしてある焼酎のボトルを持ってきてくれたまえ。それとグラス二つと氷も頼む。田中さんはカクテルでしたね?」
田中「モスコミュールを一つお願い」
男性従業員「氷川様のボトルとグラスが二つと氷、モスコミュールですね」
氷川「ああ。早くしてくれ」
 男性従業員、戸を閉める。再び三人だけになる。
氷川「お二方には毎回欠かさずご参加いただき、有り難く思っております。何せ、わたしの研究は、長年どこからも注目されず、人工冬眠なぞSF映画の見過ぎじゃないかなどと嘲笑されてきたものです。研究者生命も尽きたかと思っておりましたところを実績あるお二方とご一緒に研究を続けてゆけることとなり、もう五年が過ぎました。これも何かのご縁、今後もよろしくお願いします」
若林「(苦笑を押し殺し)まあまあ、そう謙遜なさらずに。わたしたちだって立場は同じですよ。偉大な科学的発見に結びつくような斬新なアイディアは大抵、最初は馬鹿げた空想の産物扱いされるものです。我々の研究だって、下手をすれば世間の笑いものになりかねない」
田中「その通りですわ。人間が遺伝子改良で二百年も生きられるなんて言ったら……」
 男性従業員の声「お酒をお持ちしました」
 従業員、戸を開けて焼酎のボトルその他を運んでくる。
氷川「うむ、遅かったじゃないか。あとはこっちでやるから、さっさと行きなさい」
 従業員、恐縮して退出する。
 氷川と若林、互いに相手のグラスに焼酎を注ぐ。若林は自分のグラスに氷を入れる。
田中「じゃあ、わたしたちの研究に乾杯」
氷川「永生研究所に」
若林「我々の未来に」
 三人、グラスを合わせて乾杯し、それぞれ一口飲む。
氷川「ところで、若林さん。あなたのご研究には最近、進展が見られたそうですな」
若林「いったい誰がそんなことを?」
田中「あら、若い研究員たちの間で噂になってますよ」
若林「次の報告会で発表する予定だったのに あいつらときたら……。まあ、隠しても仕方がないから言いましょう。実は、先月ある被験者を対象に行った実験で、わたしの理論の正しさが完全に証明されたんです」
 氷川と田中、はっとする。
田中「え、それじゃあ、もう例の機械の中に……」
若林「(優越感を隠さず)ええ、そういうことです」

〇菅野のアパート・居間兼寝室(夜)
 菅野、机の上に罫線なしのノートを広げ、鉛筆で永生研究所の外観や部屋、機器の数々をスケッチしている。それらは断片的でタッチも荒っぽいが、対象の特徴を的確に捉えており、全体として視覚的な備忘録のようである。

〇永生研究所・実験室(深夜)
 人の背丈ほどある不格好な機械に、菅野の車椅子の後部にあった装置が接続されている。脳波計や心電計、ベッドはもうない。
 暗い部屋の中で急に機械の電源ランプが点く。機械のモニターに、照明された室内が見えてくる。
 そのモニター内に、ヘッドギアを頭に被った菅野がベッドに寝ているのが見える。
 カメラ・アイの絞りが開く。

〇菅野のアパート・居間兼寝室(深夜)
 ベッドの上でうなされている菅野。

〇(菅野の夢)永生研究所・実験室
 点滴の管を腕に付け、ヘッドギアを被ってベッドで眠っている菅野。その映像は古い写真のように色あせており、周辺部はぼやけている。
菅野(M)「あれ。これって、もしかして幽体離脱?」
 急にどこからか若林の声が聞こえる。
若林の声「素晴らしい。わたしの予想通りだ」
 黒み。
 前と同じ視点から見た実験室。ヘッドギアを被った菅野がベッドから起き上がり、男性職員の助けを借りて車椅子に乗り、部屋から出て行く。
菅野(M)「おい、そこの俺、俺を置いてどこ行くんだよ?」
 黒み。
 前の二つの映像と同じ視点から見た実験室。突然その視点が移動し始め、スムーズに動いて部屋中を見回す。機械のすぐ傍に立っている若林と女性職員の姿が見える。
若林「視点を変えた! ということは、これには意識があるという十分過ぎる証拠だ」
菅野(M)「人間に意識があるのは当たり前だろ。何言ってんだよ、先生」
女性職員「先生、成功ですね」
若林「だが、ラットや猿程度の意識かもしれない。喋ったり文字を表示したりするインターフェースがないから、本人の意識がどこまで再現できたか分からない」
女性職員「これ、どうしますか?」
若林「とりあえずスリープ状態にしておくとしよう」
菅野(M)「ちょっと待って、何を……」
 突然、映像が消えて音も聞こえなくなる。

〇菅野のアパート・居間兼寝室(深夜)
 叫び声をあげて目を覚ます菅野。彼はベッドから下りて辺りを見回し、大きく溜め息をつく。

〇同・浴室
 洗面台の前で何度も顔を洗う菅野。彼は鏡に映る自分の姿を見てから、後ろを振り返って誰もいないことを確認する。そして、ふらつく足取りで浴室を出て行く。

〇同・居間兼寝室
 菅野、ふらつきながらベッドに戻ろうとして、机の上に開かれているラップトップPCのキーボードに無意識に触れる。その途端、スリープ状態になっていたPCが起動し、画面が明るくなる。
 驚いた菅野が画面を見ると、メーラーが立ち上がっていて新着メールが次々に現れる。
菅野「夜中にスパムメールの掃除かよ……。あれ?」
着信した最後のメールの送信者は菅野匡である。
菅野「俺から俺宛にメール? 何だ、これ」
菅野、マウスをクリックしてそのメールを開く。
 その本文。
「現実世界の菅野匡君へ
先月君が応募したアルバイトは治験なんかじゃない。信じられないかもしれないけど、あれは多分、人間の意識を機械に移植するための実験だ。詳しいことが分かり次第、また連絡する。
                      箱の中の菅野匡より」
菅野「冗談だろ……」

〇カフェ・店内
 菅野と小柳がテーブルを挟んでコーヒーを飲んでいる。
小柳「へえ、そりゃ変だな。夢の方は薬の副作用に関する被害妄想で説明できるとしても、メールが届いたとなると……」
菅野「そうだろ? (カバンからノートを取り出し)これが、その実験室だ。ほら、こんな機械を頭に付けてたんだ」
小柳「なあ、匡」
菅野「ん?」
小柳「お前、一度医者に診てもらった方がいいんじゃないか」
菅野「なんで?」
小柳「多重人格って可能性もあるだろ。自分で自分にメールして、そのことを記憶してないとか」
菅野「馬鹿言うなよ。発信者は俺が登録した覚えもないフリーメールを使ってる」
 カフェの入口から若林玲(21)が入ってくるが、菅野も小柳も話に夢中で彼女に気づかない。
小柳「登録した記憶もない、か。うーん、それは相当深刻だな」
菅野「おい祐司、お前まだ多重人格説に拘ってるのか?」
玲、小柳の後ろから声をかける。
玲「何だか深刻そうな話ですね、小柳さん」
菅野、突然の玲の出現に少し驚く。
小柳「ああ、こちら前から話してた文芸学科の三年生で、若林玲さん。映画制作にも関心があるんだって。で、この男は菅野匡。未来の映画作家さ。どうぞ座って」
菅野「初めまして、菅野です」
玲「若林です」
菅野「あの、もしかして君、永生研究所の若林先生の……」
玲「若林勇也はわたしの父です。父のこと、ご存知なんですか?」
小柳と菅野、驚いて玲を見る。
菅野「えっ。まあ、それなりに……」
玲「小柳さんから、映画の構想がストーリーの形にならなくてお困りだと伺ったんですが、さっきの多重人格のお話と関係が?」
菅野「いや、それは別の話で……。あの、差し支えなかったら教えて欲しいんだけど……」
玲「何ですか?」
菅野「若林先生の研究分野って、要するに何なの?」
玲「脳科学です。詳しいことは分かりませんが、機械に意識を移植することでヒトの寿命を飛躍的に延ばせるとか、いつもそんなことを言ってました」
小柳「(菅野に)おい、箱の中のお前からのメールって、もしかして……」
菅野「だから多重人格じゃないって言っただろ」
玲「えっ?」
小柳「ああ、実は、若林先生の実験で……」
菅野「おい祐司、やめろ。(玲に)ごめん、気にしないで」
玲「(菅野の顔を探るように見つめ)あの、父とはどんなきっかけで知り合われたんですか?」
菅野「それは……」
 玲、テーブルの上に開かれた菅野のノートに気づく。
 実験室とヘッドギアのスケッチ。

〇永生研究所・外観
 正門から三台の高級車が次々に入ってきて車寄せに停まる。
 それぞれの車から、高級スーツを着た長岡虎蔵(82)、大倉政治(78)、増田富男(70)が降りてくる。長岡は少し背中が曲がり杖をついているが、他の二人はまだかくしゃくとしている。三人は正面玄関に向かう。

〇同・一階ロビー
 一ノ瀬春雄(62)、氷川、田中、若林が長岡、大倉、増田を出迎える。
一ノ瀬「皆様には、いつもご足労いただき恐縮です」
増田「一ノ瀬所長、形式的な挨拶は抜きでいきましょう」
長岡「やあ、氷川君。研究の方は進んでますかな?」
氷川「ええ、まあ……」
大倉「田中さん、お元気そうで何よりです。ご報告、期待してますよ」
田中「ありがとうございます」
一ノ瀬「では皆さん、会場に参りましょう」

〇同・実験室
 誰もいない薄暗い室内で、菅野の意識が再現された不格好な機械(以下、菅野2)の電源ランプが点灯している。
 カメラ・アイ付きのアームが滑らかに動き、天井の隅にある監視カメラに向けられる。

〇同・警備員室
 警備員B、ヘッドホンをつけて音楽を聞きながらスナック菓子を貪り、缶ビールを飲んでいる。
 モニター群に、監視カメラが捉えた所内の様々な場所の映像が次々に現れては切り替わる。

〇同・実験室
 菅野2のカメラ・アイの絞りが開く。天井の監視カメラの作動を示すランプが消える。

〇同・警備員室
 モニターの一つから実験室の映像が消え、代わりに会議室の映像が現れる。警備員B、それに気づかず缶ビールを飲み続ける。
 モニターに映る会議室では、縦長の部屋の両長辺に沿って会議用テーブルが並べられ、一方に一ノ瀬、氷川、田中、若林が、他方には長岡、大倉、増田がそれぞれ席を占めている。全員の前にミネラルウォーターのミニボトルとグラスが置いてある。氷川が立って報告を行っており、隅で女性事務局員が議事録をとっている。

〇同・会議室
 部屋の家具や人物の配置は警備室のモニターに映っていたのと同じ。
氷川「高等動物のなかには低温環境下で進化した結果、新陳代謝の低下とそれに伴う長寿化が生じた種があります。例えば、北大西洋の低温海水域に住むニシオンデンザメは、三百年から四百年も生きられるようになりました。人類の場合、氷河期に獲得したと思われる冬眠能力がまだ完全には失われておらず、おそらく数週間から数カ月の冬眠に入ることが可能です。実際、これまでに日本、アメリカ、スウェーデンで、極寒のなか最長で二カ月間、冬眠状態で過ごした後に発見され、後遺症もなく回復した人々の例があります」
長岡「しかし氷川君、数カ月の冬眠中に難病の治療法が発見されたりすることはあるまい。それでは延命の効果もない」
氷川「仰る通りです。私たちのチームでは、特定のホルモンを投与してヒトの潜在的な冬眠能力を引き出すとともに、コンピュータ管理された低温環境下で代謝を極限まで抑制し、長期間に渡って生命活動を持続させるシステムの開発を目指しています」
長岡「ふむ。それで将来的には、人工冬眠で何とかいうサメのように数百年の長寿が可能に?」
氷川「(ハンカチで額の汗を拭き)そこまではまだ何とも……。ただ、進化論的に見て可能性があるというだけでなく、既に実例があるというのは心強いものです」
長岡「うむ、そう言われればそうだな」
一ノ瀬「他の方からご質問は? ……無いようですので、次の報告を。田中先生」
 氷川、ほっとした表情で座り、グラスにミネラルウォーターを注いで飲む。
 田中が緊張の面持ちで報告書を手に立ち上がる。
田中「私たちのチームでは遺伝子レヴェルでの人類の長寿化の可能性を探っています。近年の遺伝子工学の発展には目覚ましいものがあり、クリスパー・キャス9と呼ばれるゲノム編集ツールを用いたガンや血友病その他難病の臨床治療が世界中で実施され始めています。私たちはそうした最新の研究成果を踏まえながら、体細胞の老化を停止させ最終的にはプロセスの逆転さえ可能にする方法を探っています」
大倉「プロセスの逆転とは、つまり若返りということかね?」
田中「そうお考えになって結構です」
大倉「難病治療に若返りか、これはいい。ところで、田中さんのチームの研究費は十分なのかね?」
田中「率直に申し上げて、全然足りません」
 一ノ瀬は慌て、長岡と増田は露骨に嫌な顔をする。
大倉「何故だね? 各チームの研究費は大学の研究室よりずっと多いはずだが」
田中「私たちの研究には、突然変異を起こした人のものを含む遺伝情報のデータが必要なんです。それに普通より長寿だと判明した様々な動物のものも。こんな小規模なチームでは、データの収集だけで気の遠くなるような時間がかかります」
大倉「なるほど……。確かに、どんなに有望な研究でも我々が生きているうちに成果を挙げなければ意味がない」
長岡「然り。我々がこの研究所の設立に出資したのは、慈善事業としてではない。我々自身が研究の成果を享受するためだ」

〇同・実験室
 菅野2のモニター画面が二分割され、会議室の机の両側を捉える監視カメラ二台の映像が同時に映っている。
 長岡が発言し始めると、モニターの画面はそちら側の監視映像だけになる。

○大学・図書館・図書閲覧室
 菅野、机の上にラップトップPCを開いて何か書いている。メールの着信音がする。
 菅野がメーラーを開いて新着メールをチェックすると、発信者は「箱の中の菅野匡」(菅野2)である。
 彼はメールをクリックして開く。
 その本文。
「現実世界の僕へ
永生研究所に関する面白い映像が手に入った。動画共有サイトにアップロードしたから、周りに人がいない所で観て欲しい。動画のURLと閲覧のためのパスワードはこのメールの最後にある。観た後で君に何か考えがあったら教えてくれ。これに返信すればいい」
 菅野、ラップトップPCを閉じてカバンに仕舞い、席を立って歩き去る。

〇菅野のアパート・居間兼寝室(夕)
 ラップトップPCの画面に永生研究所会議室での報告会の録画映像が映っている。それを注視する菅野。

○永生研究所・会議室(録画映像)
 発言者が現れるたびに、画面の下部に各人の氏名と肩書(長岡はNT電機名誉顧問、大倉はオークラ製薬取締役会長、増田は永生研究所理事・未来コミュニケーションズ会長、一ノ瀬は永生研究所所長)が表示される。
長岡「我々がこの研究所の設立に出資したのは、慈善事業としてではない。我々自身が研究の成果を享受するためだ」
大倉「(長岡の方を向き)そもそもこの研究所は、我らが『永生クラブ』の理念を実現するために設立されたのですからな」
 長岡、舌打ちをする。大倉、自分の失言に気づいてはっとする。
 氷川と若林、目を見交わす。田中、報告書を手に立ったまま怪訝な表情をする。
一ノ瀬「(慌てて小声で)大倉さん、その話は……。田中先生、他に付け加えることはありますか?」
田中「いいえ、ありません(着席する)」
大倉「いや、失礼した。諸君、今の私の発言は忘れてくれたまえ」
一ノ瀬「(女性事務局員に)今の発言は議事録から削除して」

〇菅野のアパート・居間兼寝室(夕)
 菅野、PCで動画を見ながら唖然として呟く。
菅野「大企業のオーナー連中のための研究所だったのか……。でも『永生クラブ』ってなんだ?」

○永生研究所・会議室(録画映像)
 一ノ瀬、急に立ち上がって発言する。
一ノ瀬「えー、今田中先生からご指摘のあった予算不足の問題に関連して、研究所所長としての私の考えを述べさせて頂きます。私は、これまでのように予算を一律に分配するのではなく、今後は各チームによるプロジェクトの達成度とその実現のために利用可能なリソースとを秤にかけ、優先度の順位をつけて分配すべきだと思います」
 氷川と田中、不安げに目を見交わす。若林、思わず頬を緩める。
増田「当研究所の理事としましても、一ノ瀬所長の今の提案は全くの正論に思えます。例えば、まだ四〇%しか進んでいないプロジェクトを、八〇%まで進んでいるプロジェクトよりも優先するのは不合理です。研究所の設立に出資された皆様は全員、この点で私に同意されると思います」
長岡「ふむ。それで、増田さんの考えでは、どのプロジェクトが現時点で一番実現に近いというのかね?」
増田「それは若林さんの報告をお聞きになればお分かりになるでしょう」
一ノ瀬「では若林先生、どうぞ」
 若林、報告書を手に立ち上がる
T「永生研究所第三研究室室長・脳科学者 若林勇也」
若林「皆様もご存じの通り、私たちのチームでは、ヒトの意識だけを機械の体に移植する方法を探っています。これまで人類が闘ってきた病気や老化、化学物質や放射能による突然変異といった現象は、もとをただせばヒトがDNAの遺伝情報に基づいて生まれる生物であることから生じています。私たちは人間をこの生物学的な限界から解放することを目指しています。生物学的な限界から解放された人間に必要なものは、機械の体の定期的なメンテナンスと改良だけになるでしょう。病気とも老化とも無縁な、永遠の命を手にすることができるのです」
大倉「つまりサイボーグ化ということか?」
若林「違います。脳を含めて元の器官は何も残りません」
長岡「脳もだと。何やら空恐ろしい話に聞こえるが……」
若林「ご心配には及びません。私たちは既にヒトの意識の機械への移植に部分的な成功を収めています。先月行われた実験では、被験者である二二歳の青年の脳に全くダメージを与えることなく彼の意識の一部を機械の中に再現できました。被験者が実験室から出たあと、意識を持った機械は自分でカメラの目を動かし、その時実験室内にいた私を認識したのです」
長岡「ほお……。だが、それが本人の意識と同じものだという証拠は?」

〇菅野のアパート・居間兼寝室(夕)
 菅野、PC上の動画を凝視している。
若林の声「この実験で私たちは、マイクロワイヤ電極を備えた特殊な装置を用いて被験者の脳内のニューロン発火を継続的に記録し、それを実験室内のコンピュータに十日間転送し続けました。この方法で人格や記憶を含めて本人の意識が再現できる可能性はかなり高いと思われます。ただ、被験者の意識の再限度を確認するには、機械にマンマシンインターフェースを追加する必要があります」
菅野「何が視覚的記憶障害の治療法だよ。人を騙してモルモット扱いしやがって! あれ、これで終わりか?」
 PCで再生されている動画は一瞬暗くなり、それからまた明るくなって別のシーンが展開し始める。

○永生研究所・来客用ラウンジ(録画映像)
 円いガラスの天板がついたテーブルを囲み、ゆったりとした黒い革張りソファに座り、コーヒーカップや葉巻を片手にくつろぐ長岡、大倉、増田。
長岡「いやあ大倉さん、冷や汗が出ましたぞ。報告会であんな発言をなさるなんて。一ノ瀬所長は別として、永生クラブの存在は会員たる我々だけの秘密にしておかねばならんのに。二度とこんなことが起こらんよう、クラブの会長として厳重注意させていただきますよ」
大倉「いやはや、面目ない。クラブの副会長でありながら、室長たちに気を許してしまいました……」
長岡「大倉さんは、田中さんの研究に随分肩入れしておられるようですな」
大倉「わたしの会社が医薬品をやっておるからか、他の二つのプロジェクトがどうも機械に頼り過ぎとるように見えるんです」
長岡「氷川君の説によれば人間はもともと冬眠できるそうじゃないですか。その能力を機械と薬で少々強化してもらって、二十年ばかり未来の先端医療の恩恵にあずかるというのも、そう悪くはない」
増田「会長、我々の最終目標は五年や十年の寿命の延長ではなく、画期的な長寿法の開発による新しいエリート階級、『永生人』の創造だったはずです。そうですね?」
長岡「ああ。十年前、永生クラブを組織した時、儂らはそのように合意した」
 突然、画面の動きが止まる。
菅野の声「何だって!」

○菅野のアパート・居間兼寝室(夜)
 PCの画面上で一時停止している長岡の顔。
 嫌悪感も露わな菅野の顔。
 彼はメーラーを立ち上げ、菅野2からのメールへの返信を書き始める。
キーボード上で彼の指が素早く動き、返信メール本文が現れる。
「箱の中の俺へ
動画を見た。あの研究所が財界有力者たちの身勝手な野望のために作られたことはよく分かった。
これを公表すればマスコミも黙っていないだろう。あの永生クラブとかいう組織も世間の批判を浴びて解散せざるを得ないと思うけど、どう思う?」
 菅野、メールを送信してから、一時停止した場所から動画を再生する。

○永生研究所・来客用ラウンジ(録画映像)
長岡「ああ。十年前、永生クラブを組織した時、儂らはそのように合意した」
増田「若林さんの構想はその目標の実現に相応しいものだと言えませんか?」
長岡「ふむ、そうかもしれん。だが、脳も残さず意識だけを機械に移すというのは、儂にはまだ納得できんな」
増田「来月末に開かれるクラブの総会で、三つのプロジェクトの優先順位を多数決で決めるというのはいかがですか?」
長岡「まあまあ、増田さん、そう性急にならずともよかろう。大倉さんのお考えは?」
大倉「わたしも長岡さんと同じ意見です。急いで決める必要はないでしょう」
 メールの着信音が聞こえる。

○菅野のアパート・居間兼寝室(夜)
 菅野、動画の再生を一時停止し、メーラーを立ち上げて受信メールを確認する。菅野2からの返信である。クリックすると以下の本文が見える。
「現実世界の僕へ
あの動画は研究所の監視カメラが捉えた映像と音声に彼らの情報を付け加えただけのものだ。あれを公表すれば彼らはもみ消しのために名誉棄損で君を訴え、映像の盗用と音声のすり替えを主張するだろう。裁判になれば勝ち目はない。
だが彼らの計画はもちろん打ち砕くべきだ。冷静に別の方法を考えよう」
 菅野、また返信を書き始める。その本文。
「分かった。でも彼らと対決するには俺たちだけじゃ無理だ。信用できる人間に協力してもらうために、あの動画を見せていいかな?」
 菅野、そのメールを送り、PC画面上で口を半開きにしたまま静止している長岡の間抜け顔を睨みつける。
 メールの着信音。
 メーラーに菅野2からの返信。クリックして開くと次の本文が見える。
「君の考えは正しい。現実世界で仲間を集めて彼らを批判する動画を作ったらどうかな。そしてあのクラブの連中自身にもそれを見せるんだ。僕も協力する」
菅野「そうだな、仲間を見つけなきゃ……」

ここから先は

23,662字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?