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それでも、誇りを持ち続けたい

今年の3月末、EVERY DENIMは新しい製品を発表しました。
ナイロンデニムシャツ「Pride」。
僕らは、デニム生地の経糸(たていと)にナイロン糸を使うという、業界では例になかった企画を実現した工場とタッグを組んで製品化しました。
今回は製品が誕生した経緯とそれに挑んだ工場の話です。

1. 新素材に挑戦したテキスタイルメーカー

岡山県倉敷市児島地区、岡山県井原市、広島県福山市を中心とする、デニムの国内一大産地・瀬戸内地域では、糸がデニム製品になるまでの工程を、各工場が分業で担当し、互いに連携しながらものづくりを行っています。

糸を染め、織り、生地を裁断・縫製し、加工をする。それぞれに専門の会社が存在するというイメージです。

染め織り縫製加工

分業制のデニムづくりの中で糸の染めと織りの工程を自社工場にて一貫生産している企業はとても珍しく、国内でも数社、児島地区では1つだけ。

その1つの工場が、新素材のナイロンを経糸に使ったデニム生地を開発したテキスタイルメーカーである「ショーワ」です。

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2. 大不況の中、始まった開発

そんな繊維産地も、大不況。
正直、良い時代を知らずに育った僕にはピンときていない部分もたくさんあります。

児島に映画館や銭湯、本屋さんがたくさんあったことも。
商店街の土曜夜市に人が溢れていたことも。
休みの前には旅行代理店の窓口に並んで、みんなが遊びに出ていたことも。

この街に移住してきた僕は、その景色を見ることなくほとんどがなくなってしまいました。
今も変わらずにあるのは、穏やかな瀬戸内海の景色だけでしょうか。

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転機となったのは、1980年代ころから始まった海外工場との技術・価格競争。どれだけ大量に、安く作ることができるか、そんな争いが一気に始まります。

売り上げはピークが過ぎ去ったような、右肩下がり。廃業する工場も一気に増え、生き残り方が迫られる。

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「このままじゃいけない」

いままで以上に安く早くつくろうとするやり方では、到底海外に太刀打ちできないと考えたショーワは、いち早く製品としての差別化を図ろうと、独自の素材開発へ本格的に乗り出しました。

始まったのは2016年ごろ。
まだEVERY DENIMも誕生したばかり。
そんな素材を自分たちが扱うようになるとも思わず、当時はまだそれが工場にとって、どんな覚悟の挑戦であるか知るよしもありませんでした。

3. プライドが生んだチャレンジ精神

それまでデニムといえば、インディゴ染料で染めたコットン糸を用いてつくるのが王道。そんな中でショーワは他の素材を染められないか、可能性を模索し始めます。

今までも、織りだけでなく染めまでを自社で担えるように、当時の片山社長(現会長)が苦労の末染色機自体を開発し、さまざまな素材の染色に挑戦しました。

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その結果、コットンと同じ天然繊維のシルクやカシミアなどを染めることで、独自の風合いを持つ生地の製品化に成功。

これまで一般的にイメージされていたデニムとは異なる、肌ざわり良く、なめらかで光沢感ある素材がショーワの代名詞として販売されていきます。

他の会社では見られない独自の素材をつくることができるテキスタイルメーカーとして、ショーワは激動の90年代、2000年代を駆け抜けてきたのでした。

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ちょうど10年前の2009年、世界的なテキスタイルの見本市「Premiere Vision」にて、ショーワの開発したウールを用いたデニム生地が「Handle Prize(準優勝)」を獲得します。

この受賞によって、ショーワの名が一躍世界的に知られることになりました。

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それでも、「このナイロン素材のハードルは一段も二段も高かった。失敗の連続でした。」とこれまで生地企画を担ってきた現・副会長。

一度はできたことが、次にはできない。なぜだろう。どこが違ったんだろう。そんなことを考える日々が続きます。

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工場にとっては心臓部となる染色機を改造することも。それだけショーワにとっては大きなプロジェクト。

ものづくりのファスト化が不可逆に進む世の中でも、時間をかけて他にない素材を開発し続けたい。それはいち企業としての誇りであり、プライドである。

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けっして潤沢とはいえない資金と3年もの期間を投資してつくり上げたこの素材開発。失敗すれば会社が傾くかもしれないリスクを投じてでも、ショーワに宿るものづくりへの挑戦心が、今回のナイロンデニムを誕生させたのです。

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4. 完成したナイロンデニムシャツ「Pride」

そうやってできた生地は使ってくれる人がいて、初めて完成します。
僕たちEVERY DENIMは、工場が開発にかけた想いを、ものづくりへの誇りを形にしてみなさんに届ける役割。

ナイロンデニムを今回はシャツにすることに決めました。
まず最初に決めたのは、胸ポケットの内に、工場の名前である「ショーワ」のロゴを入れること。

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理由は2つあります。

1つは、ものづくりへの誇りに対するリスペクト。僕たちデニムブランドが製品をきちんと届けることで、素材をつくる工場の人たちの挑戦し続けられる環境に貢献すること。

もう1つは、製品を着る人たちにも、つくり手と同様、誇らしくいてもらえること。何よりもまず僕自身がこの服を着ていてとても誇らしい、この思いをみんなと共有したい。

そして素材の特徴は大きく3つ。

部屋干し3時間で乾く速乾性
もともと水を含みにくい素材であるので、洗濯後も部屋干し3時間程度で乾きます。汚れてしまったけど明日も着たい、こいつを連れて旅に出たい。そんな毎日でも着れるありがたいシャツ。

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1日中着ていても疲れないストレッチ性
緯糸(よこいと)にはストレッチ繊維を用いました。着用時、肩周りなど窮屈になりがちな部分もスムーズに可動でき、ラクに過ごしていただけます。

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軽くてシワになりにくい形態の安定性
ナイロン素材は天然系の素材と比較し、耐久性に優れています。シワもつきにくいのでより気兼ねなく日常使いとして着ていただけるようつくりました。シームにはこっそりポケットも付いているので、スマホや財布など小物を収納できます。

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機能性素材を用いた洋服はこれまでもたくさんありましたが、インディゴ染料を用いた「デニム」というカテゴリの中でナイロンを経の糸に使用されることはありませんでした。

デニムの中での新しい挑戦として、新しいデニム素材を用いた製品として「Pride」は誕生したのです。

5. 生き残りをかけた、挑戦は続く

今回のナイロンデニムは、ショーワにとって大きな挑戦となりました。すでに世の中に出て評価されているもの、売れるものをつくっていくだけでは、これからの業界で生き残っていくことはできない。

自分たちが先陣を切って、まだ売れるかわからないけれど、可能性のあるものをつくっていかなければならない。これまでもショーワはそんな思いで数々の挑戦をし、挑戦をすることで危機を乗り越えてきました。

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ただ必要だから、ただ売れるから、ただ流行ってるからという理由じゃなくて、ただ新しいものを世の中に生み出したいという思い。

そして忘れてはならない、生み出したものをちゃんと人に喜んでもらいたいという思い。

ショーワのナイロンデニムから、紛れもない、ものづくりのプライドを感じさせてくれます。

立ち止まってはいられない。
すでに次の挑戦は始まっています。

「生き残り」を目指すのではなく、次の勝機を狙って今は耐える時期なのかもしれません。ただ守りに入ることは一切なく、今日も新素材の開発は進んでいます。

お話を伺った中で、会長の言葉が頭に残る。

「心のこもった商品を創り出すことができるのは、毎日仕事をしながら、"よりよいものを"と考えられる人」

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これからもそんな工場が心を込めてつくるものを、僕たちは形にしてみなさんに届け続けます。

ではでは、また来週。


video:Ryo Kawano
photo:Kenta Kaneda

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ナイロンデニムシャツ「Pride」を追加生産分が出来上がりました。
こちらからご注文いただけます。


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