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過去の手痛い失敗から学んだ、進めたらヤバいかもしれないと思う仕事のポイント

失敗の多い人生です。
でも忘れっぽいし飽きっぽいしうっすら馬鹿っぽいところもあるので、わりあい気持ちの立て直しは早いです。
だから、仕事も長く続けてこられたのかな、と思います。

そんな私にも、「この種の失敗は二度とくり返したくない・・・・」と思う真っ黒歴史があります。今日は、その話を書こうと思います。

楽しい話ではありません。いまも思い出すとキュッと胸が詰まります。でもあの経験を、仕事を続けるうえで糧にできている、という気はします。

もちろん、ここに書くのは私の側からのみ語られる話なので、私以外の登場人物からしたら、アナザーストーリーがある可能性は否めません。それも含め、事実をかなり脚色してお伝えします。

いちばん共有したいポイントは、「これは失敗だった!」と確信するに至るまでには、いくつかの予兆がある、ということです。その予兆にちゃんと向き合えば、失敗は防げます。

あれ以来、同じような予兆を感じたときは、慎重に現況や事象を観察し、ことによっては早めにそこからフェードアウトする、なんなら潔くドロンする、を心がけるようになりました。

その「予兆」についてお話することで、少しでも同じ出版業界で働く皆さんが同じ失敗をしないですんだり、「ここにも同じやらかしをしてしまった人がいるんだ」と気持ちがラクになればいいな、と願います。

いまから20年程前、私は雑誌編集部から、書籍編集部に異動しました。
最初のほうこそ雑誌時代に培った人間関係に頼りつつ手探りで書籍づくりに携わっていましたが、だんだん新しい人とのかかわりも増え、ときどき「持ち込み」の企画をいただけるようになってきました。

Aさんも、そんなふうに、企画を持ち込んでくださった方でした。
ある日、元先輩社員Bさん(すでに退社されていた)に喫茶店に呼び出された私は、その場でAさんを紹介されたのです。

「あなたさ、映画とかドラマ、好きだよね? 脚本家の◯さんがさ、犬をモチーフにしたエッセイを書いててさ、書籍化したいってAさんに相談してるんだよね。◯さん、絵も描ける人だって知ってる? 写真もうまいんだよ。絵と写真と文章で、犬好きな読者に響く本をAさんが企画してるのよ。それをあなたに提案したいって今日はきてくださったの」

つまり、脚本家◯さんの企画を、Aさんが私に持ち込んだくださった、というわけです。ここでまず、最初のザワつきがありました。

「私、Bさんと、そんな親しかったっけ・・・・?」

同じ編集部に在席していたのは2年ほど。しかもそれからすでに10年以上経っています。わりと濃密な人間関係を築く編集部だったので、徹夜や慰安旅行、飲み会などは同席の機会が多かったけれど、ふたりきりでちゃんと話したことがあったっけ・・・・? 

次のザワつきは、BさんとAさんが話す内容や、ふたりを取り巻く空気感、のようなものから生まれてきました。

私、この雰囲気、苦手だなあ

ふたりは共通の知人である芸能人や、プロダクションの社長などの近況についておしゃべりしています。そうだった、Bさんは芸能関係に強い編集者だった、と思い出します。そして話の流れの中で、Aさんはもともと某有名ミュージシャンのスタッフで、ファンクラブの会報などの制作を一手に引き受けていたということがわかります。そこを独立し、いまはインディーズのミュージシャンやフリーのカメラマンや脚本家の仕事を手伝っている、と。ああ、それで脚本家◯さんともつながったのね・・・・と腑に落ちます。

そんな風に3人の会合はなんとなく終了し、私からは「これとは別に、ふたり(Aさんと私)でもう一度詳しくお話をうかがう場を設けてほしい。返事はそれを踏まえて」と答えて場は解散となりました。

このとき、2つの予兆がすでに生じつつも、私はこの企画に対して前向きな気持ちでいました。なんたって脚本家◯さんは大好きなライターですし、テーマが犬というのも犬バカ全開の私にとってはとても魅力的です。
「Bさんは、私が書籍編集部に移ったと聞いて、この企画を持ちかけてくれたんだ」「しかも、私が犬バカ人間だと思い出してくれたんだ」「Aさんは合うタイプではないけど、◯さんが信頼を置いているし、編集経験もあるんだから、私がちゃんとコミュニケーションをとるよう努めれば大丈夫だ」
――と、ザワつきを抑えるべく自分に言い聞かせます。
そして後日、Aさんと具体的な企画の話をすることになり、条件や仕様、スケジュール、仕上がりのイメージなどをすり合わせ、脚本家◯さんとの初顔合わせを行うまでに至りました。

3つめのザワつきは、そこで生まれます。

「もしかして◯さん、この企画に、あまり乗り気ではない・・・・?」

話せば話すほど(といっても、こちらが一方的に話すだけ)歓迎されていないのがわかるのです。類書などを見せてイメージを伝え、◯さんの意向もインタビューしますが、反応が・・・・・鈍い。どうにか愛犬の絵や写真はその場で見せてもらえましたが、肝心の文章のほうは、見せてくれようとはしません。しかも愛犬は、すでに他界しているというではないですか。おそらく◯さん、現時点で強烈なペットロス状態に陥っており、文章などとても書ける状態ではないのでは・・・・と、私の心中はザワつくどころかオロオロと戸惑うばかりです。

さてはAさん、そのあたりの事情をよく知らなかったとみた。ということは、Aさんと◯さんの関係は、思っているほど強固ではないのでは・・・・? との疑念も頭をもたげます。
いったん、提案したスケジュールを組み直す(=後ろ倒しにする)ことで、私たちは◯さんの事務所をあとにしました。

その後、Aさんから「◯さんと自分で話し合った結果、◯さんの本を作りたい気持ちは変わっていない、出版に向けて気持ちを立て直すと言ってる」との連絡を受け、かつ「原稿をできるだけ近いうちに必ず見せてくれること」「実務(台割作成やデザイン作業など)はできるだけすみやかにAさんと私で進め、随時◯さんにチェックを受けられるような体制をつくること」をAさんと約束し、私はいくつかの編集会議を経て、この企画を通したのでした。

そしてーー
本は、出来上がりませんでした。企画は、頓挫したのです。

3つの予兆にひとつひとつ丁寧に対処しなかった結果は、起こるべきして起きました。
まず、Aさんと私のあいだで信頼関係が崩れました。
私がAさんの作った台割や構成案に、多くの「口出し」をしたのがきっかけでした(私は意見を言い、理由を説明し、代案を出したつもりですが、Aさんには「余計な口を出した」「経験値が低いくせに生意気だ」とうつったようです)。
さらに、お金の面で、揉めました。
さらに、Aさんが私と著者(脚本家◯さん)が直接会う(連絡を取る)のを阻止したことで、私と◯さんの関係にも影響が出ました。

小さな予兆に、冷静に、真摯に、向き合わなかった。それが、編集者として私の犯した間違いです。

おそらくAさんは、Bさんから、「あいつならカンタンに手懐けられる」と聞かされていたのでしょう。Bさんの知る私は、新人時代の、ゆるふわで、舌足らずなしゃべり方で、たしかに御しやすいタイプだったから。それが、いちいち質問し、いちいち口を出し、ときには進んで矢面に立とうとするから、調子が狂ったのでしょう。

そして「私、この雰囲気、苦手だなあ」という、ふわっとした違和感。これも、じつは無視してはならないポイントだといまならわかります。
書籍作りは、少なくても数ヶ月、長ければ数年にわたり関係を維持して(積み重ねて)行われます。しかも正解があってないような世界なので、お互いに自分たちの経験や知見、知識、感覚、ひいては人生観などを持ち寄る作業になります。ゆえに、相手に苦手意識を抱くと途端にコミュニケーションをとるのが難しくなり、どうしても口をつぐむ場面が生じてしまいます。
たとえ相性はイマイチでも、互いに「ゴールは良い(そして売れる)本をつくる」という明確な設定を共有し、そのためなら相手の言うことに耳を傾けようと覚悟を据えていればいいのですが、そもそもAさんには私がパートナーという意識はなかったようで、私もじょうずに歩み寄れなかった・・・・。

3つめの予兆は、決定打でした。
著者がAさんを信頼していると確信できていればいいんです。でも、私の受けた印象は、逆のもの。しかもその後のAさんの報告を、確認もせず、素直に受け止めてしまいました。ここでも私は「この企画を着地させたい」ほうを優先し、編集者として正しく事態を見据えられなかったんです。

やりたい企画、引き受けたい企画。編集者なら、つねにいくつか抱えていると思います。でも、この話を読んで、何か引っかかるものを感じたら、それはほんとうに進めてよい企画なのか? と、ちょっと手と足を止めて、考えてみてください。

文/マルチーズ竹下

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