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雑誌『太陽』キッカケで二月の勝者になり損ねた、あの名門私立女子校の思い出

みなさーん、ドラマ『二月の勝者-絶対合格の教室-』(日本テレビ系)最終話を観ましたか? 私は泣いちゃいましたよ。みんな受かって良かった良かった、そして入試前夜に教室でガタガタ震える黒木先生の姿に泣きました。
とか言っていますが、私は中学受験の経験ナシ、させたこともない、完全な部外者です。なのに、まるで自分ごとのように毎回感動して見つづけてきたこのドラマ。タイトルからも想像できるように、中学受験塾を舞台に描かれる、いわゆる受験ドラマなワケですが、真に描かれるのは人生攻略法。「学習塾は、子どもの将来を売る場所」「合格に導くのは、父親の経済力と母親の狂気」などの刺激的なセリフが飛び交う一見キワモノに見せて、今の家族問題、教育問題など、さまざまな社会問題に切り込みます(番組HPより)。原作は、『ビッグコミックスピリッツ』連載中のコミックで、単行本は累計250万部突破の大ヒット作。私はドラマから入ったファンなので、この年末年始にぜひコミックを全巻読みたいと思ってます~!

こんにちは、マルチーズ竹下と申します。東京の出版社で、書籍編集をしております。「ベストセラーたくさんつくりました」派でも、「SNSフォロワーたくさんいます」派でもありません。時に愚痴を吐き、時に毒舌をまき散らし、時に感謝で泣いたりしてなんとかまわりに助けられながら本の街神保町に粘り強く居続けている、まあそんなふつうの編集者です。

部外者と書きましたが、中学受験にはちょっとした思い入れがあります。小さな町育ちの私が、“わざわざお金を払い”“義務教育なのに選別された子だけが入れる”特別な学校があると知ったのは、小学五年生の秋でした。転勤族ゆえ、数年後にはどこに居住しているかわからないわが家にとって、中学受験はそもそも想定外。なのでサクッと我が人生からスルーされてしまったのですが、その後たまたま父親が定期購読していた平凡社の月刊誌『太陽』で、「名門私立女子高校」特集が組まれていたんですね。これがもう、ステキだったんですよー。『太陽』は日本で初めての本格グラフィック誌と呼ばれ、写真も豪華なら執筆陣も贅沢。文章は音読したくなる美しさ。そこに登場する女子高校は、名門と謳われるだけあって、ほぼ中学校がくっついてる!(この特集を読み、小学校、幼稚園もくっついてる、いわゆる“一貫校”の存在を初めて知るのであった) そう、たとえるなら少女まんがの世界、まるで聖ポール学院(←王立だけどね)・・・・・・。
そこで私は知ったのです。“名門私立女子”に入るには、そうか、高校受験という敗者復活戦があるのか! また転勤が決まっても大丈夫なように、寮や下宿制度のある学校を探せばいいんじゃない? 受験料は、これまで貯めてきたお年玉でなんとかすると言ったら親も許してくれるんじゃない?? などなど自分としてはけっこうイケてるプレゼンをしたつもりですが、ソッコー却下(学費が県立高校の3倍くらいあった笑)。でも粘着質な私はあきらめません。たとえ入学はできなくても、中に入りたい、ご縁をもちたい!(ちなみに、中に入るだけなら文化祭や学校説明会があるじゃない?と思われた方。そういう知恵や情報を、当時の私は持っていなかった。教えてくれる大人もいませんでした)
迎えた試験当日。寒さ凍える2月のある日、私は文字通り心身を震わせて、名門私立女子高校の門をくぐりました。そして校内、いやいやカタカナ表記のに合うキャンパスに入り・・・・・・入り・・・・・・思わぬ罠が待っていることにきづいたのです。
あったかいのです、異常なまでに! 教室も廊下もトイレも何もかもがどこもかしこもが。当時、私の知る暖房器具は、炬燵と石油ストーブでした。通っていた学習塾にはエアコンがあったと思うけど、そのあったかさとは質が違うのです。あれ、おそらく床暖房だったと思うんですよね。だって換気してないのに空気が乾燥していなかったもん。なんだか天国までふわふわと浮かんでいってしまいそうな、文字通りボーッとなるような暖かさで。30分もすると、脳内がすっかりふやけた状態に。そう、『フランダースの犬』最終回で、ネロがルーベンスの絵を見ながら「なんだかとても眠いんだ……パトラッシュ……」とつぶやくシーンのような状態に(汗)。やがてネロと同じく、私はなんだかとっても眠くなり・・・・・・・・眠くなり・・・・・・・・結果、戦意喪失。試験を放棄してしまったのでした。
不合格の報に、親は「そもそも学力レベルも学費も身分違い(←なかなかすごいセリフ)な学校なんだからトーゼン!!」としごく納得。もちろん反論の余地はナシ。お母さん、あなたの娘はたしかに分不相応な学校に入ろうとしていたよ。床暖房で、階級というものを初めて知ったのさ・・・・。

“名門私立女子高校”との縁は切れましたが、少女まんがの世界が実在すると教えてくれた雑誌『太陽』とのお付き合いは、その後も続きます。日本美術や古典の魅力を教えてくれたのも、この本でした。
つくづく、思います。あの頃読んだ本たちが、今の私をつくってる。言葉を変えれば、なかなかあの頃読んだ本たちの影響から自由になれない(苦笑)。
二月の勝者にはなれなかったけど(そもそも3年出遅れてるけど)、それもありか~。とんまだけど一生懸命、そんな当時の自分と編集者として働くいまの自分は、地続きだなと思います。

文/マルチーズ竹下

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