1時間と30分の帰り道

車窓から見える木々はいつの間にかビル群へ変わっていた。

田舎に住む僕はその景色を眺めるのが好きで、電車に乗って少しでも遠くへ行くと自分が大人になった気がした。

小学生の時、貰ったお金で初めて都会まで電車で行ったことを覚えている。

その日も今日の様にポツポツと雨が降っていた。
持ち込む傘から滴る水滴。濡れた車窓。
そんな些細な事で僕は一人が途端に心細くなった。
1時間30分も乗っていれば、それは仕方ない事だと思う。だから暇つぶしに乗客の顔や姿を眺め気を紛らわしていた。

電車は色んな人がいて好きだ。

当時の僕はそんなことを考えていた。
地元の乗客は草臥れた作業服、
制服に身を包んだ学生達
ちょっと怖いお兄さん。
でも、都会に寄るにつれて垢抜けたお姉さんや、大学生、スーツで新聞を広げる社会人とか。大人と呼べる人達がいた。

シティーボーイというのか。
とにかくカッコいい人達、
この旅の終わりに、そんな人間に憧れを持つ様になった。
ただの田舎コンプレックスだが、笑

電車をスマートに乗り換える垢抜けた明るい髪の人達。無表情で駅を歩く姿に憧れた。

しかし、スーツの人達だけはカッコいいとは思えなかった。

当時、日記をつけており、その欄には
「スーツに身を包み、首から布製の首輪を付けた大人達。そんな人間になりたくない。家畜みたい。」
と。

我ながら恥ずかしいし、捻くれた厨二病の不適合少年だなと思う。

あの時から何度も何度も都会に足を運び、
何度も何度も同じ景色を見た。
人の顔や姿を観察する趣味の悪い趣味は飽きてしまった。

電車に乗り、ビル群を通り過ぎる感動はいつの日からか無くなってる。
垢抜けた無表情の人達がただの疲弊しただけの人間だと気づき、そして、その一員に僕はなろうとした。


電車の中で、僕はスーツに身を包んでいる。
首に締め付けられた首輪が息苦しい。

都会の景色が、木々の姿に変わった。
車窓からの外観は今も昔も同じだが、
僕は都会に馴染む姿に変わっている。
首輪をぶら下げて。

車窓に映る僕の姿を見て、ふと思い出した。

今の僕は過去になりたくない自分。

刹那、吐き気が。
体内から有毒ガスが出るようなそんな気持ち悪さに襲われた。


「就職して、結婚する」
「子供が帰りを待ってる」
「家族のために働く」

僕はそんな幸せなんて望んでないんだよ。
僕は僕としての人生を生きたいんだ。



本日はインターンでした。
同学年の就活生と共にした1日。
似たような価値観を持つ同学年の中で僕は浮いてしまってた。
仕事に就く、社会ってのは、収入が、社風は、
私達と働くことは………。
素晴らしいなぁ、とは思う。

でも、


改めて、
僕の好きな事。
芝居を続けようと


そう思った。

雨が降り始めた。

車窓が水を弾く。

車窓に映る僕の姿は、
雨のおかげか、
ぼやけて見えた。


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