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【第五場 ふたり旅】

《E氏→おじさんの可変ぶりが面白い。ご都合主義であざとさもあるが、虚心にもどれてポエミーだ》

 おじさんは、右手をスコップにして、わたしを砂ごとすくいました。左手は植木鉢に変えて、そこにわたしを入れて歩きはじめます。しばらく歩くと、前から、らくだに乗った男の人がやって来ました。おヒゲをはやして、とっても怖そうです。なのに、おじさんは、どんどん近づいていって、
「アリガトウ」
 と言いました。
 男の人は、おこったような顔をして、
「何がありがとうだ? おまえに礼を言われるおぼえはない」
 それでも、おじさんは、
「アリガトウ」
 と言いながら、わたしのことを見せました。
「なんだ? 水をくれってか? でも、このへんじゃ水は黄金よりも大事なもんだ」
「アリガトウ」
「だから そう簡単にやるわけには…」
「アリガトウ」
「お前もしつこいな。水は大事なものだと言ってるだろ」
「アリガトウ」
「わからんやつだな。あっち行け!」
「アリガトウ」
「何がありがとうだ? わしはやらんぞ」
「アリガトウ」
「わ…わかった、わかった。わしは先を急いでおるんじゃ。んじゃ、ちょっとだけだぞ」
 男の人は わたしにボタボタと水をかけてくれました。おじさんは、さっきより大きな声で、
「アリガトウ!」
 すると男の人は
「おまえさんの“ありがとう”を聞くと、なんだかうれしくなってくる」
 と言って、持っていた水筒ごとくれました。
「水筒なら、もうひとつあるから心配せんでいい」
 おじさんはまた、
「アリガトウ!」
 男の人もにっこりして言いました
「こっちこそ、ありがとう。何だか元気になったよ」
『キラリン!』
 おじさんは光りはじめました。男の人の“ありがとう”という言葉で、おじさんはすごくうれしくなったみたいです。
「じゃあな」
「アリガトウ!」
「あははは」
 と笑いながら男の人は去っていきました。
 砂漠ですから、人と会えない日もあります。まわりは砂漠で砂だらけなのですが、おじさんがおもしろいので、ぜんぜん退屈しません。おじさんの体は、やわらかくも、かたくもなって、どんな形にも変わります。左手は、わたしを入れる植木鉢、右手は日傘になったり、じょうろになったりします。そして、朝になると、じょうろに水がいっぱい入っていました。

 おじさんは体がどんな形にもなれるので、地下に長い管を通して水をくみ上げたり、顔ごと広いうちわになって、夜露を集めてくれたのです。それに、おなかをタンクにすることもできました。その水はとってもおいしくて、おじさんといっしょなら、砂漠でもどこでも、私はスクスクと育てそうです。

 

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