美容・健康書でおなじみのビフォア&アフター表現をやめたい話
今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。
ああ、もうやめたい……ビフォア&アフター。
そうです。ダイエット商品や、健康・美容書でよくある「こんなに変わりました!」っていう比較表現のこと。
ダイエット本などは、かなりの高確率でやらされます。そう、文字通りやらされるんです(笑)。私は毎回、反対してるので……一応。
美容・健康書の場合、ビフォア&アフターは、出版社のオーダーでやることがほとんど。制作サイドから「やらせてくだい!」っていうことはほぼない、と思いますけど……(あるんですか?)。
実際、やっぱり訴求効果があるって信じられているんです。パッと見でわかりやすい変化があれば、「百聞は一見にしかず」の効果。読者にとっては、わかりやすいですよね?
でも、やりたくない(笑)!
だって嘘ではないけれど……
やりたくないビフォア&アフターですが、やると決まれば、もちろん仕事ですからきちんとやります(笑)。
モニター会社を利用することもありますが、書籍はそんなに予算がつかないので、知り合いに頼むことが多いんです。結構、身内を犠牲にしている編集者もいます(笑)。最近のダイエット本の場合は、著者にモニターを募っていただく方法が多いのではないでしょうか?
気持ちばかりの謝礼をお支払いするとはいえ、書籍のために、人の暮らしを拘束するには限界があります。期間としては1〜4週間、長くて2ヶ月間が限界かと。
このような短期間で著者が提唱するメソッドを実践してもらい、変化の様子を管理・記録していきます。
人はサボる!
何人かにお願いすると、人間なのでサボる人は必ずいます。制作側としては、やはり効果が出ないと訴求力がなくなってしまうので、「死んでもやり抜いてくれ!」と心の中では思っていますが、それを表に出すことはありません。
協力していただいている「モニターさま」ですから、決して責めるようなことはできません。「なんでサボったんだ!」とは口にせず、「これから挽回しましょうね!」と優しい笑顔で励まします。
そんなに短期間で変わるわけがねえ!
美容・健康情報のリテラシーが高まっている現在。賢明な読者の皆さんは、すでに真実を知っています。
「理想のカラダは、ラクして手に入るものではない」ということを。
筋トレにしても、かなりハードに追い込んだとして、1回のトレーニングで増えるのはティッシュ1枚ぶんにも満たないわずかなもの。年月をかけてコツコツと積み重ねていくから、美しいカラダになれるわけです。
1週間でなにができるというのだろう?
こんなトレーニング、エクササイズで痩せます! という売り文句。そりゃあ、痩せますよ、時間をかければ。ところが、実際のモニター期間は短期間です。頑張って1〜2kg落としたところで、見た目に劇的な変化はありません。こういう場合は、「−2kg」などの数値に頼ります。体重が物足りない場合は、ウエスト「−10 cm」とかのその他の値でカバー。なんとか変化をわかりやすく表現するわけです。
ダイエットやボディメイクの場合、運動で健康的にアプローチすることは理想ですが、短期間での見た目変化を追う場合、運動の恩恵では不十分。食事制限による減量が優位になります。
テレビ企画で芸能人が短期間に痩せる企画がありますが、例えばメインのティップス(フラフープ、ストレッチ、エクササイズなど)があったとしても、どれも短期では劇的な変化は出せません。もし、すごく痩せていたら、間違いなくハードな食事制限をしているはず。企画終了後にリバウンドしている芸能人がたくさんいるのは、そのせいです。
私が嫌なのはコレ。たしかに特定のティップスで痩せるのは事実だけれど、短期だと無理な食事制限の効果のほうが大きいわけです。
嘘ではないけれど、嘘でもある。ちゃんとした理論を貶しているようで、私はイヤなんです。
ほかにもこういうビフォア&アフターがある!
◉ストレッチ編
ストレッチ、痩せませんよ!
筋肉を伸ばしているだけなので、消費するカロリーはごくわずか。ダイエット効果を狙うなら、ご飯の量を7割に減らしたほうがマシです。筋肉量を維持するというエビデンスはあるようですが、増えるまでは行きません。ストレッチの効果は他のところにあるので。
このストレッチやったら、こんなに柔らかくなった!
当たり前です。立位体前屈を試しにやってみてください。1回目より2回目のほうが自動的に伸びるはず。1回目の後に「指パッチン(なんでもいい)」するだけでも2回目の伸びに効果が出ます(笑)。ビフォアのときに、ほぐれただけ!
◉姿勢やフォーム編
猫背が治った!
専門家になにか指導されて猫背とか姿勢のゆがみが取れるやつ。客観的な指導や施術が入れば当然です。大事なのは再現性。一人でやって改善できるか?
ランニングフォーム改善で速くなる
ビフォア&アフターで走るスピードを比較したもの。これも専門家の客観的指導が入るので当然です。あとは1回目よりカラダがほぐれて2回目で速くなるセット数の問題。大事なのは再現性であり、一人のときにメソッドを積み重ね、本当に改善できるかが重要です。
本で紹介する理論は真実
ここで勘違いしないで欲しいのは、本で紹介されるメソッドそのものが嘘ではないということ。書籍化するには「信頼性」が重視されるため、明らかなインチキのようなメソッドを取り上げることは、ほとんどありません。
ここで問題にしているのは、効果や変化に極端さを求めること。「すごくラク、短期間でできる、これをやるだけ」のような魅力的な条件を課して、メソッドをゆがめて表現することから「嘘」が生じてしまいます。
ビフォア&アフター表現は、特にその傾向が色濃く出てしまいます。読者の情報リテラシーが向上した現在、美容・健康書ジャンルにおいては、もう卒業したほうがよいのではないでしょうか。
やれと言われればやりますけどね(笑)。
文/編プロのケーハク
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