【第三十六場F…はだかになれた王様4】
女王陛下は、望遠鏡を使って、二人の行動を始終見張っておりました。詩人さんもキリット大統領も黄色いマントをつけていて、それで宙に浮いていられるのです。二階の床ができると詩人さんは、見えない糸をつむぎはじめました。キリット大統領は、そのまま作業場を作り続けます。ただし、その建物は見えません。キリット大統領のトンカチ風のトントンという声に合わせて詩人さんが歌いはじめました。
♪バラの花に恋したイモムシ早くあの子に会いたくて
せっせと登るけどトゲがジャマするイッテイテ
恋に落ちたイモムシ食いしん坊がジャマをする
ついつい寄り道ウマウマ葉っぱにおジャマする
きれいなバラにはトゲがある
おいしいものには毒がある
♪あの子は遠くて見えないけれど感じるシンパシー
あの子が待ってるシルシ甘いニオイが懐かしい
もりもり食べておおきくなってツク自信
葉っぱも何も要らないあの子に逢いたい一心
きれいなバラにはトゲがある
おいしいものには毒がある
♪見えてきたあの子の姿思ったとおり美しい
やっと逢えるうれしさにトゲなんか痛くない
どきどきしながら「ねえバラさん」と声かけた
いくら呼んでも返事なく心折れかけた
きれいなバラにはトゲがある
おいしいものには毒がある
♪「どうして何も言わないの?」とイモムシ
「下をご覧なさい」と答えてあとは無視
下見てイモムシいまさらながらビックリ
葉っぱを食べられボロボロバラさんヒトリ
きれいなバラにはトゲがある
おいしいものには毒がある
♪知らず知らずに涙あふれ固まるカラダ
それでも消えない心、だってスキだから
カラダ反ってヒフ固まって動けない
ドロドロに溶けるカラダまだ死にたくない
きれいなバラにはトゲがある
おいしいものには毒がある
♪朝日があっためるカラダ、心あったまったら
わき出るエネルギー背中にこもるチカラ
バッカリわれた背中はみでていくイマ
大きく吸う息ふくらむカラダ飛べイマ
きれいなバラにはトゲがある
おいしいものには毒がある
♪嫌われてもいいからイマきみにさわりたくて
生まれ変わったボクをひとめ見てほしくて
のばしたストローでそっとふれるきみの甘いミツ
君は涙のようにひらりと落とした花びらヒトツ
きれいなバラにはトゲがある
おいしいものには毒がある
それでもイモムシは這っていく
それでもイモムシは食べていく
その先につむいでいく未来があるから
甘いミツの先に信じるものがあるから
二階で詩人さんが糸を紡いで、一階でキリット大統領が布を織ります。最後に、詩人さんが服を仕立てる段取りです。
「そこの二人!」
二人がせっせと働いていますと、下から声がかかりました。女王の手下の者が、ごちそうを運んできたのです。
「女王陛下のはからいで、そなたらに食事を用意した。降りていただくように!」
二人は失礼のないように、上から降りてきました。
「かたじけのうございます。しかし、私どもは服が出来上がるまで、一切水も食事もとれないのです。聖なる器、聖なる心があってこそ、天から糸を授かれるのでございます。どうか、女王陛下に失礼なきよう、お断りを申し上げていただけないでしょうか」
それを聞いた女王は、
「無礼な者たちめ、この女王の心遣いを無にするとは、何様のつもりか。一生後悔させてやる」
と真っ赤な顔で叫んだそうです。