新人ライターや編集者に教えている 「取材の返しはYesよりNo」
今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。
前回、「新人ライターや編集者に教えている短文のススメ」というライティングの初歩的なコツ(あくまで持論です)を書かせていただきました。その後、メンバーからぜひ続編を、とのリクエストをいただきましたので、僭越ながら今回も新人さん向けのテクニック(持論です!)をご紹介します。
第2弾のテーマは「インタビュー」。
インタビューと言っても、考えなければいけないポイントってめちゃくちゃ沢山ありますよね?
自分が取材中になにを考えているのか、自分の脳内をざっと解析してみると…
A面:現場の状況
(会話の展開やその場の雰囲気、時間配分など現場のさまざまなこと)
B面:文章の構成
(論旨の構造的な仕分け、キャッチ探しなど主に文章面のリアルタイム更新)
C面:誌面のレイアウト
(ビジュアル的な構成や配置、ボリュームなどのリアルタイム更新)
私の場合、編集とライティングを兼ねることが多いので、そのぶん考えることが多くなります。すごく大変なことのように見えますが、経験を積むと慣れてくるので、上記のようなことはいずれ誰でも普通に実践できるようになると思います。
しかし、叶うことならできるようになりたいけれど、これらを新人レベルで実践せよ、というのは無理な話。なので、今回はA面の中から会話の展開について、しかも「すぐに実践しやすい」ポイントをひとつだけ解説します。
新人さんのインタビューあるある
私もいわゆるベテラン編集者という枠に入る年頃になりまして、新人さんや若手編集者たち(ライターを兼ねることが多い)の取材に立ち会うことも多いんです。いわゆるバックアップ要員的な感じです。
「インタビュー」というと、不慣れな新人編集者たちは、誰しも緊張するものです。失敗したくないですから、やっぱりそれなりに努力はしているわけですね。事前のリサーチ(取材対象者の著書や過去記事、SNSの情報などのチェック)とか、質問表などもバッチリ準備できています。
この辺の事前準備のコツもあるんですが、今回は省きます。
さて、いざ取材スタート!
新人「○○○(聞きたいこと)ですか?」
対象者「○○○(答え)です」
新人「なるほど、では次に…」
おい!
と、早くもツッコミが入りました。なぜでしょう?
「聞きたいことに対する答えをもらいました、以上」という会話の流れ。これでは、まるでアンケート調査です。緊張しているから余裕がないのかもしれませんが、質問表に書かれた内容を答えてもらうことに必死すぎる感じがします。
しかも、このような感じで取材した後に原稿を書く段階になったとき、内容の薄さに後悔することになるでしょう。
インタビュー記事を面白くする初歩的なコツは、取材段階で対象者の主張をできるだけ厚めに語ってもらうこと。しかも、いろんな角度から論じてもらうと、記事に深みが出てきます。たとえ無駄話であろうと、材料は多めにもらっておくことに越したことはありません。
しかも、取材対象者がすべて多くを語るタイプとは限りません。口数が少なかったり、語るべき内容がまとまっていなかったり、いろいろな人がいます。
さらに言えば、取材慣れしている対象者でも、どこかの記事ですでに語られているような「型」にはまった答えだけを用意しているケースもあるので、プロとしては、違った角度での主張を拾わなければ、新たに記事にする意味がなくなってしまいます。
じゃあ、どうすればいいんですか!?
と、なりますよね。では、下記をご覧ください。新人さんの受け答えに多いものを挙げてみました。
「なるほど」
「すごいですね」
「面白いです」
「勉強になります」
などなど。基本的にその場の雰囲気を和やかに進めたい、かつ、盛り上げたい意識が強すぎて、対象者の主張を全肯定しまくっていますよね?
取材慣れしていないお店の主人とか、素人の方に取材する場合は、自信を持たせるために「すごい」と褒めたり、「つまり」と論旨をまとめて道筋を作ったり、肯定的な受け答えのみで進める方法もあります。間違いではありません。
しかし、もう少し掘り下げたい、別の角度から厚みを持たせたいときは、全肯定するだけでは難しいことがほとんどです。
対象者の主張を否定する
勇気を出して対象者の主張を否定せよ!
これが意外と使えるんです。たとえば、通常の会話でも相手から肯定的な返答しかなければ「だよね〜」という同意で終了しがちです。被せてさらに盛り上がることもありますが、だいたい次の話題に展開することが多いと思います。
ところが、否定された場合はどうでしょう? 「別にいいや」と思っていることなら放っておきますが、そうではない場合、なんとか説得したくなりませんか?
会社のプレゼンなども同様です。一通りこちら側の主張が終わり、質疑応答でクライアントからの否定的なツッコミが入った場合、ありとあらゆる角度からそれを論破しようとするはずです。
つまり、人が多くを語りたくなるのは、「相手を説得したいとき」なんです。
ただし、ここで注意したいのは、取材者が個人的な思いで否定してはいけないということ。対象者の機嫌を損ねたら元も子もありません。あくまで目的は、別の角度から主張を掘り下げて語ってもらうことであって、意見を対立させることではないのですから。
一般論で否定せよ!
たとえば…
対象者「〜というわけで、ごはん食がカラダにいいんです」
という対象者の主張があった場合。「なるほど〜」と答えたいところを次にように変えてみると…
取材者「でも、世間ではダイエットのために糖質そのものを避ける傾向がありますよね?」
どうですか? 対象者からすると、そこをなんとか説得したくなりますよね?
しかも、この後に一方的な主張だけではなく、反対意見に対して別の角度から説得してくることが予想されます。
この受け答えのポイントは、否定の主語が「世間」「現在」「多くの人」「一部の人」といった「一般論」に仕立て上げていること。自分個人が否定しているわけではないので、対象者が気分を損ねることもありません。むしろ、そういった世間の意見に対し、「私は訴えたい」という気持ちを誘うことができます。
この「一般論で否定」のいいところは、他にもあります。それは、この受け答えの主語が「読者」でもありうること。記事を読んだ読者が、その主張をすべて肯定するわけではありません。当然、疑問を抱きますし、反論もあります。
そうした読者の意見を取材の受け答えで「代弁」することで、記事にしたときにより納得感のある深みが出てくるというわけです。
いかがですか?
これくらいのテクニックなら今日からでも使えそうですよね?
取材時間も限られていますから、すべての取材で使えるかどうかはわかりませんが、もう少し掘り下げたいときの切り札として「一般論で否定する」をぜひ活用してみてください。
文/編プロのケーハク
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